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2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.08.05
第9話 LOVE or LIKE(後編)
「前の彼には騙されてたから……。恋愛が怖いんだよね。だから次はもっと時間かけて、お互いをよく知ってからがいいと思ってる」
色恋での営業はしてなくても、お客さんの方から迫られることはよくあることで、私のお断りの言葉はだいたい決まっていた。可ではないけど、不可でもなく……という、微妙なスタンス。ズルイとも言える返事だけど、実のところ本心でもあった。
「お客さんと恋愛するのはまだ怖いけど、完全NGじゃない。相手が誰にせよ、じっくり知って見極めたいの」
「まどろっこしくない? いーじゃん見切り発車で。付き合っていくうちに知ればいいってオレは思うんだけど」
相変わらず通ってきて、口説き続けてるヤマト。本業のホストはどうなってるのかといつも不思議だった。
「今日はこれから出勤なんでしょ? 時間大丈夫なの?」
「話をはぐらかすなよ~」
仕事がある日は7時オープンと同時に入店して、1セットだけで帰っていく。六本木にあるホストクラブ≪home sweet home≫には9時出勤らしい。
「それにね、時間をかけて見極めるっつーんなら、オレ、ユイカのことずっと知ってたよ。自由が丘にいるときから」
寝耳に水の発言に頭が混乱する。
「は?!」
自由が丘から知ってるなんて、≪FANTASISTA≫に来てたってことなんだろうか? 当時のお客さんを思い返してみるけど、全然ヤマトらしき人は出てこない。
「しっかし、ユイカがキャバ嬢を続けてるのは誤算だったな。すぐギブアップすると思ってたのに」
「やっぱり≪FANTASISTA≫に来てたの?!」
「おー、指名してないけどな。オレはシマに付き合わされて行ってただけだから。ユイカが自由が丘に来る前から通ってたんだぞ」
シマくんのお供ということは、ミヅキちゃん指名の席だったんだろう。自分がついてない席だから覚えてないのも当然だった。
「なんで最初に言ってくれないの? 私だけがヤマトとは知り合ったばかりだと思ってたから温度差があったんだ。あ~、ちょっと納得した。ヤマトのその馴れ馴れしさに」
「馴れ馴れしいとは失礼な。ま、一方的に知ってるのも楽しかったんだけど。まぁ、つまりはユイカはオレさまに認められたということだ」
偉そうにいうヤマトだけど、無理に迫ってこないことだけは良いヤツと思っていた。
「はいはい。光栄ですよ。でもだからってまだその気になれないですから。あしからず」
自分の恋愛を解禁するのは、NO.1になってから。そう決めていたのだ。
「今月はアンが1位だったの! 上位5人は本当に毎月僅差でね。私もあとちょっとだったんだ。悔しかった~」
歌舞伎町に来てから半年で私たちはここまで駆け上がってきた。毎日めちゃめちゃハードだけど、一生懸命に生きている実感をビシバシと感じる毎日だった。
「ほうほう、それはなかなかじゃん。ま、オレは1ヶ月でNO.1になったけどね」
「ホストといっしょにしないで」
ツン! と、ソッポを向いてやった。こんなヤマトでも≪home sweet home≫のNO.1だと知ったときには心臓が飛び出るくらいびっくりした。ヘラヘラ適当そうな態度でスーパーヘルプだとばかり思っていたから。
ずっと自由が丘から見てきてくれてるヤマトの目には、私はどんなキャバ嬢に映ってるんだろうか。
NO.1の器はあるんだろうか?
