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New!!
2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.07.29
第9話 LOVE or LIKE(前編)
東京って不思議なところだよな。
憧れてやって来て、いろんなものを得た。
夢だった生活が日常になって、東京にもずいぶん慣れたと思う。
そうやって東京の人になった今は、夢と引き換えに何か失った気がするんだ。
でも、それでも頑張れる街。
まだやっていける。もっとやらなきゃって。
俳優として成功した稲峰さんの言葉に自分を重ねていた気がする。
神奈川の地元から自由が丘、新宿へと思いもよらない展開でここまで来てしまった私。慣れないと言いながら、いつしか溶け込んでいた。そしてまだ高みを目指している。
稲峰さんとは、お客さんとキャバ嬢という出会いをしたけれど、戦友みたいに語り合うことが多かった。
まだ自分に自信を持ててないことや感覚も似ていて、なにより人間として惹かれた。男性として好きっていう感情よりも親愛に近いかもしれない。
たぶん稲峰さんも似たような気持でいてくれたから、私たちはお互いに応援していこうと、リッピサービスじゃなくて約束していたんだ。
☆★☆
“自暴自棄?! 連夜のキャバ遊び!!”
撮られた写真は週刊誌に大きな見出しとともに掲載された。2人の顔はしっかりと写っていて、やましいことはなくても青くなってしまった。
「この目を隠してる黒い線がまたいやらしいよな。こんなんあったって顔モロばれだっつーの」
雑誌を持ってフルヤさんが私とアンのマンションに来ていた。
「これからどうしたらいいですか? お店には出ても大丈夫ですか?」
店名こそ出なかったものの、撮影場所から≪club de bloom≫だとすぐに限定される。その証拠に雑誌の発売直後から、私だと分かった人からメールや電話が鳴り続けた。おかげで営業どころの騒ぎじゃなくなって、不安に拍車がかかった。
ネットを見ながらアンが言う。
「キャスト一覧の写真がかなり流用されてるわね。二宮ユイカの源氏名もしっかり」
メディア展開しているときとは違って、スキャンダル記事は自分の意思じゃない。私たちはどう対応していけばいいのか考えあぐねていた。
「あら大沢社長だわ」
稲峰さんとのことがニュースになっていないかとテレビのワイドショーを見ていたら、事務所前で取材陣に囲まれて大沢社長が登場した。まずは隣の稲峰さんが開口一番「お騒がせしてすみません」と謝罪し、その後は社長の独壇場。
「いや~、あそこは私が通ってる店でして……。お恥ずかしいことに指名している子にべタ惚れで。はは。あ、撮られた子じゃないですよ。あの子も良い子なんですが、私の好みはもっと大人っぽい女性なんで。クールビューティーって言うんですかね。指名嬢は」
デレデレと説明する社長にレポーターは呆れ顔だった。
「稲峰やスタッフをいつも連れて行っとるんです。昨日ももちろん一緒でした。ケガでふさぎこんでるんで景気づけにというか、楽しませてやろうと思って。先に稲峰が出たところを撮られちまいましてね。もうちょっと粘ってくれれば私も出てきたのに」
2人で堂々と出てきたことと社長の弁解が功を奏したのか、稲峰さんへの攻撃はほとんどなく、取材陣は終始笑顔だった。
社長の会見を見ながらテレビの前で私たち3人もつい笑ってしまう。
「あのタヌキおやじ。ダテにプロダクションの社長やってないな。煙に巻いちまった」
「今さらながら感心するわ」
不安解消とまではいかないけれど、おかげでだいぶ気が楽になったことは確かだった。
さんざん心配したけれど、稲峰さんの初事件はこれであっさりと幕を閉じてしまう。
「しっかし、スキャンダル記事が追い風になるなんて、思ってもいなかったな」
記事と社長の会見がお店の宣伝になったらしく、放映後にお客さんが殺到した。
「ユイカだけじゃなくてアンの指名まで増えるっつーのは、嬉しい誤算というか」
「社長があんだけデレデレになって褒めたんだもん。そりゃ、興味でるよね」
しかも、私とアンは2人でバラエティ番組に出演までしていた。事件そのものを扱うわけでなく、話題の人として呼ばれたので、せっかくだからと客寄せパンダ的に出ることに。
良きにせよ悪きにせよ知名度が上がるということは、歌舞伎町のキャバ嬢にとってはプラスになることが多いと知った事件だった。
ワイドショーの放送後には稲峰さんから電話もあり、気が緩んでいたせいもあってつい笑いあってしまう。
「見た?」
「見た見た」
迷惑かけたことを謝ってくれたけれど、そもそも悪いのは稲峰さんじゃない。
「やだ、謝らないでよ。悪いことしてないじゃん。それにしてもさすがだね、社長さん」
困らせるのは嫌だから平気なフリで返した。
「あ、診察結果が出たんだ」
「どうだった?!」
「問題なし。降板もなし!」
