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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>キャバ嬢NO.1>第10話 花も嵐も(後編)
小説タイトル
イラスト:黒埼 狗

作者情報

森山まなみ
湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/

小説タイトルキャバ嬢NO.1【完】 更新日時2013.08.19

第10話 花も嵐も(後編)

頭の先から、指先、足の先まで美しさと自信に満ち溢れ、キラキラ光ってるキャバ嬢たち。≪club de bloom≫で出会ったキャバ嬢は、今まで見てきた可愛い子や綺麗な人とは段違いでレベルが高かった。
そんなすごいメンバーの中、自分のスタンスを確立するまでは本当に険しい道のりだったと思う。

厳しい歌舞伎町のキャバ業界で奮闘する私たちに、担当のフルヤさんは出来る限りのアドバイスやサポートを惜しまなかった。いっぱい意地悪も言うけど、優しくて頼りになった。
「今が踏ん張りどきだ。絶対に数字はついてくるからクサんなよ。お前は絶対に売れる!」
頑張りが空回りばかりで凹んでたとき、指名がなくてお茶を引きそうで焦ってたとき、いつもフルヤさんが相談に乗ってくれた。努力を見ててくれて、認めてくれてる人がいる。それだけでもすごく嬉しくなる。絶対に見捨てないって言ってもらえるだけで安心して救われたキャストがどれだけいただろう。
フルヤさんがいなかったら今の私はない。それだけは断言できる。


☆★☆
光があちこち反射して、フロア全体が輝いているようだった。銀座の松屋屋1階のアクセサリー売り場をアンと練り歩く。華やかな場所では自然と気分も上がるから不思議だ。
「娘の誕生日プレゼントの買い物代行を頼めないか? いつもは秘書に選んでもらっていたんだが、高級ブランド品は友達との間で浮くから嫌だって言うんだ」
VIPルーム常連の代議士の先生からのお願いだった。
「ハイブランドが嫌なんて親孝行なお嬢様ですね。きっとしっかりしてらっしゃるんでしょうね」
「いやいや、二十歳になってもまだ子どもだ。周りに合わせないと不安だなんて。まあ、年齢的にはユイカに近いから、ユイカのセンスに任せる」
「承知しました!」
予算5万円というところを高級品NGなら2万円くらいでと、了解を取り付けてやってきたのだった。
お店以外でお客さんのためにプライベートを割いて動く。以前なら考えられないことだったけれど、今は自分ができることなら何でもしたいと思えたし、行動も苦にならなかった。

「言いたかないけど、あの戦略はナシですよ。私ならもっと確実なところを狙います。例えば御社の……」
フリーでコンサルタント業をしている大庭さんは、接待でよくVIPルームを使っている。相手はいつも上場企業の役員クラスばかりで、業績や戦略など外に漏れてはマズイ話が多い。指名された私もヘルプでつくキャストも会話に入ることはめったになくて、ただ花としての役割をこなすだけ。
「ユイカみたいに口の堅い人間ってのは貴重だよ。キャバ嬢として仕事ができるってこと以上に、僕たちには助かるし、ありがたい」
守秘義務ってわけじゃないけれど、仁義としてお客さんの話題を外ですることは絶対にしなかった。
そうやっていつの間にか、VIPルーム常連のハイレベルの指名客が増えてた。

☆★☆
復帰したのは月の半ばの14日だった。その日から31日までは毎日ダントツで売り上げトップが続き、「これはもしかしたら……」とフルヤさんが鼻息を荒くしていた。
でも、当の私はすでにNO.1の座にこだわりはない。
復帰してからというもの、今まで以上にお客さんが求めていることをより考えるようになっていた。
1人1人のお客さんを大切にしたい。そんな思いが強くなっていた。話をよく聞き、人として向き合い、心に寄り添う。保育士のとき、子どもたちに接していた感じに近い気がした。
NO.1になるためにお客さんに来てもらうという意識もなくて、シンプルで落ち着いた接客は、自分の心にも優しくて、不思議と疲れもあまり感じなくなっていた。
フルヤさんはそんな私を変わらずにサポートしてくれて、意識せずにNO.1に迫っているという現象を楽しんでいるようだった。

