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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>キャバ嬢NO.1>第4話 洗礼とジンライム(前編)
小説タイトル
イラスト:黒埼 狗

作者情報

森山まなみ
湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/

小説タイトルキャバ嬢NO.1【完】 更新日時2013.05.20

第4話 洗礼とジンライム(前編)

小説挿絵 卓数20の中箱で在籍30名のキャバクラ≪FANTASISTA≫は、黒服担当5名でキャストを管理していた。キャバ嬢を専業とする専属キャストが10名、アルバイト嬢が20名。毎日の出勤は15~20名くらい。

それぞれの黒服の力に応じて4名~8名のキャストを担当していて、一番の大所帯がフルヤ班8名。
「NO.2アン、NO.3ユイカ、NO.6ミヅキ、NO.8マオ、バイトのサツキが12位、ミカ19位、モモ20位、マリア24位…。ナンバークラスがもう1つづつ順位あげてくれたら、フルヤ班の天下なんだけどな~」
担当してるキャストの順位を読みながら、ミーティングでフルヤさんがボヤいた。
「担当の専業が全員ナンバークラスってだけで十分スゴイと思いますけど」
≪笑笑≫の大きなジョッキでウーロン茶を飲みながら言うと、フルヤさんはテーブルに体を乗り出して迫ってくる。
「ユイカ~、お前まだまだ余力あるだろ? もっと上にいきたいとか欲はないわけ?」
ジンライムを片手にフルヤさんの熱い語りを聞く。
ナンバー争いに興味がない私に火を付けたくてしかたないらしい。
「お客様を抱え過ぎてケアできなくなるの嫌なんです。それにアンとは争いたくないです」
ぶっちゃけ現状の指名数でいっぱいいっぱいだったし、サービスの質を落としてお客様をがっかりさせたくなかった。
「ま~な~、毎日出てるから無理させたくないけど……。あ、ちなみに数字上アンとは全く相手になんないから、争う心配はないぞ。売り上げ1.5倍は違うから」
「え? そんなにですか? さすがアン!」
「NO.1のセリナと成績は僅差なんだよな~。でも、実力はアンの方があるとオレは読んでる」
セリナさんは≪FANTASISTA≫で一番の古株キャストで、昔から通っているお客さんの多くが馴染みということもあってセリナさんを指名していた。
「セリナさん、指名数ダントツなのに成績は僅差なんですか?」
「ああ、セリナは客単が安いから。アンは指名数は負けてても単価が高い」
「アンは太客が多いですもんね」
単価の高さには納得だった。
アンの席では必ずフードとドリンクが注文されるし、私もよく場内指名で入れてもらってる。そして、必ず1回は延長するから、1時間のセットで帰るお客さんはいなかった。
「セリナは、塵も積もれば……ってタイプだな。細客でも数ありゃ強い。アンは客単でドカンと山にしてる。どっちも正しいテクニックだ。このテク違いの2人がいるから≪FANTASISTA≫は自由が丘で1番売れてるキャバクラでいられるって言っても過言じゃないだろうな」
「2人ともすごいですよね。尊敬しちゃいます」
「だろ? だからお前ももっとやる気を出せ!」
担当のキャストに頑張ってもらうためにハッパをかけるのは黒服の仕事だけど、フルヤさんは私を過大評価してる気がする。
「今の3位ってだけでも出来すぎなんです。それにやる気はあるし、がんばってます」
謙遜でもなんでもなくて本音だった。私の成績はフルヤさんやアンの助けがあってこそで、自分だけの実力じゃない。
なのに、フルヤさんは首を振って言った。
「ユイカ、お前、自分を過小評価するな」
「え?」
意外な言葉にしばし考え込んでしまう。フルヤさんにそんなに期待される方が不思議だった。
「ま、いいわ。芽が出るまで気長に待つさ」
そう笑って、フルヤさんは席を立った。


自由が丘の駅前で≪FANTASISTA≫のヨシノちゃんが前から歩いてきた。
「おはよう♪」
笑顔で手を振る。確かに気づいたはずなのに、ヨシノちゃんは無視して手前で曲がってしまった。
「あれ? 人間違いかな?」
ヨシノちゃんらしき後ろ姿を見つめていたら、ちょうどそこへ同伴の藤田さんが来た。
「なんだユイカ、どうした?」
「う、うん。ヨシノちゃんがね、いたと思ったんだけど……」
「ヨシノちゃん? いたよ。さっき挨拶されたけど」
「やっぱりいましたよねえ……」

食事を終えて、予定通り≪FANTASISTA≫に入る。
「ユイカってば、ヨシノちゃんにスルーされてやんの。人望ねーなー」
場内でついたアンに藤田さんが言った。
「ヨシノちゃんって目が悪いから、きっと気付かなかったんですよ」
「そうなの?」
アンのフォローに乗っかる。
「そうですよ。人望ないなんて失礼な! 意地悪いうとドリンクもらっちゃいますよ!」
「わ! やぶへびだ~」
「じゃあ、わたしもドリンク……」
さらにアンも乗ってくる。
「ぎゃー、勘弁して!!」
「あはははは」
「冗談ですよ!」


