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2014.02.10
作者情報
| 中里 朱里 |
| 小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 |
ノブナガ【完】
2013.12.09
第11話 長篠の戦い(後編)
1575年6月。三河の国、長篠城。今の愛知県新城市長篠に当たる。
かの有名な長篠の戦いが始まった。
けれども思いがけない陣形にノブナガは困惑していた。
「あの? これは?」
武田軍に徳川領地の長篠城を攻められて、その救援に来たはずだ。それにも関わらず何故か織田軍の陣地は柵と、落とし穴だらけであった。
「あぁ。奈々丸様! これは信長様の命令ですよ」
秀吉は陣形を作る指揮をとっていた。
織田軍は広い野原に陣を構えていたが、平らな土地ではなく、小高い丘や小川がいくつもある。そしてその地形を利用して小川の前に柵を立て、丘は傾斜をつけて削り簡単に登れないようにしている。
「えっと利家様、この陣形の意味分かります?」
「あいにく私は刀と槍しか分からないからな。しかも今回は後援部隊だ」
「えぇ?」
利家は不服そうに自慢の長槍を振り回した。先陣切って暴れられないのが不満らしい。
長篠の戦について昔歴史の時間に習った記憶を必死に呼び戻した。
確か鉄砲隊で武田軍と戦ったくらいしか授業では習っていない。戦略や戦術に関しては知識が無い。
信長からも詳しい話は何もなく、元婚約者との戦だからお前も来いと無理やりな理由で従軍する羽目になった。幸い利家と同じく後援部隊だが油断はならない。
(後ろなら勝頼様に会わない……わよね)
唇を奪われたのを思い出し、顔をしかめた。何気に初めてのキスだったので非常に複雑だ。しかも完全に面白がっての行為なので腹が立つ。
するとあちこち様子を見回っていた信長が馬上から声をかけて来た。
「奈々」
「は、はい」
「まだ戦場が怖いか」
じっと見つめてくる信長の目は真剣であった。
「……はい」
嘘はつけない。後援部隊ということは戦力として自分は考えられていないだろう。
戦う為に火縄銃の練習も考えたが、剣ならばともかく覚悟が足りない自分には荷が重すぎる。
「いいか奈々、今回わが軍から犠牲者を出さない」
「え?」
予想外の言葉に、困惑した。
「いいか、見とけ。お前は生き証人になる。歴史がひっくり返る瞬間のな」
信長は歯を見せ笑うと、立ち去っていた。
「犠牲者を出さない、戦い?」
ノブナガは訳も分からず一人立ちすくんだ。
**
信長の予告は当たった。
「何この戦い……」
ノブナガの呟きは、敵軍である武田軍達の叫びでもあろう。
銃声が絶え間なく戦場に鳴り響いた。
『撃て!』
一斉に放たれる弾が武田軍に吸い込まれるように命中し、そして次々に倒れていく。
戦況は火を見るより明らかだった。
刀剣を振るい、馬を乗り回す武田軍に対し、織田軍は地形を利用し自然の堀と火縄銃の防護塀を作り、見事打ち倒していった。
血と硝煙の匂いが立ちこめる。
金ヶ崎での戦いの時は、互いに向き合い、切り殺し合っていた。しかし今回の戦は織田軍の火縄銃を上手く使い、遠方から確実にしとめている。
玉をこめるのには時間がかかるようだが、次々に撃っているので特に支障はないようだ。大量の火縄銃購入も納得がいく。
また柵や地形に邪魔され、機動力に自信がある武田軍は本来の勢いを失っているようだった。
ノブナガは後援部隊にいたので、倒れていく武田軍を見つめるしかできなかった。
勝利は近づいている。けれどもなぜか実感が湧かない。
(まるで、ゲームみたいだわ)
明らかな戦い方の違いで、武田軍がひねり潰されているように見えた。
哀しげな馬のいな鳴き声と、武田軍勢の悲鳴が耳に響く。
直接攻撃はなくとも、地獄は、地獄だった。
刀を握り締めたまま、唇をかみ締める。
「奈々丸」
「え?」
ふと肩をつかまれ振り返ると、利家が険しい顔で立っていた。
「信長様がお呼びだ。武田軍の元へ和睦の使者として行けとな」
**
和睦の使者はこれで二度目だ。
一度目の浅井長政との件を思い出し、つられて市の顔も浮かんだ。
戦場に行くと言った時、お市は酷く痛みをこらえるような顔をしていた。戦場に行くのも嫌だが、見送る側も辛い。
