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ポケパラ体入>ポケノベ>ホトトギス!>第7話 あたし、ホスト達と温泉で……!(後編)
小説タイトル
イラスト:ヨルノトウコ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルホトトギス!【完】 更新日時2014.08.11

第7話 あたし、ホスト達と温泉で……!(後編)

小説挿絵 神戸から3時間ほど車に揺られて、ようやく城崎温泉についた。宿は昔からある温泉街の中心にある宿である。城崎温泉は7つの外湯が有名でさとの湯、一の湯、御所の湯、まんだら湯、地蔵湯、鴻の湯、柳湯といった様々な温泉が楽しめる。

宿に到着すると、皆、着替え片手に温泉街に繰り出していく。

「あれ、葉は行かないんっすか?」

「あ~ごめん、車に酔った。先に行ってて」

しかし、女とばれてはいけない葉は堂々と温泉が楽しめそうにない。

秀吉が声をかけてきたが、葉はごまかし、部屋で休むことにした。部屋は和室で、奥に専用風呂が備え付けられていた。部屋の真ん中にあるちゃぶ台の上にはお茶菓子があり、葉はコートを脱ぐとお菓子とお茶を堪能することにした。

(今日は早く寝て、明日朝に外湯に行こう)

信長と千代のお手製のしおりによると、朝7時からやっている外湯がいくつかあるようだ。

「あれ、信長さん行かないんですか?」

「あぁ、あいつらと行くと折角の湯も楽しめなさそうだしな。時間をずらして行く」

「はぁ」

葉は信長と二人きりの時間に戸惑った。

ホストクラブでは常に人がいるし、家でも千代と、最近は空いた部屋に政宗や幸村が間借りしているので、信長と二人きりという時間はあまりない。

何を話そうかと悩んでいると、信長の方から声をかけてきた。

「なぁ、温泉卵食べに行かないか?」

「え?」

「城崎にはロープウェイがあるらしいんだが、その近くで温泉卵が食べられるらしいぞ」

「行きます!」

そう言って葉と信長は温泉街に繰り出した。温泉には入れなかったが、足湯を楽しんだり、温泉卵を食べたりとそれなりに楽しんだ。


そして、夜。外湯を楽しんだ他のメンバー達が飲み会を始めたのを見計らって、葉―さくらは宿の温泉にこっそり向かった。

「部屋の温泉もいいけど、やっぱり宿の温泉も楽しみたいもんね」

秀吉達に見つからないように宿の大浴場に向かうと、そこには誰もいなかった。宿の温泉は屋内と屋外にあり、今の時間帯、女湯は屋外のようだ。

塀にぐるりと囲まれているが夜風が顔に吹き付け気持ちいい。

「ふふ~、温泉独占!」

そうやってさくらは温泉の湯を堪能していると、温泉の入り口の扉ががらっと開き誰か入ってきた。

「他の女性客かな?」

この時間は女湯だし、女性の知り合いはいないはずと思い気にせず湯を楽しんでいた。

「……おい」

「はい?」

声をかけられ随分低い声の女性だなと不審に思い、振り返るとそこには信長の姿があった。

「なっ、信長様!! この時間、ココ女湯じゃ!」

さくらは慌てて近くに置いておいたタオルで体を隠す。

「ん? 先ほど今の時間は男湯になったって宿の者が言っていたが」

どうやらさくらは温泉に夢中で入れ替わりの時間帯を見落としていたようだ。

「えっ!!!! と、とりあえずあたし出ます!!」

「まあ、待て。別に俺は気にせんぞ」

そう言って信長は温泉の中でくつろぎ始めた。

「いや、あたしは気にします! 襲う気ですか?」

さくらが叫ぶと、信長は鼻で笑った。

「ふむ。襲われてみるか?」

「……。信長さんなら」

信長の軽口に応じ、さくらは慌てて右手で自分の口を塞いだ。冗談言わないで下さい、やめて下さいというつもりだった。けれども、美しい信長の目を見ているうちに引き込まれ、自然と言葉がこぼれた。

そう、信長なら。歴史にばかり恋してきたさくらにとって、初めて異性に対して恋しいとと思った相手だった。

思わず温泉の中で見つめ合うさくらと信長だが、先に目をそらしたのは信長だった。

「……恋もろくに知らぬ小娘を抱いてもつまらん」

「信長さん……」

「葉、いやさくら。俺はお前が可愛い」

可愛いと言われ驚き、さくらは信長の顔を見つめた。しかし信長の顔は暗かった。

「ただ、妹みたいだなと」

「妹……」

「あぁ。最初会った時に、お市に似ているとも思った。中身は全く違うが、どこか重ねてみていたかもな。この時代に来て不安もあったが逞しく生きるお前が妹に見え、救われたのも事実だ。けど、俺には許嫁がいる。そいつと婚約して、そして奴が消えてから他の女に興味が持てぬのだ。そして、奴がこの時代にいるならば……すまん」