「やったー! 良かった~」
スキャンダルされて、さらに降板なんてことになったらと気が気じゃなかったから、心の底から喜んだ。
「舞台が終わるまでしばらく行けそうにないけど……」
「アンと観に行くよ! あ、また写真撮られちゃうかな?」
すでに冗談にできるなんて、私も図太くなったもんだ。鍛えられたというべきか。
「はは。今は人気嬢として追いかけられてるって? バラエティの出演オファーあるらしいじゃん。社長が頼まれたって言ってた」
「本当に? テレビとか恥ずかしくてもう無理だよ~」
「いい宣伝になるよ?」
「ん~、そう言われると弱い……」
「しっかり稼ぎなよ。僕を踏み台にしてさ。ユイカならいくら踏まれてもいいよ」
踏み台だなんて言い方は悪いけれど、チャンスを掴めと言われてる気がした。
「やるだけやってみる。ありがとう」
☆★☆
追い風に乗って、NO.1が夢じゃないところまできていた。
週6出勤で毎日同伴。それでもさすが歌舞伎町一の店だけあって簡単にはNO.1にはなれない。それでも、じりじりと順位を上げて、今やアンがNO.2、私がNO.3というランキングになっているのだ。
舞台が終わったあと、稲峰さんは社長とだけじゃなく、いろいろな人たちとも来てくれている。俳優仲間はもちろん、お笑い芸人、ミュージシャンなど大物から駆け出しの人まで連れてきてくれていた。
会社社長や医者の指名客が多いアンとは対照的で、いつも同時指名や場内指名をもらうアンも楽しそうだった。
「こうやってアンといっしょの席にいると、“コンビ営業”って言われてた自由が丘時代を思い出すね」
「うふふ、そうね。いつも席に呼んでくれる稲峰さんに感謝しなくちゃ」
週明けの月曜からVIPルーム周辺が騒がしい。黒服がドア前に張り付いて完全警戒。ボーイも入らせず、なぜかフルヤさんがオーダーを運んでいた。
ホールでは裏のVIP専用の入り口から誰か大物が来ているとざわつくも、プライベート感が自慢のVIPサロンだけに正体は分からず。フルヤ班からキャストが4人呼ばれ、ドキドキして2階に上がった。
「稲峰さまとお連れ3名さま。ユイカ、アン指名な。2人はヘルプで」
「あ、稲峰さんだったんだ」
名前を聞いて一瞬気が緩む。
「お連れ様はよっぽどのビックネームなんじゃない?」
アンの言葉に再び身が引き締まった。
「失礼します。いらっしゃいませ……」
「こんばんは」
稲峰さんの隣には、さすがに私でも知ってる超人気アイドルが座っていた。
「きゃ! 秦くんだ~」
「ウソ。すごい」
口の堅さで選ばれたヘルプの2人も驚きを隠せないようだった。
「これはこれは、いつに増しての厳戒態勢も納得だわ」
私は稲峰さん、アンが秦さんの隣に恐縮しつつ座った。
「驚いてるね」
イタズラ顔して言う稲峰さんはとても楽しそう。
「驚かない方がおかしいでしょ。国民的アイドルとも仲良しだなんてそれもビックリだし」
「ドラマで共演して以来の仲なんだ。もう4~5年の付き合い」
キャバクラ遊びなんて無縁そうな明るい顔した秦さんにヘルプのサワちゃんが聞いた。
「キャバクラにはよく来るんですか?」
テレビで見る屈託のない笑顔が拗ねたような表情に変わる。
「下手に素人相手に飲み会なんてした日にゃ、何つぶやかれるか分かんねーもん」
グラスのテキーラを飲み干して秦さんは投げやりに言った。アイドルとはいえ確かもう22歳くらいだったはず。
「アイドルとはいえ立派な成人男子なんだし、自由に飲んだり遊び回ったりできないのはストレスがたまるわよね」
アンの言葉に稲峰さんが答える。
「SNSのおかげで最近はどこいっても落ち着かないよ。その点、ここのVIPは誰の目も気にしなくていいから嬉しい」
有名税なんて軽くあしわれるけど、ごく人間的な営みまで奪われるのは本当に気の毒としか言いようがない。
「……それにしても飲みすぎじゃない? 」
テキーラボールですっかりできあがってノリノリの秦さんの口からは、アイドルらしからぬ発言が飛び出した。
「今日ヤレる人~♪」
「はいはーい! あたし!!」
サワちゃんが手を挙げると、負けじともう1人のヘルプのホノカちゃんも言う。
「やだ、わたし!」
「じゃあ3Pかな♪」
「きゃ~~~」
「それは嫌~ん」
2人の肩を抱く秦さんにストッパーの稲峰さんが制止する。
「こら、リョータ! 悪ノリしすぎだぞ。もう帰るか?」
「帰るなんて冗談。夜はこれからだろ~。よし、今度はカラオケ得点勝負だ!」
秦さんは2人をパッと離すと歌本を広げた。
酔っ払っていてもさすがは歌手。秦さんは一度も音を外さずに韓流ヒットを歌いあげた。
「素敵でした。カバー曲を出して欲しいくらい」
「ま、本職だからね。音感には自信あるんだ♪」
アンの褒め言葉に嬉しかったのか秦さんは饒舌になる。
「うちはアイドルだからって口パクなんてさせてくれない事務所だし。けっこう鍛えられてるよ」
「立派だと思います。歌手に俳優にマルチに活躍できるのも事務所がしっかり勉強させてくれるおかげなんですね」
