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2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.06.03
第5話 ロストワールド(前編)
ギャル向け雑誌『ピンク☆バタフライ』の発売日。たくさんの指名のお客さんが、この雑誌を片手に来店してきた。
「”自由が丘キャバの3TOP!”だって」
「3人とも写真映りいいじゃん~」
「オレ、保存用と2冊買ったから!」
最新号はキャバ嬢特集で、表紙には現役のキャバ嬢が勢ぞろい。
≪FANTASISTA≫からもセリナさんとアン、そして私の3人がカリスマキャバ嬢として澄ました顔で登場していた。
「やだ、広げないでくださいよ~! 恥ずかしいじゃないですか~」
「ここにサインしてよ。ユイカのページ」
「マジですか? 私のサインなんて何の価値もないですよ?!」
照れくさくて自分でもまだ見てないのに、サインを求められるなんて穴があったら入りたいくらいだった。
「アンちゃんもね」
「はいはい」
尻込みする私に比べて、アンはどうってことない感じでサインをしていた。
最初はメディアに出ることを渋っていたにも関わらず、だ。
☆★☆
≪FANTASISTA≫は地元・自由が丘の昔からの常連客を多く相手にしていたからか、メディアへの露出には積極的じゃなかった。
「歌舞伎町や六本木ならいざ知らず、自由が丘じゃ、あまりメリットはないな。一瞬だけ客が増えたってしかたないだろ?」
フルヤさんはじめ、経営側の考えには納得できた。
アンなんて、
「ミーハーで低レベルなお客さんはいらないわ」
とバッサリ。さすがクールビューティーと称されるだけの物言いだった。
それでも、店舗の取材や読者モデルの依頼はちょくちょく来ていたらしく、今回の『ピンク☆バタフライ』の誌面登場に至ったわけで……。
実はこれもツジ派の影響だった。≪FANTASISTA≫は、ツジ派キャストたちの傍若無人な接客のせいで元からの客足が鈍っていた。
「売り上げガタ落ちで、新規開拓せざるを得ない。方針を変えてメディア戦略することになった。NO.1からNO.3までの3人にモデルとして出て欲しい。露出NGのアンには申し訳ないんだが、協力してくれるか?」
「……分かりました。出ます」
「すまん。助かる。ユイカは大丈夫か?」
お店のために自分ができることなら何でもやるつもりだった。それに、単なるキャバ嬢仲間としてじゃなく、もはや親友と呼べるアンとなら、どんな媒体でも心強い。
「やってみます。私で役に立てるなら」
実際に活動をしてみると予想していたよりも本格的なメディア戦略だった。読モとしてファッション誌だけじゃなく、キャバクラ関連のサイトでのグラビアや週刊誌の記事、テレビの企画などなど。
いろんな媒体に出ることで確かに集客にはつながった。でも、お客さんや他のキャストたちの話題の的になっただけじゃなく、妬まれる立場になるということも思い知ることになった。
「“ 癒し系ホンワカ美人嬢・ユイカのハートを掴める男はいるのか?” だって! ホンワカって、抜けてるだけじゃん?」
「きゃはは~! 確かに~」
ヒトミちゃんとリカちゃんが発売されたキャバクラ情報誌を、更衣室で大きな声で読み上げている。
着替えやヘアメイクが済んで準備が終わったキャストは待機席に移動する決まりなのに、2人はダラダラといつまでも更衣室にいた。すでに営業が始まっているにも関わらず、店内には向かわずにノンビリしている。
遅め出勤の私とアンに聞こえよがしに話す。
「つーかさ、プライベートで男いないわけないじゃんね。フツーに考えて」
「あー……、ホストが彼氏なんだっけ? 色カノ? あはは」
「さすがNO.3になる人は違うね~」
「だいたい作り込みすぎだよね」
「実物とギャップありすぎってか? ウケる」
「キレイに修正してもらって記念になったんじゃない? これでいつでも引退できるね!」
「ブサイクだし、ウザイし、早く辞めればいいのに」
ヒトミちゃんとリカちゃんの出勤時間は7時からのはず。更衣室の時計はすでに7時40分を指していた。
いくら店内にお客さんがいないからと言って、勤務中に待機席にいないというのは許されないことだった。
ところが、そんな自分勝手な振る舞いにも、担当のツジさんは注意を全くしないでいた。
「ヒトミ、リカ、フリーに付けるからホールに出て」
こともあろうにわざわざ呼びに来る始末。
「はーい」
2人は雑誌を床に投げ捨てて、バタバタと出て行った。
「……あの子たち仕事を舐めてるわね」
着替えながらアンが言う。8時から出勤の私とアンは7時半過ぎに更衣室に到着していた。
ちょうど“色カノ”のデタラメな噂を2人が口にしていたときで、当の私が登場しても平然と続けていた。
「ホストネタ、久々に聞いたな~。まだ続いてるんだ」
