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2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.04.08
第1話 運命のトビラ
いつもより人の多い金曜の駅前。コンビニ客も絶え間なく訪れる。
「いらっしゃいませ」
「こちら温めますか?」
「ありがとうございました」
学校帰りの5時から10時までがバイト時間。たぶん夕方からのこの時間帯が一番忙しさのピークだと思う。
「日向ちゃん、ドリンクの品出しお願い」
「はーい」
休憩時間なんて取ってる時間もなく、5時間ぶっ続けで立ちっぱなし動きっぱなし。これで時給850円。5時間で4,250円。忙しい金曜の夜なんかにシフトに入ると割に合わない気がする。
バイト終了間際の9時50分。常連さんがレジにやってきた。
「ごめん、万札なんだけど」
毎回そう言って万札を出してくる。ソフトドリンク1本に万札。先週はガムだった。その前は…何だっけ?
常連のその人は、隣のビルのあるキャバクラの店員でキタガワさん。
ベストに蝶ネクタイの店員さんとは違って、スーツ姿でビルの前に立ってる。
駅前の繁華街ど真ん中に位置するコンビニなので、この時間帯は夜のお仕事の人たちが多い。だいたい見る顔の人たちはお互いに知り合いらしく、店内でよく声を掛け合ってるから覚えてしまった。
「9,853円のお返しです」
万札を崩しに来られる度に、絶対にうちのコンビニを両替機の代わりにしてるって思う。まあ、それでもお客さんはお客さんだし、両替のとき以外にも買い物してくれるからしかたない。
商品を袋に入れようとすると、キタガワさんはペットボトルをひょいと持ちあげた。
「袋いいから」
「あ、はい。ありが……」
言いかけたとき、そのペットボトルが目の前に差し出された。
「はい。これ、日向ちゃんに。そろそろ上がりでしょ?いつもごくろうさん」
「……ありがとうございます」
ちなみによくこうやって買ったものをくれたりする。
「じゃ、また明日ね」
その様子を見ていたタカオさんが含み笑いしながら近寄ってきた。
「おはよっす、キタガワさん。なんすか、今度はレジの子っすか? 見境いないっすね」
「ばーか。高校生に手なんて出せるかよ」
「はは。さすがに高校生は口説けないっすか。オレは全然OKだけどどう?」
レジ台にサンドイッチとから揚げを乗せながら笑顔を向けられるけど、答えられるはずがない。
「お前ね~……」
キタガワさんは苦み走った顔で言う。
「日向ちゃん嫌がってるだろ? ほんとデリカシーのないヤツだな。それでよくスカウトやってんな」
「あ、日向ちゃんって言うの? オレ、タカオ。これでもまだ20歳だから。JK大好き♪」
JKって、言い方がキモイ。20歳とかどうでもいいし。
「680円です。箸お付けしますか?」
余計なことには答えずに対応してると、隣のキタガワさんがまた助け舟を出してくれる。
「ホラ行くぞ。それ食うんだろ? 早くしないと女子会帰りのねーちゃん捕まえられないぞ」
溜息をつきながらタカオさんを連れて行ってくれた。
タカオさんは店の前でサンドイッチにかぶりつき、キタガワさんはタバコを吸っている。
たいがいの人は常連さんでもこっちの名前なんて覚えちゃいないのに、キタガワさんは違った。
名札の名字「三宮」と店長や他のバイト仲間が呼ぶ「日向ちゃん」をいつの間にか覚えて呼んでくれるようになっていた。
深夜シフトの人と交代してコンビニを出ると、隣のビル前に2人はまだいた。
「だからお前の連れてくる女は安心できないんだよ。ちゃんと年確しろよな」
「いや~、まさか16歳とは……。やられたっす」
キタガワさんが視線だけこっちに向けて、≪Club rich≫の立て看板に肘を置いてる手をヒラヒラと振った。
ペコリと頭を下げて通り過ぎようとしたら、目ざといタカオさんに見つかってしまう。
「あ!日向ちゃん~。バイト終わり? お、制服じゃん~!リアルJKだったんだ~」
「チッ」
聞こえないように小さく舌打ちする。ウザイから見つかりたくなかったのに。
「さようなら。おやすみなさい」
それだけ言ってまた歩き出すけど、タカオさんはしぶとかった。
「もう帰るの? 金曜なんだし飯でも行かない? 奢るよ~」
人ごみを抜けてから乗ろうと押していた自転車を引っ張られた。
「いえ、明日早番なんで。それに女子高生が好きなら、私もうすぐ卒業だし圏外ですよ」
「今、高3? 来月卒業? じゃあ、来月からキャバで働きなよ~」
「はあ~?」
突然なにを言い出すんだか。
