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New!!
2014.02.10
作者情報
| 中里 朱里 |
| 小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 |
ノブナガ【完】
2013.08.05
第2話 運命の悪戯(後編)
キャバクラグランプリで優勝後、“club IXA”はさらに繁盛しはじめた。
「ノブナガ姫さまさまねぇ♪」
店長は忙しさのあまり、目の下にクマがうっすらと浮かんでいた。それでも笑顔でキャバ嬢たちを支えている。
「……もう笑顔作りすぎて、口の端がつりそう」
2階の控え室でへたり込むノブナガを、蘭は明るく叱りつけた。
「ノブナガ~大丈夫? しんどいと思うけど、あと半年もしたら少し落ち着くから! 今、いっぱい稼がなきゃ!」
「はぁい」
優勝後、ノブナガは明らかに今までとは違う、忙しさに飲まれていた。
指名の数は以前の数倍にも膨れ上がった。さらに全国のキャクラ雑誌やスポーツ誌、一般誌から取材が日々舞い込んで来た。キャバクラグランプリの時は陰口をバネに乗り越えたが、ここ最近の忙しさには過酷を極めた。体力に自信があるノブナガだったが、限界が来ていた。
「うう、でも今度ハヅキに部活の靴買ってあげるって約束したんだ。が、頑張らないと。あと礼拝堂のステンドグラスの修繕費も欲しいし」
と壁に向かって、ぶつくさとつぶやき始めた。
天下の全国ナンバー1の言葉とは思えないセリフである。蘭は変わらないノブナガの様子にほっとした。
「相変わらず家族ラブね~ノブナガは!」
去年蘭が優勝した時は有頂天になり他の嬢たちとの間に一時期壁ができてしまったが、ノブナガの変わらなさは嬢だけでなくスタッフからも好感を持たれていた。
ただ、ノブナガ自身は変わらなくても周りは変わっていく。最近近郊のライバル店からの嫌がらせが酷く、店長を悩ましていた。
ライバル店の嬢は今回のキャバクラグランプリでは準優勝だった。準優勝も凄いのだが、“club IXA”と店の場所が近いため、客がこちらに流れているようだ。あまり経営も思わしくないという噂もある。どんなに美しく見せてもキャバクラの根底は弱肉強食。
強いモノが勝ち、弱いモノが負ける世界だ。弱者は自分の力の無さを把握し、戦い方を変えるしかない。が、もし弱者が自分の力を見誤り、自分を強者と思い込んだ時、ぶつかり合い争いが起こる。ノブナガもまだ大きな被害はないが、外出先で洋服を汚されたり、知らぬ間に写真を撮られるなどの嫌がらせにあっていた。
(なにか、嫌な予感する……)
ノブナガは突如湧きあがった不安に、身をすくませた。そして、嫌な予感というのは的中する。
「ノブナガ……大変よ!」
控え室のドアが勢いよく開いた。顔面蒼白の店長に、ノブナガと蘭は顔を見合わせた。
笑顔が消えた店長を二人は初めて見た。
「教会が燃えている!」
「え? な、なにを店長冗談……」
ノブナガは一瞬何を言われたのか分からず、固まった。
「冗談じゃないわ、見て」
そう言うと店長は素早く控え室の窓を開けた。鳴り響くサイレンの音が耳をつんざく。
教会がある山手側の空が炎で青からオレンジ色に染まっていき、一筋の灰色の煙がたっているのが見えた。
「!!! 私教会に戻ります!」
事態を把握したノブナガはドレス姿のまま、教会に向かった。
“ club IXA”から教会は歩いて20分ほどの距離だ。繁華街を抜け、山手の坂道を上がったところにある。普段はタクシーで帰る事も多い。が、火事のせいか道路が混んでおり、タクシーはつかまりそうにない。ノブナガは覚悟を決め、ヒールのまま走って行こうとした。
「待ちなさい! ノブナガ!」
「ノブナガ!!」
店長と蘭が叫び、後を追うが元々運動神経は抜群で、すばしっこいノブナガには追いつかない。
「シスター、みんな……」
ノブナガは無我夢中だった。あまりの剣幕にすれ違う人々が振り向くが、構わなかった。皆無事でいてと祈りながら、ヒールが折れそうになるのも構わず、町の中を走り抜けて行く。息を切らしながら山手の坂を駆け上がると、ようやく教会が見えた。
教会の住居棟からもくもくと煙があがっているのが、見える。炎がまるで意思をもった怪物のように教会全体を襲う。建物が黒く焼け焦げ、火の中で崩れていく。
消防車も到着しているが、風にあおられた炎の勢いは強く、消火活動は追い付いていないようだ。
「院長、ムツキ! サツキ! 弥生! みんなぁ!!」
震える体を抱きしめながら、教会の前で泣き叫ぶ。煙や灰が喉を刺激し、声がうまくでない。それでも気にせず叫び続けた。
何度も目をこらすが、充満する煙と火の粉が舞い散るのが見えるだけで、子どもたちの姿も、シスターの姿も見えない。
「ノブナガ、あまり近づいたら危ないわ」
「ノブナガ! 落ち着いて!」
後から追って来た店長と蘭は、ノブナガを教会から引き離そうとするが、ノブナガはかまわず飛び込もうとする。
「君、危ないから近づかないで!!」
消防隊員が慌てて止める。必死に抵抗するがノブナガといえども、男の力には敵わない。
「止めないで! 家族が! 家族が中に!」
