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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>ホトトギス!>第5話 あたし、ホスト遊びします!(前編)
小説タイトル
イラスト:ヨルノトウコ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルホトトギス!【完】 更新日時2014.07.07

第5話 あたし、ホスト遊びします!(前編)

小説挿絵 2003年5月15日

『天国のママへ。あのね、ママ。ホストってね、凄く面白い!!』

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告白されてから数日後。

「はぁ……」

朝方、自宅のリビングで、一人用のソファーに座りながらさくらはため息をついていた。雅に告白されたのが先週の金曜日。その場では何とかごまかしたが、はっきりとした返答を雅にはまだ返せないままだった。

雅のことは好きだ。年代も近いし、彼女のふわふわとした優しい雰囲気はほっとするし、これからもまた会いたいとは思う。けれども、告白に応えることは出来ない。

「あたし、女だしなぁ」

そもそも雅の告白は、さくらが『男』だからという大前提がある。けれどもその大前提が嘘なのだ。

千代や秀吉に相談してみたものの、「色恋営業はほどほどに」と軽く流されるだけだった。

彼等にとってお客様からホストに対する告白は日常茶飯事なのだろう。しかし、さくらにとっては告白されるのは初めてのことだ。

「せめて、男性からの告白が!! いや、今告白されても借金でそれどころじゃないけど!」

と、ソファーの上で体育座りをしながら悶々としていると、いつの間にか傍に信長が立っていた。

「元気、なさそうだな」

「あ、信長さん。寝ていたんじゃ」

「ん~なんだかよく眠れなくてな。 おかしいな、昔よりよっぽどいい場所で寝ているんだが」

「はぁ」

ホストクラブと自宅の往復で、普段はスーツ姿が多いが、寝る時はロングのTシャツを着て、ジャージの黒のロングパンツをはいている。どうやら千代から借りたものらしい。

首をかしげながら信長は葉の前のソファーに座った。まだ母がいた頃は、父と母と3人で信長が座っているソファーに座っていたのをふと、思い出した。

「……何かあったのか?」

「え?」

ふと昔に浸りかけた葉だが、信長に声をかけられはっとした。

「ここ最近、なんだかぼんやりしていることが多いぞ。女の身でほすとという仕事が、色々大変なのは分かるが、金を貰っている以上、きちんとやるべきことはすべきだと思う」

至極まっとうな信長のセリフにさくらは余計落ち込んだ。

「そうですよね、お客さんに告白されたくらい軽く流せばいいんですけど、どうしていいのか分からなくて」

ますます小さく身を縮める葉に、ふむと信長は頷いた。

「葉、いやさくらよ。貴様、明日ホストクラブ休め」

「え?」

「そして明日俺に付き合え。ちょっと行きたいところがある。ついついほすとという仕事を真剣にやり過ぎてこの時代のことについて、俺はまだまだ知らん」

「はぁ」

ということは信長も明日休むつもりなのだろうか。一応私がオーナーなのだけど、と思ったが、幸い信玄と謙信がいる。信長と葉が1日ぐらいならば休んでも店には問題はないだろう。それに葉自身も、少し休みたい気分だった。

「じゃあ、千代にも伝えておきますね」

「あぁ、そして日本橋というところに俺を連れておけ。これからの時代、天下を取るのはぱそこんという奴だと思う。その為には奴を買わねば」

誇らしげに腕を組み、主張する信長の姿に葉は思わず笑った。

「ははっ、そういやうちの店でもずっとパソコン触っていますしね」

「あぁ、そういうことだから今日はそろそろ寝ろ。昼ごろ起きて行くぞ」

そう言って信長は軽く伸びをすると立ち去って行った。

「もしかして気を遣ってくれたんかな」

まさかねと葉は笑い、ベッドに向かった。

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「良い獲物が手に入った」

「はぁ……楽しめたようでなによりです」

信長は細身のグレーの革のパンツにシャツ、そして黒のコートを上に羽織り、さくらはブルーのスキニージーンズに白のセーター、そしてキャメル色のショートトレンチコートを羽織っていた。

久しぶりにオシャレして、パンツルックではあるが葉ではなく、さくらとして女性の恰好が出来ることに嬉しさを感じていた。が、信長との行く先々が全てパソコンショップだったのでオシャレなんてする必要なかったなと軽く後悔していた。

関西の秋葉原と呼ばれている日本橋は、平日にもかかわらず独特な活気に溢れていた。パソコンショップやアニメショップ、謎のジャンクショップなどカオスな雰囲気である。

信長は千代に調べて貰ったらしいパソコンショップをいくつか回り、自分用のパソコンを購入していた。

「まぁな、これからの時代、パソコンは色々と面白いことが出来そうだしな。俺がいた時代は馬と刀と鉄砲が武器だった。しかしこれからはきっと違う戦が始まる」

「……はぁ、そうなんですね」

なんだかよく分からないさくらは、気のない返答をした。どうせなら新しい洋服とか見たかったなと思ったが、普段はスーツばかりだ。女ものの洋服なんて、暫くいらないだろう。

