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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>キャバ嬢NO.1>第7話 不夜城(後編)
小説タイトル
イラスト:黒埼 狗

作者情報

森山まなみ
湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/

小説タイトルキャバ嬢NO.1【完】 更新日時2013.07.08

第7話 不夜城(後編)

小説挿絵 空を切り裂いて浸食しているみたいに見える超高層ビルを眺めていた。
14階のベランダから見る新宿の街は、田舎者の私にとって都会の象徴だった。憧れと同時に恐怖を感じる都会のど真ん中、しかも夜の歌舞伎町で働くことになるなんて、キャバ嬢デビューしたときには想像もしてなかったのに。
「とうとう明日からね」
「うん。アン、起きてたの?」
ベランダに出てきたアンの手にはコーヒーカップが2つ。
「はい」
1つを手渡してくれた。
「ありがと。早いよね。準備期間の半月があっという間だったもん」
引越してからの2週間は、引きこもりからのリハビリとばかりに毎日動き回っていた。
復帰に向けてヘアサロンやネイルサロン、ドレスや店内で使うリストバッグも新しくして気分一新。
「髪、似合うわ。ボブなんて新鮮ね」
キャバ嬢デビュー当時はボブだったけれど、それ以降は巻きやすいようにとずっとセミロングだった。
「初心に戻ってみました♪ 高級店だからボブでもありかなって」
「それ、カットだけ? すごくエレガントに仕上がってるわ」
「カットだけなんだよ。びっくりでしょ? すごいテクだよね。同じボブでも地元のサロンとは大違いでホント驚いたもん。銀座まで行ってきたんだ~」
「気合い入ってるじゃない」
「アンと歌舞伎町で頑張るって決めたからね」

☆★☆
招待客だけのプレオープンを前日に控え、午後からオールミーティングが開かれることになっていた。≪club de bloom≫で働く全てのキャストと従業員が揃っての初顔合わせ。モリナガさん以外のスタッフをほとんど知らないし、担当黒服が誰になるのかも今日やっと知らされる。
「担当さん優秀な人だといいね。歌舞伎町のこといろいろ教えてもらわなくちゃだし」
「そうね。使えない黒服が担当じゃ悲劇だわ」
「あはは、悲劇! まさに~」
笑いながら私たちは2階にある≪club de bloom≫の裏ゲートをくぐった。
「おはようございます。アンさん、ユイカさん」
モリナガさんと黒スーツの女性が名簿を持って立っていた。
≪club de bloom≫にはビル正面の入口だけじゃなく、スタッフとVIP専用の裏口があった。誰にも見られずに店内へ入りたいという特別なVIP客、主に芸能人などの有名人のための入口で、他のお客さんにも姿を見られることなく2階のVIPルームまで行けるのだった。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。引越しは落ち着きましたか?」
アンはほんの3日前に越してきて、一昨日の夜、つまり昨日の朝まで≪FANTASISTA≫で働いていた。自由が丘店最終日は≪FANTASISTA≫での最高売り上げを更新したらしい。
「はい。おかげさまで。昨日は一日休みをいただけたので」
「そうですか。よかったです。寮で困ったことがあったら何でも言ってくださいね」
「ありがとうございます」
「では、全員が揃うまで1階のフロアでお待ちください」

