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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>蝶々の歩き方>第1話 「愛姫」の場合(後編)
小説タイトル
イラスト:lid

作者情報

青井 由
北海道生まれ、東京在住の小説家。 大人の女性向けの恋愛小説を主に書いています。 主な執筆履歴&活動状況は「ya*info」(http://aoiyoshi.lovepop.jp/)にて公開中。

小説タイトル蝶々の歩き方【完】 更新日時2013.02.28

第1話 「愛姫」の場合(後編)

小説挿絵 「愛姫さんと話せて楽しかったです。また来ます」
 初めて店に来た時、佐山くんはそう言って帰っていった。そしてその言葉通り、佐山くんはよく店に来てくれるようになった。どこで手に入れたのか分からないけど、非売品の「ピキーン」グッズを持ってきてくれたして。
 プレゼントなら、もっと金目のものとか、ブランド品がいいな、って思うけど、我慢我慢。ちゃんと指名はしてくれるようになったしさ! でもまだ、延長もボトル注文もないけどね……。
 五回目に店に来てくれた時の佐山くんは、いつも以上に汚い格好だった。しかも目の下に真っ黒なクマを作って。
 なのに佐山くんは、「よかったら、お店終わった後に、一緒に食事に行かない?」って誘うんだ。おお、アフターだ! ってあたしは喜んで、「いいよ!」って答えたよ。
 初めてのアフターだし、どんな店に連れて行ってくれるのかな? ってワクワクしてたんだよ、あたし。
 で、連れて行かれた所は……牛丼屋だった。
 何これ? こんなの、アフターじゃねぇよ! 単なる夜食じゃん!
「僕、ここの牛丼が一番好きなんだ」
 カウンターで牛丼を食べる佐山くんに、あたしは「そう?」と不機嫌っぽく返事をした。あーあ、ショック。こんなに頑張って佐山くんに付き合ってるけどさ、売り上げアップのコツも何も、全然掴めないよ!
 ムカついた気持ちのままで、牛丼を無理やり口に入れていると、佐山くんが「ねぇ、愛姫ちゃん」とこっちを向いた。
「愛姫ちゃんは、どうして今の仕事をしてるの?」
 うわ、来たよ! これ、客がよく訊いてくる質問なんだよね! 好きでもない男にニコニコしなきゃない仕事なんだから、金目的以外の何ものでもねぇよ! ……って言いたかったけど、ここは用意しておいた「答え」を言わなくちゃ。
「んー、人と話すのが好きだから、かな?」
「僕も今の仕事は好きで始めたんだけど……最近ツラくってさ」
 仕事って言ったって、こんな男なら、コンビニとかパチンコ店のバイトでしょ?
「ふーん。大変だね」
 あたしは適当に相槌を打ったのに、何故か佐山くんは、すっごく嬉しそうに笑ったんだ。
「でも、『Club Papillon』に行って、愛姫ちゃんと話してたら、すごく元気が出たんだ」
「でも、ピキーンの話ばっかりだったじゃない?」
「それが良かったんだ。僕の好きなピキーンを、愛姫ちゃんも好きだって言ってくれて、嬉しかったから」
「あたしも佐山くんと話すのは楽しいよ! ゲームの話で盛り上がれるお客さんって、少ないから!」
 これは本当のこと。普通なら、お客さんの話題に合わせなきゃないから、会話を進めるのが大変なんだけど、佐山くんとは趣味も合うからね。会話が楽で面白いんだ。
「愛姫ちゃんが楽しい、って言ってくれるなら、僕は嬉しいよ」
 ニコニコしている佐山くんを見て、あたしも「嬉しい」って思えた。
 でね、気がついたんだ。確かにあたしはお金が好きでキャバ嬢になったんだけど、「人と話すのが好きだから」って理由も、まんざら嘘でもないんだよなぁ……って。
 だって、お客さんと話すのも、百パーセントつまらない訳じゃないし。あたしと話すことで、みんなが喜んだり、楽しそうにしたりするのは、売り上げとか関係なく、嬉しいもんだしね。
 今だってそうだよ。佐山くんが、あたしと話すことで、疲れた顔に少し元気が戻って来てるのを見ると、良かったなぁ……って素直に思えるしさ。
 そうだ。そんな気持ち、すっかり忘れちゃってたよ。