ノブナガはがくりと膝をつき顔を覆った。空から小さな雨粒が落ちてくる。空がオレンジと雨雲で混じり合い不吉な色になっていく。
消防隊の決死の活動もむなしく炎は益々勢いを増していた。野次馬たちが集まり、遠巻きに他人事のように携帯のカメラを向け、撮影している。
雨粒が小粒から大粒にかわり、教会に降り注ぎ始めるが、風に煽られ火事の勢いは弱まりそうもない。
「危ないから、君、早くここから離れるんだ」
消防隊員がへたりこんだノブナガを抱き起こそうとした、その時だった。
「ノブナガ! 助けて!」
ノブナガの耳に、かすかに泣き叫ぶ子どもの声が聞こえた。
「行かなくっ、ちゃ……」
「え?」
そう言ってノブナガは消防隊員の腕の中からするりと抜け、教会のそばにあった公園のトイレに駆け込んだ。汚れた鏡に映るノブナガの顔は真っ青だった。そして唇を噛み締めて勢いよく蛇口をひねり、全身に水を浴びた。持っていたドレスのストールも濡らす。
化粧が崩れ、顔は黒い涙と自分の涙でドロドロになる。とても全国ナンバー1のキャバ嬢には見えない。それでも構わなかった。
名誉より、大切なものを取り返したかった。
「いくよ、ノブナガ」
鏡の中の自分に話しかける。燃え盛る炎は恐ろしい。けど家族を失う事の方がもっと怖かった。震える体を奮い立たせ、教会に戻り、ヒールが折れかけた靴を脱ぎ捨てた。そして濡れたストールをかぶり、口元を覆う。
「ノブナガ!」
ノブナガの異変に気づいた店長が叫んだ。
「止めてぇー! ノブナガっ、危ない!!!」
蘭の悲壮な声が周囲に響きわたる。
「ごめん、私行かなくちゃ」
「君! 行くんじゃない!!」
ノブナガは二人を振り切る。消防隊員の制止もひらりとかわし、燃え盛る炎の中に飛び込んで行った。
「ノブナガ!! 戻って来て!」
蘭が呼びかけるが、戻る気配はない。
「誰か! 誰かノブナガを連れ戻して!」
蘭がおろおろと周囲を見渡す。すると、教会から逃げていく一人の女の姿があった。その女はキャバクラグランプリで準優勝した嬢であった。
教会に飛び込んだノブナガは、煙で目や喉を痛めながらも皆を探した。そして幸運にもまだ火の手が回りきっていない礼拝堂で皆を見つけた。無傷だったが、混乱と恐怖のため足がすくみ動けなくなっていたのだ。
「皆、しっかりして!」
ノブナガは急いで濡らしたストールで煙を避けながら、声をかける。
「ノブナガ、院長が」
「私がおぶるから! 早く今ならまだ大丈夫」
慌てて腰の悪い院長を背負う。まだ無事とはいえ、いつ礼拝堂も焼け落ちるか分からない。焦ったノブナガの首元からロザリオのチェーンが切れ、するりと落ちた。ところが、それに気づかず、急いで教会から脱出した。
「ノブナガ、ノブナガ、あ、ありがとう……」
子どもたちは安堵のあまり、ノブナガを囲んで泣き始めた。雨が強く降り注ぎ、シスターも子どもたちも雨と涙で顔を濡らしていた。そしてノブナガも顔を墨で真っ黒にしながら、子どもたちを安心させようと抱きしめた。あぁよかった、教会は燃えてしまったけど、大事な家族は失わなかった。
そう思い、ほっとして感謝の言葉を捧げようと、首元にあるロザリオを探った。
「ロザリオが、ない」
ようやく教会にロザリオを落とした事に気づいた。今取りに戻るのは危険だ。けれども、ノブナガにとって唯一の家族の手掛かりのものである。
「ごめん、私戻らなきゃ!」
「え? ノブナガねぇちゃん」
ノブナガは、また真っ赤に燃え上がる教会に飛び込んだ。
「ノブナガ!」
皆がそう叫んだ瞬間、雨雲から一筋の激しい雷が教会に落ちた。そして、ノブナガは姿を消した。
***
「うっ……ここ、どこ?」
目が覚めると、ノブナガは野原の中に寝転がっていた。
「な、なに?教会は?皆は?」
ノブナガは慌てて立ちあがり、ドレスについた、汚れやほこりをはたき落した。手にはロザリオが握られていた。
ほっとして周囲を見回すが明らかに教会でも、自分が住む町の周辺でも、病院でもなさそうだった。ノブナガは状況をつかめず困惑した。
『ヒヒ―ン!』
馬のいななき声とひづめの足音が聞こえる。どんどんこちらに近づいてくるようだ。よくよく目をこらすと、馬の上に男がまたがっている。
とりあえず、聞いてみよう。
そう思い男のいる方向に向かっていった。男の姿がはっきりと見えるにつれ、ノブナガは眉をひそめた。
「着物?」
男は藍色の着物を着流し、腰には刀をさげていた。細身で身長は170くらい。背は高くはないが、筋肉はしっかりとつき、軽快に馬を走らせている。
髪は髷を結っており、歳は30半ばくらいに見える。顔立ちはやや女性的で、どこか品があった。やや大きめな鼻は高く、ひげをたくわえ、すっきりとした印象的な目元をしている。歌舞伎や時代劇の役者さんだろうかとノブナガは思った。芸能人に関してはあまり詳しくはない。
何かの撮影なのだろうと呑気に考えた、次の瞬間。
「貴様! 空から降ってきたな! 何奴!!」
ぎらりと光る刀をノブナガは首に突きつけられ、思わず叫んだ。
「そ、空!? ってか、何コレ。ちょっと危ないわよ!! ふざけんな!」
野原で怒鳴り合う男女。
――二人の『ノブナガ』の出会いである。
■注意■
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