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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>ノブナガ>第3話 445年前へ(前編)
小説タイトル
イラスト:ミカミ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルノブナガ【完】 更新日時2013.08.12

第3話 445年前へ(前編)

小説挿絵 永禄11年こと西暦1568年。京都。
ノブナガは信長の屋敷にいた。正確に言えば信長が京都上洛を支援した、室町幕府の将軍足利義昭の屋敷に身を寄せていた。皆忙しく働きまわって回っている横で、特にする事のないノブナガはぼんやりと庭園を眺めていた。
「奈々様、今日も暇ですか」
からかい混じりの声が聞こえ、振り返った。すると、信長の部下の木下藤吉郎秀吉こと、秀吉が廊下に立っていた。
「秀吉様は、今日も忙しいのでしょ?」
秀吉が猿だと小学校の歴史の授業中に男子が騒いでいたような気がする。
小柄な体をすくませ、頭をかく秀吉の姿は、猿よりネズミのようだと思った。身長はノブナガよりやや低いくらい。ぎょろりとした目でこちらを見て、決して男前ではないが人懐っこい笑顔を浮かべている。
「へへっ。いやあでも今日も美しい奈々様の顔が見られて嬉しいですよ」
「はぁ、ありがとうございます。それよりも秀吉様、また屋敷の女性を口説いていましたね。ネネ様に言いつけますよ」
そんなぁと叫ぶ秀吉を無視して、ノブナガは信長から与えられた自室に戻った。
自室の隅にはタイムスリップした時に着ていた、赤いドレスが無造作に置かれていた。今は与えられた小袖の着物の上に朱色の内掛けという羽織を着ている。キャバクラでたまに浴衣を着る機会はあったが、着物はいまだに着慣れない。
首からかけたロザリオをじっと見つめ、深くため息をついた
「なんでこんな事に・・・・・・」


