目次
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✔第1話 あたし、ホストクラブのオーナーになりました(前編)
2014.05.12
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2014.05.19
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2014.05.26
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2014.06.02
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2014.06.09
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2014.06.16
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2014.06.23
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2014.06.30
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2014.07.07
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2014.07.14
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2014.07.22
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2014.07.28
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2014.08.04
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2014.08.11
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2014.08.18
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2014.08.25
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2014.09.01
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2014.09.08
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2014.09.16
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2014.09.22
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2014.09.29
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2014.10.06
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2014.10.14
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2014.10.20
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2014.10.27
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2014.11.04
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2014.11.10
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2014.11.17
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2014.11.25
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New!!
2014.12.01
作者情報
| 中里 朱里 |
| 小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 |
ホトトギス!【完】
2014.05.12
第1話 あたし、ホストクラブのオーナーになりました(前編)
2003年1月19日 深夜。
織田さくらは自室で日記を綴っていた。
『天国のママへ。聞いて。あたし、織田信長を拾ったみたい』
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2003年 1月12日 芦屋。
JR芦屋駅を出て、国道を越えた山手側には富裕層が多く居を構える高級住宅街がある。さくらの家もそんな住宅街の中の一つだ。
一戸建てのその家の壁はアイボリー、屋根はオレンジ色。2階建で周囲の住宅に負けない優雅さを備えている。玄関から入り口にかけて広々とした庭があり、芝生は冬だというのに青々と茂り、日々マメに手入れされているのが伺える。しかし、昼の12時過ぎているというのに、薄紅色のカーテンは閉め切られていた。
「最悪な誕生日……」
さくらは自宅のリビングにある、白いソファーの上で深くため息をついていた。腰まで伸びた黒くつやつやとした髪、二重瞼の印象的な目と、それをふちどるまつげはマスカラが塗られたかのように長い。顔は小さく卵型をしており、身長はそれほど高くないが、胸元は豊かである。会う人誰もがさくらのことを儚げな美少女と褒め称える。ただし口を開かなければ、ともよく言われていた。
さくらは握りしめてくしゃくしゃになった紙をもう一度眺めた。
『さくらへ 誕生日おめでとう。もうお前もハタチを迎え、立派な大人だ。後は任せた』
「借金を残して、この置き手紙だけってどういうこと!!!!?」
朝、目が覚めると父の姿がなく、机の上に大量の借金の督促状と父の書き置きが残されていた。小さな頃から社長令嬢として、何不自由なく過ごしていたさくらにとって、借金とは縁が無さ過ぎて、現実味のないものに感じた。しかし、間違いなく督促状には父の名前と、連名の欄にさくらの名前が書かれていた。
「あ、ついにバレたんだ」
「千代! 父さまを見てない?」
千代と呼ばれた青年はけだるそうに2階から下りてきた。メガネをずり上げ、さくらが握りしめる手紙と、テーブルの上にある督促状をちらりと見た。
千代はさくらの同居人であり、幼馴染でもある。まださくらが幼かった頃に、父がどこからともなく千代を連れてきたのだ。最初は父の隠し子かと思ったがそうでもないらしい。身元は良く分からないが、丁度その頃母が亡くなり、父もろくに家にいなかった為、昔は良く一緒に遊んでいた。