諸悪の根源である彼女たちに自分の噂や悪口の否定したところで、また火に油を注ぐだけ。何も反応しないことが一番だと思った。
「くだらない! あんな態度だからまともな指名も取れないのよ」
私に代わってアンが怒ってくれる。それだけで十分だった。
☆★☆
ツジ班の指名客横取りはまだ続いていて、真面目に接客しているキャストがバカをみることも少なくない。
「半年も営業かけてやっと指名してもらったお客さんなのに!」
「客を横取りするキャストがいる店になんていられません。もう辞めます」
「枕営業で指名とるくらいなら援交でもすればいいのに」
≪FANTASISTA≫のキャスト、店、客のクオリティは下がる一方だった。
ずっとアン一筋で通っていた南さんが、なんとリカちゃんと同伴をしてきた。
2人が並んで入ってきたとき、店内は少なからずどよめいた。従業員も他のキャストも、南さんがもう2年以上も一途にアンだけを指名して通っていることを知っていたからだ。
「い、いらっしゃいませ。指名は……リカさんでよろしいですか?」
付け回しの黒服が確認すると、南さんがバツ悪そうな顔で頷いた。
アンは表情を変えずに普通に座っていたけれど、南さんとリカちゃんを見て私の方が愕然としてしまった。
「南さん、どうして!?」
待機席の横を通り過ぎようとした南さんに、思わず声をかけてしまう。
「ユイカ! いいから」
立ちあがった私をアンが制した。
ショックじゃないはずないのに、アンは強く自分を保っていた。
☆★☆
「石田さん、ご馳走さまでした。今日は同伴からありがとうございました。気をつけてお帰りくださいね」
「こちらこそ、ありがとう。また連絡するから」
「はい。お待ちしてます」
指名の私と場内指名をもらったアンといっしょに外まで見送りに出る。
「ありがとうございました」
ずっと手を振る私たちに、石田さんはときどき後ろを振り向いて手を振り返してくれた。路地を曲がって見えなくなったところで、アンが聞いてきた。
「今夜はどうする? ご飯いく? それとも飲みいく?」
以前から営業後にいっしょに飲んだり食事に行くことは多かったけれど、今日で連続1週間。
いつもは誘っても「たまにはまっ過すぐ帰る」って言うのに、アンの方から誘ってくれていた。
広川さんが仕事で10日間も九州の方に行っているから気を遣ってくれているのかもしれない。
「そーだなー……。 あ! 明日は朝イチで荷物が届くんだった!」
「あら、じゃあ今日はまっすぐ帰りますか」
そういうチョイスもあったけど、せっかくのアンの気遣いを無下にしたくなかった。
「今日は家に来ない? 泊ってってよ。観たいDVDがあるからつきあって♪」
「いいけど、明日の服を借りるわよ。何にも持って来てないから」
「もちろん! 何でも使って♪ TSUTAYAに寄ってDVD借りて~、あ! お酒と肴、買わなくちゃ♪」
「コーヒーの方がいいんじゃない? 最近わたしたち飲みすぎかも」
確かにこの一週間は毎晩けっこうな量を飲んでいた。
「そうだね。さすがに休肝日にしようか……」
「コーヒーとスイーツに決定ね」
店以外でもずっといっしょにいるから、密かにレズ疑惑が流れることもあるアンと私。
「ふふ。こんなに毎晩いっしょにいるなんて、私たち恋人同士みたいだね。だからレズカップルって言われちゃうんだ」
「ま、否定はしないわ」
「しないんだ~!? あはははは!」
「もしかして広川さんよりたくさんいっしょにいるんじゃない? なんか悪いわ~」
心にもない言葉でふざけ気味に言う。
「なんてね。でも、広川さんよりもユイカのことを知ってるって自負はあるわね。マックス超えるとチュー魔の酒乱になるとか」
「キャー! それは言わない約束!!」
「うふふふふ」
私たちはじゃれあいながら店に戻った。
幸せの真っただ中にいた私は、アンの方にもしかして帰りたがらない理由があるのかもしれないなんて考えてもいなかったんだ。
☆★☆
「フルヤさん、ちょっといいですか? 」
真剣な表情のアンにフルヤさんは何か感じたらしい。
「……外の方がいいか?」
「そうですね。できれば……」
「10分くらいアンと出てくる。なんかあったらケータイ鳴らして」
フロントの黒服にそう言うと、開店前の慌ただしい店内を2人は出た。
エクセルシオールは会社帰りの待ち合わせ客で賑わっていた。奥の静かめの席でアンは切り出す。
「……実は、ここのところおかしなことが多くて」
「おかしなこと?」
「はい。……無言電話とか」
お客さんからの電話があるから、ふつうキャバ嬢は非通知設定や知らない番号でも基本的には出る。そんな中、無言電話もないわけじゃない。
「それだけじゃないだろ?」
フルヤさんは何かを感じたらしい。多少のことでは揺るがないりかアンがフルヤさんに助けを求めている。
「誰かに見られてる気がします」
その言葉でフルヤさんは咄嗟にあたりを見回した。