「コンビニのバイト代って月にいくらになんの? 3~4万ってとこ?キャバなら3日で稼げるし。あ、日向ちゃんならもっと出しちゃうかも♪ ねえ、キタガワさん。そうっすよね?」
くるりと後を向いてキタガワさんに聞いた。
「タカオ」
「はい?」
キタガワさんはタカオさんのお尻を蹴りながら怒鳴る。
「テメー、女子高生にかまってないで、今すぐ入れる女を探せっつーの! 仕事中だぞ!」
「はい!すんませんした!!」
タカオさんは謝りながら駅に向かって走っていった。
「…ったく。日向ちゃん、悪かったな。バイト終わりで疲れてんのに引きとめて」
「いえ、大丈夫です」
「遅いから気を付けてな」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
再び頭を下げて、今度は自転車に乗って帰った。
学校の昼休み、屋上でお弁当を食べつつ親友のミユウに聞く。
「ねえ、キャバのバイトってさ……」
言い終わる前に目をキラキラさせてミユウが迫ってきた。
「キャバ? キャバクラ? 日向、キャバ嬢になんの?」
やりすぎないオシャレが好きなnon-no系の私と違って、ミユウは派手ギャルのpopteen系。キャバ嬢にも憧れがあるらしい。
「な、なんないよ。聞いてみただけ。割が良さそうなバイトだから……」
「割はいいと思うよ。求人とか見ると時給5,000円とか書いてあるもん」
「5,000円?! それ、ありえなくない?! あたしのコンビニバイト時給850円だよ」
この差はいったい?! 比べるのがバカバカしくなってくる。
「うちのコンビニ、キャバ嬢のキレイなおねーさんたちも来るけど、あの人たちそんなに稼いでるんだ」
「ああ、日向んとこ飲み屋街のど真ん中だもんね。そりゃ、来るだろうね~」
キャバクラなら3-4日でコンビニの1ヶ月分。タカオさんの言葉を思い出した。
「横短は授業も長いし、課題も多いらしいんだよね。だからさ、平日のバイトは無理かもしれないって思って」
卒業後は横浜の短大に進学が決まっていた。
「横浜からじゃ帰るの夜じゃん?電車でしょ?」
今はチャリ通だけど、さすがに横浜まではきつそう。
「うん。電車。でも通学費バカになんないから、チャリで頑張ろうかな…」
「いや、無理無理。だって電車だって30分だよ? 山越えあるし」
そうなのだ横浜までは勾配の急な坂道がある。
「定期代1ヶ月で1万4,000円だよ~? スマホ代7,000円とお昼代と服代と美容院代と……。最低でも5万はいるよ~」
考えただけで頭が痛い。
「週末フルにシフト入れるって手もあるけど、休みなしっていうのもな~」
「日向んとこ兄弟多いもんね。自分で稼がなきゃやってらんないか」
「……できれば家にもお金入れたいしね」
言うがいなやミユウがハグをしてきた。
「日向エライ!」
「エライっつーか、長女だし仕方ないっつーか。母親だけの1馬力じゃ生活できないし」
父親は4年前に交通事故であっさり逝ってしまった。母のお腹に末っ子を遺して。
生命保険や慰謝料や遺族年金が入っても、弟2人妹2人もいて、これからまだまだ学費がかかることを考えたら生活はギリギリなのだ。
「短大の学費を出してもらえるだけラッキーかなって」
「ひなた~。ごめん、あたし恵まれすぎてて」
ミユウはそう謝るけれど、別に辛いってことはなかった。
「大変だけど楽しいよ。充実してるし。保育士になる夢もある。とびっきりの親友もいるしね」
ハグをミユウにし返すとミユウは言った。
「で、キャババイトだけど、あたしはアリだと思うよ」
「でも私にキャバ嬢ができると思う? ミユウみたいに可愛いくないし」
「なに言ってんの。日向イケてるって。素でそんだけ可愛いよ? あたしは盛って詐欺ってるだけだし」親友のひいき目はともかく、もしできそうなら……って思いが湧き出ていた。
キャバクラがどんなところかってことくらい、テレビやマンガで見てだいたい分かってる。キャバ嬢や元キャバ嬢のモデルやタレントも少なくないから、水商売って言ってもそんなにイメージは悪くない。
ただ、自分がその世界に入る可能性があるなんて考えてもなかった。
私でも本当にキャバ嬢になれるのかな。
バイトが終わって店を出ると、今夜もキタガワさんはビル前にいた。いつも通り挨拶して過ぎようとする。
「お疲れさん」
その声を聞いて、つい言い出してしまった。
「あの、私がキャバクラで働くのってアリですか?」
「え?」
キタガワさんの面食らった顔を見て、とんでもないことを聞いた気がした。
「ご、ごめんなさい。やっぱりいいです。おやすみなさい」
あまりの恥ずかしさに走り出す。
「あ、いや、そうじゃなくて、日向ちゃん待った! ちょい待って!」
乗りかけた自転車を止めると、後ろからキタガワさんが追いかけてきた。
「真面目な相談ならちゃんと乗るから。聞かせてよ」
