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2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.06.17
第6話 ≪FANTASISTA≫幻のNO.1(前編)
第6話 キャバ嬢NO.1~6 ≪FANTASISTA≫幻のNO.1
≪FANTASISTA≫のNO.1を目指すことにした翌日。私は3日ぶりに出勤した。
「アンちゃんの様子はどう?」
「いつアンは帰ってくるんだって?」
「2人とも大変だったね」
私の指名客はもとより、アン指名のお客さんもこぞって来店してくる。その全員が私を指名して、席に付いている間中、質問攻めにあっていた。
「≪FANTASISTA≫をヤツラの好きにはさせないよ。僕たちの大事なオアシスなんだから」
アンから大まかないきさつを聞いたお客さんたちは、皆して“打倒!ツジ班“に同調してくれたようだった。
「これだけ≪FANTASISTA≫を愛してくれているお客さまがいるんだから、絶対にNO.1を取らなくちゃですよね」
「ああ、お客さんの想いに救われたな。落ちた売り上げ、取り戻すぞ!」
「はい!」
ルールを無視したツジ派キャストによって、意欲をなくしていた他の派閥のキャストや従業員たち。ここにきて、フルヤ班の勢いにつられるようにやる気を出していた。
また、お客さんの方もツジ派のえげつなさを感じているようだった。
「金がないって分かると手のひら返したように冷たくなるし。大切にされてるって思えない」
実際、支払いを渋るようになったお客さんには連絡すら取らなくなっていた。
「ぶっちゃけさ、リカちゃんの露骨な営業にはウンザリなんだよね」
「最初はヤレそうだしって考えて指名したのは確かなんだけど。なんかさんざんジラされたら面倒くさくなってさ。別に面白い子じゃないし」
そもそも色恋だけの営業には限界がある。色で引っ張ってる限り、最終的には切るか切られるか。
お客さんと息の長い付き合いを続けたかったら、まず恋愛モードにはしないし、させない。
「やっぱさ、若さだけじゃダメなんだよな。中身がないと。すぐ会話も終わっちゃうじゃん? また会おうって気にならないもん」
ツジさんが異動してきて1年が経った今、派閥の勢いは急激に落ちていた。そして、足が遠のいていた常連さんや指名替えをしたお客さんも元の指名嬢にだんだんと戻ってきたのだった。
指名が戻ってきたのはNO.1のセリナさんもいっしょで、NO.2の私とは依然として僅差を保っていた。
「アンが帰ってくるまであと10日……。弾みをつけて巻き返したいが、常連で売り上げはもう横ばいだろう。フリーをがっちり掴んで、新規の指名と売り上げを伸ばすしかないな」
かくしてフルヤさんの新客獲得計画は始まった。
☆★☆
営業後の店で、フルヤさんとの作戦会議が日課のようになっていた。毎日の成績を振り返って2人で反省会をしていた。
「ユイカ、お前もっとボディラインを強調しろ!」
「はい?! な、なんですかいきなり?」
「お前、胸を小さく見せてるだろ? 本当は巨乳で隠れナイスバディだってことは分かってるんだぞ。何千人も女を見てきたオレの目はごまかせない」
どちらかというと童顔なのに、大きすぎるEカップの胸がコンプレックスで、実は胸を小さく見せるブラをしていた。露出を控えたお嬢様系のワンピースが定番で、ドレスはめったいに着ない。イベント時のドレスは谷間が見えないデザインのアメリカンスリーブやホルターネックでシルエットも緩めにしていた。
ところがフルヤさんにはしっかり見破られていたらしい。
「む、胸とか出すってことですか?」
もっと露出しろということなのかと覚悟をしたら、意外な答えが返ってくる。
「いや、隠れ巨乳がウケるからそこはあまり見せなくてもいい」
「え? 出さなくてもいいんですか?」
「下品な見せ方はしなくていいってことだ。ただ、今までよりもボディラインを出すんだ」
フルヤさんは更衣室からイブニングドレスを持ってきた。
「これを着ろ!」
ベアトップやワンショルダーのデコルテが大きく開いたデザインで、体のラインもしっかり見える。でも、基本は上品なロングドレス。
