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2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.06.10
第5話 ロストワールド(後編)
「リカさんじゃなくて、アンさんですか?」
リカちゃんに指名替えしたはずの南さんがアン指名でやってきた。
「アンさんお願いします」
付け回しの黒服が別の指名席に座るアンを呼ぶ。再びの指名替えにざわめく店内で、怪訝そうな顔をしてアンが待機席のリカちゃんの前に立つ。
「どういうこと?」
「南さん、やっぱりアンさんが忘れられないって言うから返しまーす」
「返すとか返さないって問題じゃないわ。お客さんはモノじゃないんだから」
アンが言いたいことは伝わらず、しれっと続けるリカちゃん。
「ていうか、南さんもうお金ないみたいだし。用ナシ?」
バカにしたようにリカちゃんはクスクスと笑っていた。
絞るだけ絞り取って、もう南からは引っ張れない。だからアンに返す。そういう意味だった。
「あなた、最低ね」
アンの嫌悪の表情に、リカちゃんの笑いも消える。
「かっこつけんな、バーカ」
サラリーマンのたかが知れるほどの収入の中で、南さんはずっと細く長く通ってくれていた。1ヶ月に1~2回、金額にしたら5万円くらい。それが南さんの精一杯だった。
南さんの状況を知っていたからアンは無理は言わなかったし、アフターだってフリードリンクのカラオケが定番だった。
でも、リカちゃんに惑わされてアンを裏切ってしまった今の南さんにはもう後がなかった。年収以上の借金を作り、首が回らなくなっていた。
「僕のこと好きなんでしょ? リカちゃんに聞いたよ。もっと早く言ってくれれば良かったのに」
リカちゃんの口車に乗ってか乗せられてか、アンが指名でつくと南さんはそう言った。
アンに合わす顔などないはずなのに、南さんは金銭感覚だけじゃなくて心もマヒしていた。
南さんはアンを指名、リカちゃんを場内指名にしていた。見送りは必然的に3人になる。
≪FANTASISTA≫は2階とは言え、ビル正面の1階から専用の階段があった。小さいながらも入り口前には踊り場があって、基本的には階段上からの見送りをする。3人も立てばいっぱいの踊り場だから、いつもはドア前に立つ黒服も、こういうときは店内に引っ込んでいた。
気まずい空気の中、アンが口を開く。
「今日はありがとうございました。でも、もう無理しないでくださいね」
南さんのことを心配しての言葉だった。
「お金なら借りて来るから大丈夫!」
「借りるって……。今まではお給料の中でやりくりしてたじゃないですか」
「いや~、でも意外と簡単に借りれたからさ」
「……簡単だなんて、いったいいくら借りたんですか?!」
「キャッシング4社で200万くらいかな?」
案の定、南さんの感覚は完全にマヒしていた。キャッシングでの借り入れは利息が半端ない。200万を返すのにどれだけの期間と利息を払うと思っているのか。
リカちゃんのためにした借金だけど、もともとはアンの指名客である南さん。
身を切るような思いでアンは言った。
「南さん……もう来ないでください」
「え? どういうこと?」
お客さんに「来るな」なんてキャバ嬢としてはあるまじきセリフだった。それでも、アンは南さんのために言わざるを得なかった。
アンの辛い心の内を全く無視して、リカちゃんはまるでアンが全て悪いかのように言い放った。
「金のない客はいらないってか? ひどーい。冷た~い」
しかも、借金をさせたのは自分なのに、アンを冷たいと罵る。
「リカちゃんは黙ってて」
「やだー。こわーい」
誰のせいで大変なことになっているのか分かっているくせに、巧みに意識をすり替えていた。
アンに突き離されて、感情が高ぶった南さんがアンに詰め寄る。
「……オレのこと好きだってのは嘘かよ?!」