「今も……か?」
「いえ、今日のところは……。それとマンションの郵便受けの中のものが持ち去られているかもしれません。新聞やDMの1枚もないときがあって……」
「それ、わざと痕跡を残してないか? ストーカーにしちゃ大ざっぱすぎる」
「そうですね。DMはともかく新聞は毎日必ず入ってるものですから残すと思うんですけど」
さすがに厳しい顔をするフルヤさん。
「マンションはオートロックだったよな?」
「ええ、一応。申し訳ない程度のセキュリティですけど」
エントランスのオートロックなど誰かといっしょに抜ければたやすく出入りできる。
「1階の通路の壁とかあまり高くなかった気がするな。身軽なヤツなら乗り越えられそうだ……」
「だと思います。なので、ここんところは朝の通勤時間に合わせて帰るようにしています。マンションの住人が動いている時間なら安心かと思って」
自由が丘≪FANTASISTA≫のクールビューティーとして、アンはNO.1のセリナさんよりも知名度も人気も得ていた。古株のセリナさんが馴染みの常連客を優先して、メディア露出を控えているせいもあるけれど、やっぱり容姿やキャバ嬢としての資質はアンの方が上だった。
「メディア戦略の弊害だな……。挙動不審な新規客も少なくない」
「ええ、それと……」
「なんだ? 遠慮なく言ってくれ」
「ツジ班からは目の敵にされてるみたいですね。ヒトミちゃん、リカちゃんはじめ、わたしの指名客が何人も持って行かれています。ツジさんが付け回しの日はフリーに付けません。指名の席への戻し方も不自然だし、色恋で落ちそうなお客さんには必ずヘルプでヒトミちゃんかリカちゃんが入ります」
「明らかに嫌がらせだな。同じ店だっていうのに」
「個人的な営業妨害と言うか……」
アンはさらに続けた。
「店内だけじゃなくて店外での不審なできごとまでツジ派のせいとは言えないんですけど、他に心当たりがなくて」
「≪FANTASISTA≫の最大派閥の中で標的になっちまったか。アンを祭り上げたオレの責任でもあるな」
「いえ、フルヤさんのせいじゃありません。おかしいのはあっちの方ですから」
「あいつら手口が汚なすぎて心底ウンザリする。歌舞伎町でもここまでするのは珍しいってのに」
しばらく考え込んでフルヤさんが聞いた。
「アン、すぐ引越せるか? とりあえず寮に入るか、新しいマンションを探そう。24時間コンシェルジュがいるセキュリティの厳しいところがいい。引越しまではオレが部屋まで送る」
「分かりました。よろしくお願いします」
フルヤさんの送りと引越しが効いたのか、ストーカーらしき行為は治まって収まっていった。
☆★☆
「おはよう! ユイカちゃん」
自由が丘駅の南口改札を出ると、ツジさんが立っていた。
「……おはようございます」
無視することもできず、挨拶だけして前を通り過ぎようとすると、ツジさんが着いてくる。
「なんですか? 待ち伏せとかされる理由が分からないんですけど?」
「冷たいな~。ちょっとくらい話聞いてよ?」
「担当以外の黒服と話すことなんてないですから」
足早に店に向かう私に、ツジさんは班の移動を迫ってきた。
「その担当になりたいんだけど? フルヤなんかよりもいい条件を出すよ?」
キャストの時給や待遇は、ほとんどが担当黒服との間で決められる。よほどおかしな額や条件じゃない限り、経営側が口を出すことはなかった。
もちろん私もいろいろなことをフルヤさんと相談して決めて、≪FANTASISTA≫に入店することにしたのだ。
働く上で条件がいいにこしたことはない。でも、それだけが働き続ける理由でもない。
「そーゆー問題じゃありませんから」
私とフルヤさんの間には確かな信頼関係がある。それが今は一番だと思ってる。
「だいたいさ、バランス悪いだろ? 同じ班にNO.2とNO.3がいるなんて」
「だからってツジさんの班に移る気はありませんから」
きっぱりと言い切ったとき、ツジさんの顔から笑顔が消えた。
「じゃあ、アンみたいに指名を根こそぎ奪ってやるよ」
「なっ……! なに言ってるんですか?!」
「ま、気が向いたらいつでも言ってよ。ユイカちゃんが来てくれれば、勢力も均等になるし≪FANTASISTA≫も平和になるかもよ? じゃ、お先に」
意味深な微笑みでそう言いながら、ツジさんは先に≪FANTASISTA≫のビルに入って行った。
指名客のことといい、ストーカーといい、今まで私よりもアンへの攻撃が多かったのは、ツジ班への移動を断ったせいかもしれない。
そして今度は私……?
背筋がゾクッとした。
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第5話 ロストワールド(後編) は6月10日公開予定です。
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