どちらの立場も経験しているからこそ痛みが分かった。そして、今からの事を考えると余計に辛くなる。
「和睦なんて、形だけだろうな」
ノブナガは和睦の書状を抱え、戦場から少し離れた山に向かっていた。この山の中にある小さな祠で勝頼側の使者とかち合うはずだった。
するとそこには思いがけない人物がいた。
「勝頼様?」
鎧姿の勝頼は汗と泥にまみれていたが涼やかな顔で笑いかけてきた。
「やぁ、花嫁。元気かな」
「何故貴方がここに?」
敵の主将がこんなところに部下もつけずにいるのはおかしな話だ。
どこかに誰かが潜んでいるのでは? とノブナガは周囲を見渡した。
「あぁ忍とかはいないよ。今僕の影武者してくれているしね」
「影武者……」
「もう、戦の結果は着いた。後は犠牲者を減らすだけだ。撤退は伝えてあるしね。もう全て手遅れだけど」
今回の戦で勝頼は多くの重臣を失ったとは聞いている。
「和睦されますか」
単刀直入に尋ねる。
「しないね。けど三河は撤退するよ。きっともう武田軍は終わりだ」
何も言えず、じっと勝頼を見つめた。敗戦の将になった彼は今まで一番落ち着きを払って見えた。
「ねぇ、奈々。ちょっと教えて欲しいのだけど。君、未来から来たって言ってたよね」
「はい」
「じゃあ一つだけ教えてくれないか。君の時代も、織田家は天下を獲っているかい?」
一瞬躊躇ったが正直に答えることにした。
「いいえ」
「そうか。それは朗報だな」
疲れた顔で勝頼はあでやかに笑った。今更ながらこの人顔だけはいいよなと思った。
「私の時代は戦いを放棄しています。今いる武将達の誰も、私の時代には天下を獲っていません」
「ふうん、興味深い話だ。もっとじっくり聞いてみたかった。戦いがない時代なんて信じられない」
興味深そうに話を聞く勝頼は好奇心旺盛そうな普通の若者に見える。
一国の主にはとても見えなかった。
いや勝頼だけではない。秀吉も、利家も、家康も、そして信長もこの時代でなければどこにでもいる普通の若者だったかもしれない。
(あ、でも信長様は、政治家か社長でもしてそうだなぁ)
想像すると妙にハマって、なんだか可笑しな気持ちになった。
「私も、色々お話ししたかったです。花嫁は勘弁してほしいですけど。結婚は好きな人としたいので」
「ふぅん、信長と?」
だしぬけに言われてノブナガは動揺した。
「な、な何を言うんですか?」
顔が真っ赤に染まっていくのが自分でも分かる。
「まあ僕も君は面白いとは思ったけど、妻としてはちょっと。僕は女らしい人が好きだなぁ。お市とか」
「なっ。お市様は手出しさせませんよ!」
勝頼は肩をすくめる。
「冗談。奈々、君は魅力的だ。時代が違えば友人になりたかった」
「……今からでもなれないでしょうか」
叶わない願いだと分かっても口にせずはいれなかった。
「難しいね」
「ねぇ、勝頼様。どうして、皆争うのですか? 同じ人でしょう? こんな戦をして、多くの人を失って! 人の命より大事なものなんてあるんですか!?」
戦を間近で見て、くすぶっていた思いを勝頼にぶつける。敵軍とはいえ、目の前で多くの人が死んでいくのは恐ろしかった。
確かに信長は味方の軍は犠牲を最低限に押さえていた。それでも沢山の命が奪われた。
敵でも味方でも、人の命は命に違いないのに。
「さぁ、君の時代は分からないけど、この時代の者は戦う生き方しか知らないんだ」
勝頼はノブナガの叫びに反論せず、子どもをあやすように優しく抱きしめた。
「……止めて下さい」
弱々しく口ごもった。
「ねぇ、奈々。僕の子ども産む?」
「え?」
予想しなかった言葉に頭が真っ白になる。
「冗談だ。代わりに娘を引き取ってもらえないか? 貞という。以前の妻の忘れ形見だ」
突然の勝頼の提案に益々面食らった。
「それは人質ということですか?」
いいやと勝頼は首を振った。
「人質なら息子を送るよ。ただ、純粋に子どもに未来を託したいだけさ。例え武田家の本筋は滅びても、子孫は残したい」
柔らかな悟りきった表情が長政によく似ていた。彼も子ども達の未来を願っていた。
「……分かりました、命に代えても」
首から下げたロザリオに誓う。戦をノブナガの手で終わらすのは不可能だ。
ならばせめて、子ども達に未来を。
イイネ!
4人がイイネ!と言っています。
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