無言で頷いた私に笑顔のキタガワさんは続ける。
「ここじゃなんだからどっか入ろう。ついでに夜食どう? オレ、飯まだだからちょっと付き合ってくれる?」
また無言で頷く。思わぬ展開で言葉が出せないでいた。
キタガワさんはビル前からインカムで別の従業員を呼び出すと言った。
「オレ、ちょっと出てくるからフロント頼むわ」
『了~解』
インカムからの応答を確認して歩き出す。
「どこがいいかな。制服じゃ居酒屋は無理だし……。何食べたい?」
「な、なんでも良いです」
よく考えたらこんな時間に男の人と出歩くなんて初めてだった。途端に緊張が高まる。
「女子高生がOKそうなところ…駅ビルのパシフィックデリでいい?」
「あ、はい。あそこ好きです。でも気にしないでください。適当なところで大丈夫ですから」
「ん~、たまにはヘルシーな飯もいいんじゃん? オレいつも不健康飯だから。野郎ばっかだとそういうとこ気を遣わないからね~」
自虐気味に笑うキタガワさんと駅に向かった。
「タカオも言ったけど、日向ちゃんなら雇ってもいい。客観的に見て可愛いし、うちの店にはすぐ欲しい人材だよ」
予想してなかった言葉だった。私なんかがキャバ嬢をやれるなんて。
「本当ですか? 働かせてもらえるんですか?」
「高校を卒業したらね。でも、聞かせて? どうしてキャバクラ? コンビニはどうすんの? 率直に言って、キャバで働くのって、考えるより楽じゃないよ? 初心者は時給も安いし。うちの店ではあんまり聞かないけど、イジメもあるよ」
安易に働こうと思ったワケじゃないけれど、そこまで深くは考えていなかった。
「キャバで働こうと思ったのは……時給が良いからなんだけど。短大に進んだらあまり時間が取れなくなるから、コンビニは無理かなって……」
ハンバーグのディナープレートをあっという間に平らげて、まっすぐに私を見つめるキタガワさん。真剣に聞いてくれてる姿に、全部ちゃんと話そうって思えた。
「うち、父親がいないんですけど……」
家のこと、高校生の弟が進学しないで働くって言ってること、小さい弟、妹たちのこと。自分の夢のこと。「短時間で稼げるキャバのバイトなら、大学との両立もできるかもしれないって思ったんです」
一通り聞いたあと、キタガワさんは名刺を渡してくれた。
「卒業式が終わったらいつでもいいから店においで。店の様子を見てから決めればいいよ。さっきも言った通り、日向ちゃんならOKだから」
名刺には『Club rich 店長代行 北川貴志』とあった。
「店長…代行? 偉いんですね」
“代行”って笑えるっしょ? うち店長不在だから、代わり。正式には店長にはしてもらえない微妙な立場だったりして」
「そうなんですか? 微妙な立場だからいつもビル前で立ってるんですか?」
つい素朴な疑問をぶつけてしまう。なんでいつもビルの前で立ってるのか不思議だった。
「え? あはははは! 立ってる?! そう、ビル前でフラフラしてるだけに見えるもんな」
「す、すみません。私、ヘンなこと言っちゃって…」
大爆笑されるなんて、なにかマズイこと聞いたのかと思ってハラハラしてしまう。
「いやいや、確かに立ってるから。あれは店に来るお客を案内したり、いろいろチェックして店内とやりとりする仕事なんだ。ビルの中の店内から外の様子が分からないだろ?」
「そういう仕事もあるんですね……」
「まあ、微妙な立場でも日向ちゃんを独断で雇う権限くらいはあるから」
「すみません。ありがとうございます」
「あ、そうだ」
キタガワさんは私の手から名刺を抜き取ると、裏に書き込みを始めた。
「なにかあったらいつでも電話して。メールでもいいし」
ケータイ番号とメアドが書かれた名刺をもらって、私の中でキャバクラで働く決意がほぼ固まった気がする。
「ご馳走さまでした。今夜はありがとうございました」
駅前でお礼を言う。
「こっちこそ付き合ってもらってサンキュー。遅いから気を付けてな」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ。また明日」
卒業した翌日、私はキタガワさんに連れられて≪Club rich≫の扉を開けた。
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第2話 嬢デビュー は4月22日公開予定です。
イイネ!
53人がイイネ!と言っています。
ゆか
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「ゆうた。(神奈川県)」
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