狭い踊り場でアンと南さんはもつれ合う。
「み、南さん、落ち着いて。あ、きゃっ! キャーッ!!」
「わ!!」
2人は足を階段から踏み外して転げ落ちてしまった。
「あらら~、落ちちゃった。だっさ~」
落ちていくアンと南さんをみながら、リカちゃんは薄笑いを浮かべていた。
「どけ!!」
アンの悲鳴を聞いたフルヤさんが飛び出てきて、踊り場の上から下を覗くリカちゃんを押しのけて駆け下りた。見送りに出たアンが気になっていた私もすぐに踊り場に向かった。
「アン! 南さん! 大丈夫か?!」
南さんは「痛……」と言いながら起き上がるけど、アンは意識もなく動かない。
フルヤさんがすぐにケータイで119番を呼びだす。
「救急車を1台お願いします! 階段から転落して意識がありません!!」
階段の下で倒れているアンに駆け寄ると、頭から血が流れていた。
「い、嫌!! アン~!!」
私はパニくって叫んだ。
★☆★
店も指名客もほっぽり出して私はアンに付き添って救急車に同乗した。
ざわめくお客やキャストをなだめて、通常通りの営業を淡々と進めたのはツジさんだったらしい。
当事者といっても過言じゃないリカちゃんなのに、その後も平然と接客をしていたとのこと。
しかも、私とアンの指名客はツジ派のヘルプが入り、誤解を招く説明をして回っていた。
「お客さんと色恋でモメてたみたい」
「お金がないならもう来るなって言ったんだって。アンさんも酷いよね」
いいかげんなことや嘘をよくも並べられるもんだと怒りを通り越して呆れてしまう。
もう≪FANTASISTA≫はどうしようもないレベルにまで落ちてしまっていた。
アンは出血こそ多かったが、脳には異常がなく、頭を3針縫うだけで済んだ。他にも打撲や腕の骨折があり、検査や治療で2日間入院し、1ヶ月ほどの自宅療養を言い渡された。
もちろんその1ヶ月はお店にも出られない。
「軽くはないけど、これくらいで済んで良かった……」
頭からの出血は多くなりがちだとは聞いていたけれど、あまりの血の量に怖いほどだった。
「ありがとう。ごめんね」
頭の包帯や腕のギブスは痛々しいけど、意外と元気なアンに本当に安心する。
「なんか食べたいものある? 最高級黒毛和牛からフルーツまでお見舞いめっちゃもらったから、何でも作るよ~」
腕まくりをしてキッチンに立とうとする私にアンが言った。
「わたし、しばらく実家に帰ろうと思うの」
「実家って長野の……? 」
「うん。この手じゃ自分で何もできないしね。田舎でのんびり静養するわ。これ以上ユイカに面倒かけられないし」
入院中の2日間はずっとつきっきりで、私は出勤していなかった。
「ユイカもそろそろ店に出ないと。フルヤさんがヤキモキしてるよ、きっと」
確かに毎日フルヤさんからメールや電話が何回も来ていた。NO.2とNO.3が出ていないのはかなりの痛手なんだろう。それでも、店に行きたくなかった。
「アンのいない≪FANTASISTA≫なんて……」
それにツジ派がのさばる今の≪FANTASISTA≫には嫌気がさしていた。
アンの階段落ちだって、リカちゃんが南さんをけしかけた結果の事故だった。
南さんは幸い擦り傷とねんざくらいで済んだと聞いた。いろいろな意味でとてもショックを受けたらしいし、きっともうお店には来ないだろう。
しんみりしていると、インターフォンが鳴った。
「調子はどうだ?」
手土産にアンの大好きなダロワイヨのガトーオペラを持ったフルヤさんが参上。
「経過は悪くないと思います。いろいろ迷惑かけてすみません」
「明日、田舎に帰るんだろ? 東京駅まで車出すから」
「ありがとうございます。助かります」
しばしの沈黙のあと、フルヤさんが聞いた。
「アン、≪FANTASISTA≫に戻ってくるよな?」
「!?」
フルヤさんの言葉にハッとする。私以上に≪FANTASISTA≫に嫌気がさしてるはずのアン。このまま辞めてしまうことも十分にありうる。
「……正直、今はまだ……分かりません」
