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2014.12.01
作者情報
| 中里 朱里 |
| 小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 |
ホトトギス!【完】
2014.10.27
第13話 あたし、ホストクビ!?(前編)
2004年9月11日
『天国のママへ ホスト、辞めろって言われちゃった……』
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2004年9月11日
その後の秀吉の家飲みは、和やかなひと時だった。秀吉の地元の友人も参加し、皆でお好み焼きとたこ焼きの粉ものパーティーで大いに盛り上がった。
けれども、幸村から言われた言葉がさくらの脳裏から離れなかった。
(ホスト、辞めてくれ……か)
幸村の言い分はこうだった。神9の幹部以外のホスト達に、さくらが女であることはまだバレていない。けれども、最近さくらに対して女性と疑っているホストがいること、そして勘のいいお客様が数名いるらしいとのことだった。
元々さくらの端正な顔立ちから女性を感じさせる部分であったが、彼女が女性だと知ってしまった神9の遠慮がちな態度が、余計に女性疑惑に拍車をかけているようだ。
今のところ幸村が疑惑の煙を消し止めているが、何かの拍子にバレると『ホトトギス』の信用問題に関わるとのことだった。
さくらは秀吉達と別れ、先に一人で自宅に帰った後、部屋で考え込んだ。
「確かに、幸村の言う通りだなぁ」
借金は秀吉が代わりに払ってくれたお陰で、急いで返済する必要も無く、オーナーとしての立場の収入からでも十分返せるように配慮してくれている。
それに、自分でも気付いていたがここ最近急激に体に丸みが帯びたような気がする。多分信長に恋をしたせいかもしれない。
初めての恋であり失恋でさくらは女らしくなった。本来なら良いことだが、ホストをする身では色々と問題だ。同い年の正宗と幸村が男らしく成長しているのに、さくらだけ明らかに男としては幼い。また秀吉達上位組は勿論、他のホスト達も秀吉に及ばないものの確実に売上を伸ばしていた。けれどもさくらは売上が下がってはいないが、ここのところ停滞している。
もう、潮時なのかもしれない。
「辞めたくないなぁ」
さくらはベッドの上に転がり、枕を抱き締めた。
最初は辞めたくて仕方なかったホストの仕事だ。イメージしていたより、全く楽ではなかった。今だって失敗も多いし、売上だってなかなか他のメンバーには敵わない。
でも、このまま終わるのは嫌だった。けれども具体的な案もないまま、さくらは眠りに落ちていった。
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次の日、さくら-葉はいつも通り出勤した。
(今日は、男らしくしなくちゃ)
けれども周りから女だとバレるのではと思うとぎこちなくなり、思うように働けない。幸村の、鋭い目線を背中から感じるようで、尚更調子が上がらない。
どうやってお客様と話していたのか、どうやって振る舞っていたのか分からずその日は散々であった。
「今日は随分と酷いな」
仕事終了後、更衣室で光秀に声をかけられた。
「光秀……」
「やっぱり女の身でホストなんて無理があるな」
「……」
いつもなら反論するのに、葉は何も言えず無言で光秀を見つめ返した。調子のおかしい葉に光秀は眉をひそめた。
「なんだ? 良く分からんが体調が悪いとかなら明日休め。自己管理も仕事のうちだ」
大人しい葉の様子に動揺したのか、光秀はぶっきらぼうではあるが、心配そうな口調になる。
「やっ、やっぱり、女でホストなんて無理なんですよねっ……」
気がつくと、葉はぽろぽろと涙をこぼしはじめていた。
今までどんなにきつく言っても泣かなかった葉の涙に、光秀は慌てた。
「おい、泣くな!」
「あ、明智様泣かしてる!」
「光秀~いじめはだめよ~」
政宗がはやし立て、謙信がおちょくると光秀はなお焦った顔をする。
「くっ! うるさいお前ら!」
光秀は一喝するが、益々周囲は騒いだ。
「葉。お前、今日アフター入ってないよな。飲みに行くぞ!」
光秀は泣き続ける葉を無理やり引っ張り上げ、店から連れ出した。
「はい……」
光秀が連れていったのは、光秀のイメージとは違う、大衆的な小さな居酒屋だった。周りの喧騒と思いがけない場所に、徐々に葉は落ち着きを取り戻していった。
「光秀さん、こんなとこに来るんだ」
「此処の方が落ち着く。それにちょっと言われたぐらいでピーピー泣くガキにはここで十分だ」
憎まれ口を叩きながらも、ハンカチを差し出す光秀に葉はクスッと笑った。
(口は悪いけど、優しい人だよなぁ)
「ありがとう、光秀さん」
光秀は照れくさそうにそっぽを向いた。
「……何か食べるか。ここの串カツうまいぞ」
「今日は光秀さんに全部お任せします」
光秀は常連らしく慣れた様子で注文し始める。暫くしてビールと、串カツの盛り合わせがテーブルに置かれた。
