目次
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New!!
2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.05.27
第4話 洗礼とジンライム(後編)
お客さんを見送り、更衣室に戻るとヒトミちゃんとリカちゃんが前に立ちはだかった。
「アンタ、ウザイ」
「は?」
ストレートな物言いに呆気にとられる。
「良い子ぶっちゃって」
「え?」
「人の客の財布なんてどーでもいいだろ?! アンタに関係ないし」
「マジ、気に入らない」
責められるも思っていることを素直に口にする。
「わ、私は、お客さまの信頼を裏切れない。大切な部下のことを黙ってるなんてできないわ」
「信頼関係~?! 嘘くさっ!! しょせんはキャバ嬢のくせに。客なんて騙してナンボでしょ? バッカじゃないの?!」
こんなにあからさまに悪意をぶつけられたことは初めてで、私は困惑することしかできないでいた。
反論しない私に2人は言うだけ言って、帰って行った。
その日以来、インターネット上の掲示板に罵詈雑言の悪口を書かれまくり、≪FANTASISTA≫のサイトは大炎上した。
さらに、店内でもお客さんに悪口やらあることないこと言いふらされ、訂正するのに辟易しながら席を回った。予想はしてたけど、悪口はヒトミとリカ始め、ツジ班のキャストからだった。
「外面はいいけどさ、更衣室とか態度スゴイんだよ。ヘアメイクさんとか新人とか顎で使うの! 平気で「死ね」とか言うしね」
「店長や黒服とかにまで色目使うから、マジでウザイ。店内恋愛が得意みたいですよ~」
さらに、キャバクラの口コミサイトの掲示板には、
『自由が丘≪FANTASISTA≫のユイカはアバズレ! ヤリマン!』
『ホスト狂い。色カノのくせにでかい面』
『簡単に枕できます♪ お持ち帰り自由です』
など、もうめちゃくちゃだった。
あまりのひどさに指名客には同情されるものの、他の常連客やフリーのお客には敬遠されてしまう。
いつもの≪笑笑≫でテーブルを叩きながらフルヤさんが激怒していた。
「おかげで指名数は減るし、売り上げも落ちて、とんだ営業妨害だよ!」
売り上げが下がってしまっては、さすがにフルヤさんも黙ってはいられないようだった。
「バイト嬢は怖がって出て来てくんねーし、昔からのお馴染みさんも足が遠のいてる。≪FANTASISTA≫の客がどんどん減ってく現状を黙って見てらんねー」
元凶のツジ班に対抗するべく、古い馴染み客が多いセリナ派とフルヤ派で手を組むことにしたとのこと。
セリナさんもリカちゃんの枕営業でだいぶ指名替えをくらったらしい。
利害が一致して、NO.1からNO.3を抱える最大派閥ができあがった。
すっかりできあがった派閥で、お客の取り合いや中傷合戦などの争いに複雑な心境しか持てなかった。
巻き込まれてもたいして抵抗もできずに戸惑うしかできなかった。
「最近マジ調子とか悪いん? ずっと元気ないよな?」
広川さんに言われてハッとした。営業中で指名の席だというのに、笑顔が消えてしまっていた。
「ご、ごめんなさい」
「いや、いいよ。無理に笑うことないし。休みほとんどないし、疲れたまってんだろ? オレの席では無理しなくていいから、のんびりしてな。ジンライムお代わりするか?」
広川さんは長距離トラックの運転手で、来店は月に1~2度だった。ちょっとヤンチャ系で女の子を口説くよりも楽しく盛り上がって飲みたいタイプなのに、沈んでる私を気遣ってくれる。
「ふふふ。広川さんの席って、キャストが付きたい席No.1なんですよ」
「なんだ、それ?」
「広川さんって愚痴ったりお説教したりしないし、楽しく盛り上がる席じゃないですか。いつも楽しいお酒が飲めるから、みんなこぞってヘルプに入りたがるんです」
