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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>キャバ嬢NO.1>第2話 嬢デビュー(後編)
小説タイトル
イラスト:黒埼 狗

作者情報

森山まなみ
湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/

小説タイトルキャバ嬢NO.1【完】 更新日時2013.04.29

第2話 嬢デビュー(後編)

小説挿絵 就職を機に、私はキャバ嬢も卒業した。
短大の保育課を卒業し、夢だった保育士になった私。さすがに仕事とキャバの2足わらじは無理だし、貯金もできたから、自然と退店という流れになった。
「2年間お疲れさん。いい仕事ぶりだった。ありがとう」
「私こそありがとうございました。お世話になりました。おかげで学費も生活費も十分に賄えました」
短大の学費から家へ入れる生活費、弟や妹たちへのお小遣い分まで稼ぎ、余った分は貯金に回す余裕まであった。
「かなり頑張ってくれたもんな」
「貯金もばっちりです!」
ピースサインで報告する。
「ははは、さすがヒナタだ。しっかりしてる」
キタガワさん始め、お店のみんなも卒業と就職を祝ってくれた。
「辞めちゃうの寂しいけど、新しい門出だもんね……。最後はシャンパンタワーで見送るからね!」
「ええ~?! 本当に?」
私のラストのイベントは、カオリが従業員と協力してプロデュースをしてくれた。お客さんに頼んで本当にドンペリのシャンパンタワーを作ってくれたのだ。
誕生日イベントにも出してもらったことがなかったシャンパンタワー。キラキラと光るタワーはキレイで感動した。キャバ嬢として最後を飾るに相応しい夜になった気がした。

営業後は朝まで営業のバーに場所を変えて、従業員やカオリたち仲の良かった女の子との追い出し飲み会。≪Club rich≫で20歳を迎えて、お酒はお店で覚えた。かなり飲める方になって、自分でも意外だった。そもそも仕事でしか飲まないんだけど。
みんなして酔い潰れるほど飲んだけど、私はちゃんと朝までもって、バーの閉店ちょっと前にみんなに見送られて店を出た。
バーの前にはタカオが花束を持って待ってた。
「卒業おめでとう。お疲れ。よく頑張ったな」
目の前に花束が差し出される。
「ありがとう」
受け取ると、タカオが頬に触れてきた。
「これからはオレだけのもんだ」
抱きしめられて、力いっぱい返した。
「うん。ずっと見守っててくれてありがとう」

私は≪Club rich≫が大好きだった。すっぱりと未練なく退店することができたかと言うと、実は心残りもある。2年間働いて、ようやく接客が楽しくなってきたところだったから。
でも、今は夢に向かって走り出すときだと思うから。それに保育士の仕事はけっこうハードなのだ。
だから私は学校だけじゃなく、きちんと≪Club rich≫も卒業して、次のステップへ向かうべきだと思ったんだ。


採用された保育園は東横沿線だったから、実家から出て一人暮らしをすることにした。電車を乗り継いで40分くらいだけど、往復で1時間半も貴重な時間を割けないと思った。
それに、一度は家を出て自立することも大切だと思ったのだ。私が出れば、弟や妹たちにも部屋ができる。
私には弟と妹が2人ずついて、大きい方のお兄ちゃんズは高3&中2。下2人が女の子で小6&5歳の保育園生だった。
「ヒナタおねえちゃん~。行っちゃいやだ~」
末っ子の由良は引越しの日にずっと泣いて抱きついていた。可愛い由良。私が保育士を目指そうと思ったのも、弟や妹の面倒を見ていて、子どもたちのお世話に興味を持ったからだった。
いっしょに暮せなくなるのは寂しい。でも、働いたらきっと構ってあげられない。
「休みの日には毎日帰ってくるから。お姉ちゃん、頑張って仕事してくるね! 応援しててね」
言い聞かせて私は20年暮らした家を後にした。

保育園の勤務は不規則なシフト制。新人は融通なんて利かせてもらえないから、開園同時の7時からだったり、閉園の8時までだったりと規則性のない仕事ぶり。
子どもたちを見てる時間よりも雑用をこなしてる方が長くて、保育子どもたちへの制作物は園児の下校後に夜を徹して作っていたし、細かな申し合わせのミーティングも多かった。

弟や妹たちの面倒をずっと見てきたから、保育士の仕事が自分に向いてるんじゃないかと思っていた。子どもは好きだし、子どもたちと接している時間には全く問題はなかった。
一番の悩みは子どもの親御さんとの関係だった。保育園にもいわゆるモンスターペアレントはいて、クレームの対処が大変だった。
さらに女の職場独特のものなのか、くだらない嫌がらせみたいなものが頻繁にあった。
同じ女の園でも≪Club rich≫には女同士のゴタゴタがなかったから、とても驚いた。

そんな状況でも自分は平気だと思っていたのに、体が悲鳴を上げてしまった。眠れない日が続き、体重は激減、拒食症ぎみになっていた。
「ヒナ、お前また痩せたんじゃないか?」
仕事明けや休みの度にちょくちょく私のアパートに来ていたタカオも心配するほどで、原因をいろいろ考えてくれたけど、私もタカオも結論はいっしょだった。
「……保育園、辞めろよ。また体調が良くなったら働けばいい」
夢だった保育士だけど、体が受け付けない状態で続けることは無理だと自分でも思った。
夢を諦めるわけじゃない。少し休むだけ……。
自分にそう言い聞かせて、私は保育園を退職した。


