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私が見た夢を小説にしたらめちゃめちゃ良かった問題

2026年05月25日 22時11分

38歳の手紙

高校三年の冬。
まりなは、世界はこの先もずっと続いていくものだと思っていた。

卒業式の日、教室には泣き声と笑い声が混ざっていた。
机には寄せ書き。
黒板には「ありがとう」の文字。
窓から差し込む夕陽は、妙にオレンジ色だった。

「絶対また集まろうね」

誰もがそう言った。

その時は、本当にまたすぐ会える気がしていた。

みんな大人になっても、変わらずどこかで繋がっていて、必要な時には自然と集まれるものだと思っていた。

高校を卒業したあと、まりなは大学へ進学した。

特に理由はなかった。

夢もなかった。
将来なりたいものもなかった。

だけど、周りが進学するから。
なんとなく、その流れに乗った。

春。

新品のスーツ。
新しいキャンパス。
知らない街。

まりなは少しだけ期待していた。

ここでもまた、自然に友達が出来て、恋をして、青春の続きを生きていくのだと。

だけど大学は、高校とは違っていた。

みんな何かを持っていた。

教師になりたい子。
資格を取る為に必死な子。
海外へ行きたい子。
起業したい子。

みんな、自分の人生を前に進めようとしていた。

まりなだけが違った。

授業中、ノートを開きながら思う。

私は、なんでここにいるんだろう。

その答えは、最後まで分からなかった。

誰とも深く仲良くならなかった。
飲み会へ行っても、どこか自分だけ浮いている気がした。

高校時代は、何もしなくても人が集まってきた。

笑っているだけでよかった。

だけど大学では、誰もまりなに興味を持たなかった。

いや、本当は違う。

まりなが、誰にも踏み込めなかったのだ。

三年間は、静かに終わった。

卒業式の日。

周りは写真を撮り合い、泣きながら抱き合っていた。

まりなは、一人で駅へ向かった。

春の風が強かった。

手に持っていた卒業証書の筒だけが、やけに軽く感じた。

それから何年も、生きる為だけに働いた。

コンビニ。
居酒屋。
コールセンター。

気づけば職歴だけが増えていた。

二十五歳になった。
二十八歳になった。
三十歳を過ぎた。

時間だけが、異様な速さで過ぎていった。

SNSを開けば、高校時代の友人達が流れてくる。

結婚しました。
子供が産まれました。
家を建てました。
店を開きました。

みんな、それぞれの人生を持っていた。

まりなは、スマホの画面を閉じる。

ワンルームの静かな部屋。

冷蔵庫のモーター音だけが響いていた。

三十八歳の冬だった。

仕事帰り。
コンビニで買った弁当を机に置き、ぼんやりとテレビを眺めていた時、急に涙が出そうになった。

理由は分からなかった。

ただ、猛烈に寂しかった。

その時、不意に高校時代を思い出した。

放課後の教室。

机を囲んで笑っていたみんな。

「まりな、それ絶対ウソじゃん!」

みゆきの笑い声。

あの頃、自分は確かに誰かの人生の中に存在していた。

必要とされていた。

だけど今の自分は、誰の記憶にも残っていない気がした。

まりなは、押し入れの奥から古い箱を取り出した。

色褪せたプリクラ。
卒業アルバム。
昔のガラケー。

そして、一枚の写真。

高校三年の文化祭だった。

みゆきと肩を組み、馬鹿みたいな顔で笑っている。

まりなは、その写真を見ながら泣いた。

声を殺して泣いた。

何が悲しいのか、自分でも分からなかった。

青春が終わった事なのか。
何者にもなれなかった事なのか。
それとも、自分だけが人生から取り残された気がしたのか。

気づけば、時計は深夜二時を回っていた。

まりなは机に向かい、白い便箋を置いた。

今の時代、手紙なんてほとんど書かない。

でも、なぜか文字で残したかった。

ゆっくりペンを走らせる。

みゆきへ

元気にしていますか?

私は高校卒業後、大学へ行きました。

でも、何かを学びたかった訳でも、夢があった訳でもありませんでした。

ただ、なんとなく進んだだけでした。

気づけば三十八歳になっていて、今はフリーターをしています。

私は何をしていたんだろう、と最近よく思います。

でも、そんな時に思い出すのは、高校時代のみんなの事でした。

あの頃は楽しかったね。

みんな、それぞれ違う人生になったんだろうね。

もう人生の半分くらい終わったのかなと思うと、少し怖くなります。

だから残りの人生くらいは、素直に生きたいと思いました。

もしまた会えたら、嬉しいです。

みゆきが幸せなら、それだけでいいなと思っています。

まりな

書き終えたあと、まりなはしばらく便箋を見つめていた。

まるで、過去の自分に宛てた手紙みたいだった。

数週間後。

みゆきから返事が来た。

『会おうよ』

その一言だけだった。

居酒屋の暖簾をくぐると、

「まりな!!」

聞き慣れた声がした。

みゆきだった。

少し老けていた。
でも笑い方は昔のままだった。

席には、懐かしい顔が並んでいた。

結婚した子。
離婚した子。
子供がいる子。
夢を叶えた子。
夢を諦めた子。

みんな、それぞれの人生を抱えていた。

昔みたいには戻れない。

もう、あの頃の無敵だった自分達はいない。

それでも。

「こうやってまた会えるの、なんか嬉しいね」

誰かがそう言った時。

まりなは、笑いながら涙を流していた。

嬉しかった。

だけど苦しかった。

戻りたかった。

でも戻れない。

みんな前に進んでしまった。

時間だけは、絶対に戻らない。

その事実が、胸を締め付けた。

みゆきが言う。

「まりなさ、高校の時よく笑ってたよね」

まりなは、泣きながら笑った。

ああ。

私はちゃんと、あの頃生きていたんだ。

何者でもなかったけど。

確かに、誰かと笑っていたんだ。

居酒屋の窓の外では、冬の街が静かに光っていた。

人生は、多分もう半分くらい終わっている。

だけど残り半分くらいは。

少しくらい、自分の為に生きてもいいのかもしれない。

まりなは、そう思った。

 
 
 
 
 
 
 









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