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New!!
2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.04.22
第2話 嬢デビュー(前編)
とうとうこの日がやってきた。≪Club rich≫のあるビルが近づくにつれて、だんだん鼓動が速くなる。
約束は6時。10分前にビル前に着いたときには緊張MAXで武者震いがした。
「吐き気してきた……」
「なんだ風邪か?」
「わあ!!」
突然うしろから声を掛けられて思わず叫んでしまった。
「こ、こんばんは。お疲れさまです。いえ、風邪じゃないです。緊張しちゃって……」
「面接っつても形だけだから心配いらないのに。今日は体験入店も兼ねるけど、何時までOK?」
高校の卒業式翌日に店に見学に来て、すぐに働くことを決めた。そして今日が初めての出勤だった。
「自転車だから特に何時でも……」
「そう? でもまあ初日だし、10時までにしとくか」
「はい」
≪Club rich≫はビルの3階。エレベーターを降りると目の前にすぐ店の入り口がある。
エレベーターのドアが開くと、店前にスーツ姿でインカムを付けた男の人がいた。
「おはようございます。代行」
「んー、お疲れ。今日からヒナタ入るから。開店時間までに準備と説明、間に合うか?」
呼び捨てにされて少しドキッとする。
「大丈夫じゃないですか。未経験なんですよね? システムとか仕事内容とかだいたいの話しときますね」
「頼む」
「はい」
2人のやりとりを隣で黙って聞いていたら、物腰の柔らかいその男性が私をまっすぐに見つめて言った。
「初めまして。チーフのアラキです。ヒナタさんを担当します」
「三宮日向です。よろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
「分からないことだらけなんですが……がんばります」
アラキさんは優しい笑顔で頷いた。
「何とかなりますよ。あとは向き不向きの問題ですから。まあ、とにかくがんばりましょう」
「はい!」
「じゃあ、ヒナタ。あとはアラキと細かい打合せとかもろもろやって」
「はい」
キタガワさんのお店で働くことになって、コンビニのときみたいに優しいだけの対応じゃなくなった。
みんなの手前もあるから、ひいき目にもできないと言われていた。少し素っ気ない感じに寂しさを感じつつも仕方ないと自分に言い聞かせた。
「ありがとうございました」
手をヒラヒラ振って、キタガワさんはまたビル前の定位置へ降りて行った。
「ヘアメイクさんもう入ってるので、先にセットしてもらいましょう。打合せはその後に」
「はい」
一番乗りでヘアセットをしてもらう。簡単なセットくらいは自分でもやるけれど、キャバ嬢仕様のヘアはまるで違った。
「ボブだから盛りが少ないけど、新人らしくていっか♪」
ヘアメイクさんはそう言ったけど、大きすぎるくらいだと思った。
「うわ~……。すごい」
「そう?」
「はい。こんなに膨らませたことないです。頭大きい……」
「あはは、確かに大きく見えるかもね。でもそのぶん顔が小さく見えるのよ」
キャバ嬢の盛りが大きい理由をヘアメイクさんが教えてくれた。そう言われれば、そうかもしれない。
大きく盛ったヘアにヘアメイクさんが一緒に選んでくれたドレスとサンダル。自分では絶対に選ばない鮮やかなピンクのドレスを着て、華奢なフォルムに大きなストーンがゴロゴロ付いてるサンダルをはいた。鏡に映る自分はまるで別人のようだった。
ホールに戻るとアラキさんが聞いてきた。
「気分はどうですか?」
「……いちおうキャバ嬢っぽくなった気がします」
そう答えるとアラキさんは微笑む。
「キャバクラで働く女性はビジュアルも大事ですからね。常に可愛く、美しくを心がけてくださいね」
「はい!」
アラキさんの言葉に背筋が伸びる思いだった。打ち合わせ中もずっと姿勢正しく聞いていた。
「はい、これ名刺ね。本当に本名のままで良かった?」
源氏名は『ヒナタ』。
別の名前なんか思いつかなかったし、呼ばれても反応できそうにないから本名のまま。しゃれた源氏名なんて恥ずかしくて付けれないと思っていた。
イベントやシフト、知っておいた方が良いことなど、アラキさんに30分近くレクチャーしてもらう。
「分からないことはその都度聞いてもらっていいからね? あいまいなままにしないこと」
「はい!」
必死でメモを取りながら頷く。
終わった時には開店5分前で、ホール入り口の待機席には今日出勤のキャバ嬢が勢ぞろいしていた。
「お、おはようございます」
小さな声で挨拶して一番隅っこの席に座る。待機中の子は目の端でチラッと見るくらいで、私にはほとんど無関心だった。みんなケータイをいじることに忙しくて、それどころじゃない。