「アンさん、だっけ?」
「はい」
「キャバ嬢らしくなくて面白いね。キャンキャンしてないのがいい。いつもそんなにクールなの?」
秦さんはアンに興味を持ったようだった。
「オレと付き合わない?」
あまりにもストレートな迫り方に唖然としてしまうも、当のアンは平然と切り返す。
「人気絶頂のアイドルがキャバ嬢を口説くなんて、冗談にしてはタチが悪いですよ」
「え~、かなり本気なんだけど? 男と女にアイドルとかキャバ嬢とか関係ないし」
「遊ばれるのは遠慮しときます。だって秦さんすごいモテるでしょう? わたしが本気になっても絶対に捨てられそうですもの」
にっこりと、でもキッパリと断るアンの方こそ、アイドルとか肩書に惑わされたりしないタイプなのだ。
秦さんがアンを口説いているのを隣で聞いていてドキドキしてしまう。でも、いっしょに聞いている稲峰さんは眉間にシワを寄せていた。もしかしたら……という思いがよぎって聞いてしまった。
「アンのこと好きなんでしょ?」
稲峰さんは顔を赤くして囁くような声で答えた。
「彼女は社長のお気に入りだし……。僕はあんなスクープされてしまったし、たとえ好きだとしてもどうしようもできないよ」
私の大好きな2人。アンが稲峰さんのことをどう思っているかは聞いたことがなかったけれど、最初から諦めるなんてして欲しくない。
「私を指名してくれているのに、好きなのは私じゃなくてアンなんだね」
「ゴメン。でも、ユイカちゃんは大切な友達だと思ってる」
「複雑な気持ちではあるけれど、残念とかはなくて、見る目があるなって思うよ」
「そうかな? でも僕がアンちゃんのオメガネにかなうとは思えないけど」
自信家の秦さんとは違って、稲峰さんは人気俳優らしからぬ卑屈さだった。
☆★☆
クールビューティーのアンが私を指名してくれているお客さんに受けがいいように、なぜか私もアンのお客さんには良くしてもらっていた。タイプが違う私たちだからかもしれないけれど、お互いの席でW指名だったり、場内指名をもらいあったりすることが多々あり。
稲峰さんが来ていなくても大沢社長の席には必ず呼んでもらっていたし、逆もそうだった。
しかもアンが大沢社長と同伴の日は、それにも便乗させてもらうことも。
「大沢社長ってオジサンなのに可愛いよね。キャバ嬢に弄ばれて喜んでるドMだけど」
待ち合わせの西新宿のビルまでアンと向かっていた。ホテルにあるチャイニーズダイニングでディナーの約束だった。
「カモられるのに悦び感じてるんですって。相当M度は高いわね。でも仕事はSらしいわ」
「そうなの~?」
「仕事はS、プライベートはMでバランス取ってるって言ってたわ」
「ふーん。稲峰さんは仕事の話しないから知らなかった」
さりげなく稲峰さんの話題をふってみる。
「あらそう? 大沢社長はお酒を飲んでても仕事の話ばかりよ。本当に仕事が好きなのね。それで成功しているし、尊敬するわ」
アンもやりたいことがあってキャバ嬢として稼いでいた。だから、いつも経営者のお客さんの話はことさら熱心に聞いている。それが指名に繋がっているというのもあった。
「稲峰さんも仕事熱心だよ。演劇バカ? お芝居の熱いトークはうざいくらい」
「ふふ、そうね。真剣に向き合ってるのは伝わるわ。役になってるときも素のときも素敵よね」
アンの頬が緩んだことを見逃さなかった。
「稲峰さんのことどう思う? 好き? 嫌い?」
「な、なあに、唐突に? 好きも嫌いもユイカの指名客じゃない。わたしに答える権利はないわ」
「それはこのさい見逃して。稲峰さんはアンのこと好きみたい」
いきなり本題を投げてしまった。
「わたしがキャバ嬢じゃなったら、こんな出会いをしてなかったら、考えたかもしれないけど……。目標金額がたまって、キャバ嬢を卒業して、周りに何も言わせないくらいになったら、そうね」
ここで確信した。アンは稲峰さんを多少なりとも想ってる。
稲峰さんが1人で来たとき、アンと2人きりにする作戦を実行した。
「ちょっと他の席があるから、アンお願いね」
アンも指名がかぶってるはずだけど、あえて別のヘルプを頼まずにいた。稲峰さんの嬉しそうな表情ったらない。アンからも文句が出ないってことは、やっぱりこの2人は両想いに違いないと改めて感じた。
「2人とも素直になって……。アン、じゃないと私、稲峰さん取っちゃうよ」
「ユイカ?!」
動揺して赤面するアンを見て、稲峰さんも覚悟を決める。
「ユイカちゃん、ありがとう」
見つめ合う2人を残し、VIPルームを出た。
アンを取られちゃう気がして寂しさはあったけど、嬉しさの方がずっとずっと大きかった。
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第9話 LOVE or LIKE(後編) は8月5日公開予定です。
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