営業後に定番のバー≪ミントン≫のカウンター席でアンと仕事終わりの乾杯をした。
「おつかれ」
「お疲れさま~」
ジンライムを飲みながらチャームのガーリックオリーブとクリームチーズの生ハム巻きをつまむ。
「これすごく美味しい♪」
どちらも一口づつしかなくて物足りない。
「本当だ。美味しい~。これ、メニューにあるかな?」
「マスター、おかわりちょうだい♪」
そんな取りとめのない話で盛り上がっているときに、今日のヨシノちゃんのことを思い出した。
「……ヨシノちゃんだけじゃなくてさ、ツジ班のキャストみんなに無視されてる気がする」
「ああ、ツジ派ってヤツ? 黒服で派閥とか作るなんてバカみたい」
アンが切り捨てた。
「ツジ派に対抗してNO.1のセリナ派とかいくつも派閥ができちゃってるじゃん」
「じゃあ、わたしたちはさしずめフルヤ派ってとこかしら」
「んー、アン派じゃない? フルヤ班筆頭だし」
「えー?! わたしは派閥なんて関わりたくないわよ。面倒くさい」
「はは。そう言うと思った。ていうか、今まで≪FANTASISTA≫で派閥とか争ったことなかったのにね。なんか嫌だな」
寂しそうに言う私にアンも続いた。
「≪FANTASISTA≫、どうなるのかしらね……」

今まで≪FANTASISTA≫にはキャスト同士の争いや派閥なんてなくて、すごく平和で落ち着いた店だった。
安定した営業や接客はお客さんや本社からも良い評価を得ていたのに、最近になってキャスト内で派閥ができ始めていた。
歌舞伎町店から移ってきたツジと担当のキャストたち一派の強気でイケイケな営業スタイルを嫌う、NO.1のセリナたちが対抗して派閥を作ったのがきっかけだった。
元々いるキャストは、セリナ寄りになったり、小さいグループを作ったりと≪FANTASISTA≫内は分裂した。
そして私たちもキャバクラの洗礼を受けることになるとは、このときは思ってもみなかった。


一触即発状態の険悪な雰囲気が日増しに強くなり、あるとき事件が起きた。
「あたしのドレスが……!」
出勤すると店服のラックに掛けてあったセリナさんのドレスが切り裂かれていた。
「ひどいな。濡れたから干して帰ったんだよな? 確か」
「お客さんにもらった大切なドレスだったのに! ひどい!! 誰がこんなこと……」
直しようがないほどあちこち切り裂かれたドレスを手にセリナさんが周りを睨む。
「絶対に許さない!」
オロオロする担当黒服のはるか後ろで、ヒトミとリカが不気味な笑みをたたえていた。


そして、翌日には女子トイレの棚に置いてあったアンのコスメポーチがなくなった。
「いつも通りここにあったんだよね?」
フルヤさんと3人でトイレ中を探す。棚にはキャストのポーチがずらりと並び、アンの定位置はいつも右上の一番端だった。隣をキープしている私のポーチの右側がぽっかり空いている。
「メイクが終わった後に確かに置いたわ」
「ポーチが勝手に動くわけないから、誰かが持ち出したとしか考えられないな。キャストの誰かが……」
フルヤさんがウンザリした顔をした。
「店内も探そう。私、ホール見てくる」
「オレはキッチンだな」
「ありがとう。わたし、もう一度バッグの中を確認するわ」
アンは更衣室へ向かい、私はボーイが後片付けをしてるホールを見て回った。
「どうしたんすか?」
「えっと、忘れ物!」
テーブルの下に潜り込む私にボーイが不審がるけど、そんなことを気にしている場合じゃない。
全てのテーブルの下をくまなく見て、ソファ席の間まで手を突っ込んで探して。

キッチンのカウンター前は待機中のキャストがタバコを吸いに来たり、飲み物をもらいに来たりするので、誰でも入れるようになっている。
フルヤさんがカウンターから製氷機の上、冷蔵庫の脇など、隙間も覗く。
「こんな分かりやすいところにあるわけないか~。まさかとは思うけど……」
ゴミ箱を一応ひっくり返した。
そして、見覚えのある黒いケースを手に更衣室へやってきた。
「このコンパクト……」
見つけたのはアンが愛用しているシャネルのコンパクトだった。
「…割れてボロボロ」
落として割ったのか、コンパクトの中のプレストパウダーが粉々になっていた。
「裏にある傷はわたしが付けたの。これ、確かにわたしのだわ……」
あまりの惨状にしばし絶句してしまった。

