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New!!
2013.08.19
作者情報
| 森山まなみ |
| 湘南でロハス&ときどきベジタリアンな生活を送りつつ、小説やシナリオ、コラムなど、しがないモノカキとして日々奮闘中。代表作「嬢マニュアル」(祥伝社)、コミック「ママはキャバ嬢」原作(講談社)など。公式ブログ→http://ameblo.jp/manami-moriyama/ |
キャバ嬢NO.1【完】
2013.08.12
第10話 花も嵐も(前編)
ツワモノ揃いの歌舞伎町≪club de bloom≫で、突き抜けた存在になるためにしたこと。
遅刻早退をせず毎日出勤。可能な限り毎日同伴。お礼メール。誕生日プレゼント。自分磨き…。
どれもキャバ嬢なら当たり前のことで、ただするべきことを当たり前のようにしていただけだった。
接客に慣れてしまうと疎かになってしまいがちで、多くのキャバ嬢が気付かずにいる。小手先のテクニックだけじゃ多種多様なお客さん全てには対応できないけど、“当たり前のこと”はオールマイティだってことを。
NO.1に手が届きそうになって、もう少し、もう少しって足元も見ずに手を伸ばした。
体が悲鳴を上げてることに気づかないふりをして。
退院して10日が過ぎ、体の方は順調に回復して先生からも経過良好とのお墨付きをget。
≪club de bloom≫への復帰を1週間後に決めて、お客さんへの挨拶状やお礼の品を考えていた。
復帰の打ち合わせのために来たフルヤさんが玄関で突然言い出す。
「天気いいし、海までドライブでも行くか?」
ずっと家の中にいたから外に出たくて仕方なかった私は即答した。
「行きたい! 連れてってくれるんですか?」
「ああ、いつまでもじっとしてたら体がなまっちまうだろ。海岸でも散歩したら気持ち良さそうだし」
寝ているアンに書置きをして、マンション近くのコインパーキングへ。フルヤさんは愛車のMINIコンバーチブルで来ていた。
「久々の遠出にコイツも喜んでるよ」
ピカピカに磨かれた愛車を撫でる。
「もしかして私を誘ったのは口実で、本当はMINIちゃん動かしたかっただけでしょ」
「バレタか」
「サイテー」
冗談言って笑いあえる心地いい関係は、疲れた心を癒してくれる。NO.1争いで体だけじゃなく、心もオーバーヒートしていた。
☆★☆
「うわー、懐かしい風景が見えてきた」
高速道路から国道134号へ。海沿いを走る車から見える風景に声が弾む。
「昼メシどこで食う? パンケーキか? しらす? このへんはユイカの方が詳しいだろ。地元なんだし」
「最近ちっとも帰ってなかったから全然わかんないよ~。ていうか、地元はもっと先だし!」
「湘南ひとくくりじゃん」
「まあ、湘南っていっても、いかにも観光地なところはめったに来ないんだよね。混雑が嫌で」
国道両脇を眺めながら話していると、江ノ島近くで行列を発見する。
「あ! Eggs'n Things!! 原宿店より全然すいてる~」
「入るか?」
「いいの?!」
「女王さまのご希望とあれば」
「やった~♪」
平日ということもあってか、30分も並ばないうちに入ることができた。
「七里ガ浜のbillsは行ったことあったんだけど、Eggs'n Thingsはできる前に都内に出ちゃったんだよね」
ニコニコ顔でワッフルを頬張る。フルヤさんはオムレツのプレートだった。
「しかし、生クリーム半端ねーな……」
病後の胃に気を使って、私のワッフルにはノーホイップにしてたから、フルヤさんは他の席の倒れそうなホイップクリームを見て言った。
「気持ち悪くなんねーのかな?」
「はは、1人じゃキツイと思うー。ホイップは2人でシェアするくらいがちょうどいいよ」
食後は、新江ノ島水族館を横切って砂浜に出た。
「やっぱ海はいいな。なんか気が楽になるっつーか」
