目次
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2013.08.26
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2013.12.16
作者情報
| 青井 由 |
| 北海道生まれ、東京在住の小説家。 大人の女性向けの恋愛小説を主に書いています。 主な執筆履歴&活動状況は「ya*info」(http://aoiyoshi.lovepop.jp/)にて公開中。 |
チェンジング・ビューティー【完】
2013.08.26
第1話 彩花と舞花(前編)
灰皿に吸い殻。脱ぎっぱなしのパジャマ。飲みかけのコーヒーに、香水の匂い。
さっきまでここに舞花がいた。そんな気配しか、この部屋には残っていない。
合い鍵で入った、妹の部屋の中で、彩花は立ち竦んでいた。薄いカーテンから入り込む光の中で、何度も妹の名を呼ぶ。返事はない。それでももう一度、と彩花は声を上げた。
「舞花! いないの? ねぇ、出てきてよ!」
1LDKの部屋で、隠れる場所もないことは知っている。だが彩花にはこれ以上、何のしようもなかった。
妹の舞花から最後の連絡があったのは、十月の中頃。今からちょうど、一週間ほど前のことだ。
「心配しないで」
店に来る客のこと。ネイルのデザインのこと。最近買ったバッグのこと。電話では舞花はいつも、そんな話ばかりするのが普通だった。なのにあの日、舞花はその一言だけを告げたのだ。そしてその後、連絡が取れなくなっている。
キャバクラ嬢をしている妹とは、一日に一回は必ず、何らかの形で連絡を取っていた。電話にメール、LINE……その全ての繋がりが、一週間前から途絶えている。
「どこに行ったのよ、舞花」
部屋の奥にあるベッドに腰掛け、彩花はため息をつく。このまま見つからないのであれば、警察に捜索願を出す必要もあるだろう。
だけど、舞花の最後の言葉が、頭から離れない。「心配しないで」とは、どういうことだろう? 「私がいなくなっても、心配しないで」ということなのだろうか? だとしたら、舞花が自ら姿を消した、ということになる。
でも、どうして? 何でいなくなる必要があるの?
答えは出そうにない。彩花はふと、ベッド横のチェストに目を向けた。ぬいぐるみに囲まれて、フォトスタンドが飾られている。その中にある写真。それは、彩花と舞花の両親が生きていた頃に、みんなで撮った写真だ。
この時、家族四人でハワイに行ったのだ。まだ中学生だった彩花と舞花は、色違いの水着を着て、同じ顔をして笑っている。
「本当にそっくり」
「見分けがつかない」
二人でいると、必ずそう言われた。一卵性双生児なのだから、当たり前。だけど、性格は全く違うのに。彩花は幼い頃から、そう思い続けていた。
静かに本を読んでいる彩花の横で、アイドルの真似をして歌って踊る舞花。ヘアアレンジと言えば、彩花は三つ編みか、ポニーテール。なのに舞花は、毎日コテで髪を巻いていた。舞花が次から次へと、ボーイフレンドを渡り歩いている時、彩花は受験勉強をしていた。全てにおいて、正反対の二人だった。
だが、父と母が死んでからは、お互いが唯一の家族だった。
あれは、高校一年の夏のこと。彩花と舞花の両親が交通事故に遭い、亡くなってしまった。それ以来、彩花と舞花は、お互いを支えるように生きてきた。
両親が遺してくれた貯金で生活する毎日。元々母の手伝いをよくしていた彩花は、食事や洗濯などの家事を担当していた。そして社交的だった舞花は、ファストフード店のアルバイトで、二人分の小遣いを稼いでいた。
そうして二年近くが過ぎた、高校三年の時。舞花が突然宣言したのだ。
「お姉ちゃん。あたし、高校を卒業したら、キャバ嬢になるから!」
それは、貯金が底を突き始め、彩花が大学進学を諦めようと思っていた時だった。
「お姉ちゃんは勉強が得意なんだから、ちゃんと大学に行った方がいいよ。お姉ちゃんの学費ぐらい、あたしが稼ぐからさ!」