「ただオレが楽しく飲みたいだけなんだけど……」
褒められたのが恥ずかしいのか、グラスを一気に空ける広川さん。
「私、幸せ者ですよ。そんな広川さんにご指名いただけて」
まだこんなに素敵なお客さまがいる。
派閥争いなんかで落ちこんでる場合じゃないなと思えた夜だった。
半月ほど経って、九州まで仕事に出掛けていた広川さんがお土産を持って遊びに来た。
「よ! ユイカ! 今日は土産あるぞ。本場の博多明太子。うまいぞ~!」
「やった♪ 明太子、大好き! 私、めっちゃ辛党なんですよ。ありがとうございます♪」
さっそく席で箱を開けると、ぷりっぷりの明太子がキレイに並んでいた。
「うわ~、美味しそう……。これは白いご飯が欲しいですね! オーダーあるかな?」
「おお! 頼め頼め」
特別に白米だけもらうと、明太子を一本乗せてかぶりつく。
「どうだ? 辛過ぎないか?」
広川さんはちょっと心配そうに聞いてきた。
「美味し~!!」
感激の美味さに思わず叫ぶ。
「辛味ちょうどいいよ。バッチシ! 私にはちょうど良い辛さです。もう最高~!」
親指を立てて”グゥッ“とポーズを決める。
「そりゃ、良かった。実は惚れ薬入りなんだけど、気付かなかったか? な~んちゃって!」
ふざけた広川さんが舌を出した。
「惚れ薬? やだ~、広川さんてば」
冗談のつもりだったかもしれないけど、私はこの”惚れ薬“にすっかりハマってしまったようだった。
広川さんの気遣いや優しさにお客さん以上の好意の気持ちがわき上がっていた。
翌日、広川さんと初めて同伴することになった。連チャンでお店に来ることはない広川さんなのに、お願いしたらすんなりOKを出してもらえたのだった。
駅前のロータリーで待ち合わせる。
「せっかくのお休みなのに、わざわざ出て来てもらってありがとうございます」
喜んでいるだけじゃダメで、ちゃんと気遣わなくちゃいけない。
お礼を言うと、広川さんが照れながら自虐的に返してきた。
「いいんだ。どうせ休みったってゴロゴロ寝てるだけだしな。彼女もいねーし。ははは」
自虐気味に笑う広川さんの「彼女ナシ」発言にドキッとした。
「え~、広川さん、こんなに素敵なのに彼女いないんですか?」
「月の半分も家に帰れない男と付き合う物好きな女なんていねえって」
キャバに通う独身のお客さんには大半が恋人ナシだけど、お客さんはお客さんだからどうでもいいことだった。それなのに、私は広川さんの言葉にはなぜだか嬉しくなってしまっていた。
「じゃぁ、今日は恋人気分でデートですね♪」
「お、おお! それ、いいな。遠慮せずに甘えてくれ! まずは飯だな!」
「中華にしません? 私、行きたいお店あるんです」
「よっしゃ! じゃあ、レッツゴー♪」
「ゴー♪」
広川さんの腕を引っ張って歩く。照れながらも嬉しそうな様子に私まで嬉しくなったのだった。
同伴の翌日、広川さんの貴重な3連休の最終日にまた来店してきてくれた。
しかもプレゼントまで持って……。
「同伴すごく楽しかったからお礼にな。 あんなにドキドキしたのは久しぶりで、帰ってからもなかなか寝れなくてさ」
恥ずかしそうに笑う広川さんがすごく好きだと思った。
「良いんですか? ありがとうございます」
紙袋から出てきたのは、ラッシュのバスボムの詰め合わせだった。
「わ! ラッシュだ~♪ 私、これ大好きなんです! 嬉しい!!」
「半身浴が趣味だって言ってたからさ。風呂のお供に良さそうだと思って。人気の店らしいし」
「そうなんですよ。超、女の子に人気のブランドです。よく知ってましたね~。ありがとうございます。超嬉しい~♪」
はしゃぎながらバスボムの香りをかぐ。広川さんの熱い眼差しを感じながら……。
「私、広川さんとお付き合いすることになったの」
