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2014.12.01
作者情報
| 中里 朱里 |
| 小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 |
ホトトギス!【完】
2014.06.23
第4話 あたし、恋されちゃいました!(前編)
2003年5月2日
『天国のママへ。どうしよう、あたし告白されちゃった・・・・・・
2003年3月11日
雅がお金を取りに返る、と言ってから1週間後。連絡先も聞いたが電話もメールの返信もなく、音信不通状態であった。
店内で開店準備をしながら、千代がぽつりと呟いた。
「雅さんこないねぇ」
「こりゃ、未回収と幻の指名になるかなぁ」
と秀吉も続ける。
「まあ、人は思わぬ裏切りもあるからな」
遠い目をする信長に千代と秀吉が気の毒そうな目を向けた。
「……」
葉は何も言えず黙って店内の掃除を続けた。最初こそを雅を恨めしく思ったが調子に乗った罰かもしれない。仕方ないがコツコツと回収出来なかったお金を細々と稼ぐしかないと諦め気味であった。
「まあ、いい教訓だと思って今後は気をつけ……ん? 雅さん?」
千代が慰めようとすると、店の扉が開いた。すると、雅が息を荒げながら店内に入ってきた。どうやら走って店に来たようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、ご、ごめんなさい!」
「雅さん!」
葉はほっとして雅に駆け寄った。
「ごめんなさい! 大学の試験が始まってなかなか、外出が出来なくなっちゃって……」
「……今後は気をつけて下さいね」
最初は雅に怒鳴りつけてやろうと思ったが、今にも泣きそうな様子に葉は軽くいさめるだけに留めた。
それに初めての指名客である彼女をあまり責めたくはなかった。
「本当にごめんなさい! お金も持ってきました。あ、支払い現金でなくてもいいですか?パパに新しいカード作って貰ったんですけど」
「はい? 構いませんが」
代わりに千代が答える。
カードだろうが、現金だろうが支払ってくれるのはありがたい。お会計をしようにカードを受け取って、葉は思わず無言になった。
「ぶ、ブラックカード?」
雅はにこにことほほ笑んだ。
「えぇ、パパが雅用に作ってくれたんです。好きに使っていいって」
葉も以前クレジットカードを持っていたことがあるが、せいぜいゴールドカードが限界であった。単なるお金持ちではブラックカードは持てない。収入があることは勿論、継続して安定した収入がある人物でないと持てず、審査が厳しいことで有名だ。
「うひゃ~桁違いのお金持ち!」
と、秀吉が思わず口笛を吹く。
「あ、あの。あと葉さんがお客さんに困っているって聞いたので、何人か御友達連れてきました。ここのホストクラブは皆さん素敵だって」
「皆さん?」
すると、10数人の若い女性が店内に入ってきた。
「雅さまぁ、はやいですぅ!!」
「わたくし、ホストなんて初めてですわぁ」
「まぁ、素敵な殿方達!!」
皆、上品な立ち振る舞いでいかにもお嬢様っぽい雰囲気の人ばかりであった。
「同じ大学の子達なの。 皆さんホストは初めてだから皆様よろしくね」
開店前だというのに、店内は一気に賑やかになった。
「おおおう、雅ちゃん、お金持ちだから現金持ち歩く習慣のないお嬢さんかなーと思ってたけど、マジだったっぽいね」
「……秀吉、気づいていたんだ?」
葉が問うと、秀吉は頷いた。
「あぁ、持っていたカバンとか服装がさ、高級ブランドのオーダーメイドのばっかりだったんだよね。オーダーメイドだと、ロゴがさりげないから一見分かりにくいのだけど」
秀吉の観察力に感心したが、とりあえず目の前の事態に、葉は混乱しながらもにっこりとほほ笑んだ。
「えぇと、いらっしゃいませ、お嬢様達?」
