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2013.07.01
作者情報
| 青井 由 |
| 北海道生まれ、東京在住の小説家。 大人の女性向けの恋愛小説を主に書いています。 主な執筆履歴&活動状況は「ya*info」(http://aoiyoshi.lovepop.jp/)にて公開中。 |
蝶々の歩き方【完】
2013.02.14
第1話 「愛姫」の場合(前編)
あー、ダメだ。やっぱ寝不足だ。アフターで五時までカラオケなんて、やるもんじゃないよね。眠いったらないもん。さっきからずーっと、あくびも我慢してるし。
あ、森口さん、またゴルフコンペの自慢話を始めたよ。酔うと同じことしか言わなくなるしさ、参ったなぁ。
い、いや! ダメだダメだ! 森口さんはいつも大枚叩いてくれる「諭吉くん」なんだから、ちゃんと接客しないと! とりあえず笑って、森口さんの膝の上に手でも乗せておくか!
はいはい、部長がでっかいOB出したのが、面白かったんだよね? 言っておくけど、その話、これで三回目だから!
普通だったらこんなオッサンになんて、ここまで愛想良くなんかしないよ? 森口さんが、たくさん金を落としてくれる「諭吉くん」だからこそ、延々と繰り返す話をニコニコ聞いてやってんのにさぁ!
眠い眠い。目の前がだんだんぼやけてきたよ。コースターに印刷されてる「Club Papillon」って店名の文字も、謎の暗号みたいに見えてくるし……。あれ? さっきまで「諭吉」の顔に見えていた森口さんが、別な顔に見えてる。これってもしかして……五千円札の「一葉」? あ! 今度は千円札の「英世」に変わった!
冗談じゃない! あたしは「一葉」や「英世」なんて要らないの! 欲しいのは「諭吉」だけ! だからカモン、「諭吉」!
「どうしたの愛姫(あき)ちゃん?」
「諭吉」の顔に戻った森口さんは、あたしがしかめっ面になったことに気づいて、首を傾げている。うわ、ヤバい。あたしは、「ううん。何でもないよー」と必死で笑顔を作った。
「森口さんの仕事の話を聞いてるとね、真剣にお仕事してる男の人って大変だなーって思うんだ。あたしには絶対できないし、それに、すっごくカッコいいなぁって尊敬しちゃう!」
「そうか! 嬉しいなぁ! 俺の仕事の話を聞いてくれるのは、愛姫ちゃんだけなんだよ」
「えっ! そうなの? じゃあ、もっとお話聞かせてよ! 森口さんの話って、すっごく面白いんだもーん!」
ちっとも面白くねーよ! こんな話より、森本さんの猿に似たブサイクな顔の方が、よっぽど面白いっつーの! だけどボーイがやって来て、「あと五分です」って呟くもんだから、こんなお世辞を言わなくちゃいけないんだよね。
「なら、今日はもっと愛姫ちゃんとお話しするぞ! よし、延長だ!」
やった! 「お金」の次の次の次に好きな言葉、「延長」! しめしめ、って思いながら、あたしは森口さんの腕にしがみついた。
「ありがとう! 森口さん大好き!」
大好きなのは、森口さんじゃなく、森口さんが支払ってくれる「諭吉」のことだけどさ。森口さんが調子に乗って、太股を撫で回すのにも腹が立つけど、これも「諭吉」のため!
今月は新しいバッグが欲しいから、頑張らないと! それに、来月のカードの請求も怖いし……。
森口さんは結局、二時間延長してくれて、ヘネシーXOも入れてくれたんだ! そして明日の同伴まで約束してくれた! さすがは「諭吉くん」だけあるよ!
だけどさ、その後についた客が最悪。何だよこいつ。ハウスボトルだけ飲んで、延長する気配もない。
案内所で割引券貰ってきたっぽいフリー客だから、期待してなかったけど、もう全然ダメ! 「諭吉」なんて以ての外! 「一葉」でも「英世」でもない。こんなヤツは「小銭ヤロー」だよ! こういう客は、相手にしないのが一番! 適当に会話を流して、胸を触りにきた手も跳ね返して、さっさと帰らせようっと!