「素敵……。すごく高級そう」
「ウエディングやフォーマルのドレスショップで探したからな。けっこうな値段だったぜ」
「私が着てもいいんですか?」
「お前以外の誰がNO.1になれるんだよ。NO.1に相応しいドレスだろ?」
NO.1のドレス。このドレスに釣り合うようなキャバクラ嬢になりたい。
強くそう思った。
今までの抑えめな衣装から一転、上品ながらもデコルテや肩などの露出が一気に増えたドレスで店に出る。
指名のお客さんはもとより、≪FANTASISTA≫に付いてる常連のお客さんにも目を丸くされた。
あまりに変わりようにお客さんの反応が心配だったけれど、イメチェンはすこぶる好評だった。
「いや~、いいよ! こんだけ上品なドレスが似合うのはユイカだけだろう」
「言いすぎじゃないですか? 恥ずかしいから、あんまり褒めないでください」
他の席ではびっくりの事実も。
「このドレスじゃ巨乳なのバレバレじゃん。ユイカの巨乳はオレだけが知ってると思ってたのにな~」
「知ってた?!」
一生懸命隠してたのに意味がなかったことに少なからずショックを受ける。
「ああ、男って目ざといんだぞ。胸を強調してなくたって、隠してたって分かる」
自慢げに言うお客さんは1人や2人じゃなかった。
「僕、おっぱい星人だから、見ただけでブラのサイズも分かるよ。今まで言わなかったけど、ユイカちゃんEカップでしょ。アンダーは65」
「きゃー! 言っちゃダメ!!」
自分のイメージや売りはいったい何だったのかを考えてしまう出来事だった。
「隠したいけど隠しきれないってとこが良いんだよな~。逆に妄想を掻き立てるっていうか」
露骨に出さない作戦は、自由が丘という土地ではとくに有効さを発揮させていた。
☆★☆
Webサイトの画像も差し変えて、一見さんからの指名やフリーからの場内指名が飛びぬけて増えた。
“見た目が9割”じゃないけれど、まずは見た目で掴んだお客さんだ。
「ユイカの強みはリピート率だ。フリー客がどれだけ戻って来てお前を指名してるか分かってるか?」
ミーティングでフルヤさんが伝票をめくりながら聞いてきた。
「けっこう指名はいただけてると思いますけど……」
「80%だ。10人中8人がユイカ指名でリピートしてきてる。これはスゴイ数字だぞ。ツジ派なんか3割がいいとこじゃないか?」
実感がわかないけれど、ここのところ確実に指名客は増えていた。
フルヤさんはさらに続ける。
「そんなお前の最大の武器はギャップだ。最初は見た目で入っても、そのキャストをリピートするかは中身で決まる。ちゃんと話ができない相手といっしょにいても楽しくないだろ? ユイカは聞き上手なだけじゃなくて、まともな会話も付き合えるからな」
そう言えば、初めて席に着いたお客さんに言われたことがある。
「ナイスバディでどんだけエロいかと思いきや、品がいいし。性格も真面目でビックリしたよ」
それがギャップということなのか。
「顔が可愛くて、性格も良く、さらにに巨乳だったらパーフェクト。だからユイカはまさに理想! 僕と結婚して!!」
自称おっぱい星人を名乗るお客さんにはプロポーズまでされてしまうほどだった。
清純なイメージを持ってもらいたいと思っていたわけじゃないけど、派手なことはできない田舎者だから、どうしても地味で真面目な営業しかできない。
それが功を奏したのか、勝手に「高値の花」扱いをされた。でも、私的には「親しみやすい」と言われる方が嬉しかった。
露出で成績は上がったけれど、それだけが理由でいきなり売れたワケじゃない。そう思える素敵な言葉をお客さんにもらった。
「たぶん露出はきっかけに過ぎないよ。今まで真面目にやってきたユイカちゃんだからこそ、これだけの人気になったんだよ」
これまでの積み重なり。そうならとても嬉しい。私がやってきたことは間違いじゃなかった。
ありがたいことに、アンから一時引き継いだ、アンの指名客も納得して私を指名してくれている。
「アンちゃんにお願いされたからってのもあるけど、いつも場内指名やヘルプで相手してくれたでしょ?適当じゃなくてちゃんと向かい合ってくれた。だから」