「そうだ。千代から頼まれたものがある。ココに案内しろ」

「はいはい、どこでしょ? え」

さくらは信長から渡された地図を見て、驚きの声をあげた。

「ここ、行くんですか?」

にやりと、信長は笑った。

「あぁ、はよう案内しろ。その後、まだ行くところがあるからな」

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「ふぅん、馬子にも衣装とはこのことだな」

信長は顎に手を当てて、頷いた。

梅田百貨店のレディースコーナーの試着室。さくらは何故かそこで信長に着せ替え人形のように、様々な洋服を試着していた。

そしてようやく許可が下りた洋服は白をベースとした花柄の透け感のあるシャツと、黒のひざ丈スカート、そしてヒールの靴である。どれも肌触りがよく、おしゃれで高そうな洋服だ。顔には下の階のメイクコーナーでこてこてにメイクをされ、しかもご丁寧に、ロングの黒髪のカツラまで用意されていたので、試着室の鏡に映るさくらの姿はどこからどう見ても女の子にしか見えない。

「おぉぉぉ、メイク凄い! 洋服凄い!! ビバ女は加工品!!」

メイクや着替えに思った以上に時間がかかり苦行のようだと最初は思っていた。だが予想以上に美しくなった自分の姿に、妙な達成感を得ていた。はしゃぐさくらの姿に、信長は満足そうに頷いた。

「ふむ、元気が出たようでなによりだ」

「……もしかして、励ましてくれたんですか?」

「元気がないおなごには、美しい着物が一番効く」

照れくさそうに言う信長に、さくらはくすりと笑った。恐らく洋服の店も千代に聞いて調べて貰ったのだろう。

「ありがとうございます、信長さん」

「あぁ、けどここの支払い。お前の給料から引いとくって家康から伝言が」

「えぇ!!」

思わぬ支出にさくらは頭を抱えたが、その様子を見て信長はお腹を抱えて笑い始めた。

満面の笑顔でさわやかに信長に、さくらは思わずどきりとした。けれども慌てて、さくらはそのときめきに気づかないフリをした。今、自分には誰かに恋をする余裕なんて、ない。

「ははははっ!! 冗談だ。もう支払っておいた。さて行くぞ」

「え? どこへ?」

さくらが首をかしげると、信長はさくらの手をそっと握り締めた。

また、心臓が跳ね上がる。

「案内するぞ、姫」

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「いらっしゃいませ!! え? さくらちゃん?」

「あ、どうも」

驚く秀吉に、慌ててさくらは頭を下げた。

さくらが信長に連れられた先は、ホストクラブ『ホトトギス』であった。といってもいつものようにホストとしてではなく、今日は『客』としてだ。

葉と気づかれるのではとひやひやしたが、誰もがお客様としてさくらに接してきたので、胸をなで下ろした。信玄と謙信も千代から「葉の双子の妹です」と軽く紹介されたが、二人は特に疑う様子もなく、いつも通り笑顔で応対してくるだけだった。

信長に案内され、お客様として革張りの白いソファーに座ると、さくらはふぅと息をついた。

「疲れたか?」

尋ねる信長の表情はいつもより柔らかく見える。

「んー買い物は久しぶりでちょっと疲れたけど、今はそうじゃないですよ。なんかいつものと違うなって思って」

今日ばかりは千代もお客様としてさくらを扱ってくれているせいか、なんだかこそばゆい気持ちだ。けれども悪くない。まるで壊れモノのように、さくらを大切に扱ってくれる感覚は、かつてある人から与えられたモノに似ていた。

「かわいいね」「洋服似合っているよ」といったホスト達の賛辞の言葉は、さくらを心から愛してくれた母の言葉を思い出させた。ホストクラブに来る女性達は、かっこいい男性に会いたくて来ているものだと思っていた。勿論それもあるかもしれない。

けれども疲れた時に、無条件の愛の言葉はとても心にしみる。大人になればなるほど、人は無条件に愛される機会が減っていく。

だから淋しい時に、寄り添ってくれるホスト達の存在に女性は癒されているのかもしれない。

さくらは客としてホストクラブを堪能し、店を出た後に呟いた。

「……お客さんはいつもこんな気持ちだったのかな」

いつもとは違う自分、そして女である自分を大事にしてくれる場所。

女性の性別を普段捨てているさくらにとっては戸惑いながらも心地よさを感じた。そして、お客様達もまたその心地よさを感じたくて、来ているならば。

さくらは決意した。明日は金曜日。雅が来る日だ。仕事用の携帯電話を取り出し、雅に一通のメールをする。

『明日、俺と同伴してくれませんか』


続く

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