「小銭ヤロー」を見送ってせいせいしてると、後ろに鬼みたいな顔をしたボーイが立っていた。
「おい、愛姫。今の接客は何だよ!」
「え? 『小銭ヤロー』には『小銭』っぽい接客をしたまでじゃん」
「『小銭』? 何だよそれ」
「金を使わなそうな客のこと!」
「そんな客にも金を使わせるのが、キャバ嬢の手練手管ってもんだろ?」
「うるさいー! あたしは金のある客にしか、愛想良くしたくないの!」
金のためにこの世界に入ったんだから、当たり前だよ。ボーイになんて、何にも言われたくない! そしたらボーイが、すっごい怖い顔であたしを見てた。
「そんな言葉は、今月のお前のランキングを聞いてから言え!」
「え?」
ヤバい。ランキングのこと、忘れてた! あたしはボーイが手に持ってたランク表を覗き込んだ。あたしの順位、下から数えた方が早いじゃん! あたしの下には、連日お茶っぴきの嬢ばっかり!
「ちょっと! これ、どういうことよ!」
「ふざけんな! お前が太客狙いで、それ以外の客には、まともに接客しねぇのが悪いんだよ!」
金をたくさん落としてくれる、太客狙いのどこが悪いんだよ! その方が能率もいいし、楽して稼げる、ってもんじゃん。そうじゃなきゃ、カードの支払いなんかできやしないんだから!
「ナンバーワンの沙耶さんを見ろよ。売り上げなんて、お前とゼロ一桁以上違うぞ!」
「う、うるさい! 沙耶さんみたいに、太客にも細客にも、マメに気を遣うなんて、普通じゃできないんだからね!」
「それでも、少しは沙耶さんを見習ってみろよ!」
イライラした気分を大きくしながら、あたしはちらっとホールを見た。五番テーブルでは、沙耶さんが太客の浦井社長についていた。テーブルの上には、高いボトルが何本も乗ってるし、バカデカいフルーツ盛りもある。あれ、「諭吉」二、三枚はするよ、絶対に!
すげぇ! 沙耶さん、すげぇ! どうしたら、あんな太客がつくんだろう? どうしたら、あんなものを注文してもらえるんだろう?
あたしはその疑問を、閉店後のロッカールームで、沙耶さんにぶつけてみた。
「沙耶さん、今日ボーイに、『沙耶さんを見習え』って言われたんですよぉ。どうしたらいいですか? あたし、最近売り上げ悪いからぁ」
いや、売り上げが悪いのは、今始まったことじゃないけど、これはあたしなりの見栄、ってヤツだね。
「太客かどうかだけで、客を区別するな、って言われたんですけど。でもどうしても、お金のある客を狙っちゃうんですよねぇ。あたし、お金大好きだし」
口に出したら、自分がすっげぇ最低な人間に思えてきたけど、それがあたしの正直な気持ちだった。こんなこと言ったら、沙耶さんには引かれるかな……ってちょっとビビったりもして。
だけど沙耶さんは、いつも通りの超綺麗な笑顔で、あたしを見てたんだ。
「あら、私だって、お客様をお金で判断してるわよ。それに、私もお金は大好き! だって、お金はあり過ぎても、腐るものでもないでしょ?」
「あたしだってそう思ってますよ! でも……でもね! あたしは、沙耶さんみたいには上手くいかないんですよぉ」
何だか恥ずかしくなってきて、あたしの声はだんだんと小さくなっていく。これじゃあ、悪いことをして、お母さんに怒られた時と変わんないよ。恥ずかしさが増えちゃって、とうとうあたしは俯いてしまった。
なのに、沙耶さんはあたしをバカにすることなく、「みんな、そういう時があるのよ」と、あたしの肩を優しく叩いた。顔を上げると、沙耶さんが女神様みたいに微笑んでいる。
「じゃあね、愛姫ちゃん。一度でいいから、売り上げを考えないで、接客をしてみたら?」
「え、えーっ!」
冗談じゃない、と思って、あたしが口を尖らせると、沙耶さんは「だ・か・ら! 一度だけでいいのよ!」と繰り返した。
「一度だけ、売り上げのことを忘れて接客してみるの。そうしたら、何か掴めるかもしれないわよ」
……信じられない。いくら沙耶さんのアドバイスとはいえ、そりゃ無理だよ。
「じゃあ、沙耶さんって、そういうことしてます?」
「してるしてる! 毎日してるわよ! 私がいないと何にもできない男と一緒に住んでるから、その男に毎日尽くしまくってるわよ! お金なんて考えないでね」
「え! 沙耶さんと一緒に住んでる男の人に、ですか?」
驚いちゃった。ナンバーワンの沙耶さんに、そんなヒモみたいな男がついているなんて。あたしはヒモはごめんだな。だいたい、自分の買い物の支払いだけで毎月精一杯なのに、人の世話なんかできないよ。
「まずは、お客さんの選り好みをしないで、やってみることね」
そんな沙耶さんのアドバイスを、素直に聞くことにしたんだ。まずは、明日来た客の中で、一番金の落とさなさそうな客に、めちゃくちゃサービスしてみよう、って思ったの。どう? いいと思わない?