「昨日あんま寝てないんだ、大声出さないでくれる?」
千代はそう言うと、ううーんと伸びをした。昔はあまり身長は変わらなかったのに、ここ数年で随分と差がつけられた。先日175センチになったと言っていたような気がする。
短い黒髪は少し寝ぐせがついていたが、パジャマではなく出かける恰好をしている。ブラックジーンズに、ロングの白のTシャツ、そしてニットジャケットを羽織っていた。千代は長身というわけではないが、手足はすらりと長く、顔はやや丸顔だが小さめでいつも優しげな笑顔を浮かべている。
大学の同級生達は千代を見ると爽やかだの、あっさり顔の美青年だのいつも騒いでいるが、さくらは千代と家族同然で育った為か、異性として意識をしたことはなかった。
「またネットゲームで徹夜? 止めた方がいいよ。あ! それよりもこの督促状と、手紙! バレたってどういうこと?」
さくらが青い顔をして、手紙をつきつけると千代は苦笑しつつ答えた。
「ここ数年の不況でおじさんの会社、厳しかったんだよ。僕はたまに経理を手伝っていたからなんとなく借金がかさんでいることは気付いてた。でも、さくらはそんなことも知らず、大学受験して呑気に大学に通ってたんだよね」
さくらはぐっと言葉に詰まった。言われてみれば最近の父は、これまで以上に忙しそうにしていた気がする。自宅でも書斎にこもりっきりで、さくらと言葉を交わす機会はなかった。もっとも、元々ここ数年はろくに会話もしていなかったが……。
なので、父の会社のことなど気にも留めたことがなかった。しかし、千代は異変に気づいていたわけで、そのことがさくらを後ろめたい気持ちにさせた。
「だ、だってあたしは歴史の勉強がしたくて……。それに借金は父さまのせいでしょ?」
「そのおじさんに養ってもらってたのは誰だよ」
「……」
「歴史の学者になりたいんだっけ? バカらしい」
千代はそっぽを向き、悪態をついた。
昔こそ仲は良かったものの、互いが成長するにつれ、千代とさくらの関係は微妙なものになっていた。さくらとしては以前のように仲良くしたいと思いつつも、千代の方が一方的に不機嫌な顔をするのだ。
「だってもっと信長公について知りたくて……」
「……さくらは何かあると、信長様、信長様だね」
さくらが織田信長について語ると、特に千代は不機嫌そうな顔をする。
「当たり前よ! 信長公が生きていたらどんな世の中になっていたかしら! 徳川家康はたまたま運がよくて長生き出来たから幕府を作れたのよ」
けれども信長が大好きなさくらは語るのを止めることが出来なかった。
「ふーん。家康は運よく……ね」
千代は憮然とした表情のまま、玄関の方へ向かって行った。
「あ、千代! どこに行くの?」
「バイト探し。おじさんが何とか頑張って、この家は残してくれたけど、収入はゼロだからこれからは自分で稼がないと。僕は掛け持ちしてたバイト先にシフト増やしてもらえないかって相談するけど、さくらはどうするの?」
「ど、どうするって」
バイトなんてロクにしたことが無い。時間があれば本を読んで歴史について考えてばかりいたさくらにとって働くということは、未知の世界であった。
「……おじさんがここまで閉めずに踏ん張ってきたお店があるんだけど、そこで働いてみる?」
働く時間があるくらいなら、正直歴史の本を読みたい。けれども大量の借金の督促状が目の端にちらついた。
「い、行く!」
「ふーん。じゃあ、ついて来て」
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千代に連れられ、さくらは芦屋から大阪に移動していた。JR大阪駅から、地下鉄東梅田の方向に移動し、地上に上がって飲み屋街の中を歩いて行く。まだ20歳を迎えたばかりのさくらにとって、縁のない場所だ。サラリーマンやOLが繁華街に繰り出す時間帯を迎え、通りの方々から活気を感じた。
そして飲み屋街のメインの通りを端まで抜け、脇に曲がるととある雑居ビルにたどり着いた。
ビルに入りエレベーターで昇ると、重厚な赤い扉の店があった。千代はコートのポケットから鍵を出し、慣れた手つきで扉を開ける。
「ここだよ」
千代が照明のスイッチをつけると、大きなシャンデリアがまず目に入った。黒い重厚な雰囲気の壁。天井は思ったより高い。30人以上入りそうな室内には、革張りの白いソファーと白い大理石のテーブルが備え付けられている。そして壁際の棚には大量のお酒が並べられていた。
「な、何ココ? バーってヤツ?」
非日常的な空間にさくらは戸惑う。
「何ってホストクラブだよ。昔はこのビル全部だったんだけど、今はここだけだね」
「ホストクラブ!?」
家を出た時には想像もしなかった状況に、さくらは混乱していた。
「本当に何も知らなかったんだね。おじさん、何店舗もホストクラブを経営してることで結構有名だったんだけど」
「知らないわよ。興味ないもの。父さまの仕事なんか……。それに千代は私が現代に生きている人に興味がないって知っているでしょ!」
根っからの歴史オタクのさくらは、周囲に対して関心が低かった。そう言えば幼稚舎で夜の世界の男の娘のくせにとか言われたような気がするが、夜更かししがちで朝が弱いことをバカにされてるだけと思い、父の仕事について言われているとは思ってもいなかった。かなりマイペースな性格である。
「いや、さくらはほんっともうちょっと周囲に興味を持ってくれよ」
呆れ顔の千代の言葉にさくらはムッとする。
「とにかく、ホストクラブを経営していたなんて一度も聞いたことないわ」
「ホストクラブだけじゃなくて、基本的におじさんとさくら、会話なかっただろ……」
「くどいわね。身内といえども、現代人には興味がないわ!」
きっぱりと言い切るさくらに、千代は頭を抱えた。
「あのさ、今の自分の立場分かってんの? たしかに借金はおじさんのせいだけど、さくらがそんな態度だから、おじさん逃げちゃったんじゃない?」
そう言われ、さくらは言葉に詰まった。確かに自分は父に対して関心が無さ過ぎたかもしれない。それが父を追い詰めた要因のひとつかもしれないかと思うと、さくらの心は罪悪感で痛んだ。立っているのが辛くなり、ソファーに腰掛ける。体が深くソファーに沈んだ。
「……で、あたしはこのホストクラブで何をすればいいの?」
「さあ?」
「さあって?」
「だってホストは誰もいないよ? 給料未払いで、皆辞めちゃったもん。まあ人を雇うとこから始めたらいいんじゃない? オーナー?」
「お、オーナー!? まだやるとは決めてないわよ!!」
「無理、無理。さくらが成人したら店を継がせるっておじさん、息巻いていたもん。全部書類届け済み。勿論、親の同意の元でね」
千代は笑顔を浮かべて、書類をぴらぴらとさくらの目の前でひらつかせた。
「なっ! じゃ、じゃあ借金とか確信犯じゃない!! 父さまのバカ!! 子不幸モノ―――――――――――!!!!! 」
さくらの悲痛な叫びが客のいない店内に響く。
「まあコレも一つの人生経験だから……。あ、そうそう。さくら誕生日おめでとう」
そう言って千代はにこりと笑い、さくらに店のカギを握らせた。
「ほんっと……最悪の誕生日プレゼントよ」
こうして、さくらはホストクラブ『ホトトギス』のオーナーに就任することになった。
続く
イイネ!
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