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4月になり、季節は春を迎え、明るい兆しがホストクラブ『ホトトギス』にも表れ始めていた。雅が『ホトトギス』に訪れるようになって、一ヶ月が経つと、それまで指名ゼロが嘘だったかのように、葉の指名は急激に増えていた。まだまだ皆に追いつかないが、雅の友人は一人一人お金を落としていく額が大きかった。凄い時には売上一晩で、50万以上の時もあった。他のホストクラブからすれば少ないかもしれないが、弱小ホストクラブの『ホトトギス』からすると、十分大金である。
どうやら雅は大学でも女子の間で、リーダー的な存在らしく次々に大学の同級生達を連れてきたので、自然と信長、秀吉、千代の売上げも上がっていった。喜ばしいことではあるが、同時に問題も発生した。
「雅さんのお陰もあって、太客も増えたし、そろそろ新しい誰かを入れないと」
ホストの人材不足である。
閉店後、千代はスーツ姿のまま自宅のリビングでソファー座り、昨日の売上げを計算しながら顔をしかめた。最近は裏方作業する暇もなく、千代は自宅まで仕事を持ち帰ることが多くなった。
葉もまだスーツ姿のまま、向かいの一人用ソファーに座りながら借金の督促状の整理をしていた。少しずつではあるが、返済の見通しが立つようになってきたのだ。
「う~ん。でも、これ以上誰に声をかければいいのか。あたし男友達いないし」
「一応秀吉が友人に声をかけてくれてるけど、良さそうな男性からは断られて、いいって言ってくる人は……なぁ」
メガネをずりあげながら、千代が複雑そうな顔をすると、葉も同意するかのように頷いた。
「なんていうか、華のある人が来ないのよね」
葉はこの前初めて行ったホストの面接を思い出した。皆悪くはないが、なんと言うか華が無いメンツばかりであった。元々秀吉は会社員の為、友人もどうしても一般の人が多い。
恐らく普通のホストクラブなら彼もいいかもしれないが、無駄に信長、千代、秀吉の顔が良いので見劣りして見える。それに戦国武将を自称する彼らと普通の人ホストを一緒にするイメージが出来なかった。
「一人、心当たりがあるぞ」
突然の声にふり返ると、アフター帰りの信長が、お酒で顔を赤らめたまま千代の隣にどかっと座る。
「信長さん?」
「信長殿?」
「俺らと同じ奴が、もう一人。上杉謙信がこの時代に来てたぞ」
「え、謙信殿がこの時代に?」
千代がそう言うとまた戦国武将かぁと葉は遠い目をした。ああ、もうそろそろ本当にこの人達を戦国武将だと認めた方がいいのだろうかと思っていたが、信長のとんでもない発言にその悩みさえも吹っ飛んだ。
「あぁ、しかも奴はこの時代でにゅーはーふというのをしていたぞ。俺の客だ。最初は女の恰好をしているから気づかなかったが」
「ニューハーフ!?」
流石に千代も驚いた表情をした。
「いや、確かに上杉謙信は女性疑惑があったけど、だからってニューハーフってのはないわ」
もう、想像の域を超え始めてきた。戦国武将がタイムスリップしてくるのは、まあ、ぎりぎりありとしよう。ドラマでも小説の世界でも良くある話だ。ホストクラブもまあ10000分の1の可能性もあるかもしれない。けれどもタイムスリップした戦国武将がニューハーフになっていたというのは想像の範囲外過ぎて、葉はもう乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。
「俺も最初は冗談と思ったが、さっきあふたーという奴をしてきてようやくアイツも口を開いたぞ。 とりあえず女の恰好は辞めてさっさそうちの店手伝えとは言っておいた。連絡先を貰っておいたぞ。じゃあ俺は今から寝るから、後は頼んだ」
そう言ってテーブルの上に信長は謙信の連絡先が書かれたメモ用紙を置いて、2階にあがっていった。信長は千代の隣の部屋、いなくなった父の部屋で寝泊まりしている。
残された葉と、千代は思わず顔見合わせた。
「千代、どうしよ?」
「……とりあえず声だけはかけてみようか」
続く
イイネ!
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