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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>キャバ嬢NO.1>第8話 sweet pain(前編)
小説タイトル
イラスト:黒埼 狗

作者情報

森山まなみ
湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/

小説タイトルキャバ嬢NO.1【完】 更新日時2013.07.16

第8話 sweet pain(前編)

小説挿絵 電車の扉から流れる景色を見ながら呟く。
「なかなかうまくはいかないね」
「どうしたの? 急に」
いっしょに山手線に揺られていたアンが聞いてきた。
「やっぱり歌舞伎町は手ごわいな、って思って」

「やるからにはここ≪club de bloom≫でもテッペンを取るからな!」
「自由が丘で一番。歌舞伎町でも一番に売れてやる!」
再会した日にフルヤさんが何度も私たちに言った言葉。
歌舞伎町でNO.1になるなんて、途方もない夢かもしれない。でも、それでも私たちで叶えたい。誰がなるにしても支えていく。自分のためじゃなく、アンやフルヤさん、仲間のためにもやるしかないって思っていた。
今日だってそうだけど、毎日のように同伴して、自由が丘にいるとき以上に頑張ってる。手を抜いてるつもりもない。売り上げだって悪くない。でも、壁は予想よりはるかに高かった。

高田馬場のマンションから電車で新宿に向かっていた。
「そうね。歌舞伎町なんていう生き馬の目を抜く場所でシノぐのは確かにキツイわね」
アンも同じようなことを思っていたらしい。
「歌舞伎町の有名キャバ嬢ってダテじゃない。揃いも揃ってケタ違いなんだもん」
≪club de bloom≫のキャストは、言わば系列全店からの選抜組。それぞれの店で看板を張るようなレベルにも関わらず、歌舞伎町の他店からのヘッドハンティング組に誰ひとり勝てていなかった。
「かろうじて拮抗してるのがマユさんだけだものね。悔しいわ……」
マユさんは新宿の系列店から移籍してきたから、ホームグラウンドという意味ではヘッドハンティング組と同じように有利で、NO.5に食い込んでいた。

≪club de bloom≫では専属もヘルプも関係なく毎日ベストオールのランキングが貼り出され、キャストたちは嫌でも競争心をあおられる。NO.1からNO.3は、ノアさん、アキラさん、シオリさんが三つ巴で争っていて、毎日入れ替わりでNO.1になっていた。それ以降の上位組もだいたいいつも同じ顔ぶれで、アンがNO.10に入ったり落ちたりしている。
「アンならもっと上位に行けるよ。私は人気も、指名数も、売り上げも敵わないけど」
そう言って、視線をアンからまた窓の外へ移す。直後に電車は新宿駅のホームに滑り込んだ。