「………」

妹にしか見えない。恋愛対象にはなれないと拒否されさくらは一言も話すことが出来なかった。

「先に出る……。入り過ぎるとのぼせるぞ」

ぶっきらぼうだがさくらを気遣う言葉を残すと、温泉から上がり、信長は立ち去って行った。

「……もしかして、今あたし振られた?」

そして、また一人温泉に入ってきた者がいたが、初恋を自覚した途端、失恋というショックでさくらは気づかなかった。

「ちょっ、さくら! 部屋の温泉入っていたんじゃ!?」

千代は男湯にいるさくらに動揺し、慌ててそっぽを向いた。けれどもさくらは目をはらしたまま、千代に目を向けた。

「……千代さ、あたしそんなに女として色気ない?」

あまり自覚はないようだが、さくらは小柄な体に不似合いな豊かな胸をしている。普段はさらしなどで胸を潰しているが、今は胸があらわになっている。懸命に視線をそらそうとするが、千代も健全な青年だ。どうしてもさくらの胸元が目に入る。しかも温泉でのぼせているせいか頬が薄紅色に染まり、千代の目には妙に色っぽく映った。

僕も男なんだけど、と千代は内心深いため息をついた。最近なんだか女性らしくなった幼馴染に、千代は動揺していた。

「……色気、なくはないと思う」

いつもならからかうが真剣なさくらの様子に千代は素直に答えた。

「そう……、ありがとう。けど、千代から見てもあたしって妹みたいな感じ?」

千代はとりあえずごまかして答えようとしたが、『も』という言葉が妙にひっかかった。さくらを妹のように可愛がる存在は、千代以外にさくらが女と知っているあの人しかいない。

「信長殿と何かあったのか」

それには答えずさくらは笑った。辛そうな笑顔だった。

「……へへっ」

さくらは笑おうと努力した。けれども目から涙が溢れてくるのをこらえるので精一杯であった。

千代はさくらに手を伸ばした。温かい人肌が、さくらを包む。

「え?」

小さくさくらは戸惑いの声をあげた。

「……無理に笑わなくていい」

千代は抱きしめながら小さい子をあやすように抱き締め、さくらの髪を撫でた。

さくらは押しのけようとしたが、あまりにも優しい手つきに思わず千代にしがみつき、嗚咽をもらした。

「……うぅ」

ぽんぽんと撫でる千代の手つきは、昔と変わらない。ほっとしてさくらはますます千代に強くしがみついた。すると撫でる手がピタリと止まった。

「……さくらさ。あの、その……当たっている」

千代に言われ、ふと体に巻いていたタオルがいつの間にか落ちていたことに気がついた。

「ぎゃああああああ」

色気のない悲鳴をあげ、さくらは千代を突き飛ばした。

「……バカ! エロ! すけべ!」

「……はぁ、自分も抱きついた癖に」

「……だって」

さくらは温泉に身を沈めた。温泉が白濁しているため体が隠れた。

「……残念」

「へ?」

「いや、まあ元気出たみたいで何よりだよ」

そう言って千代は手を振り、温泉を上がった。

さくらは千代と抱き合った瞬間の感覚に戸惑っていた。小さい頃も泣きながら千代に抱きついたことがある。けれどもあの頃はまだ互いに体格が子どもだった。

(なんか、千代。がっちりして、男の人の体だった)

さくらは顔を赤く染め、温泉に深く浸かった。そして、のぼせる直前まで温泉に入ってしまったのは、ココだけの話である。


「あ、葉! 探したんだよ。やっぱり皆で飲み会しようぜ!」

さくら―葉は温泉で色々あり過ぎたので早く寝たかったが、秀吉に酒瓶をちらつかされ、少しだけならと思ったのが誤りであった。

気がつくと葉は寝落ちしてしまい、何故か寝ぼけた秀吉に抱き締められていた。幸い、さらしを巻いていた為、見ためでは分からないが、きつく触られたら違和感に気づかれるかもしれないと、秀吉の腕をふりほどこうとする。しかし小柄な割に力強い秀吉の腕はほどけそうにない。しかも、お酒の余韻が体に残り眠気に負けそうになる。

(はやく、腕ほどかな……きゃ)

そう思いつつも、眠気に負けた葉は秀吉の腕の中で眠り込んでしまった。

「ん……? あれ、皆寝ちまったなぁ」

目覚めが良い秀吉は、朝を迎え何かを抱き締めていることに気がついた。

「ん? あ、よ、葉?!」

慌てて起き上がり体を離そうとするが、寝ぼけた葉は秀吉から離れない。

(ちょっ……なんかこいつ、男のくせに柔らけぇ)

腰に抱きつくさくらをほどこうともう一度試みるが、なかなかほどけない。それに何故だか間近で顔を見ていると自分の心臓の鼓動が早くなるのを秀吉は感じていた。

(……ってか実は女とかじゃないよな)

そう思いじっと葉の胸を見るが、さらしが巻かれた胸は浴衣の上からはまっ平らに見えた。

「……葉が女の子ならなぁ。オレ、ノンケのはずなんだけど」

酔い潰れた死屍累々のメンバー達を見ながら秀吉は朝から人知れず、溜め息をついた。


そんなそれぞれが様々な想いを抱えた温泉旅行の次の日。葉は信玄に呼び出された。珍しく二人きりで話したいというのでなんだろうと葉は首をかしげる。待ち合わせたカフェの一番奥に、先に信玄はいた。

「急に呼び出してごめんな、葉ちゃん。ちょっと報告があるんだよ」

「なんですか? 信玄さん」

改まった話というのはいささか緊張する。

「俺、芸能界にスカウトされたから、近々ホスト辞めると思う」

「はっ?」

葉の波乱の日々は続く。

葉がホストをはじめて1年と1カ月弱。 残り借金4億円7,620万円。


続く

■注意■

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