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2014.12.01
作者情報
| 中里 朱里 |
| 小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 |
ホトトギス!【完】
2014.08.18
第8話 ホスト辞めますか、夢、追いますか?(前編)
2004年2月
『天国のママへ。ねえ。皆ずっと一緒にいれないのかな』
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ホストなんて、最初はやりたくなった。
けど、秀吉に声をかけ、信長に出会い、千代に支えられてはじまったホストの生活がさくらにとって今ではかけがえのないものになっていた。そして、ホストが日常になった今、変化は唐突にやってきた。
「信玄さん、ホストを辞めて、芸能人になるんですか?」
さくら-葉は呼び出された喫茶店で思わず叫んだ。
周囲が葉の声に反応するが、信玄は特に気にせず話を続けた。
「ああ。まあ元々ホストも歌も、元の時代に戻れる迄のつなぎと思っていたんだ」
「元の時代……」
信玄をはじめとした信長達が生まれたという時代、戦国時代のことだろう。
「けど、恐らく元の時代に俺達は戻れない。というか多分、俺達は一度死んだんだと思う。けど、神のいたずらか何か分からないが、もう一度この時代で生きるチャンスを貰った」
「……本当はまだ信じてないんですけど、皆が戦国時代から来たってのは」
葉が正直に言うと、信玄は笑った。
「はは、案外慎重で疑り深いんだな。葉ちゃんは」
「ええ。家族でさえ信じられない世の中なんで」
父に思いをはせながら葉が頷くと、信玄は笑った。そしてその信玄の笑顔で、喫茶店にいた女性陣達がどよめく。
葉は信玄にときめきはしないものの、思わずみとれた。
(本当にこの人華がある人だなぁ)
芸能界からスカウトされるのも頷ける。けれどもすぐにホストを辞める必要はないのではとも思った。
正直葉にとって、彼らが本当に戦国武将とか、過去から来たのかどうかはどうでもいい。勿論本物の戦国武将だったら嬉しいのも事実だが、貴重なホストクラブ『ホトトギス』の戦力である信玄という人が去ることの方が問題であった。
「ちなみになんで芸能界行こうって思ったんですか。そりゃあ信玄さんなら見ためもいいし、歌だって素敵で芸能界からスカウトされるのも分かります。けど、ホストを辞めなくったって」
食い下がる葉に、信玄ありがとうとほほ笑んだ。
「俺を高く評価してくれるようで嬉しいな。けどな、多分俺らは一度死んでいる。何故この時代に来たのかは分からないが、ある意味二回目の人生を与えられたようなもんだ。ならば今度こそ時代や周囲に縛られず、自分の人生を生きてみたいんだ」
「信玄さん……」
信玄の意志は固い。葉は確信した。ならば止めるのは無理だ。
「それにな、まあ芸能界もだが、ホストもずっと出来る仕事じゃない。今後の身の振り方もそれぞれ皆考えておく必要があると思うぞ、葉ちゃん」
そう言って信玄は立ち去った。
「皆の今後か……」
今に精一杯で未来のことを考えてもいなかった葉は、暫くその場で茫然としてしまった。
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「え? 面談」
「うん、だから千代。悪いんだけど皆のスケジュール調整してくれない?」
信玄から辞めることを告げられてから1週間後。葉は4月からの給与の査定を建前に、それぞれのメンバーと面談という形で話し合うことにした。
「いいけど、また急になんで?」
「ん、ちょっとね」
信玄が辞めることはまだ伏せておこう。葉はそう思い、笑ってごまかした。
皆の気持ちを知りたい。そう思ったのだ。
ホストクラブ『ホトトギス』が規模を拡大するにつれ、従業員も増え、ビルの2フロアをフル活用するようになった。基本ホストは控室で着替えや準備をしているが、葉は女性であることがばれぬようにと、事務室で着替えることが多い。事務室はあまり広くなく、作業用の机一つとセットのイス、小さい低いガラス張りのテーブル、そして千代がたまにくつろぎたいからと部屋には少し不似合いなリラックスチェアが置かれているだけである。その為、他のホストはあまり事務室に来ることがない。けれどもゆっくり話すには最適な場所なので、今回の面談の場所として使うことになった。
「失礼します!」
「どうぞ~」
一番早く予定が調整出来たのが、政宗だった。彼は表に立ってホストをすることもあるが、バイトで飲食店勤務の経験もあり、キッチンに立ってフードを作ることもある。その為比較的『ホトトギス』にいる時間は長い。
葉はリラックスチェアの方に、政宗を座るように促した。
「政宗は今後もホスト続ける?」
葉は率直に聞いた。政宗は明るく染めた金髪の髪をぐしゃっといじりながら、首をひねった。
「ん~ホストクラブには皆いるから面白いと思いますけど。今後はまだ分かんないです」
葉の意図を知ってか否か、政宗は素直に話す。
「そっか……、政宗は何をしている時が一番楽しい?」
