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ポケパラ体入>ポケノベ>ホトトギス!>第11話 あたし、No.1を再び目指します!(前編)
小説タイトル
イラスト:ヨルノトウコ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルホトトギス!【完】 更新日時2014.09.29

第11話 あたし、No.1を再び目指します!(前編)

小説挿絵 2004年7月

『天国のママへ あ、あのね。あたし、振られちゃったのかも……』

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2004年7月。

さくらと千代は白浜の海岸のとある洞窟にいた。

「寒い……」

寒気が足元から這い上がり、あまりの寒さにさくらの体は震え始めた。

「とりあえず明るくなるまで待つか……、奥の方に行ってみる? 少し寒いのもマシになると思うし」

「うん」

二人は洞窟の奥へと進んでいった。

元々は信長や信玄達9人と、夜に花火をしながら外で飲んでいたのだが、酔っ払った秀吉がさくらにひどく絡んだのだ。

最初こそ軽く流していたが、あまりにもしつこく、見かねた千代がさくらを引っ張ってその場を去った。すると気持ちが収まらない秀吉がその後を追ってきた。さくらと千代は暗闇の海岸を訳も分からず走った末、いつの間にか見知らぬ洞窟に迷い込んだのである。

「はあ、秀吉のせいだ」

「戻ったら殴ってやる」

千代は物騒なことを口にした。

「あぁ~、折角皆とも、信長さんとも久しぶりにゆっくり話せると思ったのに」

信長の名前に千代はちょっとむっとした顔をしたが、さくらは気づかない。

「さくらはいつまでたっても信長殿、信長殿なんだな」

「……だって」

振られてからも信長の顔を見るたびに、さくらの心は痛みとときめきが交錯していた。まだ、信長のことが好きだと自覚はある。

「そんな辛そうな顔しないでよ。僕が悪者みたいだ」

千代は羽織っていたパーカーを脱ぎ、さくらに着せてそのまま抱きよせた。

「……千代?」

さくらは突然のことに戸惑いながらも、温泉の時のことを思い出し、顔を赤くなる。

「ねぇ、さくら。さくらにとって男を意識するのは信長だけ?」

初めて信長を呼び捨てにした千代に、さくらは戸惑いを隠せなかった。

「ねぇ、どうしたの? 千代」

「千代じゃない。僕は家康だ。天下人だったんだ……。だから、信長より僕を見て」

千代は抱きしめていた腕をほどき、さくらの顎をつかんだ。千代の真剣な眼差しに、抵抗できなかった。

「千代? 」

いつもの幼馴染ではない、男の顔がそこにあった。

千代は荒々しく顔を引き寄せ、そっと撫でるようにさくらの唇と自分の唇を重ね、すぐに離した。

「……ごめん」

「……」

さくらは何も言えず、へなへなと腰を抜かした。

「ち、千代? 今のってどういうこと」

さくらが問いただそうとすると、二人はいきなりまぶしい光に照らされ、思わず目を閉じた。

「な! 何?」

「あ、見つけましたよ」

幸村の声に、さくらはゆっくり目を開けた。洞窟入り口に、懐中電灯を片手に持った幸村と、政宗が立っていた。

「葉オーナー! 探しましたよ! 大丈夫ですか?」

「ったく迷惑な連中だ」

光秀の声も聞こえた。どうやら皆でさくらと千代を探しに来たようである。

「秀吉の奴は、今信長が怒鳴りつけてる。まあ、酒の勢いだし、悪意があったわけではないから許してやれ」

信玄は懐中電灯で洞窟を照らしながら、二人に笑いかけた。

「……探してくれてありがとうございます」

千代はさくらの方を一切見ない。さくらも何も言えず、そのまま皆に案内されホテルに帰った。

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「ほんとすみませんでしたっ!」

次の日の朝、海岸にさくらが向かうと、顔を赤く腫らした秀吉が砂浜の上で土下座をしていた。隣には仁王立ちした信長がいた。どうやら信長に秀吉はこってり一晩中絞られたらしい。

