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2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.07.22
第8話 sweet pain(後編)
ほんの一時だけど静寂を取り戻す夜明けの歌舞伎町が好きだった。
眠らない街と言われて昼も夜も人で溢れているけれど、早朝のこの時間だけは人影もほまばら。
誰とも関わらなくていい、気が休める時間に安らぎを感じていた。
今だけは本当の自分でいることを許されてる気がして……。
☆★☆
≪home sweet home≫を忘れかけたころ、ヤマトから電話が来た。正午前なんてキャバ嬢への営業電話にしては早い時間。出るか迷っているうちに切れ、また30分ほどでかかってきたから出てしまった。
『散歩しよ~!』
「は?」
誘われても今夜は出勤だから≪home sweet home≫には行けない。
「営業されてもそっちの店には行ってあげられないよ? 出勤だし」
素直にそう告げると意外な返事が返ってきた。
『そんなの知ってるよ。営業時間モロかぶりだもん。つーか、オレ今日は休みだし。ユイカの店に行こうかな。 同伴する?』
「え~?!」
今日は結木さんと同伴の予定だった。でも、とにかくそこまで言ってくれるヤマトと会うことにした。
「わー、マジ来た。ラッキ♪」
「冗談だったの?!」
店でのジャケット姿から一転、ポロシャツにクロップドパンツというラフな出で立ちのヤマト。完全にプライベートな手抜き加減だった。
「いや、マジ、大マジ。あ、昼メシ食った? オレ、弁当持ってきたんだ」
私とヤマトは代々木公園を散歩して、お弁当を食べた。
「本当に散歩なんだね……」
豪華な焼肉弁当を公園の木の下で広げ、勢いよくかきこみながらヤマトが答える。
「そう言ったじゃん」
自分が休みの日に、営業じゃなく私と会う。しかも、≪club de bloom≫に来ると言う。そんなヤマトが不思議だった。
「私、ヤマトのお店に行ってないし、これからも行くか分からないよ?」
私自身、プライベートの時間にお客さんと会うことにまだ葛藤があった。それを乗り越えなきゃキャバ嬢として上には行けないと思ってても怖さが先にきてしまう。
キャバ嬢とホストじゃ店外の意識は違うかもしれないけど、ヤマトの答えが糸口になるかもしれない。そう思ってわざと突き離した言い方をしてしまったのに、ヤマトは、
「いいんじゃん? それはそれで」
なんて、あっさりと答えたのだった。あんまりにも淡泊な回答すぎて、こっちが心配になってしまうほど。
「お金にならない相手に時間を割くなんて、ホストとしてはありえない行動だと思うんだけど……」
モノ申す私の顔を箸で指してさらに言った。
「まあ、そうかもな。でもオレは同業には営業かけないことにしてるから。つーか、ユイカは客と思ってないから」
「なにそれ?」
「本当に気にいった女は客にはしない主義っつーか?」
ヤマトはニヤっと笑った。気にいったと言われて返事に窮し、私はにわかに赤面してしまう。
「お、照れてんの? ユイカ可愛いな~。やっぱこのまま同伴しようぜ」
この場面で可愛いなんて、なんか悔しかった。ウキウキと同伴する気満々の楽しそうなヤマトに意地悪のひとつも言いたくなる。
「今日の同伴は先約があるので無理でーす。そろそろ用意しなきゃだから帰るね」
すました笑顔で立ちあがって駅に向かってやったのに、ヤマトは全然へこたれない。
「じゃ、オレも着替えて出直すか。後でな」
ヤマトのこの打たれ強さとバイタリティは見習うべきかもしれないと思った。
☆★☆
会社帰りの結木さんと食事をして、8時半には≪club de bloom≫に入店した。
「いらっしゃいませ! 結木さま。いつもありがとうございます」
自由が丘からの馴染みのお客さんだということもあって、ロビーから席まで副店長のフルヤさんが直々に案内をしてくれる。
更衣室へ着替えに向かう途中、フルヤさんが耳うちしてきた。
「1人やたら可愛い顔した男がユイカ指名で来てるけど、知ってる? 未成年じゃないよな?」
指差した先を見ると、ホール奥の席にヤマトがいた。まさか本当に来るなんて。
「わ、私と同い年だから年は大丈夫です。まあ、いちおう知り合い……」
「そうか、そりゃ良かった。じゃ、先についてやって。もう30分くらい待ってるから」
指名の私がまだ付いてないのに、ヤマトの席にはすでにボトルとフードが並んでいた。