「ほら、食え」
有無言わさず、光秀は葉の口に串カツを突っ込む。
「自分で食べられるから! って熱!」
慌てて串カツを受け取ると、ふぅふぅと息を吹きかけ、冷ましながら口に頬張った。アツアツの揚げられた牛カツをかじると、肉汁がじわりと口に広がる。
「美味しい~!!! 何これ絶品!」
「だろ、ほら乾杯」
乾杯すると、光秀も串カツを美味しそうに食べ始めた。葉はビールを飲みながら、串カツを次々に口に運ぶ。牛カツ、豚カツ、玉ねぎ、エビ、レンコンと一通り堪能すると、葉はほっと息をついた。
「凄い勢いで食べたな。まあ泣きやんだようでなにより」
ふっと柔らかい表情になった光秀を葉はじっと見た。
「光秀さん、意外に面倒見がいいよね」
「意外って」
「いやあの時、養護施設の人を海に呼んでいた時も思ったけど。それだけ面倒を見れる人がなんで『桔梗』の時はワンマンだったのかなって」
葉の指摘に、光秀は苦虫をつぶしたような顔をした。
「まあ色々と気を張ってたんだよ。お前に好きにやられたけどな」
「あの時はちょっとやり過ぎたと思う……ごめん」
「わたしも『桔梗』の頃は一人で突っ走っていたしな。なんだかんだ今の『ホトトギス』は気に入っている」
思いがけない言葉に、葉は微笑んだ。光秀の顔が少しだけ赤くなったが、すぐにうつむいていたので葉は気付かなかった。
「それはオーナーとして嬉しい言葉だね! あっ!」
忘れていたが、光秀は曲がりなりに元No.1の経験もあり、今でも上位3位にも入っている。謙信や政宗とは売上についてよく相談するが、光秀とはそういった話をしたことがない。
「何だ?」
「光秀さん、ちょっと相談が」
「何だよ?」
「どうすればNo.1になれんの?」
折角なのでと思い、軽いノリで光秀に尋ねてみた。
「一度なっているだろ。賭けをした時に」
「いや、あれは千代の力だし」
葉がふくれると、光秀は面倒くさそうにビールを流し込んでから答えた。
「まぁ、家康をたらしこむのも一種の才能だと思うが」
「たらしこむ?」
千代をたらしこむ意味が分からず、本気で首をかしげる葉に、光秀は千代に同情した。
「あそこまで好意があからさまなのに、気づかないのも凄いな」
「なんのこと!? まあそれよりNo.1になる秘訣教えて下さい!」
土下座せんばかりの葉の姿に、光秀はうーんと唸ると、ポツリポツリと話し始めた。
「その1『お客様の顔を覚える』」
「ちょっと待って、メモする!」
慌ててポケットからメモ用紙と、ペンを取り出しメモし始めた。
「その2 『お客様の情報を集める』」
光秀は葉が書き終わるのを見計らって、話を続けた。
「ふむふむ」
「その3 『お客様の喜ぶことをする』」
「まーホストの基本だね」
「以上。あ、店長。串カツの盛り合わせもう一つ」
「え。えぇぇぇ!」
思いがけないシンプルな答えに、葉は戸惑った。
「それだけ? 本当にそれだけ?」
「そうだ。あ、店長ビールももう一杯」
引き続き注文を続ける光秀の腕を、葉はガシッと掴む。
「ええ、それだけでNo.1になれるわけないでしょ!」
しつこく食い下がるが、光秀は邪険に腕を払った。
「うるさい。それだけだ。けど、その『それだけ』をお前は確実にやっている自信はあるか?」
問われて葉は言葉にぐっと詰まり、考え込んだ。
常連の顔は流石に覚えているが、言われてみればたまにくるお客様の顔はおぼろげだったり、名前も覚えていないこともある。それに、お客様の情報といっても彼女達の全てを知っているわけではないし、また全てのお客様を喜ばせているかどうかは分からない。
「正直、自信は無いです」
「じゃあ今いったことを全部しろ」
「はぁい。んーNo.1って前の千代みたいに、何か狙って裏ワザみたいなことしているのかと思ったんだけど」
千代のNo.1の話を持ちだすと光秀は複雑な顔をした。
「まあアイツみたいに自分の得意なお客様は誰かと考えて開拓するのもいいが、あれも一時的ものだ。それにお前と、家康の強みは全く違うだろ」
「あたしの強み……ってなんだろ」
葉が以前読んだ歴史の戦略の本にも、自分の強みを活かせと書かれていたような気がする。けれどもその強みというのが、イマイチ分からない。
「さあな、自分で考えろ。いいか、ホストは究極の接客業だとわたしは思っている。やりがいのある仕事だ。基本を徹底的に見直して自分なりにやってみろ」
「基本を見直す……。分かった自分なりにやってみるよ、ありがとう光秀さん」
満面の笑顔を見せる葉に、光秀は思わずどきりとした。女性らしさが増したせいか、可愛くもあり、美しい妖艶な笑みだ。光秀は桔梗で初めて葉に出会った時の笑顔を思い出した。
あの時、思わず見とれていたのを葉は知らない。
「その笑顔もある意味強みだな」
「?」
(罪づくりな女だ)
光秀は葉に惹かれつつあるのを、ごまかすかのようにビールをまた流し込んだ。
続く
イイネ!
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