「んーそうですね。お客さんを喜ばすのは好きだけど一番好きなのは料理してる時ですけど」
確か史実でも伊達政宗は料理好きだったというのは聞いたことがある。武将にもかかわらず料理を部下や客人にふるまったという逸話もあったはずだ。
「料理かぁ…、そういやこの前のおつまみ、食べたけど美味しかった! 料理人とか興味あんの?」
もし平和な時代ならば政宗が目指したかもしれない可能性の一つを葉は口にした。
あえて、ホストを続けてとは言わなかった。政宗をはじめとしたホスト達の未来を背負う勇気は今の葉には、まだない。
「料理人なあ、いいですね。……ずっとこの時代にいるならそれもいいかなって、ちょっと考えちゃいますね。実は、お金貯めているのも欲しい包丁とか、調理器具を買いたいなぁってのもあって」
政宗は、嬉しそうに笑った。
「そう、いいね。その夢、応援する!」
葉は笑顔のまま、政宗に笑いかけた。皆との別れを覚悟しながら。
次に面談したのは謙信だった。美しいものが好きな謙信はメイクアップアーティストと、服飾デザイナーに興味があるらしい。
「けど、最近あたしが好きな洋服のお店からショーモデルの話も頂いて」
謙信のモデルの話に、葉は思わず乗り出した。
「すごい! チャンスだな!」
謙信は美しく微笑むが、少し顔を曇らせた。
「けど、ちょっと悩んでいるの。服を着るのは好き。けどね、どうせなら美を自分の手で作り出したいなって思っていて。けど、きちんとした服を作った経験は無いし。この時代の服はまだまだ分からないことだらけだわ」
「んー謙信は最初会った時に、モデルみたいでかっこよくてきれいだなーと思ったし。興味あるところと繋がれるなら、やってみたら? 入った後に、デザイナーになれるチャンスあるかもしれないし」
中性的な美貌の謙信ならばモデルも向いているだろう。また彼の中には独特の美学がある。モデルからデザイナーの転身もありえそうだと思い、葉は背中を押した。
「んーちょっと考えてみるわ。けど、モデルって意外と食べていくのは難しい仕事みたいだし」
「なら暫く掛け持ちにしてみる?」
「いいの?」
「ああ、シフトも考慮するよ。謙信にとっていい道になればいいね」
葉は淋しさを隠して笑顔になった。
続けて幸村、秀吉、光秀とも葉-さくらは面談していった。
そして定休日。その日は珍しく千代とさくら以外皆出かけており、二人きりで遅い朝食を食べていた。
「皆との面談、どう? さくら」
「うん、結構皆それぞれバラバラだなぁって。ほらホストって長く出来る仕事じゃないし。今後のことも考えとかなきゃ、と思って聞いたんだんだけど」
「ふーん。どうだって、皆?」
千代は興味深そうに、さくらに尋ねる。
「政宗は料理関係、謙信はメイクとかファッション関係に行きたいんだって」
「あぁ、二人らしいね」
「幸村はまだ特に他にやりたいことが無いからホストしながら探してみるって。光秀と秀吉は出来る限りホストを続けたいみたい」
「なるほど。それにしても、ようやくオーナーらしくなってきたね、さくら。まあ僕は元々ホストを長くやるつもりはないし。さくらの借金が落ち着いたらWEB制作関係の仕事をすると思う」
「うん……千代はそうだろうなと思う」
胃が強くないさくらの為に、政宗が作り置きしてくれたおかゆをすすりながら答える。
「さくらこそ、ホストずっとやってる訳にはいかないでしょ。まだ時間はかかるけど借金も順調に返しているはずだし、全部返し終わったらどうするの?」
千代は自分で焼いたパンを食べながら、尋ねた。
「……まだ何も考えてない」
「だろうね。だったら色々先のことを考えることより目の前のこと、きちんとした方がいいと思うよ。幸村とかもそうなんじゃないかな。まあ秀吉と光秀はこの仕事が好きでやっているとこあるし、俺もまだ辞めない。焦ることないと思うよ」
まだそばにいてくれる人材がいる。そう思うだけでさくらは少しだけほっとしていた。
幸村は寡黙でアピールは上手くないが、聞き上手でお客様から落ち着くと評判で、新規こそ弱いもののリピーターも多かった。秀吉はサービス精神旺盛で、トップを目指そうという向上心が強く、新規にもリピーターにも好評だ。光秀は発言が高飛車なため誤解されがちだが、誰よりもお客様に対して取り組む姿勢が真面目だ。面倒なお客様に対して、他のホストなら嫌がるところでも引き受けていく度量がある。
面談していくうちに、皆将来のことを彼らなりに考えたり、悩んでいることに気がついた。けれども将来を案じてばかりでは前に進めない。食べて行く為にもまずは目の前にあるこの仕事にそれぞれ本気で取り組んでいるのだ。
「そうね。あたしも、まずは借金返すことに専念しよう」
将来の事を考えるのはその後でもいいはずだ。
一通り、『ホトトギス』で働くホスト達の今後を聞いたさくらだが、一人だけ聞けない相手がいた。信長だ。この前の温泉以来互いに距離を置いている。今日は家にはおらず、どこかに出かけているようだ。
「……明日聞いてみようかな」
さくらはここにいない、信長の事を考えながら呟いた。
続く
イイネ!
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