アンが辞めることなんて考えたこともなかった。というか、考えたくなかっただけかもしれない。
「嫌だよ、アン。アンが辞めるなら私も≪FANTASISTA≫にいたくない!」
今回の事件よりもとっくに前に、私たちは居場所を失っていた。もはや≪FANTASISTA≫は自負と誠意を持って働ける場ではなかった。
「たぶん、早かれ遅かれ≪FANTASISTA≫からは離れていたと思うの。階段落ちは、きっかけになったに過ぎないわ」
かつての≪FANTASISTA≫はもうない。寂しさと悔しさを表現できずにいるとフルヤさんが追い打ちをかけるように言った。
「セリナがツジ班に移動したよ」
「本当ですか?!」
「セリナさんが……」
さすがにショックだった。いっしょになってツジ班に対抗していたのに。
「セリナもけっこうツジに追い打ちをかけられていたんだろうな。アンの事件の後すぐに担当替えになった。これでもう≪FANTASISTA≫のパワーバランスはガタガタだ。いや、ツジ班の一人勝ちか」
ちっとも可笑しくなんてないのに、フルヤさんは笑っていた。徹底的にルールと仁義を無視したツジ班によって≪FANTASISTA≫が崩壊寸前に陥っていることに、フルヤさんもまた腹立たしさを感じていた。
「……悔しい」
アンが呟いた。
「ユイカ、お願い! ツジたちを見返してやって!!」
「え?! 見返すって……?」
突然のアンの言葉に戸惑う。
「あんなやつらに負けたままでいたくない。キャバクラ嬢としての自分に自信がなくなりかけていたけど、このまま辞めるなんてやっぱり嫌! わたしが戻るまでフルヤ班とお客さんを守って欲しいの」
いつもクールなアンのこんな怒りに震えた声を聞いたのは初めてだった。
「ユイカ、オレからも頼む。NO.1を奪ってくれ!」
「フルヤさんまでなに言ってるんですか?! 私がNO.1なんてそんなの無理に決まってる。だいたい私とアンの売り上げ差がどんくらいあると思ってるの?!」
NO.1のセリナさんとNO.2のアンは僅差だったかもしれないけれど、NO.3の私との差はかなりの開きがあった。これからさらにツジさんのテコ入れがあるだろうセリナさんを抜けるなんて、とうてい思えない。
「わたしのお客さんにはユイカを指名するようにお願いするわ。……多少ツジ派に流れてしまったけど、まだまだ信頼できるお客さんが残っているから」
「アンとユイカの客を合わせれば、NO.1も夢じゃない! ツジがどんな妨害をしてきても、オレがお前を守る。フルヤ班全員でユイカのNO.1を支える!」
NO.1の座というものに執着する気持ちのない私にとって、アンとフルヤさんの期待を背負うことは、ただならぬプレッシャーだった。
「でも、アンの代わりにNO.1になったって嬉しくないよ……」
≪FANTASISTA≫のNO.1はアンがなるはずだった。絶対にアンがなると信じていた。そのアンの抜けた穴を埋めるようにNO.1になることは、実力でもないし、そもそも納得がいかない。
「わたしはユイカがNO.1になってくれたら嬉しい」
笑顔でアンは言った。フルヤさんも背中を押すような言葉をくれた。
「じゃあ、代わりじゃないNO.1になればいい。周りの誰もを納得させるNO.1になれ。お前にはその実力がある」
「そうよ。ユイカはわたしのライバルだって思ってる。帰ってきたら正々堂々とナンバー争いしたいわ」
2人の言葉は私の胸をいっぱいにさせた。
ここまで言われてやらないなんてない。キャバ嬢としてのプライドをかけて、私は≪FANTASISTA≫のNO.1になる。
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第6話 幻のNO.1(前編) は6月17日公開予定です。
イイネ!
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