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ポケパラ体入>ポケノベ>蝶々の歩き方>第4話 「桃花」の場合(前編)
小説タイトル
イラスト:lid

作者情報

青井 由
北海道生まれ、東京在住の小説家。 大人の女性向けの恋愛小説を主に書いています。 主な執筆履歴&活動状況は「ya*info」(http://aoiyoshi.lovepop.jp/)にて公開中。

小説タイトル蝶々の歩き方【完】 更新日時2013.05.23

第4話 「桃花」の場合(前編)

小説挿絵 「マサくん! どうしてずっと来てくれなかったの?」
「ごめんごめん。最近仕事が忙しくってさぁ」
「仕事が大変なのは分かるけど……メールにも返事くれなかったじゃない! あたし、すっごく寂しかったんだから!」
「悪かったよ! 今日は延長もするし、ボトルも入れてやるから、機嫌直せよ!」
「ほ、本当に? 嬉しい!」
 うっわー! 愛姫さん、すっげー。この「マサくん」って人、さっき愛姫さんが控え室で「どスケベで、サイテーな客」って、さんざん悪口言って人だよね? なのに愛姫さんは今、マサくんの肘にしがみついて、胸まで押しつけてるよ!
 他のキャストさんたちも、みんなお客さんと恋人同士みたいにしてるし……すごい! これがキャバクラの世界なんだねー!
 あ、マズい。あたし、ヘルプについたんだから、「マサくん」の連れのお客さんの方に行かないと!
 えーっと、ヘルプの時って名刺は要らないんだよね? じゃあまずは……挨拶かな? それから、何を飲むか訊くんだっけ? あ、おしぼりの方が先かな? で、タバコの火はどうやって点けるんだっけ? あれ?
「あ、そうそう! 彼女、桃花(ももか)ちゃんって言うの!」
 あたしがオロオロしているのを見て、愛姫さんが紹介してくれたから、あたしは「よ、よろしくお願いします!」って挨拶したんだ。
「桃花ちゃんは、キャバ嬢になって二週間の、ピッチピチの新人さんなの!」
 愛姫さんはマサくんたちと話をしながら、あたしにもこっそりと「ほら、お連れさんの隣に行って!」って言ってくれたんだ。で、あたしは言われた通り、連れのお客さんの横について、挨拶したの。
「はじめまして! よろしくお願いします!」
「よろしくねー」
 連れのお客さんは、ちょっとチャラい感じの「小野さん」っていう人。小野さんはあたしを見るなり、ニヤっと笑った。
「いいねー、新人さんかぁ。俺、新人って大好きなんだよね」
「えっ、どうしてですか?」
「だってさー、ベテランのキャバ嬢は『使い古し』って感じがするじゃん」
 う、うわ! その小野さんの一言で、愛姫さんのおでこに青筋が立っちゃってるよ……。だけど愛姫さんは笑顔のままで、「じゃあ、桃花ちゃんを指名してあげてくださいよ!」って言ってくれたの。
「桃花ちゃん、まだ一度も指名されてないんですよ。よかったら今日、どうです? 初指名!」
 すると小野さんは「お! いいねぇ!」と、急に嬉しそうな顔になった。
「桃花ちゃんの、指名のバージンを奪う、って感じ?」
「やっだー! エロいー!」
 愛姫さんはケラケラ笑いながら、すぐにボーイさんを呼んでくれたんだ。「桃花ちゃん、場内でーす」って。
 そしてマサくんと小野さんが帰った後、愛姫さんは親指を立てて、「やったね、桃花ちゃん!」ってあたしに言ってくれたの。
「初指名じゃん! おめでとう!」
「ありがとうございます! 愛姫さんのお陰ですよ!」
「気にしなくていいよ! みんな最初は、先輩のキャストにこうやって教えてもらうんだから。それに新人のうちは、初物好きのお客を狙えるしね!」
「ハツモノ? 何ですか、それ」
「初物は、新人さんとか、店に入りたての子のことだよ! 特に新人は、ウブなイメージがあるから、結構人気があるんだ! 桃花ちゃんも、まさにそんな感じだもんねぇ」
 へぇ、そうなんだ……。あたしは田舎では「派手な子」「遊んでそう」なんて言われてたけど、ここではそんなイメージに見えるのかなぁ?
「ま、とにかく、今のうちは『新人』ってことをアピールしていくといいよ!」
 ……よし! じゃあ明日からは、ガンガン指名が取れるように頑張らなきゃ! だって、ずーっと憧れてたんだもん、この世界に!
 田舎にいた頃から姫ギャル目指してて、キャバ嬢が出てる雑誌を読みまくってたんだ、あたし。で、短大を卒業したら、必ずキャバ嬢になるって決めてたの! しかも東京に出て、キラキラ輝くキャバ嬢になるって!
 で、この「Club Papillon」に入店したんだけど、ここは本当に夢みたいな世界だった。盛り髪にメイクにネイル、そしてドレスとアクセサリー。そんなあたしの憧れを全部身につけた、たくさんのキャバ嬢たち。みんながキラキラ輝いて見える……! そう、これがあたしがずっと望んでいた世界なんだよ!
 そのために、高校時代から付き合ってたケンジとも別れて、東京に出てきたんだから! ……って思うと、ケンジの顔が浮かんできちゃうけど、ダメだ、ダメ! ケンジのことなんか、早く忘れなきゃ!
 だってあたしは、もう田舎の子じゃないし。この街で生きていく、キャバ嬢になったんだもの!

