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スタッフブログ
2026年03月03日 12時58分
「いつの日かみんな私を忘れるんですよ、私と電話したことも、目を合わせて話したことも、手を繋いだことも、キスやセックスすらもぜーんぶ。そして彼等はあたらしい人とあたらしい恋をはじめるんです。全部はじめてみたいな顔しちゃって、時には“うまく出来なくてごめんね”って、ウブを演じるんですよ。その女は背が低くって、美容院で染めたきれいな茶髪に、毛先をクルクル巻いて、さぞかし可愛い子なんですね。そんな妄想まで出来ちゃうくらいに。そんな思考を張り巡らせていたら、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきちゃって。
何が言いたいって、あなたは私のことを絶対忘れないって言うけれど、人間でいる限り忘却することは不可避なんです。ふふ、そうは言っても、私は発生したあのときから何にも忘れられてないのかもしれません。けれど、ただひとつ忘れられたのが」
平成三十年九月二十六日、二年間寄り添った恋人が死んだ。
享年十七年。
自殺だった。
ぼくは彼女が海に飲み込まれるところを見た、ただひとりの目撃者で、見届け人であった。
ぼくはまだ二十才で、身も心も未熟なまま、彼女に出会った。
街中の小さな喫煙所、ぼくとおんなじ銘柄をふかす彼女は、世の中で一番不幸みたいな面をしていた。
表すなら、大切に育てていた花壇の花を、下校中の小学生に踏んづけられてしまうような、
行き場の無い怒りや憎しみ、悲しさを抑え込んだ、難しくて、一生開かない錆びた鍵みたいな、そんな顔をしていた。
ぼくは、その日“手際が悪いから“バイトをクビになった。その帰り道に犬のフンを踏んだし、通り雨に襲われて参考書がズブ濡れになった。
それに帰宅すると、三度目の浪人が決まった書類が卓上にひろげられていて、
母親に包丁を向けられたから、勝手に産んだくせに、なんて中学生みたいな反抗をして家を飛び出した所だった。
そんな自殺してしまおうかなんて思うときに、私はもう死にましたみたいな顔の女が目の前にいた。
妙に惹かれた。
伸びた爪を切る、そのくらい当たり前に彼女の手を引いたし、
なんとなく喫煙所の裏にある汚れた外壁の薄暗いホテルに入って、彼女を飲み込んだ。
なんとなく。
彼女は首を縦に揺らすだけの赤べこみたいだったけど、柔らかい目でぼくを見るから これを一度きりなんかにしたくなくて、
彼女の電話番号を聞いたし、一緒に死のう、なんてつまらない冗談をふかして恋人になることを申し出た。
ぼくらは、お互いの話をしなかった。
花がきれいとか、空がきれいとか、そういう他愛もない話を電話口でした。
過去の話も、未来の話もせずに、おはようで始まって、おやすみで終わる話をした。
ぼくのことを、名前にくんを付けて呼ぶ彼女は、ぼくに敬語をつかっていたし、そういう他人行儀なところが、ぼくは好きだった。
月に一度、会うか会わないかで、蜘蛛の糸のような関係だったけど、会えばこの世にふたりしかいないように愛し合ったし、今この瞬間のお互いを探りあった。
薬を飲んでいるところを見れば、なんの薬が尋ねたし、ハンバーグプレートの人参を避けていれば嫌いなのか聞いた。
彼女もぼくにそうした。
ぼくらが知らないのは、細かな個人情報くらいで、
それ以外の知らなくていいことは知らなかったし、聞かなかった。
それで良いと思っていた。
海のないところに産まれたらしい彼女は、海が好きだった。
会った日の最後はかならず海に出向いて、ざわつく波をぼんやりと眺めた。
その時の彼女は、いつも恍惚としていて、ぼくなんか眼中に無いようだったから、ここで無茶苦茶にしてやろうか、なんてことを何度も思ったけれど、決して行動にはしなかった。
海を見たあと、彼女はぼくにキスをする。
みじかい時間だけど。
ぼくのことを思い出したみたいに、ハッとしてぼくに唇を当てる。
ごまかすようなキスだけど、ぼくはそれがきらいじゃない。
彼女がぼくの所へかえってくるのを待つ時間も、彼女の海を見る横顔も、好きだ。
いつもみたく、適当にぼくらは散歩をして、適当な路地でさよならをして、お互いの帰路に着く。
そうして、また夜に電話でおやすみを言う。ぼくらはそうして生きていた。
言うならば安心だった。
なんにも無くなって、母親にも社会にも嫌われた、この世に繋ぎ止めるものなんて何も無いようなぼくを、唯一引き止める、ぼくの光で、安心だった。
彼女のなかには、ぼくのためだけの隙間がある気がした。今思うと、ぼくはそこに入りたくて必死だったのかもしれない。
彼女と二度目の春を迎えた。
澄んだ青空の元でぼくらはいつも通り待ち合わせをした。
会うのは3ヶ月ぶりだった。
彼女はいつもと変わらなかったけど、どこかよそよそしかった。
手を繋いで散歩をした。
春風が吹き抜けた彼女の首元に紫の不規則な斑点があった。一瞬、鼻の奥がつんとした。彼女がぼくを振り返る。
「風、強いですね。すっかり春。」
ぼくはなにも応えずに、握った手に力を込めたら、痛い、と彼女は笑った。
裏切られたとか、悲しいとか、そんな感情はなかった。
動揺の素振りを見せたつもりもない。
ただ、ぼくの知らない彼女が、ぼくの知らないだれかを赦したことが、怖かった。
けれど、ぼくらはお互いを知りすぎないことを暗黙の了解としていたから。
ぼくは見ないふりをして、夜になり、彼女が海に惚れるのを待ち望んだ。
ぼくが望むとおり夜は来たし、ぼくらは海に足を運んだ。
ぼくに背を向けて水平線を見つめる彼女は、前よりずいぶんと痩せた気がした。
ぼくが横顔を見ようと近付くと、彼女の顔は暗くて見えなかった。砂浜を蹴っていじわるに正面から顔を覗いた。
彼女の目から、星屑がたくさんあふれていた。
彼女は泣いていた。
声を殺して、ぼくの顔より下を見て。
泣くんだ、彼女。
こぼれるそれをぼうっと見つめていた。
そうしたら彼女はぼくの目を見据えて、はじめからぼくしか見ていないみたいな顔をした。
※( )は、体験談投稿数です。