出勤前にSOUで軽い夕食をしながら、アンに報告した。
「マジ?! そんな素振りなかったよね?! つか、いつの間に?」
うろたえるほどに驚くアンに正直に答える。
「ん~、昨日かな。お付き合いすることが決まったの♪ アンには一番に報告したくって」
「……そういえば昨日、広川さんと同伴だったね。しかもオーラスで」
「うん。帰り際にね、告白してくれて……」
「お客だけど、いいの? もう店には……?」
「来ると思うよ。派閥でモメてるから心配なんだって。だからなるべく来てくれるって」
幸せそうに言う私に、アンは「しょうがないな~」って顔で言った。
「わたしも、指名ときどきもらったけど、イイ人だよね。ストレートすぎるくらい正直で」
「だね。実は、いきなりプロポーズされたんだけど」
またしても爆弾発言だったみたいで、アンはふたたび目を大きく見開いて聞いてきた。
「プロポーズ~?!」
「うん。付き合うの通り越してプロポーズ」
思いだすと笑ってしまう。私は笑いながら続けた。
「いきなり結婚とか言うから、まずは結婚を前提にお付き合い……ってことで始まったの。悪い人じゃないなって思ってたけど、付き合うとか結婚とか考えたことなかったから、すごく驚いたけど……OKしちゃった」
落ち着いたアンも苦笑いしている。
「広川さんらしいちゃ、らしいけど。ユイカはどうして結婚してもいいって思ったの?」
「……今まで本気でぶつかってきてくれた人なんていなかったから。お客さんでもそうじゃなくても。遊び相手とか愛人とか、そんな薄っぺらい関係じゃなくて、私を心から求めてくれてるんだって感じられて……。私もそんな人を探してたって思って」
「ごちそーさん」
「やだ、ノロケみたいで恥ずかしい!」
「ていうか、完全にノロケじゃん?」
アンに言われて恥ずかしかったけど、でも、すごく自然に笑顔になれていた。
「下心がなかった広川さんの勝利だね。それにしてもいきなりプロポーズだなんて、やる~。カッコイイ」
「ふふ、玉砕覚悟だったって言ってたよ。だから、OKしたときもすっごく驚いて」
「広川さんリアクション大きいからね。目に見えるわ。泣いちゃわなかった? 涙もろい人だし」
「泣いてた」
「やっぱり~?!」
「あはははは」
しばらく2人で笑い合った。そして、真面目な顔になって言った。
「だいぶお金は貯まったし、実家も落ち着いてるし、キャバ嬢に未練はないから……。もし、結婚することになったら彼についていくね。保育士に戻って働こうと思う」
「……うん。寂しいけど、応援する」
「私も寂しい……けど」
「今日のユイカの笑顔が出会ってから一番キレイだよ」
アンにそう言われて、思わず涙が出そうになった。
「アン~。やっぱ辞めるの止める~。アンと離れたくないよ」
「なに言ってんの。まだ結婚はしばらく先でしょ? それまではずっと一緒だよ」
そうだった。結婚はとうぶん先なのだ。辞める前にしっかり稼がないと。
隣のアンの手を握り。ジンライムを飲み干した。
「今日は飲もう! 私に驕らせて!」
「しっかり、驕られますよ。あ、でも潰れないていどにね。このあと仕事なんだから」
「そうだった~。いやーん。休んじゃおうか?!」
「来店予定あるからダーメ」
「あ、私もだ」
「ギリギリまで飲もう。ユイカの婚約にカンパーイ!」
「きゃっ、婚約?!」
「おめでと」
「ありがと」
幸せ絶頂の私はアンの幸せも心から願わずにいられなかった。
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第5話 ロストワールド(前編) は6月3日公開予定です。
イイネ!
19人がイイネ!と言っています。
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