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ポケパラ体入>ポケノベ>ホトトギス!>第3話 あたし、ホストはじめます!(後編)
小説タイトル
イラスト:ヨルノトウコ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルホトトギス!【完】 更新日時2014.06.16

第3話 あたし、ホストはじめます!(後編)

小説挿絵 再オープンしてから、1カ月ほど経過したある日の晩。

お店が終わってから、葉―さくらは女性の姿に戻ると、こっそり自室で一人酒盛りをしていた。すると、千代がノックもなしに突然扉を開け、部屋に入ってきた。

「ふ~ん、さくらがそんなにお酒に強かったって知らなかったな」

冷たい千代の目線に、さくらは顔を強張らせた。

「と、父さまもお酒は強かったしね。遺伝じゃないかな」

「ふーん。それ、店の酒? まあもう期限近いからどうせ捨てるつもりだったからいいけど、今度はちゃんと報告しろよ」

「あ~うん、ごめん」

酷く責められると思ったが、千代は意外にも軽く咎めただけであった。

「それにしても、ホストとしての素質はほぼゼロだけど、お酒が強いのだけは才能だね」

部屋に転がった大量のビール瓶を眺めながら千代は呆れた顔をした。

「いやぁそんなに褒めなくっても」

「逆に言えばそれ以外は、最低のホストだね」

千代のキツイ一言を無視してさくらは酒を煽った。今の自分の姿がみっともないと言うのは自覚している。それでも飲むのは止めれそうになかった。

「……それは分かっているってば」

秀吉のアドバイスと、千代のサポートのお陰で徐々に『ホトトギス』の客は緩やかではあるが、少しずつ増えてきていた。信長、秀吉、千代にもそれぞれ指名客がつき、順調な滑り出しに見えた。しかし、一つだけ問題があった。

「どうして、あたしには指名がないのかぁあああああああ」

常連客には可愛い、可愛いと言われるのだが、何故か指名までには行きつかない。

「……色気の無さ?」

千代に冷静に指摘され、さくらは頭を抱えた。

「なんでよ! 一応あたしは女なんだけど、色気も20歳になったはずだから出てくるはず!」

「……さくらに言わなければいけないことがあるんだ」

「な、何よ」

千代の改まった言い方に自然と背筋が伸びる。

「以前『織田さんって綺麗だけど、色気ない美人ナンバー1だよね』って近所の子が言っていたのを、僕聞いたんだよね。ごめん」

「そんな話、今更聞きたくないわよ!!」

思わず叫ぶと、千代はさくらに近づき、優しくさくらの頭を撫でた。指名がつかず落ち込んでいるさくらを心配して部屋に来たのだろう。そう言えば小さい頃、父親が仕事でなかなか帰ってこない日が続いて一人で泣いていると、千代が良く慰めてくれて頭を撫でてくれたのを思い出した。

「まぁ、さくらがさくらなりに頑張っているのは知っているよ。とりあえず諦めずに続けてこう」

「うん……」

----

次の日の夜。珍しくその日は誰も来店していなかった。

「今日は信長様の逆ナンキャッチもイマイチだねぇ」

「まぁこんな日もあるだろう」

秀吉がそう言うと、信長は特に気にせず、店にあるパソコンを立ち上げ、千代の作ったHPサイトをじっと眺めていた。インターネットにどうやら興味があるらしくしょっちゅう信長は時間があればパソコンを触っていた。

「うーん、今日はお茶かなー」

千代は店内で携帯電話を握り締めたまま、うろうろと落ち着きなく歩き回っていた。メールを何人かの常連客に送ったようだが、どうやら、空振りのようである。

葉は入口近くのソファ席に座りながら、ホストの知識をまとめたノートとにらめっこをしながら、尋ねた。

「お茶ってなんだっけ?」

「誰も指名の客が来ないことだよ」

「あぁ、そうだった。ホストの専門用語って結構多くて難しいなぁ。あ、お客様!!」

来客に葉が気づくと皆一斉に笑顔になって客を出迎えた。

「いらっしゃいませ!!!」

すると一人の女性が、おずおずと店に入ってきた。歳は20そこそこに見える。『ホトトギス』は落ち着いた雰囲気のお店もあり、20代後半~30代のお客様が多い。

(珍しく若いお客さんだなぁ~同い年くらいかな)

葉はじっと女性を見つめた。

栗色のゆるい巻き髪に、アイボリーカラーのワンピース。派手さはないが、どことなく品の良い雰囲気が漂っている。

「あ、あの、サイトでこちらのお店を見かけて……」

「あ! ありがとうございます」

お店のHPを作った千代が嬉しそうに挨拶をするが、何故か女性は腰が引けている。

「いや~こんな可愛い子がきてくれるなんて、家康の作ったサイトも捨てたもんじゃないねぇ!」

「ふむ、なかなかHPというのも面白いな」

客が一人もいないせいか、皆若い客に群がり絡んでいくが、女性は喜ぶどころかおびえているようだ。どちらかというとホストに遊び慣れたお客か、ホスト達に色目が使うお客に見慣れていた葉には彼女の様子が不思議に見えた。