指名のお礼を言ったときにもらう言葉の数々が、働くモチベーションの1つだった。
「アンの代わりなんて思ってないよ。どちらかなんて選べないくらい2人とも素敵だし魅力的だもの。
違う魅力がある2人だから余計に選べないんだよな~」
☆★☆
NO.1争いをしていたけど、そんなことを忘れるような出会いもあった。
ずっとご指名をいただいていた、デザイン会社の社長さんが半年ぶりにご来店になったときのこと。
「お久しぶりです! お元気でしたか? お会いできて嬉しいです」
メールの返事もなかなか来なくて心配していたお客さんだった。
「ごめんね、ずいぶん空いちゃったね。怒られるかと思って冷や冷やしたよ」
「なに言ってるんですか~。お忙しかったんでしょ? 怒るなんてことしません」
愚痴よりも、忘れずにいてくれたことが本当に嬉しかった。だから自然ととびきりの笑顔で迎えられた。
「ユイカのいつもと変わらない笑顔が嬉しいよ。営業抜きで毎日のようにメールもくれただろ? 日常のほんの些細なことなんだけど……そんなメールに救われてた」
「え? あんなメールがですか?」
露骨な営業は自分でも嫌だった。ただ、ときどきは思い出してくれたらいいなと思って、メールをしていただけなのだ。
「いや、実はさ、来てない間に色々あってさ……。会社の規模、小さくしたんだ。今は社員も昔の半分もいない。長年勤めてくれた人をリストラしなくちゃならなくて。……辛かったなあ」
そう話してくれるお客さんに、気の利いた言葉の1つもあげられないことがもどかしい。でも、私の笑顔やメールが救いになったというのなら、ただ、そばで聞くしかできなくてもいいのかなと、私の方こそ教えられていた。
☆★☆
「やったぞ! 売り上げ600万突破だ!」
フルヤさんが雄叫びを上げる。イメチェンしてからの追い込みが功を奏して、無理だと思ってた自分の予想を裏切り、あっという間にNO.1になった。
ツジ班に入ったセリナさんの客足が停滞していたこともあって、売り上げも指名数もダントツの1位だった。
「NO.1の売り上げが月間600万円だなんて、≪FANTASISTA≫歴代でもNO.1だ!」
「わ、私が? 信じられない……」
「オレも信じられないよ。新宿や六本木ならいざ知らず、自由が丘の中箱だぞ? この規模からは考えられない金額だ」
フルヤさんが付けてくれた「ユイカ」という源氏名。かつてフルヤさんが担当した中で一番売れていたキャストの源氏名だった。
「自分の担当からNO.1を出したい」
私が入店したとき、フルヤさんが願いを込めて付けてくれた「ユイカ」。名前に負けず、期待を裏切らない結果を出せたことが何よりも嬉しかった。
「フルヤ班から初のNO.1ですね」
「ああ、そうか。そうだったな。そんな小さい規模のことは忘れてたよ」
フルヤさんは笑った。その笑顔は本当に嬉しそうだった。
☆★☆
私のNO.1の記録はほんの1カ月の幻になった。アンが復活したのだ。預かっていた指名客は当然アンに戻り、NO.1は選手交代。
「おかえり! アン!!」
「ただいま」
階段落ちから不死鳥のごとく生還したアンへのご祝儀来店で、復活した月は500万近くの売り上げを出した。
スライド式にNO.2になった私だけれど、新規でたくさんの指名客を獲得していたことで、アンとの売り上げは僅差だった。NO.3のセリナさんも相変わらず強くて、≪FANTASISTA≫最強の3人と呼ばれた。
一連の騒動から売り上げの落ち込んだ≪FANTASISTA≫は見事に盛り返し、自由が丘近辺で一番の人気店として不動の地位を築いた。
そして、ツジさんはまたしても異動になり今度は渋谷店へ。フルヤさんたち黒服が本社に訴え、ツジさんのやり方は自由が丘に合ってないと判断しての異動だった。
1年以上に及ぶ波乱を経て、≪FANTASISTA≫に平和が戻った日を私は忘れない。
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第6話 ≪FANTASISTA≫幻のNO.1(後編) は6月24日公開予定です。
イイネ!
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