それはまだ怖くて聞けていなかった。
☆★☆
事件は≪home sweet home≫で起こった。
行かないと宣言はしていたけど、ミヅキちゃんに誘われて≪club de bloom≫の定休日にやってきた。
「ご指名ございますか?」
「いちおうヤマトで」
「なんだよ、“いちおう”って!」
ホール手前のキャッシャーの後ろからヤマトが飛び出て来て言った。
「きゃあ! やだ、なんでそんなとこにいるのよ」
「うるせー。どこにいようがオレの勝手だ」
ふんぞり反って威張るヤマトにミヅキちゃんが笑う。
「本当に2人とも仲良いね~」
「え~、どこが? ヤマトの相手するのぶっちゃけ疲れるよ~。あのテンションだもん」
「ん~、でも羨ましい」
私とミヅキちゃんの席には、ヤマトとヘルプの子が入っていた。ミヅキちゃんが指名したシマくんはなかなか来ない。
「ヤマトくんはユイカちゃんのこと大切にしてくれてるじゃん。そういうのこっちにも伝わるよ。だから……」
そこまで言うと顔がみるみる赤くなって、今にも泣きそうになる。
「ミヅキちゃん?」
目から涙が溢れてきた。
「ご、ごめん……」
謝りながら席を離れたミヅキちゃんはトイレに駆け込む。心配になって追いかけると、個室の中で嗚咽を上げて泣いていた。
「うっ、うっ…」
ミヅキちゃんの押し殺した泣き声に、どう声を掛けていいか分らずに席に戻る。
「ミヅキちゃん、シマとうまくいってねーんだ」
「そうなの?」
「アイツは典型的なオラニャン営業だろ? でも付き合いが長くなるとだんだん見抜かれてくるじゃん? シマはミヅキちゃんを持て余してきてるんだよ。でもって今のシマのエースはめちゃめちゃヤキモチでさ。他の女んとこは全然いけねーわけ」
ヤマトから話を聞いてると、ミヅキちゃんが戻ってきた。泣きやんではいるが、目はまだ赤いままだ。
「好きな人と一緒にいるだけで幸せだと思ってた。あたしはシマくんが好き。でも、最近は辛いばっかりで……。いつ切られるか不安でしょうがなかったんだ」
ちっとも来ないシマくんをミヅキちゃんはこんなにも想っていた。
「けっきょくホストにとってお客は都合のいい女でしかないんだよね。分かってるだけどね」
「ミヅキちゃん……」
「だから、ヤマトくんにすごく愛されてるユイカが羨ましかったんだ」
私の気持ちはどうあれ、ホストのヤマトに迫られてることが知らず知らずのうちにミヅキちゃんを苦しめてたなんて。
もうヤマトを拒否する言葉も出せなかった。ただ、ミヅキちゃんの肩を優しく抱くしかできない。
「ごめんね。勝手に羨ましがって。都合のいい女扱いにさせちゃった自分のせいなのにね。シマくんにハマった自分が間違いなんだよ。本音でぶつかることもできない相手に本気になるなんて。もうこんな自分嫌だ……」
他にも指名が重なってるはずなのに、ヤマトは席をずっと離れずにいた。ヘルプくんと2人で真面目な顔して聞いていた。
「認めたくなかったけど、シマくんはあたしのことなんてちっとも好きじゃない。だから、もう止めるの。今日もしシマくんがすぐに席に来てくれなかったら、ホスト遊びはおしまいにするって決めてたんだ。ごめんね、ヤマトくん。あたし、もう来ないよ」
シマくんのことを責めるでもなく、そう言ったミヅキちゃんの決断を、ヤマトは静かに受け止めた。
「いいさ、シマが悪い。何年も支えてくれたミヅキちゃんをないがしろにした罰だよ」
「もう来ないことを決めたけど、顔を見たらまた流されるかもしれないから、見送りはいらないから。シマくんには知らせないで」
「分かった。でもオレだけには送らせてよ」
「うん」
ビルの前でミヅキちゃんはシマくんにメールを送った。最後のお別れだった。
「メールでお終いなんて、曖昧なあたしたちの関係にはピッタリだよね」
泣き笑いしながらミヅキちゃんは言った。
☆★☆
ミヅキちゃんのことがあって、ヤマトとの曖昧な関係もケリをつけたほうがいいのかと思いつつ、そのまま変わらないでいた。そもそもヤマトはホストではあるけれど、出会い方も付き合い方も違う。
私に求めることをしないヤマトのスタンスはありがたくはあったけれど、同時に申し訳なくも思った。ただ1つ、ヤマトが欲しがっているLOVEの気持ちをあげられない。ヤマトへの気持ちはLIKEだと私は気付いてしまったのだ。