そしたら次の日、来たんだよ! 安そうなネルシャツに、ずーっと洗ってなさそうな汚いジーンズ。ブサイクじゃないけど、無精ヒゲだらけだし、髪もボサボサだし……。うちの店「Club Papillon」は、結構高級感のある店だから、その中では見事に浮いちゃっていた。
ちょっとオタクぽい感じだったのもあって、他の嬢たちがつきたがらないから、「あたし、行きまーす!」って思わず立候補しちゃったよ!
で、彼のテーブルに行って挨拶をして、名前を聞いたら、「あ、佐山です」とボソボソと答えてくれた。あんまり声が小さいんで、何度も聞き返しちゃったけど……変に高飛車な客よりはマシだね、うん。
この佐山くん、どこからどう見ても「小銭くん」にしか見えない。だけどあたしは、彼を必死で「諭吉くん」だと思って、接客することにした。だけどうっかり気を抜くと、「諭吉」は「一葉」になり、「英世」なっていく。「英世」で止めようと思っても、だんだん「小銭くん」に見えてくるんだ。ああ、もう!
あたしは何とか「諭吉」に見せる笑顔を作って、佐山くんに「どうして今日はいらっしゃったんですか?」と尋ねた。すると佐山くんは、「あの……えっと」と、もごもごと口を動かしている。
「きょ、今日は……仕事の気分転換に、って思って……後輩に、ここを教えてもらったんです……」
へぇー。学生っぽい感じがしたけど、仕事してるんだぁ。あたしが「お仕事、お疲れ様です!」って水割りを手渡すと、佐山くんは「い、いや、それほどでも……」って照れたようにしている。
「僕の仕事は、そんなに大変なものでもないんで……」
「でもー、どんなお仕事でも、働いている男の人って、素敵ですよー!」
「い、いや、僕はそんなすごい人間じゃないですから……」
……おい! ネガティブ過ぎるだろ! これで、どうやって話を弾ませろってんだよ! 脳天チョップを食らわせたい気持ちを必死で抑えながら、会話のきっかけを掴もうと、あたしは佐山くんの全身を見回した。
目を下に向けていくと、お尻のポケットから、ケータイのストラップに付いたマスコットがはみ出ていた。それを見た瞬間、あたしは思わず叫んじゃった。
「あ、ピキーンだ!」
「ピキーン」は、今あたしがハマってる、モバイルゲームのキャラクターなんだ。宇宙人の「ピキーン」が、自分の星を守るために戦うゲームで、超面白いの!
「え? ピキーンのこと、知ってるの?」
佐山くんが初めて大きな声を出したので、あたしは驚きながらも、「知ってるよ!」って答えた。
「あたし、今、超ハマってるもん! あたしはピンクピキーンを集めて、魔法を使えるようにしたいんだー!」
「でも、ピンクだけ集めても、魔法は強力にならないよ。赤と青を少し加えると、魔法の威力が倍以上になるんだ」
「へぇ! 佐山くん、詳しいね! すごい! あたし、ピキーンの話をできる人って、初めて会ったよ!」
その後、「ピキーン」の話題で佐山くんと散々盛り上がったのはいいんだけど、結局佐山くんは、場内指名も延長も、そしてボトルの注文もせずに、帰ってしまった。
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「愛姫」の場合(後編)は2月28日公開です。
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