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ポケパラ体入>ポケノベ>ホトトギス!>第13話 あたし、ホストクビ!?(後編)
小説タイトル
イラスト:ヨルノトウコ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルホトトギス!【完】 更新日時2014.11.04

第13話 あたし、ホストクビ!?(後編)

小説挿絵 そして光秀に言われた通りに、葉は自分の仕事を改めて見直すことにした。

ホストクラブ『ホトトギス』ではNo.1であろうとスタッフ全員が掃除をする。いつもは惰性でしていた仕事だが、改めて気合いを入れて掃除をすることにした。綺麗な店なのはお客様も喜んでくれるはずである。

イスやテーブルに汚れはないか。破けている場所や傷のついた場所はないか。灰皿、ライター、煙草のストックはあるかと、葉は今までおざなりにしていた場所も改めて確認した。

「葉、なんか今日は気合いが入っているわね、なんだか惚れちゃいそう」

綺麗好きの謙信が、熱心に掃除をする葉に感心した様子で声をかける。

「そうかな? 今までが気合いが足りなかっただけかも。もっとホトトギス
のお客様を増やしたいし、頑張るね!」

謙信は思わず葉の頭を撫でた。

「ほんっとこの子はけなげね! あたしも手伝うわ」

「ありがとう、謙信!」

以前はあまり気にしていなかったが、改めてみるとテーブルや壁など気づかない場所に汚れがあったり、備品でストックが足りないものがあったりと新しい発見があった。些細なことかもしれないが、これが光秀の言っていた基本の見直しかもしれない。

「さて、いつまで頑張れるかな」

皮肉な口調で光秀が言うと、葉はにこっと笑って言い返した。

「完璧にできるまで頑張るよ」

光秀は言われたことを素直に実行するさくらの姿に、自然と笑みを浮かべた。

「ふん、まあ無理のない範囲でな」

また、初見のお客様でも顔が覚えられるよう、訪れたお客様の名前、顔をメモするように習慣づけるようになった。

仕事終わりにメモをしていると、幸村が声をかけてきた。

「……がんばりますね、オーナー」

葉はなるべく平静を装って答えた。

「うん、これもホストの仕事だからね」

意外と時間がかかり大変なのだが、名前と顔をきちんと覚えるとお客様がとても喜ぶことに気づいた。

(こんなことで喜んで貰えるなら、もっと早くやってれば良かったな)

そう思ったが、過去を振り返るより大事なのはこれだからだ。

葉は3つ目の、お客様が喜んでくれることは何だろうと考え込んだ。

今まで葉は自分自身が女性であることは、ホストの仕事をする上で損と思っていた。けれども、女性だからこそ気づけることがあるかもしれない。葉は日々何をすればお客様に喜ばれるのかと考え、気づいた点を色々と少しずつ改善するようになっていた。そんな葉を窺うように、幸村はじっと見ていた。

(見られてるくらいで気にしない、気にしない!)

葉は負けるもんかと気合いを入れ、視線を気にせず仕事に集中した。そして、基本の積み重ねは少しずつ葉の力になっていた。

また葉の頑張りに他のホスト達も感化され、『ホトトギス』全体で士気が上がっていた。

そして同時に、その懸命な姿に益々惹かれる者達がいた。秀吉、光秀、謙信、政宗、幸村である。

更衣室で珍しく葉を除いた5人が鉢合わせした時、政宗が熱に浮かされたような顔をしてつぶやいた。

「なぁ幸村、最近のオーナーってなんか凄いよな」

「……あぁ」

幸村は同意して頷いた。

「さすが将来のオレの嫁だな~」

あからさまに葉への好意を隠さない秀吉の発言に、その場にいた全員がむっとした表情をする。元々男だと思っていた時から皆それなりに、葉に対して好意はあったが、女性と分かるとますます心が惹かれていた。

「おい、誰がお前のだ」

光秀が不機嫌そうな顔をすると、謙信もうなずく。

「そーよ、アンタのじゃないわよ。まあ正確にはアンタ『達』のでもないけど」

全員に対してけん制する謙信に、ますますその場の雰囲気が険悪になった。殺伐とした空気が流れる。誰ひとり引く気配はない。

すると一人、表情を変えないまま幸村が口を開いた。

「……おそらく全員オーナーに対する気持ちは一緒だと思いますが、今争ってもかえってオーナーに対して迷惑です。……オーナーが、彼女がホストを辞め、女性として生きることを決めた時に、アプローチするのが無難でしょう」

