
私の15年のキャバ嬢生活で出会ってきたお客さんは何万人にもなりますが、ダントツに面白くて今でも思い出したら笑ってしまうほどのお客さんがいました。
”おかしい”くらい変人なのになんだか憎めず、次はいつ来るかな?と楽しみになってしまう、ちょっとクセになるお客さんのエピソードを紹介します。
指名ナシ!なのに必ずナンバーワンが接客

そのお客さんを仮にKさんと呼びますね。
ぱっと見はごくごく普通、中肉中背の地味なサラリーマン風。Kさんは、いわゆる箱(お店)に付いてるお客さんで、決まった指名がありませんでした。
派手にお金を使ってくれなくても定期的に来店してくれる常連さんで、いつも決まった時間に来店してラストまでいます。閉店時間を超えてまで粘ったりせず、キャバ嬢をアフターにも誘わず、サクッと帰る。
お店にとってはありがたく、“良いお客様”でした。
指名ナシで入店するのに、必ずいつもお店ナンバーワンのキャバ嬢嬢が席に付きます。ナンバーワン嬢以外の子は隣に座ることがなく、あまり会話もせず、ひたすらカラオケをリクエストするのが定番。
それ以外はひとりでボーっと飲んでいるのが好きな感じで、話しかけても相槌を打つ程度なのです。ヘルプで席に着いても、カラオケを歌う以外は一緒にボケーっとしていれば良いので、ある意味キャバ嬢たちの休憩所のような席でした。
混んできて女の子が足りなくなると、ボーイや黒服や店長が相手をしたり、ひとりで座らされていても怒ったりしません。とても大人しいお客さんでした。
胸ポケットに謎の手帳

「めちゃ変わってる人だ」とKさんを決定づけたのは、いつも胸ポケットにいれていた小さな手帳でした。お店でも何度も手帳を取り出し、いつも何やらメモをしていました。
店内は薄暗くて何を書いているのか分からないし、「メモ魔なのかな?」と思うくらいで最初はさほど興味もなく気にしてなかったのだけれど…。
ある時、Kさんとナンバーワン嬢が手帳を覗き込みながら盛り上がっていたんです。誰も見たことがないのに、ナンバーワン嬢だけは見ていて、しかもいつも静かなKさんの席が盛り上がっている?!それ以来、他の女の子たちと「あの手帳って何が書いてあるの?!見たことある?」と噂をするようになりました。
気になってしかたなかったのですが、当時は週2出勤のバイト嬢だったし、ナンバーワン嬢は気軽に話しかけられない雰囲気で、「あの手帳には何が書いてあるんですか?」なんてとてもじゃないけど聞けず。
接客する度にいろいろな妄想が浮かんでモヤモヤしていました。
突然のチャンス到来!

ヘルプで席に着き、Kさんにリクエストされた曲を歌った時のことです。この日、何曲目かにリクエストされた曲は、山口百恵さんの『さよならの向こう側』。
Kさんがリクエストする曲はいわゆる”ちょっと世代の古い曲”で、「完璧には歌えないけど、まぁなんとか歌えるかな?」と言う感じでうろ覚えの曲が多かったけれど、『さよならの向こう側』は母が大好きな曲でよく聞いてたし、私も歌いこんでいました。
我ながら良い感じで歌えたと気持ちよく席に戻ると、いつも何の感想も言わないKさんが目をキラキラさせて「今日は最高得点でした!」と言ったのです!突然のことに(えっ!最高得点!?何のこと?)と驚きつつも「ありがとうございます」とお礼を言うと、例の秘密の手帳をサッと広げて見せてくれました。
最大のミステリーだった謎の手帳の中身です!!心の中では(ギャー!‼謎の手帳の中身が見れた~!!)と大興奮でした。
手帳の中身は…?!
ドキドキしながら手帳を覗き込むと、几帳面そうに小さな文字がぎっしり!そして、見せてくれたページの一番上に私の名前が書いてありました。その下には、推定したと思われる身長や体重、髪の色や長さなどの見た目の特徴から、食べ物の好き嫌いや住んでいる場所などがこと細かに書いてあるのです。
一瞬にして全身に鳥肌が立ちましたが、Kさんが知りうる限りのデータは、ふだん私がお客さんに話している内容限定なので問題ないことが確認できて一安心。 メインで書いてあるのはカラオケについてでした。日時、曲名、回数、点数、そして評価コメントが何曲分も書いてあり、全てのページにぎっしりとKさんなりの分析結果が書いてありました。
もちろん私以外の女の子ページもたくさん。 このカラオケの評価がなかなか的確で、私のページには『何度リクエストしても覚えてこない、いつも2番のメロディーがちょっと違う、テレビサイズしか聞いてないと思われるとか
『この曲はキーがピッタリだが気持ちが乗ってないのか何も響いてこない』『男性の曲でも無難に歌うことができるが声は合わない』などなど、
「この人は音楽プロデューサーか何か?」(当時は小室哲哉が出始めた頃だったので本気でそう思った)と思うほどでした。
明かされた手帳の謎