「落ち着くでしょ? 広くて大きくて安心できるから」
砂浜に腰を下ろして海を眺める。
水際を犬が走り、数人のサーファーが凪の波間に漂う。平日の昼間らしいのどかな光景は、今も昔も変わらない。こんなにのんびりとした時間を過ごすのは久しぶりな気がした。
「地元にいるときは海なんて全然特別な存在じゃなかったのに、今はすごくゆったりとした良い気分。海の匂いとか忘れてた…。東京にいると心から休まるってことがないのは、田舎者の証拠だよね?」
「まあ、忙しない街だからな。しかも繁華街ど真ん中にいるんだし。疲れたらまたここに来ればいいさ。いつでも連れてきてやるよ」
フルヤさんの言葉に顔がゆるんでしまう。
自由が丘時代から公私に渡り助けてくれているフルヤさんには全幅の信頼を寄せていた。同じ目標に向かう戦友とも言える担当だからこんなに優しいのか、それとも……。いっしょにいるだけで安心できるフルヤさんは、私にとっても海みたいな存在になっていた。
「ここまで来たんだから、実家に寄るか? キタガワさんにも顔見せてやるといい。心配してたし」
家族も≪Club rich≫のみんなも入院中にお見舞いに来てくれていた。
☆★☆
「頑張りすぎるところがあるので監視の方、よろしくお願いしますね」
病室で母がフルヤさんにそう頼むのを聞いて、痛みがある中でも笑ってしまう。
「ヤダ、お母さん。監視だなんて」
入院してすぐに家族全員で歌舞伎町の大久保病院に駆けつけてくれた。
毎月仕送りの度に母は感謝の言葉と共に必ず「無理しないで」と言った。お給料は十分だったけれど、それ以上に仕事に対しての責任と言うか、使命のようなものを感じて働いていることを母は感じ取っていたらしい。
「日向は間違ったことはしてない。恥じるようなこともない。お母さん、信じてるから」
水商売への偏見を持たずに応援してくれる母には、私の方こそ感謝していたのに。
≪Club rich≫を代表してキタガワさんとカオリもわざわざお見舞いに来てくれて、場所は微妙だけど久々の再会に喜んだ。
「倒れるまで無理するなんて、このバカが」
口は悪いけど親心からのキタガワさんの言葉も嬉しかった。
「オレ、客代表かな? 役得~」
とか言いながら、ちゃっかりヤマトがミヅキちゃんといっしょにやって来た。お客さんという立ち位置とはちょっと違う気もするけれど、ヤマトは指名客としていることが楽しそうだったから、あえて突っ込まないで素直にお礼を言う。千疋屋の大きなフルーツバスケットを持参してきてくれていた。
「ありがとう。こんなに食べられるかな」
「やっぱお見舞いっつったらコレっしょ! 高級果物詰め合わせしかオレは認めないね」
毎日のようにアンとフルヤさんがお客さんからのお見舞いの品やメッセージを届けてくれた。おかげで入院中は退屈せずに済んだし、自分がどれだけの人に支えられているか再発見ができた。
そして自分の中でNO.1へのこだわりが変わっていくのを感じていた。
「NO.1になるためにがむしゃらにやってきたけど、そこがそもそもの間違いだったんじゃないかなって」「どういう意味?」
不思議顔でアンは聞いてきたけど、たぶんアンは分かってるはず。最大の戦友でライバルだから。
「うまく説明できないんだけど……“NO.1になるために”じゃなくて、頑張った結果がNO.1だったという形が理想なんじゃないかなって。お客さんを楽しませることだけのために手を尽くして、それが自然にNO.1に結びついたら嬉しいなって」
なんだか偉そうなスタンスに自分で言っておいて照れてしまう。
「綺麗事って言われるかもしれないけど、そういう理想を持ってキャバ嬢をやることは素敵だと思うわ。わたしたちの仕事って究極のサービス業だと思うから」
ニッコリと微笑むアン。
「だから私、NO.1のために頑張るの止める。辛くなるだけだもん。ランキングじゃなくてお客さんの方をちゃんと向いやっていきたい」
☆★☆
“二宮ユイカ完全復活Night!”