 次の日、あたしは初めて一人でフリーのお客さんにつくことになったんだ。ちょっと緊張したけど、愛姫さんのアドバイスに従って、「新人」をアピールしてみることにした。
 最初のお客さんは、若いサラリーマンっぽい人。うん、安心できそうな人だなー。よし、まずは挨拶から!
「はじめまして、桃花です。よろしくお願いします!」
 まずは自己紹介。そして名刺。あとはおしぼりを渡して、何を飲むか訊いて、タバコの火に灰皿チェック。そして、あとは……あとは……。やらなきゃいけないことを追いかけているせいで、あたしはいっぱいいっぱいになっていた。
「もしかして、新人さん?」
 お客さんに聞かれて、一瞬ヤバい、って思ったけど、ここは「新人」をアピールすべきだよね?
「は、はい! そうなんです! 新人なので、手際が悪くてすみません……」
「いや、かえって初々しくっていいよ! 一生懸命やってくれてる感じが可愛いしさ!」
「あ、ありがとうございます!」
 へへ、褒められちゃった! このお客さん、あたしのことを気に入ってくれたみたいで、場内指名もしてくれたし、また来るって約束もしてくれたんだ。「今度はアフターにも行こう」って言ってくれたし!
 そしたら、その次についたフリーのお客さんも、場内指名をしてくれた後に同じこと言ったんだ。「また指名するから、今度はアフターに行こうよ」って。
 また次の日にもフリーのお客さんについたんだけど、やっぱり同じことを言われるんだよね。「今度はアフターに」って。……何でみんな、アフターにこだわるんだろう?
 まぁ、それはいいとして、あたしってすごくない? キャバ嬢になったばっかりなのに、いきなりこんなに指名されて、アフターにも誘われるなんて! もしかして、あたしってキャバ嬢としての才能アリ? 田舎にいた頃、雑誌で毎日キャバ嬢になるための研究していたせいかもね!
 閉店後の更衣室でそんなことを考えていたら、思わずニヤニヤしちゃった。それを見ていた愛姫さんが、「桃花ちゃん、絶好調だね!」って声を掛けてくれたんだ。
「早速フリー客をゲットしてるんでしょ? すごいね!」
「へへへ。ありがとうございますー」
「でもさ、お客さんはあくまで『お客さん』だから、あんまりホイホイ言うこと聞いちゃダメだからね!」
 ……え? 愛姫さんったら、何でこんなこと言うんだろう? それって、お客さんを信じちゃダメ、ってことだよね?
「初物好きには、変な客が多いのよ」
 今度は後ろから、瑠衣さんっていう美人のキャストさんが呟いた。振り返りながら「それって、どういうことですか?」って尋ねたら、瑠衣さんは無表情なままでため息をついたんだ。
「初物好きの客って、すぐにヤレるって思って、新人を狙うの。だから、あんたも気をつけなよ」
「確かにそうね」
 今度は瑠衣さんの横で、ナンバーワンの沙耶さんが頷いていた。
「特に、すぐにアフターに誘うお客様には気をつけた方がいいわよ、桃花ちゃん」
「そうそう! お客さんって、大体は下心があるからさぁ」
 愛姫さんも沙耶さんと同じことを言ってるけど……でも、そんなことないよ! あたしのお客さんは、みんないい人ばっかりだもん!
 ……あ。もしかして、みんな、あたしにジェラシーってこと? あたしが新人なのに、結構指名も取れてるから、自分たちのピンチだと思ってるのかも!
「で、でも! あたしはお客さんを信じてますから!」
 あたしは胸を張って、みんなの前でそう言ったんだ。だってあたしはこの世界で生きていくって決めたんだから、お客さんを信じなきゃ、やっていけないじゃない?
「はじめまして、桃花です! よろしくお願いします!」
 あたしは次の日も、フリーのお客さんについていた。この日、最初についたのは「菅野さん」っていうお客さん。
 その菅野さん、あたしがテーブルについたら、突然「あれ?」って声を上げたんだ。
「桃花ちゃんって、もしかして栃木出身?」
「は、はい、そうですけど……どうして分かったんですか?」
「少しだけ訛りがあるよね? それで分かったんだ。俺も栃木出身だから!」
「えっ、そうなんですか? 偶然ですねー!」
 出身が一緒ってことが分かった瞬間、菅野さんとは一気に仲良くなったの! 地元ネタとかを話して、盛り上がったりしてね。
「へぇ。桃花ちゃんは新人さんなんだ。どうりで初々しいもんなぁ」
「だけど、まだ慣れてないから、失敗ばっかりなんです」
「そっか。でもさ、あんまり接客慣れしてると、ぼったくられそうな気分になるんだよね。その点桃花ちゃんは、ちゃんと一生懸命接客してくれてるのが伝わってくるし、すごくいいと思うよ!」
 きゃー! 褒められちゃった! あたしってやっぱり、キャバ嬢の才能あるんじゃない? あたしがお客さんを信じてるから、お客さんもあたしを好きになってくれるんだよ、きっと。こういう信頼関係が、キャバ嬢としては大切だよねぇ。それにこの調子なら、あたしがそのうちナンバーワンになる日も近いんじゃない? なーんてね!
 菅野さんはその後、三回もお店に来てくれて、全部あたしを指名してくれたんだ。で、その三回目に来てくれた日に、アフターに誘われたんだよね。「よかったら今日、お店が終わった後にカラオケでも行かない?」って。
「俺、今日ボーナス出たばっかりだからさ、奢らせてよ」
 ボーナス出たって言う割には、いつも通りハウスボトルばっかり飲んでるんですけど……。それに、「すぐにアフターに誘う客には気をつけろ」っていう、沙耶さんの言葉も、頭に過ぎっちゃったんだよね。
 でも……だ、大丈夫だよね? だって、菅野さんはいい人だもの! 同じ栃木出身だし! 栃木出身に悪い人はいないよ、きっと!

■注意■

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