最高得点を出した私は気に入られたようで、その後も手帳を見せてもらう機会があり、Kさんへの恐怖は関心に変わっていきました。
実は、店内で書いているのはメモ程度で、帰宅後に思い出しながら更に細かくチェック項目を書き足して仕上げているとのこと。お酒を飲んだ量や同伴やアフターをした際に食べたもの、支払い金額、プレゼントに使った金額、自分が貰ったプレゼントまで事細かにチェックしてあり、さらに女の子ごとに使った総額の計算まであり。私は接客頻度が高かったので、使ったお金ランキングは結構上位でした。
細かすぎる数字に「なんのための計算なの??」と少し怖く感じたのと同時に、「いつもありがとうございます」という感謝の気持ちも入交じり、本当に奇妙な気分にさせられました。
そして、お店ごとに何冊も手帳があるらしく、私のいたお店で使っていた手帳は2冊目。別に秘密にしてるわけでもなく、「見たい」と言われれば誰にでも見せていて、付き合いが長いナンバーワン嬢はそれを知っていて時々見せてもらっていたんだそうです。
キャバ嬢チェック手帳の効果
なんと手帳の中身を知ったことで、お店の女の子たちの意識が高まるという面白い現象が起きました。
Kさんは評価の内容について店長に注意するわけでもなく、女の子にダメ出しするわけでもなく、自分ひとりで楽しんでいただけだったのだけれど、明らかにキャバ嬢としての意識が変わったと思います。
誰かに評価されていると思うと自然とやる気になるものなのかもですね。
私も1度リクエストされた曲は練習していくようになり、再度リクエストされたときには完璧に歌うぞ!と負けん気を発揮してしまいました。他の子も同じようにカラオケを練習してきたり、お互いにファッションチェックもしていたし、評価がアップするように頑張っていて、それがお店にとっても女の子たちにとっても良い影響になって、キャバクラ店としての格上げに繋がったほどなのです。
その後
Kさん基準の《カラオケ最高得点》を更新する度にとても嬉しそうにしてくれたのは私も嬉しかったし、誕生日に指名してもらえた時には感動ものでした。いつも席に付くナンバーワンへの指名も誕生日やクリスマスなど特別な時だけだったので、生誕祭イベでの指名は心の中でガッツポーズ!
Kさんの席は、初めはすごく居心地が悪くて『この人は何が楽しくて来てるんだろう?』と思っていたし、呼ばれるのが嫌でした。でも、Kさんの変なこだわりを見つければ見つけるほどおかしくて、面白くて、観察力に感心してしまうほど。
手帳に書かれることでスタッフが自分を見つめ直し、精進するという不思議な効力もあって、今でも忘れられないお客さんになりました。もしかしたらKさんは有能な覆面調査員だったのかも?!そして、ネガティブな状況は自分次第で楽しみに変わるのだと気づけたのも、Kさんのおかげかもしれません。今でもどこかのお店に手帳を持って通っているのかな?そうだったら嬉しいなと思っています。