「お疲れ~。一足先に着いてました」
シャンパングラスを掲げて盛り上がっているヤマトに脱力してしまう。
「本当に来たんだね……」
「ユイカといっしょにいたかったのさ♪」
「ホストらしいセリフではあるけれど、ここはキャバクラだからね? 支払うのはヤマトだよ?」
驚いたというか、呆れてしまった。客として私を引っ張らないどころか、逆にカモになるなんて。
「分かってるよ~。オレの金と休みをどう使おうとオレの勝手でしょ~?」
ヤマトは頬を膨らませて不機嫌顔を演出するも、すぐに笑顔に戻ってグラスを手渡してきた。
「まあ、野暮なことは言いっこなしで飲もうよ。シャンパンでいい? カクテルにする?」
「ここまで気にいられる理由が思いつかないんだけど? あ! もしかして騙そうとかしてる? いい気分にして売り飛ばすかとか?」
噂レベルのホストの手口を妄想して警戒する私にヤマトが噴き出す。
「妄想大暴走じゃん~。今どきそんな手に引っ掛かる女いないって」
「あ、そ……」
気分がそがれ、大人しく飲み始めた。
「ま、ユイカのどこに気にいったかっつーと、まずはリアリティのなさかな」
「リアリティ?」
意味が分からなくて聞き返してしまう。
「そう。ユイカはいかにもキャバ嬢っていうリアルが感じられないんだよね。すれてない。水っぽくないって言うか、水商売をしてる人間独特のイヤラシサが見えない。だから興味を持った」
褒めてるのか、けなしてるのか分からないヤマトの説明は、まるで私がキャバ嬢に向いてないと言っているみたいだった。
「この店でテッペン取りたいんだろ? いーじゃん、オレを利用すれば。いつでも呼びつけなよ」
「え? どうしてそれを知ってるの?」
「オレ、地獄耳だから。なんつって、ミヅキちゃん情報だけど」
「あ、そっか」
≪home sweet home≫にミヅキちゃんが通ってるなら、自分が属するフルヤ班の話もするかもしれない。
「で、頑張り屋のユイカを応援したいと思って」
「ホストに応援されるなんてなんか変な気分」
「お、ホストを差別してるな? 大丈夫、オレは真っ当な営業しかしてないから」
胸を張るヤマトを信用してみようと思った。
「ありがとう……」
「それとな、ちゃんと息抜きしないとパンクするよ? あんまり器用じゃないみたいだから」
いっぱいいっぱいの私をすっかり見透かされていた。
☆★☆
アンの指名客で芸能プロの大沢社長が、若い男性を連れてやってきた。席に案内されてホールを横切る2人を見て、待機席のキャストたちが色めき立つ。しかも、付け回しの黒服に目でアピールしてるから何ごとかと思ってアンに聞いた。
「大沢社長といっしょの彼は有名人なの?」
「稲峰 貴大よ」
「誰それ? タレント?」
大真面目に知らなくて、アンに苦笑されてしまう。
「売り出し中の若手俳優って、大沢社長は言ってたわね」
アンとの会話を聞いてたのか、黒服に抜かれる。
「はい、アンさん、ユイカさんお願いします」
待機席を立つ私たちに、他のキャストがブーイングした。
「あたしも付きたーい」
「ユイカずるーい!」
「ミーハーに騒ぐなっ! うちはそんな安い店なのか? アン指名のメンバーさまがメインだろ?! お連れさまが大モテして、大沢社長が気を悪くしたらどーするんだ?」
黒服に懇々と説明され、はしゃいでしまったキャストたちがシュンとする。有名人とは言え、店にとっては一人のフリー客でしかない。
席に着くと大沢社長に稲峰さんを紹介された。
「うちの事務所のイチオシ俳優なんだよ。 ビッグスターになるのも間違いなしさ」
いろいろとドラマなどテレビに出ているらしいけど、申し訳ないほど彼の名前も顔も見覚えがない。
テレビを見てる暇もないし、そもそも最近の番組を面白いと思えなくて、テレビはもっぱらDVD用になっていた。だから芸能情報には疎いし、稲峰さんが有名人という実感が湧かない。
「俳優さんに来てもらえるなんて光栄です」
でも、おかげでよけいな緊張はしなくて済んだのだけれど。
「いや、僕はまだこんな高級な店に来れる身分じゃないですから」
稲峰さんの方が緊張してるから、つい気を緩めてしまった。
「じゃあ、タメ語でOK? なんて」
「OK、OK!」
「え、冗談ですよ~」
「いや、本当にタメ語で。じゃないと居心地が悪くて。お尻がムズムズする」
「お尻~? あはははは。分かりました。じゃない、わかった」
売り出し中の若手とは言え、稲峰さんは下積みが長かったらしくもう29歳。苦労してるだけあって、年下の私にも謙虚だった。社長のお気に入りというのも納得できた。
