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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>ノブナガ>第3話 445年前へ(後編)
小説タイトル
イラスト:ミカミ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルノブナガ【完】 更新日時2013.08.19

第3話 445年前へ(後編)

小説挿絵 その日の晩。ノブナガの行動は早かった。
自分のドレスと、一番高価そうな着物をちゃっかりと風呂敷にまとめ、動きやすく目立たない渋色の小袖に着替える。将軍が住んでいる屋敷とはいえ、仮の住まい。京都も何度も戦火にあったせいか、屋敷の塀には抜け出せそうな場所がいくつもあった。
その中で一番目立たない東側からのルートから逃げる事にした。遠回りにはなるが、西側の警備は厚く、そこからが一番抜けやすいように見えた。
信長から逃げる。見つかれば死。そう考えると、足元からすうっと寒くなるのが分かった。それでも、このまま飼い殺されるよりはマシだ。
覚悟を決め、風呂敷を抱えたその時だった。
「どこへ行く」
良く響く声。信長がふすまを開け、ノブナガの目の前に立っていた。
「……っ、ど、どこへって」
口の中が一気に乾く。逃げるのを悟られたのだろか。ノブナガは身を固くした。
殺されるかもしれない。
だがノブナガはある物に気がつき、絶句した。
「あ……」
月も見えない真っ暗な闇の中、きらりと光るものがあった。
それは信長が握り締めていた真っ赤に染まった刀だった。
言葉を失い、へたり込む。そしてようやく気づいた。この時代をもっとよく見てみたいと思ったのは傲慢だった。いつ、誰に殺されるか分からない、戦争の時代、戦国時代なのだ。
「ふ。そういえば貴様の時代は、戦がなかったな」
こともなげに信長は刀を振るい、血を振り払った。ふすまがばっと赤く染まる。何も言えなくなったノブナガは、唇を噛み締め信長を睨みつけた。
「もう逃げようと思わぬことだな。先ほどこの屋敷を襲った奴らをこの刀で殺した。次は貴様の血で刀が染まるかも知れんぞ」
にぃと口の両端をあげ、信長は酷薄な笑みを浮かべた。恐怖で自然と体が震える。それでもなんとか口を開き、言い放った。
「じゃあ、私をいつまで飼い殺すつもり? あなたは役に立たない人間は嫌いなんじゃないの」
信長は楽しそうに笑った。笑った顔は意外に幼い。とても今人を殺してきたような人間には見えなかった。
「流石未来からの人間じゃな。よく分かっておる。安心せぇ、貴様の処遇は考えておる」
信長はそう言って、ノブナガに背を向けた。
「秀吉に、7日ほど貴様の様子を観察させて分かった。貴様は落ち着きはないが、物事の覚えがよさそうじゃ。それに合った仕事を与える」
秀吉はただノブナガをからかっているだけではなかった。信長からの命令であったという事に、ノブナガは改めて目の前の人物に恐ろしさを感じていた。
「まぁ、そなたが今日逃げようとしなければ、殺す予定だったがな」
大人しく従うだけの人間もいらない、と言わんばかりだ。命拾いしたな。そう言い捨て、信長は立ち去って行った。

「た、助かったんだろうか」
織田信長。歴史上で破天荒でありながら、冷酷な策略家。その一部を今日ノブナガが初めて垣間見た気がした。ノブナガは震える体を抱きしめ、とりあえず眠ることにした。
その日の晩、真っ赤にそまる刀を握りしめた信長の姿がまぶたから離れなかった。

次の日。
「……マジ?」
ノブナガは、信長から与えられた着物に目を丸くしていた。
女物の着物はひそかにお姫様になったようで気に入っていた。とはいえ、動きにくく仕事はしにくいだろうと思っていた。
が、これはない。
ノブナガに与えられたのは男物の若草色の着物だった。
そして着物を持ってきた男、前田利家がこほんと咳払いをした。信長より長身で、華やかな容姿の利家は屋敷の女たちにも騒がれていた。今まではろくにしゃべった事もない。しかしなぜか利家に目の敵にされている節があった。
「信長様より命令だ。奈々様。そなたは今日から信長様の小姓になるのだ」
「……マジ?」
ノブナガはオオムのように、ただ同じ言葉を繰り返す事しか出来なかった。



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