目次
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2013.07.01
作者情報
| 青井 由 |
| 北海道生まれ、東京在住の小説家。 大人の女性向けの恋愛小説を主に書いています。 主な執筆履歴&活動状況は「ya*info」(http://aoiyoshi.lovepop.jp/)にて公開中。 |
蝶々の歩き方【完】
2013.03.15
第2話 「瑠衣」の場合(前編)
「昨日の瑠衣、最悪。客にケンカ売ってた」
「私の客にも平気で絡んでた。死ね」
「早く辞めろや、瑠衣」
……ったく、キャバ嬢専用の掲示板にこんなに詳しく書き込むなんて、確実にうちの店「club Papillon」のキャストのカキコだって、バラしてるようなモンじゃない。
こんな書き込みをするのは、いつもお茶ひいてるか、大した指名もないような嬢に決まってる。恥ずかし気もなく、ブス顔を客に晒しているような、どうしようもない女たち。
そんな連中に、同伴なんかあるはずもない。あったとしても、こんな高級な寿司屋には来ないだろう。可哀想な連中だね。
「る、瑠衣(るい)ちゃん。ずっとスマホ見てるけど、どうしたの?」
辛島さんが大きな顔を震わせて、おどおどしながら尋ねてくる。IT企業の社長なのに、私の前ではいつも怯えた目をして、必死で私の顔色を窺う、気の小さい男。今も、私が出されたお寿司に手を付けないことを、不思議に思っているんだろうな。
「別にぃー」
私はスマホで掲示板をチェックしながら、ダルそうに返事をした。そしたら辛島さんは、また焦り始めたんだ。
「も、もしかして、お寿司、嫌いかな? あ、でも、瑠衣ちゃんが、お寿司食べたい、って言ったんだよね? しかも『五郎八』がいいって……」
その通り。お寿司を食べたいって言ったのは、確かに私。そして、この有名な寿司店「五郎八」を指定したのも、私だ。
お寿司は大好き。だけどここで喜んだら、辛島さんの思うツボだもの。
私はスマホをバッグの中にしまい込み、視線を感じて顔を上げた。カウンターの奥にいる若い板前さんが、私をじっと見ている。目が合ったのでにっこりと微笑むと、板前さんは顔を真っ赤にして照れている。ふふ、可愛い。
仕方ないよね。私みたいな美人には、見惚れずにはいられないもの。
まだこちらを見続けている彼にウインクをすると、私は「それよりも、辛島さん」と気怠そうに声を上げた。
「約束のアレ、いつくれるの? ずっと待ってるんだけど」
「ちゃ、ちゃんと用意してあるよ! ほら!」
辛島さんは慌てたように、カウンターの下からブルガリの紙袋を引っ張り出す。それを受け取って、中から箱を取り出して開けると、前から欲しかった腕時計が入っていた。……よし、やった!
だけど私は、こんなことで喜びを顔に出したりはしない。澄ました顔を作って、「ありがと」と素っ気なく言う。そしたら、辛島さんはまたまた焦ったように、「う、嬉しくないの?」なんて聞いてくる。
本当はものすごく嬉しい。この店の中を、スキップで駆け回りたいぐらいだ。だけど、こんなことで喜ぶもんか! 昔から美人って言われ続けてきた私が、お前みたいなチビデブ男と一緒にいてやってるんだから、腕時計なんて安いぐらいだよ!
「前はどんなプレゼントでも、瑠衣ちゃんは喜んで、笑ってくれたよね?」
それ、いつの話だよ。あー、やだやだ。過去にこだわる男って。私はわざとらしく大きなため息をつき、「でもさー」と呟いた。
「これだけじゃあ、辛島さんの愛情が分かんないなーって」
「え?」
辛島さんは目玉を丸くして、二重顎をぶるん、と震わせる。そんな彼の腕を掴んで、私は上目遣いになりながら、右に顔を傾けた。これ、私の顔が一番綺麗に見える角度なんだ。
「辛島さん、私のこと好きなんでしょ? 私、大学ではミス・キャンパスにもなったし、来年からの就活では女子アナも目指してるしさー。そんな私を、一番応援してくれてるのが、辛島さんでしょ?」
「ま、まぁ、そうだけどね」
「じゃあ、もっと後押ししてよ! 高いボトルを入れてくれるとか、もっとプレゼントをくれるとか! そうじゃなきゃ私、辛島さんとはもう会いたくない! 指名してくれても、テーブルにも行かないからね!」
「ま、待ってくれよ、瑠衣ちゃん! ちゃんとこれからも、瑠衣ちゃんの欲しいものも買ってあげるし、ボトルもたくさん入れるよ! あ、そうだ! 今度、テレビ局のお偉いさんとも会わせてあげるからさぁ!」
ふふ、よし! 必死で私に縋りつく辛島さんを見て、私は心の中でニヤニヤと笑ってしまった。
こういう男って、チョロいのよ。社長になるまでは全くモテたことがないから、女の扱いにまるで慣れてない。だから、私みたいな美人が近づけば、必死で自分の許に引き留めようと、金やモノを出してくるんだから!