≪club de bloom≫フルオープンの初月、月間ベストオールではアンが9位、私は精一杯の努力でも15位に入るのがやっとだった。

☆★☆
頑張ってるだけじゃダメで、プラスαがないと歌舞伎町じゃ通用しない。
そんなことがだんだんと分かってきたけれど、どうやってプラスαを作ればいいか分からないまま毎日が過ぎていた。
「ユイカ、アフターがないなら作戦会議だ! 行くぞ」
「は、はい」
指名、売り上げが振るわない理由を分析するべく、フルヤさんがミーティングを提案してくれた。
「≪FANTASISTA≫なら余裕の成績でも歌舞伎町じゃ通じない。「ユイカらしく」なんて生ぬるいのかもしれないな。新しい売りが必要だ」
「やっぱり今の私じゃダメですか……」
自分を否定されたようで一気に気持ちが沈んでしまう。
「ダメなんて言ってないぞ。お前は十分魅力的だ。ただ、≪club de bloom≫で抜きん出るためには、もっと輝きが必要なだけだ」
即座に訂正してくれて、さりげなく褒めてもくれる。自分に自信が持てない私をフルヤさんはいつも上手に誘導してくれた。
「……それが“新しい売り”なんですね」
「そうだ。それと、キャラ分けも必要かもしれないな」
「キャラ分け?」
「ああ、これからどんなキャラでいくか、だ。例えば、アンはクールビューティーだろ? NO.1のノアは正統派美人、NO.2のアキラは小悪魔、NO.3のシオリは妖艶。ユイカは大人しすぎるんだよな」
「すみません……」
つい謝ってしまう。本当の私は地味で、目立つことは苦手だった。でも、だからこそ華やかなキャバ嬢に憧れた。こんな自分でも輝けるって思いたかった。
「≪club de bloom≫の圧倒的なメンツの中では、大人しいキャラはどうしても地味で印象が薄くなってしまう。できれば一番ユイカの素に近い清純派でいきたいところだが、ナツキとかぶるんだよな」
すでに人気のある有名嬢とキャラがかぶっては、対抗できても抜くことは難しい。できるなら、違うキャラでお客さんに興味を持ってもらった方が売れるとフルヤさんは読んでいた。
「ナイスバディを売りにしたいところだが、これもティナには負けるしな」
さすがにキャストの層が厚い歌舞伎町。ありとあらゆる魅力を持った人気嬢が揃っていて、入り込む余地がない。考え込むフルヤさんを前に、私も押し黙ってしまう。
朝まで営業のバーにいて、私たちはテーブルの料理もお酒もほとんど口をつけていなかった。
「……お前、オラ営できるか?」
「私がオラオラ営業ですか?!」 
「うちは高級店だけあって、さすがにオラ営のキャストはいない。あのリカたちでさえ大人しくやってるだろ?」
今とは真逆のスタイルとも言えるオラオラ営業なんてできる気がしない。返事に困っていると、フルヤさんは具体的に説明しだした。
「本当のオラ営じゃなくていい。上から目線で営業なんてユイカには無理だろ?」
私は激しく頷いた。
「この先の新しい客には強めで押せ。うちみたいな高級店に来るステイタスのある男ってのは、意外と強気な女が嫌いじゃないんだ。たぶん従順なだけの女には飽きてるんだろうな」
「そういうもんなんですか?」
「ああ。ユイカには芯の強さがある。オレやアンや馴染みのお客さんみたいに付き合いの長い人間は知ってるけど、初対面の客には分からない。分かってもらう前に他のキャストに捕まっちまう。ゆっくり分かってもらう時間がない。だから無理してでも、最初の取っ掛かりで掴むしかない」
「私にできるかな……」
今までは周りが分かってくれた。それはすごく恵まれていたんだ。私は周りのみんなに甘えていた。これからは自分から分かってもらえるように動かなくちゃいけない。
「最初はオレが細かく指導する。どういう押し方がいいか、とかな。多少強引でも、あとからお前を分かってもらえばいい。ノープロブレムだ」
「はい!」
フルヤさんとのマンツーマンでも営業が翌日から始まった。

☆★☆
強気な態度で接することは、ふだんの自分とは全く違う人間を演じることのようだった。始めこそ、内心ビビりまくりで接客していたけれど、慣れというものは恐ろしいもので、1週間もすると仕事として割り切って営業をすることができた。

「サッカーって、広いフィールドを駆けまわってるじゃないですか。ポジションとか位置が分からなくて、試合中ずーっとあっちみたりこっちみたり探すの大変で。首が疲れちゃいます」
弟がサッカーをしてたおかげで、サッカー好きのお客さんと盛り上がった。
「平塚のスタジアムが近いんで、弟とよく観に行きました」
「じゃあ、実家は湘南の方?」
「はい。ヒントはサザン、烏帽子岩……」
「なるほどね。僕は隣が地元だよ」
「わ! これも何かの縁ですね~。週末にディナーでも行きましょう♪ 久々に地元ネタで盛り上がりたいな~。土曜日とかどうですか?」
具体的に予定を挙げる攻め方も、フルヤさんの強引営業指導の1つだった。たたみかけて押すなんて、今までの私じゃありえない。
「いいね。土曜なら大丈夫だよ。じゃあ、カジュアルフレンチでも行きますか」
「やった♪ 嬉しい~」
食事に行けば、ほぼ自動的に同伴をgetしたようなもの。同伴なら確実に指名になるのだ。

また、営業メールも今までは、『お時間できたら顔を見せに来てくださいね』なんて控えめで、あからさまに来店をねだるような言葉は使わなかった。それが、相手によってはSになりきって返した。
『来ないってことは会いたくないってことでしょ? いいよ。もう知らない』
こんな突き離したようなメールじゃ相手を怒らしちゃうと思いきや、意外にも折れてくれるお客さんばかりで、こっちが驚いたほどだった。