ミーティング開始の30分も前だからか、キャストの姿は2-3人しかいない。従業員はほとんど揃っているようだった。
「やっぱり早すぎたんじゃない?」
「ふふ、いいのよ。久々の再会のために早く来たんだから」
「え?」
アンに聞き直そうとした直後、馴染みのある声で呼ばれる。
「ユイカ!」
振り返るとそこには、フルヤさんとミヅキちゃんがいた。
「ええっ、ど、どうして?!」
「は、は、は。実はオレも移籍組だったのだ。副店長のフルヤです」
名刺を受けとって見ると、確かに≪club de bloom≫副店長の肩書が印刷してあった。
「うわ! 昇進? 歌舞伎町なら栄転じゃないですか~?!」
「まあな。売り上げ新記録を作ったアンとユイカの担当なんだから当然といえば当然の出世だろ」
腕を組んで満悦の表情のフルヤさん。
「相変わらず偉そうですね。自信過剰は事故のもとですよ」
あんまり自信満々だから、つい意地悪を言いたくなってしまう。
「うわ、縁起でもないこと言うな~、お前。久しぶりに会ったのに」
「あはは。ユイカちゃん、ご無沙汰。元気そうだね~」
隣のミヅキちゃんが笑って手を振る。
「ミヅキちゃん! 会えて嬉しい~」
「あたしも~。自由が丘からのメンバーが4人もいて心強いよね。がんばろうね~」
「ちなみに担当は3人ともオレさまだ。歌舞伎町でもぶちかますぞ!」
フルヤさんは私たち3人にグータッチをして、踵を返した。
「じゃ、また後でな! 始まるまで適当に座って待ってろよ。ウーロン茶でもボーイに運ばせるから」
ボーイに指示してるフルヤさんの後ろ姿を見ながら言う。
「ぶちかますなんて、オレさま発言しちゃって、もー」
「ああやって気合い入れてるのよ。自分に。プレッシャーが半端ないんだと思うわ」
アンの冷静な分析にミヅキちゃんが続けた。
「フルヤさん、≪FANTASISTA≫のみんなにもビッグになって帰ってくるって言ってたみたい。そうコハマくんが……」
確かコハマくんは≪FANTASISTA≫の黒服のはず。
「んん?」
「ミヅキちゃんとコハマくんは同級生なのよね」
2人の関係を不思議に思っていることを見透かしたようにアンが答えた。
「あたしたち緑が丘が地元で、コハマくんに誘われて≪FANTASISTA≫に入ったから」
「そうだったんだ」
「軽い気持ちでバイト始めたら、上がれなくなっちゃって~。専属になっちゃいました」
最初は軽い気持ちだったかもしれないけど、NO.5にまで登ったミヅキちゃんはなかなかの実力者で、歌舞伎町店へ移籍は納得だった。
「こんな高級店で働けるのは光栄だけど、力つけたら自由が丘に戻りたいな~なんて」
「そうね。そういう選択もアリだと思うわ。なにより目標を持つことが大事だもの」
ミヅキちゃんとアンには目標がある。私は……? 自分が目指すものについて思いをめぐらしていると、フロアの反対側から視線を感じた。そこには考えてもみなかった顔があった。
「……ヒトミちゃん、リカちゃん?」
ツジさんといっしょに渋谷店に移った2人がいた。私の呟きにアンが視線の先を見やった。
「彼女たちが渋谷からの選抜ってわけね。やり方はどうあれ売り上げはあるってことだわ」
≪FANTASISTA≫から≪club de bloom≫での再会と因縁めいたものを感じつつも、歌舞伎町はレベルも規模も違う。お互いしばらくは自分たちの態勢を整えるだけでも大変なはず。
「気にしてもしかたがないわ。こんなところでしがらみに囚われている場合じゃないもの」
一番の被害を受けたアンが強くいるのに、私が惑っていちゃいけない。
「そ、そうだよね! 私たちは私たちだもの」
黒服の中にツジさんがいなかったことがせめてもの救いだった。

歌舞伎町最大を売りにした新店≪club de bloom≫は、あちこちの有名店から人気嬢を引き抜いていた。箱の大きさや内装のゴージャスさ、在籍するキャバ嬢のレベルでオープン前から噂になっていたらしい。
非日常的な時間を過ごすことができる贅沢な空間を提供するために、≪club de bloom≫のキャストは60名、さらに従業員は20名という大所帯だった。黒服やボーイだけでなく、レセプションとキャッシャーには女性スタッフ、専属シェフにソムリエまでいた。
ミーティングではキャストとスタッフ紹介だけで1時間近くかかり、≪club de bloom≫のコンセプトやポリシー、システムなどの説明などは2時間に及んだ。
さらに全体ミーティング後には班に分かれてのミーティグも。
「副店長のフルヤです! 歌舞伎町では新参者ですが、せいいっぱいキャストのみなさんを支えたいと思っています。いっしょに≪club de bloom≫を盛り上げていきましょう!!」
熱い決意表明を聞いているフルヤ班は10名。私たち自由が丘組3人以外のキャストも全員がキャバ嬢経験者で、都内のあちこちから集まっていた。
「明日明後日のプレオープンは小手調べだが、いろいろ感じてもらってほしい。本当の勝負は来週の正式オープンからになるだろう。個別のミーティングはその後に順次したいと思っているが、早めがいいなら時間を作るから言ってくれ」
カッコつけて話すフルヤさんを見ると笑ってしまいそうになった。我慢して班ミーティング終わりまでこなし、1時間ほどで解散した。


☆★☆
「再集結を祝って乾杯したいんですって」
アンとミヅキちゃんと3人で≪club de bloom≫を出たところで、メールを見でアンが言った。
「あ、フルヤさんですね。聞いてます~」
ミヅキちゃんが思い出したように頷く。
「わ、いいね~♪ 祝いたい、祝いたい」
久しぶりに会えた喜びを伝えたい気持ちはもちろんあったけれど、それよりも立ち直った姿を見せたい。迷惑をかけたことを謝りたかった。