保育園を辞めた後、実家に里帰りでしばらくいることにして戻ってきた。車を出してくれたタカオと実家に着く。
「ヒナタちゃん、お帰り!」
母も弟、妹たちも全員でお出迎え。
タカオはそのままスカウトの仕事に行き、私は家でのんびりと過ごした。その夜は、久しぶりにぐっすり眠ることができた。

落ち着いた生活のおかげか、体重は1週間くらいで戻った。外出できる気持ちの余裕ができて、久しぶりに夜の街に出掛けることに。地元の親友ミユウと約束して、もちろん≪Club rich≫のあるビル前も覗く予定だった。
「キタガワさん♪」
以前と同じでキタガワさんは相変わらずビル前にいて嬉しくなった。
「お~、ヒナタ。帰ってたのか? 」
「はい。しばらくこっちにいるつもりです」
「そっか。タカオのやつ、なんにも言ってなかったから驚いたよ」
「そうなんですか? そういえば、タカオ昨日も今日もメールないんですよね……。電話も出なくて」
ケータイを確認して言った。
「来たら言っとくよ」
「よろしくお願いします。じゃあ、あんまりお仕事の邪魔しちゃいけないからまた」
「ああ、また来いよ。今度は店に」
「はい。そうします」
キタガワさんと別れて、駅に向かった。タカオはよく駅前でスカウトしてたから、いるかもしれない。
駅のロータリーを見回すと、対角線上にタカオを発見。
「ビンゴ!」
そのままタカオの方へ駆け出すと、隣に高校生くらいの女の子がいた。スカウトの真っ最中かも……と思って、声を掛けずにいたら、見たくないものを見てしまった。
2人は手をつないでいた。
楽しそうに話しながら歩く2人を見ながら、私は足が動かなかった。ロータリーをぐるりと回って2人がこっちに来る。タカオと視線が合ったけど、何も言えなかった。タカオも何も言わずに私の横を通り過ぎていった。


大学時代から付き合って3年。就職したら結婚! なんて話しも出ていた。
でも、別れは突然やってきた。
「あれはスカウトした子で、でもまだ高校生だから紹介できなくて、キープしてんだよ。だからときどき会ってケアしてるって言うか」
「ケアって何? 手をつないでキープってどういうことなの? それって色恋なんじゃない?」
水商売を上がって久しいけど、色恋管理くらい覚えてる。そういうドロドロしたことは好きじゃないし、タカオはそんなことしないと思ってた。
「色恋なんかしてねーし」
「じゃあ、本気? 少なくても彼女は本気みたいに見えたよ」
「オレは本気じゃない」
スカウトマンっていう仕事を甘くみていたかもしれない。女の子を斡旋して利益を取る仕事なのだ。
紹介できなきゃ1円にもならない。どんな手を使ったって女の子を集めるって人もいるし、持ち駒みたいにキープしてる人も少なくない。
「私、タカオのこと信じてた」
「……信じてよ」
2人でいるときでもどんどん入ってくるメール。電話の向こうから聞こえてくる甘い声の女の子。ときどき連絡が取れなくなるタカオ。
今までの疑念が次々とフラッシュバックする。無意識のうちに勝手に涙が出ていた。
「ずっとそばにいてくれて、守ってくれて……好きだった」
言葉は過去形でしか出てこなかった。
一度でもこうやって疑心暗鬼になると、また信じられるようになるのは難しい。
「私、色恋を笑って許せるような心の広い人間じゃないみたい。色恋は浮気じゃないって思えないし、そうやって言い訳する人も許せない」
タカオは無言だった。
「……タカオのことは本当に好きだったよ。たくさんたくさん助けられたよね。今まで本当にありがとう」
「オレたち、本当にこれで終わりなの?」
「うん。おしまい」
涙をぬぐって、席を立った。
タカオは私を引き止めなかった。横を通ってすれ違ったとき、タカオの目にも光ったものが見えた気がした。


「お前らバカだな」
「やっぱりバカですか?」
缶コーヒーを片手にビル前でキタガワさんと話していた。
「タカオのやつ、ヒナタを泣かすなって言ったのに……」
「泣いてませんよ~」
「ウソつけ、泣いただろ?」
「えへへへ~」
溜息を一つついてキタガワさんは言った。
「今さらかばうわけじゃないけど、あいつ、お前のこと真面目に本気だったと思うぞ」
「……そうですね。相当大切にしてもらいました」
確かにタカオは私を大切にしてくれた。付き合ってた間ずっと、私は幸せだった。
「それでも許せなかっただろ?」
「はい。私、心狭いですね」
「いや、普通だろ。この世界に長くいると感覚がズレてくるんだ。色恋も仕事のうちなんて、普通じゃないだろ? でも普通が分からなくなる」
タバコを空いた缶にねじ込みながらキタガワさんは続けた。
「ヒナタはお水にいても普通の感覚を忘れなかったよな。この仕事、流されて染まっちまうヤツの方が多いのに。それが長所で、弱点でもある」
自分でそんなことには気づかなかった。というか、そんなこと考えたこともなかった。
「真剣に取り組んでなかったってことですかね?」
エへへ、とまた薄く笑って答えた。
「もし保育士に戻らないなら、またキャバ嬢に復活するのもいいかもな」
「え? 真面目に言ってます?」
「おお、大真面目だ」
キタガワさんは缶をゴミ箱に捨てに行って、そのままコンビニに入ってしまった。
私はキャバ復活の話を考えていた。
保育士に戻る前に、その選択肢もアリかもしれない。
手持ちのお金が尽きるまで、ゆっくりと考えてみようと思った。

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第3話 ユイカ(前編) は5月6日公開予定です。

■注意■

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