野原で信長に斬られそうになってから、一週間。
信長はドレスにロザリオ、そして茶色の髪のノブナガに興味を示し、屋敷に連れ帰ったのだ。
連れられた屋敷は町の中心の少し外れにあり、他の屋敷に比べて立派なものであった。しかし意外にも信長の自室である和室は小さな床の間に花と水墨画が描かれているだけで、質素なものであった。
「貴様はいったい何者なのだ?」
「だーかーら! 何度も言ったでしょ! 私は神戸のキャバクラ嬢だって! あなた信長と言ったけど何これ? ドラマの撮影? 随分大規模じゃない? 一般人を巻き込んで」
「きゃばくら? どらま? それは何だ? 貴様、首にロザリオをかけ、茶色の髪をしておる。西洋のキリシタンか宣教師かと思ったのだが」
おなごの宣教師ははじめて見たなと、信長は顎をなでた。
ノブナガはキリシタンという言葉に顔をしかめた。昔から記憶力には自信がある。クリスチャンのことを戦国時代から明治にかけて、そう呼んでいたはずだ。
「ねぇ、ちょっと教えて欲しいんだけど。今何年?」
恐る恐る尋ねた。
「永禄(えいろく)11年じゃ」
「えいろく、じゅういち?」
学生の頃の記憶をひっくりかえす。確か永禄11年は西暦1568年のはずだ。2013年から445年前。その事実に、ノブナガは笑った。というか笑うしかない。気のせいだとは思いたかったが、信長に連れ去られ、馬上から眺めていた町の様子を思い出し気が遠くなった。
町には2013年ならばありえない、着物や建物があった。小袖姿で働く町人。まるまると太った立派な着物姿の男。そして薄汚れた着物を着てうろつく子どもたちの姿。歴史の資料集で見かけた戦国時代の生活がそのまま繰り広げられていた。
ドラマのセットにしては、大規模すぎるし、リアリティがありすぎる。勘のいいノブナガは、町の様子から異変に気づき始めていたのだ。そして今信長が言った年号。全てが一致する。ノブナガは背を伸ばし、改まって正座し直した。
「私はあなたが永禄11年の織田信長公に間違いないと信じ、正直にお話します。私はこの時代から445年後。未来から来た人間です」
口調の変わったノブナガの様子に、信長は面白そうににやりと笑った。
「ほう、貴様は面白い事を言うな」
食いついてきた信長の様子に、必死に笑顔を作る。
もし、本当に目の前の男が信長ならば、冷静な戦略家だが激情家と言われた男。一つ、態度を間違えば殺される。
「ええ、きちんとお話すればきっと分かって頂けると思い、正直に打ち明けました。では信じていただくために信長様、あなたについて私の時代に伝えられたお話をしますね。あなたは幼いころ、気性が荒く乳母の乳房を噛み切りそうになったはずですよね」
「あぁそうだな」
「そして、あなたは若い頃、うつけと呼ばれていた――」
ノブナガは必死に、記憶の中の自分が知っている限りの後世に伝えられた『織田信長』について話していった。
だてにあだ名で『ノブナガ』と呼ばれてはいない。キャバクラでもあだ名について問われ、あらゆる信長に関するエピソードは覚えていたのだ。
最初は面白そうに黙って聞いていた信長であったが、信長が生まれてから今までの人生を語る様子に次第に真剣な顔になっていった。そして――
「永禄11年10月、この時代でいうならば二十四節気の立冬あたりに、足利義昭から管領職の副将軍をすすめられますが、あなたは断ります」
と言った時、また信長が笑った。
「貴様、過去ではなく未来も分かるのじゃな」
「……未来から来たので」
淡々と答える。動揺したら負けだ。
「俺の未来はいい。そなたの時代について教えろ。そなたは何をやっておる?」
「先ほどもお話しましたが、私はキャバクラ嬢です。日本一のキャバクラ嬢に最近なりました」
「きゃばくら?」
「ええ、簡単に言うと飲食店でおもてなしする女性の事です。もてなしの仕事をしています」
「なるほど。日本の『まつりごと』はどうなっておる」
「『まつりごと』……あ、政治のことですね。今のように将軍などはおりません。内閣総理大臣が指揮をとっています。それに今の日本には戦いがありません」
「戦いがないとな? ではその、『そうりだいじん』とやらはどうやって決まるのじゃ?」
「ええと、衆議院といった、さまざまな国民の投票で決まった人から、さらに選ばれます。選挙という、それぞれが皆政策、こういった事をやりますといった約束を民として、それで人気が高かった人が選ばれるのです」
「随分と興味深い話じゃ。ふむ……」
そこまで聞くと、信長は黙り込んだ。ノブナガはハラハラしながら信長を見守った。話を信じたのだろうか。それとも嘘だと切り捨てられるのだろうか。その時は、逃げなければとそっと腰を浮かしかけた時だった。
「貴様の話、まことかどうかは、判断がつかぬ」
「!!」
逃げなければとノブナガは覚悟した。けれども体がこわばり動けない。
(殺される……)
だが返事は、思いがけないものであった。
「じゃが、いつわりともまだ分からぬ。面白い。しばらく客人としてこの屋敷にいておけ」
そう言い捨てて、信長は姿を消した。
それから信長の姿はろくに見ていない。時代的に見れば、信長は今一番天下に近いはずだ。多忙でノブナガに関わる時間がないのだろう。衣食住の全てを与えられていたが、することがなく戸惑っていた。
「出かけたい……」
ノブナガは外出を禁じられていた。客人として特に何もする事がないというのはかなり苦痛だ。仕方なく屋敷内をうろつくしかなかった。信長の部下である秀吉が、たまに声をかけるくらいだ。
他の人はノブナガの茶髪や、派手な雰囲気に恐れて滅多に声をかけてこなかったが、女好きな彼はスキあらば誰でも口説こうとする。
「はぁ、せめてネネ様に会えたらいいのに」
偶然屋敷に訪れた秀吉の妻、ネネに一度会う機会があった。気さくな性格の彼女はノブナガにも気軽に声をかけてくれた。しかしすぐに美濃の国、岐阜県に帰ってしまった。手紙でやりとりはしているが、すぐに返信が来るものではない。
「あぁもう嫌! 外に出たい……」
屋敷の中は一部を除き自由に動けたので、地理は把握していた。
この屋敷には将軍も住んでいるらしいが、まだ会った事はない。おそらく唯一行くのを止められた中央にある平屋の建物の中に住んでいるのであろう。
屋敷は小さな堀を囲んで、塀があり、さらにはコの字型の大きな平屋の建物と、その中央にさらに平屋で真四角の建物があった。二つの建物を繋ぐ渡り廊下があったが、そこへ行くのは禁じられていた。コの字型の西側の一番奥がノブナガの部屋だ。
「将軍様かぁ」
教科書の中でしか知らなかった将軍という人に興味があったが、それよりも今の世の中の事が気になった。教科書でしか知らなかった、戦国時代という時代。記憶するのは得意なので、知識だけはある。でもあくまでも知識だけだ。
ここが戦国の世だと知った時、ショックも大きかった。でもそれ以上にこの世の中がどうなっているのか見てみたい、という好奇心にも駆られていた。また信長の存在も気になっていた。覇王と呼ばれた信長が無能な人間を放置しておくわけがない。今は未来から来たと言っても、異邦人やキリシタンくらいの存在にしか思っていないだろう。一つ間違えば殺される可能性もある。
好奇心といつか殺されるのではといった複雑な思いが、ノブナガの胸の中でくすぶっていた。それだけに今の生ぬるい生活が苦しくてたまらない。またこのままいても元の時代に戻れるような気もしなかった。
「逃げる、しかない」
ノブナガは美しくきらめくドレスを眺めながら、そう呟いた。

コラム画像
第3回コラム 意外!?『戦国時代の武士と大名』の実情
皆さん武士と聞くどんなイメージでしょうか? 武士は農民よりえらい! というイメージかもしれません。ですがはっきりと身分が分かれるのは、実は江戸時代からです。当時は多くの武士は半農半兵でした。また領土のトップである大名も地位は絶対的なものではありません。元々将軍から命じられ、治めていた守護大名が土地の武士の中でまとめ役と言うだけでした。その為小国で身分が低くとも信長の様に、野心を持った者がまとめ役から権力を奪う、いわゆる下剋上を起こし、戦国大名として地位を得るのです。
コメントコメントする 1件のコメントがあります。

かっこいい

2013年08月13日 18:10

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