1ヶ月近くの休養の後、大々的にイベントを打って復帰した。
自分の健康管理の失敗で倒れたのにイベントなんて本当は恥ずかしかったのだけれど、お店にも迷惑をかけたし、イベントにすることで売り上げに貢献できるなら文句は言えない。
「ユイカ、退院おめでとう!」
「もうぶっ倒れるなよ」
「祝! 復活!!」
誕生日でもないのにドンペリのシャンパンタワーやスタンド花をたくさん出してもらった。
休んだことで客離れを心配してたくらいだったのに、復帰初日はご指名のお客さんがひっきりなしで訪れてくれた。
優しい言葉の数々にまたしてもお客の温かさを知る。
「いつもいつもお客さんに助けられてる。私って幸せもんだな」
そんな気持ちを噛みしめてると、VIPルームで思いもかけない出会いがあった。
「ヤマトがVIP使うなんて初めてじゃない?」
いつもはメインのラウンジなのに、復活イベントだから奮発してVIPにしてくれたのかと思ったら、
「スポンサーさまのご希望なんでね。今夜の支払いはオレじゃないのよ~」
高いワインボトルを嬉しそうに傾けながらヤマトが隣の男性を指差した。
「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます。初めまして……ですよね?」
名刺を手渡ししつつ、顔を合わせる。ヤマトの連れと言うことは、≪home sweet home≫絡み? もしかしたら会ったことがあるのかもしれないけれど、顔にはちっとも覚えがない。
「初対面です。でも、ずっと会いたいと思ってました。ヤマトがハマったキャバ嬢がどんな女性かって」
交換した名刺には、株式会社の代表取締役の肩書があった。汲沢由喜さん。
「ハマった?」
その言葉にヤマトがワインを噴き出した。
「ハマってなんかいねーっつーの。口説いてはいたけど」
「でも落とせなくて通ってんだろ? それをハマってるって言うんだよ」
「いや、もう通わねーし。たぶん」
「え?」
ヤマトの言葉に私と汲沢さんは同時に声を出す。
「さんざん口説いてたユイカには悪いけど、オレ、ミヅキと結婚する。子どももできたし」
「え、ええっ~~~!!」
急展開と爆弾発言に絶句してしまう。
「シマのことで慰めたりフォローしてるうちにまあ、そういうことになって。早い話が情にほだされたってヤツだけど」
ヤマトが隣に座るミヅキちゃんの頭を自分に寄せた。
「ごめんね、ユイカちゃん。あたし、ヤマトくんの好意に甘えてるうちに好きになっちゃって……」
申し訳なさそうに言うけれど、これはおめでたい以外のなにものでもない。
「なに言ってるの。結婚と赤ちゃんだよ! そっちの方こそお祝いしなくちゃ!」
涙ぐんで赤らめた頬が幸せを感じさせた。ミヅキちゃんの手を取って続ける。
「ヤマトは指名客っていう前に、友達みたいなもんだもん。ミヅキちゃんは大切な仲間だし。そんな2人が結婚して幸せになるなんて、こんな嬉しいことないよ。本当におめでとう」
指名客が減るとか、そんなことはどうでも良かった。いつも口説いてきたヤマトにもう会えなくなるのは寂しいけれど。
「つーワケで、オレはあんまり来られなくなる。その代わりと言っちゃなんだけど、由喜を連れて来たのさ。本当は会わせたくなかったんだけど紹介しろってうるさかったし」
「なんだよ、会わせたくなかったって」
口をとがらせて文句を言いあう汲沢さんとヤマト。
「だって、お前のスペックずるいもんよ。ユイカがなびいちゃうじゃんか」
「僕がお願いしたVIPでちゃっかり爆弾発言しやがって。ヤマトこそいつも僕を利用してるだろー」
子どもみたいに可愛い言いあいに、思わず入って聞いてしまう。
「スペックってなに? ズルイって?」
「つまりよー、コイツは超金持ちなの。≪home sweet home≫のオーナーで、他にも飲食店とかいろいろやってる会社の社長。でもって、大倉財閥に名前が連なってるの」
「大倉財閥?」
いただいた名刺を見ると、裏面にオークラホテルの役員としての肩書がある。それと関係してるのだろうか?
そこまでヤマトに言われると、汲沢さんは苦笑しながら自分で説明し始めた。
「汲沢は母方の姓なんだ。あまり大倉は名乗りたくなくて……」
「ま、そんな事情はともかく、由喜はユイカにとって特大のエースになる。オレが来れなくなるマイナスなんか簡単に吹っ飛ばすぜ」
ケケケと笑うヤマトはかなり酔いが回ってるみたいだった。本当にこの先も由喜さんが指名客になってくれるかは分からないけれど、今はヤマトとミヅキちゃんの幸せを祈りたいと思った。
「マイナスとか言わないの。2人が幸せになるのに、私のことは心配しないでよ」
汲沢さんへの期待の言葉より、2人に気遣う気持ちが先に出た私に、なにやら汲沢さんは頷いた。
「思ってたとおり、ユイカちゃんて肩書とかステイタスよりも、その本人の人間的なものを大事にする人だね。過剰な自信がないところも気にいった」
「確かにそんなに自信を持ってる方じゃないですけど……。ステイタス? 何の話ですか?」
「僕はさ、認知されて引き取られたけど、母は愛人だったんだ。だから、あんまり目立ちたくない立場だし、財産目当てで寄って来られても困る。じっさい多少の財はあるけど、そんなイヤラシイ人間は近寄って欲しくないし」
ヤマトとどんなやり取りがあったかは知らないけれど、いつの間にか汲沢さんに気に入られていたようだった。
“特大のエースになる”
その言葉どおり、この日だけで汲沢さんは100万円の支払いを落とし、その後も頻繁に訪れるようになった。
復帰後の客足は途絶えず、しかも新しくエースになってくれた汲沢さんのおかげで、私は月の半ばからの出勤だったにも関わらずNO.1が射程圏内に入っていた。
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第10話 花も嵐も(後編) は8月19日公開予定です。
イイネ!
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