そして、31日分の集計が出た翌朝、月間ベストオールの表を持ってフルヤさんがマンションに来た。
「ユイカ! NO.1だ!!」
NO.1 ユイカ 指名数82 売上2,023万
NO.2 アン  指名数121 売上2,008万
数字を見るとアンとのトップ争いの末のNO.1だった。
「あら残念。あと1人2人の来店で抜けてたわね」
そう言うアンだけど、表情はちっとも悔しがってない。
「おめでとう、ユイカ」
「ありがとう。フルヤさんもありがとうございました。でも、私がNO.1だなんて本当に?」
がむしゃらに目指していたときは遠かったNO.1。気を楽に持てるようになった途端、たどり着けてしまうなんて。
もちろん嬉しいけれど、ガッツポーズを取るような力強い喜びじゃなく、心の底からじんわりと暖かくなるような嬉しさだった。
「全てはお客さまのおかげですね。たくさんの方がお祝いに駆け付けてくれて、たくさんの新しいご紹介をいただけたから……」
「そうだな。それと、指名客の8割以上がVIPを使うほどのお客さまっていうのも勝因だ。ユイカは客単価がズバ抜けて高いんだ」
「ああ、そう言えばVIPルームにいることの方が多いわよね」
2人の分析には、なるほどと納得することばかり。
VIPルームは1時間ごとに部屋のチャージがかかるから、必然的に料金も上がる。でも、高いお酒やフードやドリンクをお願いすることのない気楽さの代わりに、お客さんと自分の関係性よりもお客さんのためだけに気を配ることが大切だった。
余計なサービスなんていらなくて、大きなリアクションも必要ない。お客さまが落ち着いて楽しくさえ飲めれば良いとする私なりの営業スタイルが功を奏した瞬間だった。

☆★☆
ヤマトとミヅキちゃんの結婚披露宴に、≪FANTASISTA≫と≪club de bloom≫のフルヤ班キャスト大集合で出席した。もちろんフルヤさんも上司として招待され、挨拶まで頼まれた。
会場は港区のオークラホテル。ミヅキちゃんのお腹が大きくなる前にと、汲沢さんのコネで急きょねじ込んでもらったらしい。
親族以外の出席者はホストやキャバ嬢ばかりという、違った意味で華やかな招待客を見てるだけでも楽しい披露宴なのに、新郎のヤマトもいっしょになってゴールデンボンバーを踊るというパフォーマンスで大いに盛り上がった。
「華やかに着飾ってお金をもらえるキャバ嬢の仕事は嫌いじゃなかったよ。口説かないお客さんは好きだし、ユイカちゃんみたいな友達ができる楽しさも知ったしね。そもそも資格ない、取り柄ないあたしなんて、キャバ嬢ぐらいしかできないんだけど」
ミヅキちゃんは笑ってぺロリと舌を出して続けた。
「でも、この世界から連れ出してくれる人がいるなら、いつ辞めてもいいって思ってたのも本当なんだ」
隣のヤマトを見つめるミヅキちゃんは今までで一番キレイだった。
「ミヅキちゃんなら分かってると思うけど、ヤマトって強引でオレ様に見えるけど、本当は優しい人だもん。絶対にミヅキちゃんを幸せにしてくれるよ」
「うん」
「任せたよ! ヤマト」
「おう、言われなくても!」
結婚で≪club de bloom≫を退店するミヅキちゃん同様に、ヤマトもホストとしてはもう店に出ないとのこと。
「これからは≪home sweet home≫の内勤をしてもらうから。僕の会社の役員としてね」
汲沢さんがついていればヤマトの仕事の方は安心できる。2人を見つめていると汲沢さんが言った。
「結婚したくなった? 僕ならいつでもOKだよ。玉の輿どう?」
「財産目当ての女は嫌じゃなかったんですか? それに私とじゃ身分違いだし」
冗談で返すと意外な言葉が続く。
「ユイカちゃんならそれでもいいよ?」
「え?」
「愛人の子どもに身分なんて関係ないし、ユイカちゃんなら財産食いつぶされてもいいよ。ま、それは絶対に大丈夫だって信じてるけど」
まさかキャバ嬢相手にプロポーズなんてありえない。
「ゆっくり見極めてくれればいいよ。僕は本気だからね」
驚いている私にニッコリと笑って汲沢さんは新郎のヤマトにちょっかいを出しに行った。

「特大のエースはお前にマジだったか」
振り返るとフルヤさんがシャンパングラスを片手に立っていた。
「聞いてたんですね。悪趣味ですよ」
「つか、オレは同じテーブルだっつーの。おかげでなかなか席に戻れなかったし」
披露宴は≪club de bloom≫の定休日だったおかげで、フルヤさんも仕事を気にせずにがっつり飲んでいる。
「適当に世の中渡ってるヤツが多い中で、流されたり、ごまかしたりしないでまっすぐ生きてるユイカだから、惚れるのも分かるけどな」
「なんですか、フルヤさんまで。褒めたって何も出ないですよ」
すでにかなりアルコールが入ってるらしい。いったい何杯飲んでるんだか。
「オレだってユイカが好きだつーの……」
ブツブツと呟く声が聞こえてしまった。
「はい?!」
びっくりしてフルヤさんの方を向くと、また別のテーブルへ行ってしまっていた。