「いらっしゃいませ。どなたを指名しますか?」

葉が尋ねると、彼女はほっとした顔をした。

「えぇと、わたくしホストは初めてなのですが」

「じゃあ、俺にしなよ~! ホストの楽しみ方教えるよ~! 楽しくお喋りしよ~」
と秀吉がアプローチをする。

「あまり喋るのは得意ではないが、酒を楽しく飲みたいなら俺かな」

お酒を純粋に飲みたい信長が後に続く。

「ホストが初めてでしたら、無理のない範囲での楽しみ方教え致しますよ」

そして、常連客を増やしたい千代も優しく微笑む。

葉は何と言っていいか分からず、とりあえずにこりと女性に笑いかけた。

「えぇと、じゃあ、あなたで」

と、意外にも女性は一番奥で控えていた葉を指名した。

「え?」

初めての指名に、戸惑いつつも千代や秀吉に教えられたことを思い出しながら、女性を席に案内する。

「えぇと、こんにちは。 今日も随分と寒いですね」

何と話していいのか分からず、天気の話をするが女性はずっとうつ向いたままだ。

「あ、あの、えっと……あ、なんて呼べばいいかな?」

葉が聞くと、女性はパッと顔を上げ、赤らめた。

「えぇと、わたくしは、みやび、っていいます」

「へぇ、いい名前だね。どんな漢字なの?」

ともかくお客様には何か褒めろと秀吉に教えられたことを思い出し、名前を褒めた。

「あ、ありがとうございます。優雅の雅という字で雅(みやび)です。わたくしには不似合いな名前で……」

雅と名乗った女性は、歳は20歳だという。同い年であることに葉は親近感が湧いた。よくよく見ると綺麗な顔をしているのだが、なんだかとても不安そうにしている。

「ねぇ、雅さんは今日何故ホストクラブに? 初めてってことは前から興味あったの?」

好奇心から尋ねると、おずおずと雅は口を開いた。

「あ、あのわたくし、小学校から、高校まで女子校でして。けど入った大学が共学なのです。けど、男の人と何を話していいのか分からなくて。少しでも男の人と慣れたくて。ごめんなさい、こんな理由でホストに来ちゃだめですよね……」

「そっかぁ、それは大変だねぇ。でも、女ばかりの環境から突然男の人がいる環境になったら誰でも不安になるよ」

相手の目線になって話す。千代のアドバイスを思い出しながら、葉は話を続けた。

「はい、将来結婚出来るかも不安で」

「大丈夫だよ、今俺とは話せているし!」

葉が励ますと、雅はようやく笑顔を見せた。笑うと可愛いなあと葉は微笑ましく感じた。

「ふふ。なんだか葉さんはえっと、顔立ちが可愛らしいので女友達とお話しているみたいで安心します」

「はは……」

まあ、本当は女性だしね、と内心思いながら苦笑した。

(まあいいか。またお店にきて、本指名してくれたら嬉しいけど、この感じだと初回だけかな。まあでも場内指名されただけでもいいと思わなきゃ)

そう考えていると、雅が予想外なことを言った。

「葉さん、確か、ホストって本指名とかあるのですよね? わたくし、葉さんを本指名します」

「え?」

基本的に本指名、本番指名は初回来店でホストの様子を一通り見てから、指名する人が多い。初回にいきなり本命指名ということはまれだ。

「俺、初指名なんだ! ありがとう! でもなんで?」

「ふふ、わたくしこんなに男性と楽しくリラックスしてお話が出来るの、初めてなのです。なので、よかったら葉さんに、男性が苦手なのを克服する練習相手になって下さればと思って。またお店来ますし、ちゃんと本指名したいなと思ったのです」

雅の言葉に、葉はぶんぶんと頷いた。

「いいよ、俺でよければいくらでも練習相手になるよ!」

「ありがとうございます。あ、どうぞ、あの沢山飲んで下さいね。ホストの方は飲んだお酒が売り上げになるって聞きました。なので、飲んで下さい。インターネットで色々調べました」

「え? いいの?」

お言葉に甘えて気になるお酒を選んで、値段を見せるが雅はにこにこと頷くだけだった。

葉は遠慮なく飲むことにした。高価なお酒を次々と飲んでいると、千代が小声で話しかけてきた。

「ちょっと、さくら。いくらなんでも最初から飲みすぎ。お金を使わせ過ぎるのもよくないよ。それよりも継続して来て貰うことの方が大事だよ」

葉は小声で反論した。

「なによー!お客さんがいいって言ってるんだからいいでしょ!」

「……調子に乗っていると痛い目に合うよ」

千代が心配そうに呟くと、葉は笑い飛ばした。

「大丈夫だって!きっとあたしホストの才能があるんだって! あっという間にこれでNo.1ホストで、そんでもって日本一のホストになっちゃうかも!」

調子に乗る葉に千代はため息をついた。

「……勝手に言ってなよ」

千代は呆れた顔で葉のそばを離れた。

千代は面倒見いいが、たまに人を小馬鹿にしたような態度をする。それが葉は気に入らず、ますますお酒を煽った。

(なによ! 千代ってば失礼しちゃう。でも今日はラッキーな日! お酒も飲めて、指名もとれてちゃうなんて!! ん?)

暫く飲み続けていると、隣がやけに静かなことに気づいた。ふと横を向くと、雅が真っ青な顔をしている。

「あれ、どうしたの?」

「あの!! ごめんなさい、葉さん、わたくしお財布忘れてしまいました!!」

「え?」

葉はただただ顔を青くするしかなかった。

ホトトギスオーナー&ホスト、葉。ホストをはじめて1カ月。残り借金5億円。


続く

■注意■

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