この後、同伴出勤をして、辛島さんが三時間延長して帰っていったら、私にしては珍しく指名が途絶えてしまった。なので仕方なく控え室にいたら、突然ボーイがやって来たんだ。
「瑠衣ちゃん、寧々(ねね)ちゃんのヘルプ、頼むよ」
「えーっ! 何で私がヘルプなんかしなきゃないの!?」
いつもランキング五位以内には入っている私が、十五、六位そこそこをウロウロしているような寧々のヘルプに入るなんて! ふざけんのも顔だけにしておけよ、このクソボーイ!
それでもホールへと無理矢理連れて行かれて、寧々の客である下田さんのテーブルにつくことになった。
下田さんったら、私の顔を見た瞬間に、デレーッとしちゃってる。そりゃそうだよねー。私の綺麗な顔を見たら、誰だってそうなるもの。タヌキみたいな寧々の顔をいつも見ているなら、尚更だよねぇ。
奥のテーブルに目を向けると、他の指名客についている寧々が、私の方を見て、「ごめんね」って感じで手を合わせている。……ふん。寧々としては、本気で申し訳ないと思ってるのかもしれないけど、だからと言って、私の腹の虫が治まるはずもない。
このイライラ、どうやったら解消できるんだろう? 私は唇を噛み締めながら、横にいる下田さんを見た。水割りを貧乏臭くチビチビ飲んでる下田さんは、鼻の下を伸ばして、ずっと私のことを見つめている。
……そっか、よし。ふと頭に浮かんだことを、私は早速実行することにした。
まずは下田さんの腕にしがみついて、耳元に優しく呟いてみる。
「寧々ちゃんに待たされちゃってるんですか? 下田さん、可哀想!」
「い、いや、でも、寧々ちゃんも忙しいのが何よりだからさぁ」
「えーっ! そうかなぁ? 私だったら、下田さんみたいな素敵なお客さんは、絶対に放っておきませんよ!」
明らかなお世辞でも、美人の私が言えば、本当っぽく聞こえるのが不思議。下田さんも、まんざらじゃないみたいで、「そ、そうかい? 嬉しいなぁ」なんて言いながら、ヘラヘラと笑っている。
もう一押し、と思って、私は上目遣いで下田さんの顔を覗き込んだ。
「だって下田さん、さっきからずっと、私のことを見てますよね? そのせいで私、何だかドキドキしてるんです。下田さんみたいに目力のある男性って、そうはいないですよ」
下田さんったら、鼻の下を更に伸ばして、私の顔にとろんとした視線を向けている。ふふ、あと一歩だね。
「もし、私を指名してくれるなら、私は絶対に下田さんのテーブルから離れませんよ。今日だって、これからだって!」
すると、下田さんは寧々のいるテーブルをちらりと見た。一瞬困ったような顔をしたものの、下田さんは何かを振り払うように何度も首を振って、すぐさま大きく頷く。
「よ、よし! 今日は瑠衣ちゃんを指名しよう! で、これからの本指名も、瑠衣ちゃんにしちゃおうかな?」
「本当ですか!? 嬉しいー!」
男って、ほんとにチョロいもんね。私の綺麗な顔を見ただけで、指名替えを約束してくれるんだもの! 私は高笑いしたい気持ちを堪えながら、ボーイを呼ぶために手を挙げた。
「場内指名でーす!」
私がわざと大きな声でそう告げると、寧々の顔がこっちへと向いた。私が下田さんに名刺を渡して、携帯のアドレスを交換しているのを見て、顔色を青ざめさせた後、赤鬼のような表情に変えていく。
ふん、ざまぁ見ろ! 私にお前のヘルプをさせるなんて、十年どころか、百年早いってことだよ!
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第2話「瑠衣」の場合(後編) は3月29日公開予定です。
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