お客さんと担当黒服という、思いがけず2人の男性からの告白を受けて正直戸惑いしかない。
お客さんの広川さん、同業のタカオ。どちらとも上手くいかなくて破局はトラウマになった。
フルヤさんに対して淡い恋心を持っていても、店内恋愛禁止だから打ち明けることは考えていなかった。それ以前に、誰かと付き合おうっていう気持ちはまだなかった。
押し付けや一人よがりにならないように想い続けることは難しい。伝わらない想いなんか意味ナイって泣いたこともあったけど、今は相手が存在してること、それだけで嬉しかった。
幸せに笑っててくれれば、それでいい。

☆★☆
復活から10ヶ月。毎月のように入れ替わっていた≪club de bloom≫のNO.1の座に依然として居座っていた。自分は何も求めず、過剰な自信もついていないのに。
「私の売り上げの半分は汲沢さんのおかげなんですよ。でも、いつも来てたら怒られたりしません?」
またしてもキャバ嬢らしからぬ心配をしてしまう。
「はは、僕はお金を遣うのが仕事だから大丈夫。本当なら毎日ユイカちゃんに会いに来たいくらいだけど、仕事が詰まっててさ。誰にも邪魔されない、見つからない≪club de bloom≫のVIPは接待にはちょうどいいんだ。ここでまとめた商談の規模は“億”じゃきかないよ。僕の方が助かってる」
「そう言ってもらえると気が楽です。一応お役に立ててるみたいで」
今日も汲沢さんは3人の男性を相手にプレゼンらしきことをしていた。お連れの男性を合わせた4人分の指名が私に4名一発として成績になる。
しかもなぜか≪home sweet home≫の飲み会や打ち合わせでも来ていたし、汲沢さんは本当に特大のエースとして活躍してくれた。

「ユイカ、久しぶり♪」
ときどきはヤマトもいっしょに来て、再会を楽しんでいた。もちろんミヅキちゃん公認で。
「ミヅキちゃんとベビーはどう? 元気してる?」
「ああ、毎日腰が痛いだの、腹が痛いだのって騒いでるからマッサージしてやってるよ」
「わお、優しい~。体調良いときにでも会おうねって伝えておいて」
「食事でもセッティングする? オークラのレストランなら個室いつでも用意できるし」
汲沢さんの提案に遠慮もないヤマト。
「お、いいね~。頼むわ」
「了解」
条件が合うからいっしょにいるなんて、危うい関係に見えるかもしれないけど、私にとってお客さまの都合が最優先事項だった。
汲沢さんは料金にどんだけ払っても、店や私に対して傲慢になることはなかった。特別な一族の人間の1人として、スマートにお酒を飲むこともマナーのうちなのかもしれない。
どこを切り取ってもお手本のように行儀のいい汲沢さんに、魅かれない方がおかしかった。感情と本能で求められたいと思うことは、キャバ嬢としては失格なのに。

汲沢さんへの想いが膨らんでいても、ずっと胸に秘めてきたフルヤさんへの想いもまだちゃんとあった。お互いの存在に感謝しあうNO.1キャストと担当黒服という理想の関係をキープしていることで、フルヤ班の強い絆として周りからは感心されるほど。

店内恋愛禁止を守って封印していたフルヤさんへの想いは、24歳のバースデーに思わぬ告白を受けた。
「オレ、新宿の本社勤務に異動になった。もう担当としてはお前を守れないな……」
「フルヤさん、寂しいです」
いつも店内で振り向くといたフルヤさんがいなくなる。そう考えたら寂しさで涙がこぼれそうになる。
「そろそろ見守るだけの愛から卒業しようと思う」
「はい」
「これからはお前と一緒に生きていきたい。ずっとそばにいてくれるか?」
すごく嬉しくて、たぶん欲しかった言葉なのに、即答はできなかった。

汲沢さんもフルヤさんも私を焦らすことなく見守ってくれる。
私は、2人の間で自分の気持ちが分からなくなっていた。
でも、遠くない未来に選ばなくちゃと思っている。花も嵐も乗り越えて、私が新しい夢に向かう前に。

二宮ユイカ、≪club de bloom≫NO.1。眠らない街、歌舞伎町で私は生きている。

Fin.

【完】

■注意■

  • ●この小説はすべてフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
  • ●この小説の著作権は「ポケパラ」にあり、無断転載(部分引用含む)は禁止です。
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