冷静な意見に、全員はっとした。

「腹立つけど、幸村の言う通りだな。葉が落ち着くまで手出ししないと協定結ぶか」

秀吉がふくれっ面をしながらもしぶしぶ提案すると、全員賛同した。葉を悲しませるような真似はしたくなかった。

「ほんと、罪な女ねぇ。あの子」

謙信は悩ましげに溜め息をついた。

「くしゅっん!!」
その頃、事務室で仕事をしていた葉は盛大にくしゃみをした。

「ん?誰が噂してる? まあいいや。お仕事、お仕事!」

まさか自分を巡って恋のバトルが繰り広げられていたとは夢にも思わない葉であった。

---

「あら、葉様。『ホトトギス』のメニュー代わりました?」

常連の雅が『ホトトギス』の変化に気づき、葉に指摘した。メニューが大幅に変わっているのだ。

「あ、分かる? ハーブティーメニューを追加してみたんだよね。紅茶とかはあったけど、ソフトドリンクの種類は少なくて。女性はお酒苦手な人もいるし、ハーブティー好きな子多いし」

「嬉しいです! わたくしもあんまりお酒は得意ではないので」

葉はお酒が好きだが、雅をはじめとした大半の女性はあまりお酒が得意でないことに気づいたのだ。

「良かった~! そう言って貰えると嬉しい!」

お酒に比べ単価は下がるが、お酒が苦手な女性にもホストクラブを楽しんでほしいという、葉なりの配慮であった。

またドリンクメニューだけでなく、フードのメニューも見直し、お酒のおつまみにあうものだけでなく、女性が好きそうなケーキや、チョコレートなどスイーツメニューもテスト的に加えてみた。するとこれが大変評判になった。

また無理に飲ませない葉のスタンスは、葉と同世代の若い女性達に受け、徐々に評判になっていった。

「葉さんと飲んでいるとガールズトークしているみたいで楽しいです!」

常連客の一人が、葉の接客をそう評価した。

秀吉のように会話でときめかせるのではなく、女性を癒すことに専念しようと葉は聞き役に徹するようになったのだ。ホストに訪れる彼女達の悩みや恋話に耳を傾け、共に喜び、悲しみを全力で受け止め、共感するのだ。

「葉さん、聞いて下さい~!!!彼氏がひどいんです!」

「アタシの話も聞いてー!! 上司が!!」

「葉~!聞いて!」

以前の雅のように葉をうっとりした、恋するような目で見る女性客は減った。けれどもまるで親友に会うように訪れるお客様達に、葉は全力で向き合った。

それは、男のホストではできない、女である葉だからできるホスト像の一つであった。

お客様の親友ポジションという新しいホストの形を築くと、売上の一つ一つこそ高くは無いが、若い女性が常連となり、葉は徐々に売上を伸ばし始めた。


そして―――― 2005年の11月末日。

1年以上の月日が経ち、また新しい運命を迎える日がやってきた。

「おめでとう。葉。今月は葉がNo.1だ」

「おめでとう!!」

「おめでとうございます!あたくしは感激です!」

「今月は完敗だな! けど、来月は負けないぜ!!」

口々におめでとうと祝福の言葉を述べるホスト達と、お客様に葉は深く礼をした。ようやく、葉は納得のいく形でNo.1になることがなったのだ。

葉の優秀なところは自分自身の売上は勿論、ホストの教育に力を注いだ結果、ホスト一人一人の売上も引き上げた点である。『ホトトギス』は80人以上のホストを抱える大箱のホストクラブへと成長を遂げていた。

結果、自分のホストとしての収入と、オーナーとしての収入を合わせて、今月ついに2,000万の大台に乗った。

このままいけば年収3億も夢ではない。

しかし、葉は決めていた。今日の売上で秀吉に肩代わりして貰った借金も含め、返し終わった。とてもいいタイミングだ。

「ありがとう。やっと俺は本当の意味でNo.1になれました。けど、それは一緒に働いてくれた皆と、今まで来てくれたお客様の存在があってのことです。皆さん本当にありがとうございます」

店内からわっと拍手の嵐が巻き起こった。鳴りやまない拍手に、葉はもう一度深々と頭を下げると、すっと顔を上げた。今日ばかりは幸村の視線も気のせいか柔らかく見える。

今がその時だ。葉は決意した。震える手を握り締め、口を開いた。

「俺はホストを引退します」


葉がホストをはじめて2年と11カ月。借金完済――。


続く

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