「コイツ、こういう店は苦手らしくて、あまり喜んでくれないんだよ。連れて行き甲斐がなくてな~」
大沢社長の言葉にも稲峰さんは苦笑していた。
「だって緊張するんですよ。急にちやほやされるようになっても、どう振る舞ったらいいか分からないんです。ちっとも慣れないですね」
「マジメなんだー」
大沢社長には敬語だけど、私とはタメ語で話す稲峰さん。
「タダの根暗だよ。役者オタクだから」
「あ、根暗なのは私もいっしょ! 地味すぎて本当はキャバ嬢に向いてないっていう噂」
「マジ? 見えないな~。僕に合わせてるんでしょ?」
「ふふ、騙せてるってことは私も女優になれるね」
「ばっちり! ぜひ、共演したいね」
「あはは、してして~」
「はは」
笑いあう私と稲峰さんの会話に特別感はなくて、意外にもフツーに弾んでいた。
その様子を見た大沢社長が驚きつつも喜ぶ。
「コイツがこんなに楽しそうにしてるのは珍しいな。今日からユイカちゃんが担当な! よろしく」
場内指名を入れてくれたこともあって、稲峰さんと連絡先を交換しあった。
稲峰さんに送った演技がかったオラ営のメールがバカ受けして、腰の低い返信が来たりと楽しくメール付き合いが続き、来店もちょくちょくしてくれた。
連れて回るのが好きな大沢社長のお供が多くて、アン&ユイカをW指名。≪FANTASISTA≫時代のフルヤ班コンビが復活したようだった。
稲峰さんとの関係は、キャバ嬢とお客というよりは、気の合う仲間という感じがした。稲峰さんは演技をするのが仕事の俳優で、私はキャバ嬢という役を演じてる。職業意識みたいなものが似ていて、気楽に付き合っているのかもしれない。
いつもはメールの稲峰さんから初めて電話が来た。
「お疲れ様~。どしたの~? 電話なんて」
驚きつつも普通に対応する。きっといつも通りの調子で相手をして欲しいんじゃないかと思ったから。
『ちょっと声が聞きたくて』
「なになに? らしくないじゃん」
『そういう日もあるんだって』
「電話相談の方がお店より高いヨ~。来た方がお得よん♪」
「お、商魂たくましいね~。さすが」
何だか声に元気がないと思いつつも言い出せず、バカ話をしてそのときは終わった私たちだった。
電話の翌日、出勤するとフルヤさんがスポーツ新聞を見せてくる。見出しには、
“速報! 稲峰、撮影中にケガ! 舞台降板か?!”
「稲峰さん、大丈夫か? 連絡あったか?」
昨日の電話はこのことを言いたかったんだ。
「電話、来ました。でも、なにも言ってなかったんです。気付いてあげられなかった……」
落ちこんでいると稲峰さんからメールが来た。
『今晩ちょこっと行きます』
「周りにいろいろ言われてるだろう。きっとお前には普通にしてて欲しいだと思うぞ。だから電話でもなにも言わなかったんだ」
ケガの記事を読んで、どう接すれば良いか悩んだけれど、フルヤさんの言葉で触れずいることに決めた。
「いらっしゃい♪ さっそくお得に会いに来た?」
「電話相談は高いって言うからさ」
「そーよ。可愛い顔見て話す方が同じ値段でもお得に決まってるじゃない」
「なんだよ、金額いっしょかよ?!」
稲峰さんが笑顔を見せてくれて少しホッとした。そして、そのあと、ポツリポツリと吐く弱音を、私はただ静かに聞いていた。
送り際に稲峰さんが謝った。
「ごめんな。あんな話聞きたくなかったよな?」
「大丈夫。弱み掴んだと思って何かのときにネタにするから!」
笑顔で返す。
「ひでえ」
稲峰さんも笑顔で返してきた。
そのとき、フラッシュが光り、カメラを持った誰かが走って逃げた。
「な、なに?」
「芸能記者かもしれない。どこかのカメラマンか」
「ど、どうしよう。こんな時に……」
ケガと舞台降板で騒がれているときにスクープなんてされたら……。
ともかく稲峰さんと店内に戻った。フルヤさんとアンに相談すると大沢社長が飛んできた。
「ド阿呆~!」
一言だけ雷を落とされるも、私へのお怒りはなかった。
「オレが何とかする」
そう言って、稲峰さんを連れて帰っていった。
キャバ嬢といる写真なんか撮られて、稲峰さんはどうなるんだろう? 私はどうしたらいいんだろう?
また、胸の奥がチクリと痛んだ。
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第9話 LOVE or LIKE(前編) は7月29日公開予定です。
イイネ!
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