☆★☆
キャラ分けのせいか、胸の痛くなるような強気営業のせいか、疲れは倍増していて、定休日には一日中寝ていることが多くなっていた。そんな日曜の午後、定休日だというのにアンは早起きして支度をしている。
「マユさんの枝、しっかりもらってくるわ」
「うん。これで新しい指名getだね!」
アンはマユさんのお供で逗子のマリーナまで行くらしい。マユさん指名のお客さんが主催するサンセットパーティーに招待されていた。ヘルプで付いたときに連れのお客さんにすっかり気にいられ、パーティーの同席を求められていたのだった。
休日を返上しての営業も辞さないアン。見習いたいのに、私はチャンスを掴めない。もっと積極的にお客さんとコンタクトを取るべきなんだろうか。
ただ、同伴やアフター以外でお客さんと会うことが怖かった。疑似恋愛と言えども、色恋めいた営業はすっかりできないし、1対1じゃプライベートで会うこともできない。
幸いなことに、≪club de bloom≫が高級店であるおかげか、ハイレベルなお客さんばかりで、色恋を求められることはほとんどない。
広川さんとのことが原因かは分からないけれど、私はお客さんを簡単に信じられなくなっていた。

☆★☆
『たまにはいっしょに飲みに行かない?』
名刺の束と携帯のアドレスを横に、営業メールの内容を考えていたら、ミヅキちゃんから電話がきた。
緑が丘の実家から通ってきてるミヅキちゃんは、東急線方面の送りの車が閉店後の早い時間なこともあってめったに顔を合わせなかった。せっかくのお誘いにダラダラしてないで出掛ける気になる。
「いいよ。誘ってくるなんて珍しいね」
『ありがと♪ いつもバタバタと帰るから、自由が丘のときみたいに閉店後に遊んだりできなくて寂しかったんだ』

待ち合わせは六本木ミッドタウン。ガレリアのガーデンテラスにあるレストランでディナーをした。
「付き合ってもらいたいお店があるの。2軒目にいい?」
「うん。六本木は詳しくないからお任せする」
ミッドタウンから歩いてすぐのビルにある≪home sweet home≫に連れて行かれた。
「いらっしゃいませ」
≪home sweet home≫は、店名や入口こそ何のお店か分からなかったけれど、一歩入ればホストの顔写真が並ぶロビーだった。
「もしかしてホストクラブ?!」
「当たり~」
席に案内されて座ると心配そうにミヅキちゃんが聞いてくる。
「ホスクラ、嫌? ホスト苦手だったらバーとかにするけど……」
「ううん。大丈夫。ホストクラブ初めてだから、驚いただけ」
「初めてなの?」
「行く機会がなかったから……」
答えながら店内を見回す。
「ホストクラブって、キラキラしてゴージャスなイメージだったけど、ここは落ち着いてるね」
木とレンガでできている内装に、暖炉や観葉植物。外国の別荘みたいな温かい雰囲気だった。
「アメリカンスタイルの家がコンセプトなんだって。お客さんの第二の自宅みたいにくつろいで欲しいからって」
「だからお店の名前が≪home sweet home≫なんだ」
「そうみたい」
「いらっしゃい、ミヅキちゃん! と?」
おしぼりとボトルを持ってホストらしき人が目の前に座った。ミヅキちゃんが指名してるホストらしい。
「ユイカちゃんだよ」
「初めまして! シマです」
そしてもう1人、
「ヤマトです」
「ヤマト?」
弟と同じ名前だった。
「はい」
「あれ? ユイカちゃん、ヤマトくん気にいった?」
ミヅキちゃんが楽しそうに言う。まさかホストにハマりそうなんて思われてたりして。
「弟と同じ名前なんだよ。高校生の弟。大和って言うの」
ホストにしては珍しい黒髪。童顔というか幼い顔立ちなのに、フード付きのジャケットがより可愛いらしさを感じさせた。

「23歳?! 年下かと思った。めっちゃ童顔だよね」
「よく高校生にも間違われる」
憮然とした顔でヤマトは言った。
「あはは、やっぱり? 弟キャラでしょ?」
「いやいや。オラオラ系だっつーの」
「絶対ウソ~!」
「オラオラ~!」
言いながら両手でパンチを繰り出して、シマくんの脇腹を打ち続ける。
「イテテテテ!!」
ミヅキちゃんと話してるところに突然パンチされるも、リアクションのいいシマくんは大げさに痛がった。
「そのオラオラ違うから~!」
「あ、そう? 」
私はお腹を抱えて笑い転げた。
ホスト遊びに慣れてないのと色恋が苦手なのが相まって、色気のない話ばかりで盛り上がる。
初回だからかそういうキャラなのか、ヤマトは駆け引きも一切なし。お互いお店の名刺を交換したけれど営業らしい営業はされず、楽しい時間を過ごせた。
けど、きっと自分からは来ない。ホスト遊びなんてしてる場合じゃない。

また明日から違う自分になっての営業が始まるんだから。


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第8話 sweet pain(後編) は7月22日公開予定です。

■注意■

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