戦友である稲峰さんに近い形の好意をヤマトにも持っていた。
たぶんヤマトも分かっていて、それでも≪club de bloom≫に来てくれている。相変わらずミヅキちゃんも場内指名で呼び、2人とも笑顔でいた。シマくんのことは誰も何も言わなかったけど、きっとふっ切ったということを信じて。
お客さんの数や質には満足していたけど、現状維持をヨシとはしていなかった。
毎月NO.1が入れ替わるほどの激戦で、NO.2、NO.3、NO.4、NO.5と全ての順位を経験した。ただ、NO.1にだけは、まだなっていない。疲れはピークでも、立ち止まることなんてできない。毎日の胃薬が手放せないほど、胃痛を感じていても辞めることなんてできなかった。
「うー、イタ……。イテテ……」
「ユイカ、大丈夫?」
胃薬はだんだんと効かなくなっていた。痛み止めや漢方などすがれるものは何でもすがって、体に鞭打って動かす。
「……ダメみたい。薬のむ」
痛み止めを飲もうと待機席を立ったとき、激痛が走ってアンの腕の中で倒れてしまった。
「ユイカ?!」
「ユイカさん!」
アンやミヅキちゃんやフルヤさんの声が遠くに聞こえた。
意識が遠のいてどれくらい経ったんだろう。次に気付いたときには、病院のベッドにいた。
「けっこう我慢してましたねー。我慢強いのはスゴイんですが、胃に穴が開く前に来てくださいよ」
苦笑しながら注意されてしまう。ドクターの診断は急性胃腸炎と胃潰瘍だった。
「そーなの?! ユイカ。どうしてそんなに我慢するのよ!」
ベットに横たわり、心配そうに顔を覗き見るアンとフルヤさんに聞かれて申し訳ない気持ちにでいっぱいなる。
「痛み止めで我慢できたから…。大丈夫だと思って。そのうち治まるかなって」
「バカっ! そういうのは我慢しなくていいの!」
「ごめん。ごめんなさい……」
小さくなって謝ってもアンの怒りは収まらない。アンをなだめてフルヤさんが言った。
「ユイカ、頑張ってくれるのは嬉しいけど、ぶっ倒れたらよけいに迷惑がかかるだろ? それにこの仕事は体が資本だ。この先ずっと引きずることになったらどうするんだよ」
「そうよ、バカユイカ」
さらに悲しそうにフルヤさんは続けた。
「期待したオレの責任でもあるが、こんなになるまで無理はしないでくれ……」
手を握り懇願されて、私の中の何かが動いた。
入院は1週間に及び、絶食の点滴治療が続いた。
毎日フルヤさんからメールが届き、お客さんやお店の様子を知らせてくれている。
『ユイカの入院を知らずにご来店いただいたお客さんはアンに回したから安心しててくれ』
気遣いのメールに喜びつつ、病院の窓から歌舞伎町の空に上がる月を見上げた。
「みんな頑張ってくれてる。私も早く体を治して元気な姿を見せなくっちゃ」
退院後も変わらずにサポートが続き、休むことに後ろめたさを感じつつも安心して静養ができた。
毎日のメールだけじゃなくて、営業時間以外はアンと交代でつきっきりで看病をしてくれたのだ。
支えてくれる人がいる喜びを病気になって初めて知ることができた。
フルヤさんのことを想うと、甘酸っぱい気持ちが胸の奥にじんわりと広がっていく。
フルヤさんだけじゃなくて、アンやミヅキちゃん、ヤマト、稲峰さん、たくさんのお客さんからたくさんの気持ちがや遣いをもらっていた。
本当は1人1人にお返事をしたいところだったけれど、病後の静養を優先した。
『これからもよろしくお願いします』
たったこれだけのシンプルな返信メールだけど、気持ちを込めて1人1人に送る。復活したら、詳しい経過を知らせるのも良いかと思った。
自分が倒れたことで、逆に感謝の気持ちが広がり、みんなが与えてくれる好意と愛情を分かった気がした。
私もちゃんとみんなに返していかなくちゃと、ベッドの上で誓ったのだった。
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第10話 花も嵐も(前編) は8月12日公開予定です。
イイネ!
13人がイイネ!と言っています。
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