 ……で、とうとう、売り上げの〆日になっちゃったよ! なのに、あたしのノルマは見事に達成されていない。
 何とか今日中に売り上げを増やさなきゃ、って、あたしは朝からお客さんたちに電話&メール攻撃をしまくった。一人でも多く店に来てもらわないと、ノルマ達成なんてできないよ!
 まずは「諭吉くん」こと、森口さんに。なのに森口さんったら、「今日は仕事があるから行けない」なんて言うんだもん! つ、使えねー! もう「諭吉くん」じゃねーよ、あんなヤツ! 「小銭」だ「小銭」!
 お金を落としてくれそうなお客さんの殆どに電話をしたけど、結局誰も助けてくれない。どうしよう……って悩んだ結果、ダメもとで、佐山くんに電話することにしたんだ。
 佐山くんは電話に出るなり、「もしかして、愛姫ちゃん、困ってるの?」って訊いてきた。ああ、困ってるよ! 大困りだよ! そう絶叫したかったけど、必死で堪えて、あたしは甘えるような声を出した。
「佐山くんの力が、必要なの」
「小銭くん」が役に立つかは分からないけど、今はワラでも掴みたい気分なの!
「分かった。少ししたら行くから、待ってて」
 その時は、あたしも佐山くんの言葉を信じてた。だけど、いつまで経っても、佐山くんは店には来なかった。他の嬢たちがポイントをガンガン稼いでいく間、あたしは控え室でケータイを握り締めて、進んでいく時計の針とにらめっこをしていた。
 時計の針は、止めたくても、どんどん進んでいく。賑やかだったホールを見ても、お客さんは少なくなっていて、あと一時間ぐらいで閉店そうな気配。
「おい、愛姫! どうする気だよ! ノルマ達成できなかったら、罰金だからな!」
 ボーイに言い返す気力もなくって、あたしはぼーっとしながら時計を見ていた。ああ、こりゃダメだ……って思ってたら、突然ホールからボーイの声が聞こえてきた。
「愛姫さん、ご指名です!」
 ま、まさか、佐山くん!? ボーイの案内するテーブルに行ったら、佐山くんがいつもの小汚い格好で、ソファに座っていた。あたしが隣に座ると、佐山くんが「愛姫ちゃん、どうしたの?」と顔を覗き込んできた。
「い、いや、あのね」
 あたしは何と言っていいか分からずに、口をモグモグ動かしていた。だけど思い切って、「今日、売り上げの〆日なんだよね」と切り出した。
「あたし、売り上げが悪くって、ちょっとピンチでさ」
 いや、ちょっとどころじゃなくで、大ピンチだけどさ。佐山くんが返事をしないから、もしかして呆れてるのかな……ってビクビクしながら佐山くんを見ていたんだ。
「つまり、愛姫ちゃんを助けるには、たくさん注文すればいいんだね。何を頼めばいいの?」
「い、いや、無理しなくていいよ!」
 こんな貧乏くさい男に、何ができるんだよ! と叫びそうになっていたら、佐山くんは「無理してないよ」って笑ったんだ。
「僕、お金はあるから」
 佐山くんはポケットから財布を出すと、カードを一枚引っ張り出した。それは、アメックスのブラックカードだった。
 な、何でこんな男が、これを持ってるんだよ!
 あたしの心の叫びを無視して、佐山くんは近くにいたボーイに声を掛けている。
「すいません。愛姫さんを助けられる分だけの、注文をしたいんですけど」
 口を開けてびっくりしているボーイの顔を見ながら、あたしは「ちょ、ちょっと!」と佐山くんの服を引っ張った。
「何でこんなに……」
 ……信じられない。大金を使ってくれるのは嬉しいけど、どうしてここまで佐山くんがしてくれるの? あたしはめちゃくちゃ驚いているのに、佐山くんは「当然!」って感じで、ニコニコしているんだもん。
「だって愛姫ちゃんは、いつも僕のゲームを誉めてくれたでしょ? いつかそのお礼をしたい、って思ってたからね」
「え? 『僕のゲーム』って……?」
「『ピキーン』だよ。あれ、僕が作ったんだ。あとね、『ジャガス大戦』や『ドリームウェーブ』も、僕が作ったんだ」
 うわ! 全部大人気のゲームじゃん! ……え? じゃあ、佐山くんはこんな格好してるけど、金持ちで、「諭吉くん」だってことなのかな?
 まだ頭が混乱しているあたしに、佐山くんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「今日、ゲームにバグが見つかってね、その対処をしなきゃなくって、ここに来るのが遅れちゃったんだ。ごめんね」
「だ、大丈夫だよ! 来てくれただけで、嬉しいんだから!」
 あたしの言葉を聞いたボーイが、ニヤニヤしながら、テーブルに大量のボトルを置いていく。隣のテーブルでは、沙耶さんが笑って手を振っていた。
 ――人は、見かけによらないのよ――
 沙耶さんは、口の動きだけであたしにそう言った。本当にそうだな、ってあたしは素直に思えた。
 それにしても、沙耶さんはすごいなぁ。何でもお見通し、って感じ! だって、沙耶さんのアドバイス通りにやってみたら、佐山くんみたいないいお客さんと出会えたんだもんね。
 ……あ、何だか沙耶さんが神様みたいに見えてきた。キャバクラ嬢の守り神みたいだよね、沙耶さんは! 沙耶さんがいつも以上にキラキラ輝いて見えるもんだから、あたしは思わず手を合わせて拝んじゃったんだ。
 そして佐山くんにも拝んだんだ。「諭吉くん」でもなければ、「小銭くん」としてでもなく、ちゃんと佐山くんとして。
「ありがとう! 佐山くん、大好き!」って言いながらね。

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第2話「瑠衣」の場合(前編) は3月15日公開予定です。

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