あまりにも縮こまった秀吉の様子にさくらは少しだけ同情した。

「……まあ、酔っ払っていたしね。今後しないって約束してくれるのならば」

「あ、ありがとう!」

「ただし……」

「?」

さくらは秀吉の顎を持ちあげ、満面の笑顔で言った。

「罰として一ヶ月、トイレ掃除と、フロア掃除ね!」

「……ハイ」

「容赦ないわねぇ。まあこれでこの件は一件落着! 午前中も泳ぐわよ!」

謙信が元気よくぱんぱんと手を叩くと、光秀がメガネをかけ直しながら、軽く手を挙げた。

「あ、すまん。わたしはちょっと抜ける」

「なによぉ、光秀。昨日からノリ悪いわね!」

「いや、ノリとかではなく、養護施設の子達を今日は海に招待したんだ。シスター達に面倒を見るのを手伝ってくれと言われていてな」

「シスターってことは、女性?」

目を輝かす秀吉に、光秀はぎろりとにらんだ。

「……うちのシスター達に手を出すなよ」

そう言って光秀はきょろきょろと周囲を見渡した。すると子どもの団体とジーパン、Tシャツとラフな格好をした女性の集団が光秀に手を振る。

「いや、どう見ても俺達の母親世代の人達ですけど」

政宗が呆れた顔で二人に突っ込んだ。可愛らしい子ども達の姿に、さくらはふと思いついた。

「ねぇ、光秀。あたしも子ども達と遊んでいい?」

さくらの提案に光秀は驚いた顔をした。

「別にいいが……、いいのか?」

「うん。ありがとう! みんな~、おねーさんと遊ぼう!!!」

そう言って子ども達の元に駆け寄っていくさくらの姿に、千代は深くため息をついた。

「ほんともう、いつも突然なんだから。振り回されるこっちの気持ちになってみろ」

「あーわたしとしては、子どもの相手する人手が増えて助かるんだが。なんかすまん」

光秀は頭を抱える千代に思わず謝った。

「ああ、別に光秀を責めているわけじゃ……。昨日のこともあるし」

「昨日?」

「ああ、なんでもない」

千代は首を振った。

「よし! 俺達も遊ぶか!」

信玄はにやっと笑い、皆で子ども達の元に向かうことになった。

---

養護施設の子ども達と合流すると、信長が目を見開き、一人の少女をじっと見つめていた。

「……見つけた」

「え?」

さくらが問い返すと、信長の顔がいつになくこわばっていた。

目線の先には一人の少女がいた。まだあどけない顔をしているが、ほっそりとした肢体を持つりりしい顔立ちをした美少女である。

「そうか思い出した。あいつは“奈々”だ……。俺の許婚になる女……」

信長はこめかみをおさえながら、うめいた。

「許婚?」

「……あたしの名前呼んだ?」

少女は信長と、さくらの方に振り返った。まだ子どもなのに、どこか大人びて見える。さくらはどきりとした。

「ねぇ、あなた。ナナちゃんっていうの?」

「うん、お姉さんは?」

「……さくら。織田さくらよ」

さくらは本名である自分の名前を名乗った。

「さくら……。キレイな名前」

奈々はさくらの名前をつぶやくと、笑顔を見せた。子どもらしく愛らしい表情に、さくらもほほ笑み返す。

「そっちのお兄さんは?」

「信長だ」

「ふうん」

青い顔のまま無愛想に答える信長に構わず、奈々は好奇心でいっぱいと言わんばかりの目で、信長をじっと見る。

「あたし、信岡 奈々って言うの」

「のぶおか、なな」

信長はじっと固まったまま、名前を復唱する。

「うん! お兄さん信長っていうんだね。あたし、最近歴史の時間で織田信長について習ったんだけど、信長がすごくカッコよくて好き!」

「好き……」

信長の顔が嬉しそうに緩む。いや、今の信長さんに言ってないと思うよ!とさくらは内心突っ込んだ。

「それで、いつも信長が好きって言っていたら、『のぶおかなな』って名前が『信長』って名前に似ているって言われて、『ノブナガ』って呼ばれるようになったの。だからお兄さんとおそろいね」

「ああ、おそろいだな」

信長は見たことも無い優しい笑顔で奈々の頭を撫でた。

そして夕刻、子ども達と別れることになったのだが、信長は別れ際もじっと小さな『ノブナガ』奈々の方を見ていた。

「あいつだ、間違いない。まあ、しかし戦国時代で出会った時、20歳と言ったから、今会っても気づかないようだな」

納得したと言わんばかりに信長は深く息をついた。

「だいぶ年下みたいだけど、捕まるよ。信長さん」

冗談でさくらが言うと、信長は頷いた。

「そうだな。嫁にするにもまだ若過ぎる。成長するまで見守るしかないな」

「え?」

ジョークかと思い、信長の目を覗きこんだが、あまりの真剣な目にさくらは戸惑った。

「で、でもあの子12歳って言っていたよ。20歳にならないと、信長さんのこと、思い出せないんじゃない? あと8年もあるよ」

「8年か」

8年と聞き、信長は考え込み始めたと思うと振り向き、さくらの顔をじっと凝視した。

「葉、いや。さくら」

「な、何?」

「俺はホストを辞める」

「は?」

思わぬひと言だった。

「ホストを辞めて、会社を作ってビジネスの世界で天下を獲り、アイツを迎えに行く。その為の8年だと思えば短いものだ」

「……マジで?」

「ああ、マジだ」

少女に夢中になる信長の様子を見て、さくらは思わず頭を抱えた。けれども同時に胸につかえていたモノがとれたような気がした。初めて恋をした相手、信長はいつもどこか余裕があり、そして少し冷めた表情をしていた。

なのに、たった一人の少女の存在に動揺し、そして彼女と結婚すると決めた途端、別人のような凛々しさを見せたのだ。さくらは、信長のこんなにも無様で、それでいて真摯な姿に思わず心打たれた。

(あたしは……ここまでみとっもなく、一途に相手を求めるなんて出来ない)

「それが信長さんの夢だというなら、……あたしは全力で応援します」

さくらの初恋が、静かに終わった瞬間だった。


続く

■注意■

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