フルヤさんの帰りをカフェで待って、私たちは焼肉で再会を祝うことにして叙々苑へ。
「それにしてもすごいメンバーばかりで目の保養になった~」
オールミーティングでは、正統派美人はもちろん可愛さや色っぽさ、妖艶などさまざまな魅力の溢れるキャストが一堂に会していた。
「系列店だけじゃなくて歌舞伎町の名だたる有名キャバ嬢が入店してきてるもの」
「お、さすがアン。その通りだ。歌舞伎町一の超高級店を目指してるからには、キャストもそれなりのメンツを揃えなくちゃだからな。うちのスカウト部門もやるだろ?」
「ええ、雑誌で見かけるような人気嬢が勢ぞろいしてましたね。さぞかしお金がかかったでしょうね」
「まあな。移籍金と支度金だけでも大枚はたいてるからな。日給保証もウン万単位だし、がっつり客呼んでもらわなくちゃ大赤字だ」
凝りに凝りまくったゴージャスな内装の≪club de bloom≫に相応しいキャストが集結していて、特に有名なキャストが6人いるとのこと。
元≪Supernova≫ノア。キャバ嬢デビュー半年でNO.1になり、それ以後もずっと不動のNO.1
元≪Go≫アキラ。上野から歌舞伎町に移籍して1年で売上新記録達成。
元≪CHERRY≫ナツキ。ファッション誌の人気読者モデルから専属モデルに。
元≪club漸≫シオリ。クラブ漸の雇われママ。キャリア10年で数々の伝説を持つ。
元≪MAXIMUM≫ティナ。ハワイからの帰国子女で日系2世のハーフ美女。
元≪ガールズバーShake&Shake≫モモカ。童顔のロリータ姫。
タイプは違えど全員が各店のNO.1やそれに次ぐような人気の持ち主だった。想像以上のメンバーに、聞いてて武者震いがした。
「簡単じゃない世界で、こんだけ売れるってことは本物だ。歌舞伎町には金のために人を陥れることも平気なヤツが多い。だけど、目先の利益に囚われたヤツは生き残れない。夜の世界って言ったって、最後は人だ。信頼関係だ」
ビールジョッキを片手にまた熱弁をふるうフルヤさん。暑苦しいけど、頼もしくも感じた。
自分なんかがいてもいいのか? って思うようなスゴイ店でも、私にはちゃんと導いてくれる強い味方がいる。アンとフルヤさん、ミヅキちゃん、そして≪FANTASISTA≫で指名してもらっていたお客さんたち。
2ヶ月にも伸びた長期休暇の末に店を移ることになり、お客さんには不義理をしてしまったのに、たくさんの人が変わらずに応援してくれると言ってくれた。
今までのお礼と移籍の挨拶を送ってからは、≪club de bloom≫オープン前にも関わらず会いに来てくれて、食事や飲みに連れて行ってもらった。そのとき歌舞伎町のキャバクラにも連れてってもらったけど、正直一度や二度じゃ歌舞伎町の作法など全然わからない。≪club de bloom≫では自分なりにやってみるしかないと開き直った。

☆★☆
プレオープン初日は6時開店と早めなのに、招待客には関係ないのかと思うくらい大盛況だった。開店直後には入りきれないお客さんが並ぶほどで、そのあとも閉店までずっと満席のまま、ロビーやカウンターで待つお客さんの姿もあった。
ドキドキしながら待機していたのも開店前だけで、ひっきりなしに来店するお客さんに休む暇もなくずっと席についていた。
「お久しぶりです、細野さん! ご来店ありがとうございます。マンションせっかく紹介していただいたのに引越すことになってしまって……」
アンと2人で細野さんに謝った。自由が丘で不動産屋を営む細野さんなのに、平日にも関わらず歌舞伎町まで足を運んでくれた。
「ちょうどいい寮があったんだろ? そっちの方がいいよ。近い方がいい。気にしないでよ。また帰ってきたらいい部屋探してあげるから」
≪club de bloom≫の高級感に細野さんは上機嫌。豊かな2代目ボンボンは自然と高級なものを求めるのかもしれない。バーカウンター、プライベートサロン、ワインセラーなど店内の圧倒的に豪華な設備を見て回り、≪club de bloom≫をすっかり気にいってくれたようだった。
「また来るよ。今度は友達とVIP席を使わせてもらうから」
油断も隙もなくて、人を出し抜くことを生きがいにしてるキャストがいても、私は負けない。負けたくない。得るものが多くても、きっと失うものも同じくらいありそうな歌舞伎町の真ん中で、私は生き抜いていくんだ。


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第8話 sweet pain(前編) は7月16日公開予定です。

■注意■

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