結局、割れたコンパクト以外のコスメやポーチは見つからなかった。
最低限のメイク道具とはいえ、マスカラやアイシャドー、口紅など、全てがシャネルでどれも人気の品ばかり。盗まれてしまったことによるアンのショックは悲しみよりも怒りが大きかった。
「あんなのいくらでもくれてやるけど、盗むなんて最低だわ。図々しくたって「欲しい」って言われた方がマシよ! 」
「……誰の仕業なのかな。今までこんなことなかったのに。ひどいよ……」
お客さんにも働くキャストにも質の良さで定評のある≪FANTASISTA≫で、まさか盗難まで起きるなんてかつてないことだった。
「本部に賠償してもらえないか聞いてみる。総額けっこうするだろう?」
「賠償なんて申し訳ないです。誰でも手を伸ばせるトイレの棚になんて置いておいたのが不注意でした。コスメとはいえ高価なものだから、持ち歩けば良かったんです。わたしの責任でもありますから……」
財布や高価なバッグなど大切な貴重品はレジ担当に預けることになっていた。常に人がいて、担当以外は入れないレジ裏が貴重品の保管場所だった。
それ以外の、たとえ鍵付きのロッカー内でも紛失の責任は負えないと常々キャストは店側から言われていた。分っていてトイレに置いた自分が悪いと、アンはあっさりと諦めた。
「悔しいけど、いい勉強になったわ。わたし、≪FANTASISTA≫のぬるま湯に慣れ過ぎてたみたい。これからは自分の身は自分で守らくちゃね」
嫌な気持ちで結末を迎えたけど、さすがアン!と言いたくなる出来事だった。

アンはまたしっかりシャネルでコスメを揃え、それどころか以前よりもパワーアップさせて持ってきた。
「新作のアイカラーもgetしたんだ♪ 盗まれたって言ったらBAさんが同情してくれて、サンプル山ほどもらっちゃった。ユイカにもおすそ分け♪」
「わーい、ありがとう♪ ラッキー!」
ダメージを感じさせないアン。さすがクールビューティーと称されるだけある。
そんなアンに手を出すのは諦めたらしく、それ以後アンの周りでは事件は起きなかった。


ヘルプでついた席でも平気で営業をするツジ派のキャストたち。あからさまな色恋営業で他のキャストの指名客をどんどん寝取り、指名替えのトラブルが毎日のようにあった。
≪Club rich≫時代からの大切なお客さまの結木さんの部下までも毒牙にかかってしまう。
「ヒトミちゃんと付き合ってる……? 本当に?!」
部下の若林さんはまだ若くて、キャバクラに頻繁に通えるようなお金はないはず。それが付き合っているからと言って、毎日のように来店していた。
「ヒトミ、たっちゃんがいないと不安だから明日も来てね!」
腕に絡みついて体をくっつけるヒトミちゃんに、若林さんは照れながらも嬉しそうだった。
「しょうがないな~。ヒトミは……」
会計もさることながら、ずいぶんと早い時間には来ているので、仕事のことも気になる。
「結木さんに伝えた方がいいのかな……?」
2人の席を見つめて呟く私にアンが答えた。
「他のキャストの指名客について口を挟むなんてルール違反だけど、ユイカは自分のお客さんと話すだけだからいいんじゃない?」
曲解な解釈なのは百も承知で結木さんに連絡をした。もう黙ってはいられなかった。

「若林! お前……」
「ぶ、部長!!」
≪FANTASISTA≫に飛んできた結木さんが若林さんを引っ張って出て行く。
「仕事残して何やってんだ! 会社に戻るぞ!!」
「たっちゃん!」
ヒトミちゃんが追いかけるけど、止められずに戻ってきた。そのまま私とアンの前に立って怒鳴る。
「人の客に何してくれんのよ! 余計なことしないでよ!!」
あまりの剣幕に反論できないでいると、アンが冷静な口調で返した。
「余計なことなんてしてないわ。偶然、結木さんがいらっしゃっただけよ? 仕事ほっぽりださせて来させる方が悪いんじゃない?」
連絡したことは言わずに突っぱねた。
「どちらかというと被害者はこっちだぞ? せっかくご来店いただいた結木さまがいっしょに帰ってしまわれたんだからな」
フルヤさんまで出て来て、ヒトミちゃんはそれ以上は攻撃できなくなってしまう。
「……覚えてなさいよ!」
足早に私たちの方を見つめるツジさんのところへ駆けていった。
「2人ともありがとう……。騒がせちゃってごめんなさい」
当事者の私は何も言えずに、フルヤさんとアンにすっかり守ってもらってしまった。

その日の遅くに結木さんがまたやって来た。
「さっきは連絡ありがとう。すっかり騒がせたまま帰っちゃって悪かった」
「結木さんのせいじゃありません。こっちこそすみません。うちの店の子が……」
謝られて困ってしまう。
「若林にはきつく言っておいたから、もうここには来れないと思う」
「そうですか……」
それを聞いてほっとした。お客さまの支払いの心配など、キャストがするもんじゃないと言われるかもしれないけれど、大切な結木さんの部下の人生を狂わせてしまうかもしれないことが怖かったのだ。
「僕もしばらくは自粛するよ。あいつを見張ってないとだしな。……悪いな。また、ほとぼりが冷めたらユイカに会いに来るから」
「……大丈夫です。いつまでもお待ちしてます」
笑顔で見送るも、大切なお客さまを失って、かなりショックだった。
私のした行動はお店のためにならないことだったのかもしれない。
そんな風に自問自答するほどに悩んでしまった。

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第4話 洗礼とジンライム(後編) は5月27日公開予定です。

■注意■

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