自分と同じ顔をした妹が、言い放ったその言葉。姉としては心強くもあり、申し訳なくもあった。だが結局、彩花は舞花の言葉に甘えて、大学に進学することにしたのだ。
高校卒業後、舞花は実家を出て、一人暮らしを始めた。そして宣言通り、都内の繁華街でキャバクラ嬢となったのだ。
大きな店に勤務しているが、かなりの売れっ子らしい。彩花の学費はもちろん、生活費まで面倒を見ても、余りあるほど稼いでいた。彼女の周りには、その金で買ったブランド品で溢れているほどだ。
生き生きと働き、逞しく生きる妹。そんな舞花を、彩花は羨ましくもあり、妬ましくもあった。
家と大学の往復。それだけが、今の彩花の世界だった。
特に家は、両親が遺してくれたこともあり、彩花にとって大事な世界でもある。これを守ることが、自分の役目。そう思い、過ごしているうちに、外に遊びに出ることも殆どなくなっていた。大学の友達とも、あまり交流を持たずにいる。そして、二十歳だというのに、男性と付き合ったこともなかった。
写真を見ながら、彩花はため息をつく。神様の意地悪。双子なんだから、顔だけじゃなく、性格も同じにしてくれればよかったのに。
その時だった。突然、電子音が部屋に響いた。電話の着信音のようだが、彩花のスマートフォンの音ではない。どこから聞こえているのか。彩花は音を頼りに、リビングへと入る。中央に置かれたダイニングテーブルの上に、携帯電話があった。それが光を点滅させて、鳴り響いている。
彩花はそれを手に取り、開く。液晶画面には「店長」という文字が表示されている。「店長」? 誰? 受話ボタンを押す気にもなれず、ひたすら鳴り止むのを待った。
一分ほどで音が止まると、しばらくして、また鳴り出す。またもや「店長」からだ。悩んだものの、彩花は電話に出ることにした。
「もしもし」
彩花が小声で応答すると、いきなり男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、舞花! どこにいるんだよ!」
「あ、あの」
「うるせぇ! 無断欠勤なんかしやがって! さっさと店に来い!」
「あ、あの!」
彩花は何とか言葉の間に入り込み、大きな声を上げた。
「わ、私、舞花じゃないんです!」
「……じゃあ、あんた誰?」
「私は、舞花の姉の彩花です」
すると男は、数秒黙り込む。
「えっと……つまり、舞花の双子のお姉さんってこと?」
「は、はい。そうです」
彩花の返事を聞き、男は急に威勢を弱めた。
「あ、すいません。俺、てっきり舞花だと思っちゃって」
照れたような雰囲気を見せた後、男は自己紹介を始めた。自分は、舞花の勤めるキャバクラ『Bella Donna』の店長のであること。名は権藤。舞花と連絡が取れずに困っていること。
言い終えると、権藤は大きくため息をついた。
「お姉さん、舞花がどこにいるか、知らないっすか?」
「それが、私も連絡がつかなくって」
「そうですか。参ったな」
権藤は、消え入りそうな声で呟いた。
「あの、じゃあ今、お姉さんはどこにいるんです?」
「舞花の部屋です。合い鍵を持っているので、舞花がいないかどうか、見に来たんです」
「そっかぁ」
電話の向こう側から、トントン、と指でリズムを刻む音が聞こえる。
「お姉さん、悪いんだけどさ、うちの店に来てもらえないかな?」
突然の申し出に、彩花の心に驚きと疑問が湧き上がる。何故、自分が舞花の職場に行かなくてはならないのか。しかもその職場は、キャバクラだ。地味で消極的な自分には、全く無縁の場所なのに。
そんな彩花の不安を打ち消すように、権藤が言葉を強める。
「ちょっと話したいことがあるんです。舞花のことでね」
舞花のこと。その言葉に惹かれるように、彩花は思わず頷いていた。
「分かりました。今から伺います」
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第1話 彩花と舞花(後編)は9月2日(月)更新です。
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