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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>キャバ嬢NO.1>第3話 ユイカ(後編)
小説タイトル
イラスト:黒埼 狗

作者情報

森山まなみ
湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/

小説タイトルキャバ嬢NO.1【完】 更新日時2013.05.13

第3話 ユイカ(後編)

小説挿絵 ≪FANTASISTA≫のあるビルの1階には美味しい串焼き屋≪炭雲≫があって、かなりの頻度で同伴に使っていた。
同じビルだから移動がすぐてきて同伴にはもってこいなのだ。
「とりあえず乾杯~♪ お仕事お疲れさまでした」
「お疲れさん。乾杯」
待ち合わせは夕方の6時。今日の同伴相手は自由が丘で不動産店を経営している細野さん。
「お店まだ営業時間なのに大丈夫ですか?」
不動産店は夜の9時まで営業だった。
「店長がいれば大丈夫だから。社長なんていない方が仕事がはかどるってさ。ははは」
そう言って笑った。
生まれも育ちも自由が丘という2代目のボンボン。以前から≪FANTASISTA≫に通っていて、いわゆる店についてるお客さんだった。気前がいいから上客としてお店も大切している。
私が入店した時にたまたま指名嬢がいなかったので、フリーで付いて気にいられ、それ以来ずっと指名してくれている。連絡なしで気まぐれに≪FANTASISTA≫にやってくることも多くて、来店したときに指名の子がいないと嫌だからという理由で、基本的に専属のしかも週6出ているキャストしか指名嬢に選ばないらしい。
こんなところに毎日出勤のメリットがあったなんて驚いたけど、ラッキーだった。
「今日はここ≪炭雲≫なんて手近なところでゴメンなさい。出勤が少ないから早めに出て来てって担当に言われてて……」
「僕、ここ好きだからいいけど、安いところで逆に申し訳ないな~。高級料理を食べさせるのが生きがいなのに」
自由が丘には飲食店がひしめいているから、同伴の食事には困らない。いつも細野さんにはあちこち美味しいお店に連れていってもらっていた。
「本当にいつも美味しくてビックリですよ~。先週の天ぷらも最高でした! カウンターで天ぷら食べたの初めてだったし、感動の美味しさでしたもん」
目の前で板前さんが揚げてくれた天ぷらを食べるという、なんとも贅沢な経験をさせてもらったのだ。
「天ぷらはあそこのしか食べないんだ。あそこの板長さんと僕の親父が幼馴染みでさ。昔から付き合いがある店。自由が丘にはそんな店が多いかな~」
さりげない自慢話を聞きつつ、食事をして8時前には≪FANTASISTA≫に上がった。
出勤が少ないというのは建前で、実は別の指名客の来店予定が重なっていたのだ。

「お待ちしておりました! 細野さま」
フルヤさんと付け回しの黒服が出迎えてくれる。細野さんは指定席みたいになってるお気に入りの奥の角席に案内された。
着替えに向かう私にフルヤさんが聞く。
「今日の来店予定は?」
「9時ごろ結木さんが2名さまです」
来店前に連絡をくれたお客さんを伝えると、フルヤさんホールを親指で指して言った。
「じゃあ、あれは予定外か」
細野さんの席からは死角になって見えない席にお客様を案内してくれていた。指名のお客さん同士が顔を合わせないように気を遣ってくれる。こういう気配りができない黒服が担当だと相当仕事がやりにくいだろうなと思う。アラキさんといい、フルヤさんといい、私は本当に恵まれている。
そんなことを思いながら指差された席を見ると、2人の人影が見えた。
「キタガワさん?!」
私に気付いたキタガワさんが手をひらひらと振ってくれた。そして隣の人の頭をグイっと押しだして私に見えるようにしてくれた。
「……タカオ? 」