待機中にはメールで営業をかけるのがキャバクラの常識みたいだった。
こんだけのキャバ嬢が揃っているのを見るのは初めてで、その華やかさと迫力に、自分は場違いじゃないかと思ってしまう。もともとない自信がさらに吹っ飛んだ。
『やっぱり無理です』
ついキタガワさんにメールしてしまった。
『みんなキレイすぎます。私なんて場違いです!』
こんな人たちの中で私が張り合えるわけない。
メールして5分もしないうちに、なぜかタカオさんがやってきた。
「ヒナちゃん! 良いじゃん。めっちゃ可愛い!」
こんなに褒められるなんて人生初かも? タカオさんは苦手だけど褒められるとやっぱり嬉しい。
「……ありがとうございます。今日は店内でお仕事なんですか?」
「いや、オレはスカウト専属だから外なんだけよね。ヒナちゃんが今日からだって下でキタガワさんに聞いてさ。見に行ってもいいってお許しが出たから」
いつの間にか呼び名が“ヒナちゃん”になってた。
「キタガワさんが?」
店長代行が新人のためにわざわざ上がるなんておかしいからタカオさんを寄こしたのかな? これも気遣いだと解釈することにした。
「それにしても化けたね! やっぱオレ、見る目あるわ~。スカウトは天職だな。チーフもそう思わないっすか?」
タカオさんはホールを動き回りボーイに指示を出してるアラキさんを捕まえて聞いた。
「そうですねぇ。ヒナタさんに関してはなかなかの眼力だと思います。でも他は……アリとナシと5分5分くらいですかね。年確をもっとちゃんとやってくれたらいいんですけど」
「プッ」
前にもキタガワさんに言われていたことを思い出して笑ってしまった。
「笑ったな?」
タカオさんに軽く睨まれる。
「ご、ごめんなさい」
「いーや、それでいいんだって。キャバ嬢は笑顔が基本だからな」
人差し指を頬に当ててスマイルマークみたいに笑うタカオさん。真似して私も、にぃーっと口角を上げた。
「そう、笑って、笑って! オレのスカウト力を証明してちょーだい」
そう言えば、タカオさんが声を掛けてくれたから、私はキャバ嬢のバイトを考え始めたんだ。
「今日上がったら飯行こうよ。入店祝いにご馳走するし!」
キャバ入店を決めたのはキタガワさんと話してからだけど、きっかけをくれたのはタカオさんだと思ったら、ついOKしてしまった。
「遅くならないなら……」
「よっし!」
ガッツポーズするほど喜んでくれて、タカオさんはまた外に出て行った。
「そろそろお客さんに付いてみましょう」
「は、はい!」
アラキさんに言われて待機席を立つ。笑顔をキープするも、ひきつっているのが自分でも分かった。心臓がバクバクする。
そんな私を見かねてか、アラキさんが鏡張りの壁を指さして言ってくれた。
「ヒナタさんの今の姿をよく見てください。立派なキャバ嬢ですよ。最初から自信がある子なんていません。ここからスタートして輝き出すんです。もちろんヒナタさんも」
鏡に映る自分を確認する。そしてホールを見渡した。大きく息を吸う。
「行きます」
「今日からの新人、ヒナタさんです」
紹介されて席につく。
「こ、こんばんは! ヒッ、ヒナタです。よろ、よ、よろしくお願いします」
落ち着こうとすればするほど緊張してどもりまくる。手や足、声まで震えていた。
「あはは、テンパってる? 初仕事って緊張するよね~。でも大丈夫だよ。楽しく飲も♪ ね~、トシさん」
ヘルプで付いたのは姐御っぽい雰囲気のアキさんの席。お客さんも優しくて、なんとか初めての席をこなすことができた。
待機席に戻ってメモを取っていると、隣に座っていた子が話しかけてきた。
「あんた真面目なんだね」
「初心者だから……。覚えることたくさんだし、忘れないようにって思って」
こんなにキャバ嬢の仕事が大変だとは思ってもみなかった。華やかだけど気を遣わなくちゃならないことがたくさんだった。
「えー?! キャバ嬢なんて楽な仕事じゃん~」
「楽?!」
ミユウをもっと派手にしたみたいなギャル系の彼女の言葉に驚く。
「酒も男も大好きだし、ちょろいもんだよ。あたし、カオリ。あんたは?」
「ヒナタです。楽だって思えない私には向いてないのかな……」
気弱なことを言う私にカオリは興味を持ったみたいだった。
「へー。キャバなんて誰にでもできると思ってたけど、そうじゃない子もいるんだね」
それ以来カオリは何かと声を掛けてくるようになった。
たった3時間の体験入店なのに、ものすごい疲労感だった。
ぐったりしてビル入り口まで降りると、タカオさんがキタガワさんと談笑していた。
「お疲れ!」
「お疲れさん」
2人の顔を見ると、少し安心するのはなぜだろう。やっと自然に笑顔になれた。
「ヒナちゃんの入店祝い行くんすけど、キタガワさんもどうすか?」
「んー、これから人と会う約束があんだわ。今日は2人で楽しんできな」