超特急で着替えて席に着く。
「ど、どうしたんですか? どうしてここに?」
≪Club rich≫は営業してるはず……。しかも2人が連れだって来るなんて。
「まあまあ、まずは乾杯しよう」
「あ、はい」
自分の分のお茶割を作ってグラスを持ち上げると、キタガワさんが音頭を取った。
「久しぶりの再会に乾杯♪」
「乾杯」
「お疲れさまです。乾杯」
別れてから初めて顔を合わしたタカオは、なんだかバツの悪そうな顔をしている。言葉を出せないでいる私たちにキタガワさんが言った。
「フルヤくんにヒナタの様子を聞いたら、”見に来くれば?“ってそそのかされてな。まんまと指名で参上だよ。1人じゃなんだからコイツも引っ張ってきた。お前のこと心配してたからさ」
ウザイくらいのチャラ男キャラのタカオなのに今日は全く勢いがない。
「ごめん、付いて来て。オレの顔なんか見たくなかったよな?」
「……そんなことないよ。元気そうで良かった」
ちょっとびっくりはしたけど、2人の顔を見て嬉しかったのも本当だった。
「≪Club rich≫とは違うことも多くて戸惑ったりするけど、なんとかやってます。お店で友達もできたし。あ! お店のみんなは元気ですか? 」
「ああ、変わりない。アラキがよろしくって。カオリなんてパワーアップしてて怖いくらいだ。あんまりギャルギャルしくしてくれるなって言ってんだけど」
苦笑しながらスマホの画像を見せてくれた。
「あはは、ほんとだ。ますます派手になりましたね」
店で一番仲の良かったカオリ。ときどきメールをするけど顔を見るのは久しぶりだった。
「カオリも来たがってたんだけど、今日は店あるしな。休みの日にナオさんと来るってさ」
「ナオさん! 相変わらず毎週同伴ですか? うわ~、会いたいです」
仲間やお客さんの名前を聞いて懐かしさがこみあげる。
「そのうち連絡がくるだろうけど、よろしくな」
「はい!」
盛り上がる私たちとは対照的に静かなタカオ。ひたすらウーロン茶を飲んでいる。
「あれ? タカオ飲まないの?」
「オレ、運転手だから。キタガワさん自分が飲みたくてオレを連れてきたっすね?」
「当たり前だろ~。キャバ来んのに酒飲めないなんてありえないからな」
「ひでえっす」
2人のやりとりも変わらなくて楽しい。見てるだけで元気をもらえる気がした。
「あはは、車だったんだ。それじゃ仕方ないね~」
「ま、運転もだけど、コイツ最近スランプだからさ。ヒナタと別れて以来、さっぱりイイ女連れて来ないんだよな~」
「キタガワさん、それは言わない約束っすよ!」
タカオの慌てぶりったらない。
「別れた恋人の前でもカッコつけたいのか?」
「当然っす」
憮然とするタカオにキタガワさんが謝る。
「悪い悪い。ヒナタの前では特に、だろ? 未練タラタラだもんな」
「キタガワさん!」
タカオが赤くなって怒ってるのに驚いた。もしかしてまだ想ってくれてるんだろうか?
「……恋人には戻れないけど、気分転換には付き合うよ。ぱーっとやろう!」
「しゃーねーな。タカオ、飲め! ヒナタ、オレにコーラくれ。帰りはオレが運転する」
「いいんすか?」
「男に二言はねえ。飲め!」
腕を組んで威張るキタガワさんに拍手した。
「さっすが、キタガワさん。カッコイイ~」
「じゃあ、シャンパンで! ヒナ、ドンペリ! ピンクで♪」
ノってきたタカオにキタガワさんがキレる。すぐ悪ノリするのがタカオの欠点だ。
「バカやろう! カフェパで十分だ。ピンクがいいならフランボワーズあたりでも頼んどけ!」
「え~、キタガワさんセコイっす~」
「……支払い自腹だぞ。なんなら割り勘にすっか?」
「カフェパで! ゴチっす!!」
こんな2人のやりとりが大好きだったから、おかしくて大笑いしてしまう。
「あはははは! ライチにしよ? 私カフェパのライチ大好き♪」
「おう! じゃあ、フランボワーズとライチ2本で」
「やった~♪ お願いしま~す!」
楽しくて、ついボーイを呼ぶ声も大きくなってしまった。


「南さん、B’z歌ってくださいね♪ 入れますよ~」
「じゃあ、アンとユイカちゃんでAKBな。エビカチュで♪」
「はーい♪」
アフターでカラオケに来ていた。アン指名の南さんはいつも場内指名を入れてくれるから、なるべくアフターにも付き合うようにしてる。
アンは≪FANTASISTA≫のクールビューティーなNO.2で、同じフルヤ班。マイペースなところとか気が合って仲良くなった。ナンバー争いには興味がないけど、毎日出ているおかげもあって、私もいつの間にかNO.3にまで上がっていた。


指名の席に着くなりお客さんが言う。
「アンちゃんも席に呼べば?」
「良いんですか?」
「だって仲良しコンビでしょ。いつもアフターつきあってもらうしね」
「ありがとうございます」
お互いの指名客で場内指名をもらいあう。場内指名の料金は2千円。相乗効果で売り上げアップを狙う。
NO.2とNO.3がつるんで料金を上げるなんてセコイ。そう嫌味を言う人もいるけど、仲の良いキャスト同士で助け合って成績を伸ばすのはフルヤさんの作戦だった。
同伴やアフターにも付き合うことが多いけど、特にアフターではお客さんと2人きりになるのはリスクもあるから、コンビで動くのは何かと都合が良かった。
最初はフルヤさんの指示でもあったけど、今や私たちは納得して助け合っていた。


アフターのない日はよくいっしょに食事や飲みにも行くようになった。
フルヤさんと3人でのミーティングだったり、アンと2人だったり、送りでまっすぐ帰ることが少なくなっていた。
「ミントン行く? SOU行く?」
アンに聞かれて考える。このごろは行きつけの定番がいくつか決まっていて、2人で行くところは静かなバーが多かった。
ちなみにフルヤさんとの定番は笑笑だったりするけど。ミーティングは担当のおごりだから格安居酒屋でもしょうがないし、ミーティングのあとは送ってもらえるから文句は言わないことにした。

「このごろやりにくくない?」
バーのカウンターに着くなりアンが言った。
「どういうこと? 」
「新しく入ってくる子たちの雰囲気がさ、うちとは合ってないっていうか……。歌舞伎町の系列から来た黒服のやり方も気にいらないし」
アンの言うように、このごろ入店してくるキャストはギャル系だったり、オラオラ系だったりと今まで≪FANTASISTA≫にはいなかったタイプばかりだった。上品で落ち着いた雰囲気が特徴の≪FANTASISTA≫には確かに合ってない。
「ん~、他の子の悪口は言いたくないけど、無理やりドリンクもらうのとかはどうかなって思う。黒服って、ツジさんだっけ? あんまり良い噂は聞かないってフルヤさんも言ってたけど……」
「前の店でキャストに手を出して、自由が丘に飛ばされたって」
「え?! そうなの?」
キャストは商品だから、手を出すなんてありえない。店内恋愛禁止って教え込まれてるはずなのに、実際はデキちゃうカップルも少なくなかった。
どうしてもいっしょにいる時間が多いし、恋愛感情が生まれることも不可抗力かなとも思う。私もキタガワさんに好意を抱いたし……。
「しかも1人じゃないらしくて」
「うわ、最悪! 本気なら許してあげてもいいかなって思うけど、色恋管理なんて最低最悪じゃん」
アンも心底嫌そうな顔をして頷いた。
「問題アリなキャストはツジ班が多くない?」
言われて初めて気付く。
「……そうかも」
「そのツジ班に来ないかって」
「誰が?」
「わたしが」
「アンがツジ班に?! 冗談でしょ? 勝手に担当替えなんて無理だし」
担当をキャストの好きで変えることは普通できない。でも、ナンバークラスのワガママなら……。
「……まさか行かないよね?」
「行くわけない」
アンの答えを聞いてホッとしたのも一瞬、次の言葉で私は絶句した。
「わたしが断ったから、今度はNO.3獲得に動くかも」
「NO.3って……」
「ユイカ、あなたじゃない」

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第4話 洗礼とジンライム(前編) は5月20日公開予定です。

■注意■

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