キタガワさんが来れないのは残念だけどお仕事じゃしかたない。
「そっすか。じゃ、行ってきます」
「あ、タカオ。これで」
キタワガさんは内ポケットからお札を出してタカオさんに渡そうとした。
「いいすっよ~。オレがご馳走したいんすから。カッコつけさせてくださいよ~」
拒否った姿になんだか好感を持ってしまう。
「悪い、悪い」
笑いながらそう言ってキタガワさんはお札を引っ込めたのだった。
出会ったときの印象は最悪で、チャラいイメージしかなかったタカオさん。
意外にも仕事に対する姿勢は超真面目で、的確なアドバイスをしてくれる。何かと気にかけてもらっているうちに、私にとってもタカオさんが気になる存在になっていた。
≪Club rich≫はエリアでは人気のキャバクラだけれど、ローカルな中核都市だけにアットホームなお店だった。お客さんも地元の人が多くて、働くキャバ嬢や従業員とも元々の知り合いという人も少なくなかった。
「お腹空きません? ご飯行きましょう。焼き肉がいいな~」
営業後のアフターは大人数でぞろぞろと食事に行ったり。
「酔いがさめるまでカラオケ付き合って♪」
「えー、酔いざましなら岩盤浴っしょ?」
「マッサージで癒された方が良くない?」
なんて、田舎ならではの車社会らしい色気のない付き合いがあったり。
キタガワさんの言ったように≪Club rich≫にはイジメもなくて、いい雰囲気で仕事ができていた。
とくにカオリとは、“相方”なんてニコイチで扱われるくらいいっしょだった。
「ナオさんが海沿いのレストラン予約したからサンセットディナーしようって♪ ヒナタも行こ? もちろんその後は同伴だよ~」
同伴やノルマを厳しくいう店じゃなかったし、自称自由人ギャルなカオリなのに、予想外にも月間同伴トップだったりした。それに私もよくご相伴にあずかった。
カオリ曰く、
「同伴すればタダでご飯も食べられるし、指名だってつくし、お得だよ~。ヒナタも同伴でご飯代浮かしなよ♪」
とのこと。そのアドバイス通り、私も積極的に同伴をして順調に成績を上げることができた。
キタガワさんやアラキさん、カオリのおかげで、あんなに不安のあったキャバ嬢デビューは慣れれば楽しくて、週3回のバイトと大学の両立も問題なくこなしていた。
しかも、ちゃっかり恋愛までした。
相手は専属スカウトのタカオさん。
「キタガワさんなんかに恋しても良いことないからオレにしろ。だいたいもう30だし、子煩悩な親バカ親父だから離婚しないぞ」
私のキタガワさんへの恋心を見抜いていて、その上で告白された。
「……離婚もなにも、気持ち伝える気もないよ。玉砕するに決まってるもん。ただ好きなだけだもん」
そう呟いた私の目から涙が溢れた。
本当はコンビニのバイト時代からずっと好きだった。
キタガワさんがいたからキャバ嬢にもなることができた。
「結婚してても、子どもがいても、好きでいるだけならいいでしょ?」
タカオさんは苦笑しながら私を抱き寄せる。
「バカやろう。そんな辛い気持ちなんか早く捨てちまえ。オレがいるから」
鈍感なふりをしてタカオさんの好意を受け流してきた。
「もうキタガワさんへの想いは捨てていいの? こんな私でいいの?」
「聞くな、バーカ」
「バカだもん」
やっとキタガワさんを諦めて、私は新しい恋をスタートさせたのだった。
「あ、店内恋愛って風紀違反じゃん?! ダメだよ!」
「ヒナ、本当に真面目だな~。オレは専属の契約をしてるだけで≪Club rich≫の従業員じゃないからいいのだ」
「いいの? 本当に?」
厳密にいいのかどうかはもう気にしないことにした。
「オレの娘みたいなもんなんだから、泣かすなよ」
私と付き合うことを報告したとき、タカオさんはキタガワさんにそう言われたらしい。
「ふふ、娘だって」
「コンビニにバイトで入ってきた高1のときから知ってるから、そういう気持ちになったんだろ」
「親心でいつも優しくしてくれたんだね」
キタガワさんは私の気持ちを知っていたのかもしれない。それでも、変わらずに見守っていてくれた。もちろん今も。
「でも、これからはオレが見守るから大丈夫だって言っといた!」
「ありがとう」
短大卒業までの2年間、バイトに学業に恋にと毎日が慌ただしく、あっという間に過ぎていった。
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第2話 嬢デビュー(後編) は4月29日公開予定です。
イイネ!
21人がイイネ!と言っています。
ゆか
(東海)」
「まさ(福岡県)」
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「きくりん@やす(東京都)」
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