目次
-
2013.07.16
-
2013.07.22
-
2013.07.29
-
2013.08.05
-
2013.08.12
-
2013.08.19
-
2013.08.26
-
2013.09.02
-
2013.09.09
-
2013.09.17
-
2013.09.24
-
2013.09.30
-
2013.10.07
-
2013.10.15
-
2013.10.21
-
2013.10.28
-
2013.11.05
-
2013.11.11
-
2013.11.18
-
2013.11.25
-
2013.12.02
-
2013.12.09
-
2013.12.16
-
2013.12.24
-
2014.01.06
-
2014.01.14
-
2014.01.20
-
2014.01.27
-
2014.02.03
-
New!!
2014.02.10
作者情報
| 中里 朱里 |
| 小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 |
ノブナガ【完】
2013.08.26
第4話 小姓生活(前編)
ノブナガが男装し小姓として働き始めて3週間が経った。
早朝からノブナガの甲高い声が屋敷内に響くのがいつの間にか、恒例行事になっている。
「秀吉様! 信長様見ていませんか!」
男顔で女性にしては長身のノブナガが男物の着物を着ていると、凛とした美少年に見える。胸にさらしを巻いてはいるが元々ボリュームがないため、違和感はない。
なかなか似合うぞと信長に褒められたが、あまり嬉しくはなかった。
「多分、また鷹狩りでしょう」
ノブナガに叩き起こされた秀吉は、眠そうに目をこすりながら答えた。
「もう?!」
悔しそうに唸った。
「あー、また間に合わなかったのですか?」
「信長様、早起き過ぎです。夜寝るのも早いし」
ノブナガは慣れない小姓生活に苦労していた。
別に信長の生活が恐ろしく不規則というわけではない。むしろ信じられないほど規則正しかった。
朝早く起き、訓練をし、書物でよく学び、日々業務をこなしている。その信長に付くのは元々朝に弱く宵っ張りのノブナガには堪えた。
とくに朝、信長は狩りや京の街の巡回をしに行くのだが、それにノブナガはまだ一度も付いて行った事がない。
「また利家様に嫌味言われるわ……」
がっくりと肩を落とした。
「まぁまぁ、奈々様、いや奈々丸」
男装し小姓として働き始めてから、ノブナガは奈々という名前をもじって奈々丸と呼ばれるようになった。
「そんな無理せず、さあもう一眠りしましょうぞ。よければわたしの布団の中にでも」
さりげなく肩を抱こうとする秀吉の手を、払いのけた。
秀吉のセクハラは日常茶飯事である。
「昨日頼まれた業務の整理があるので、信長様が戻られるまでしておきます。忙しいので!」
ノブナガは急いで秀吉の部屋から出て行った。
「奈々丸」
すると呼び止める声がし、おそるおそる振り向いた。
「利家様……」
そこには無表情の利家が待ち構えていた。無表情ではあるが、静かに怒っているのが伝わって来た。男前が怒ると妙な迫力があるな、とどうでもいい事を思った。
「そなたはお館さまの小姓なんだぞ。朝の鷹狩りにも付き添わなくてどうする」
「はぁ、ですが信長様は朝が早すぎて」
「言い訳はよい。後で私の部屋に来て、報告書をまとめるのを手伝え」
「はい……」
信長の小姓になってから、毎日利家に怒られてばかりのような気がする。今でこそ家臣として働いているが昔信長の小姓をしていたという利家からすると、ノブナガの働きぶりが気に入らないようだった。
「そもそもおなごが信長様の元で働くなど……汚らわしい」
まただ。嫌味な物言いに顔をしかめた。
利家はノブナガが女であるにも関わらず、常に信長と共にいるのが気に入らないらしい。利家の言い方は嫉妬に狂う女性のようである。
私だって好きでそばにいるわけじゃない。
そう思ったが口には出さなかった。余計な事を言えば倍にして返される。
「今日、すべきことは何ですか」
特に相手をせずクールに返す。
キャバクラグランプリのナンバー1になってから“club IXA”内でノブナガを敵視する人はあまりいなかったが、雑誌の取材などで他の店のキャバ嬢に絡まれる機会が増えていた。そんな時に真面目にやり返すとろくな目に合わない。
嫉妬は無視するに限る。嫌味をかわすノブナガに利家は少しだけ顔をしかめたが、またすぐに元の無表情に戻った。
「信長様の朝餉(あさげ)の用意を。そのあと私の部屋にある書物の片づけだ」
「かしこまりました」
朝餉とは朝食の事である。ノブナガは素早く信長の部屋に向かった。
相変わらず質素な部屋だ。飯炊き担当の世話役から食事を受け取ると、素早く準備する。
炊き立ての玄米を器に手早く盛り、味噌汁を注ぐ。そして焼き味噌と海苔、漬物を添えた。食事のバラエティは少なく、とても天下人に一番近いと言われる人の食事とは思えなかった。
この時代の食事は基本的に朝と夕方二回だ。朝も質素だが、夕方も一汁一菜の素朴なものだった。玄米に味噌汁や漬け物に野菜と代わり映えしない。たまに魚や鶏肉などが出るくらいだ。世の中が戦乱なのも関係しているのだろう。ただし皆食べる量は半端ない。1日で10杯近くも食べている。
ノブナガは一人で食事か、たまに秀吉と食事をするくらいで、信長とはまだない。
「上様のお帰りじゃ!」
門番の兵の声が屋敷に響く。荒々しい足音が近づいて来た。ノブナガが部屋を立ち去ろうとすると、廊下で信長に呼び止められた。
「奈々丸、今日は早かったな」
朝が弱く起きて来るのが遅いノブナガに対しての皮肉だった。ただ朝起きれないノブナガに対して一度も怒ることはなかった。
「はっ、今朝もご一緒できず、申し訳ございません」
膝をつき頭を下げ詫びた。誰もあんたと一緒にいたくないけど、と思ったが屋敷では誰が見ているか分からない。もし信長に刃向かう態度をとれば、また利家から大目玉を食らいかねない。
「ふむ、では朝餉を共にしろ」
「はっ、え?」
信長はノブナガの手を引き、自室に連れ戻した。利家が慌てて追って来るのが目の端に見える。信長がうるさそうに手で利家を追い払った。利家は仕方なく追うのを止める。
いい気味と、ノブナガはこっそり舌を出した。
「そなたの予言通りじゃ。昨晩将軍の義昭から副将軍を勧められた」
部屋に戻るなり、信長は言い放った。義昭と呼び捨てるあたり、信長の将軍に対する本音が見えた。
「断られたのですね」
「無論。副将軍なぞ、名前ばかりの地位は要らぬ」
信長はどっかりと座り、食事をかき込み始めた。
「ほれ、そなたも座って食え」
「はぁ、ですが、器が……」
「あぁ、そうじゃな。俺の茶碗を使え」
信長は空になった茶碗を無理やりノブナガに渡した。
「え、でも」
一瞬、躊躇ったがお腹がぐうぐうと鳴り始め、空腹には耐えれそうにもなかった。仕方なく米びつの玄米を茶碗に盛り、分けて貰った焼き味噌を口にした。
「美味しい」
口の中で味噌の濃い味と香りが広がり、素朴な玄米と絶妙にマッチする。
「そうじゃろう、俺の好物じゃ」
満足そうに信長は頷いた。
「これ、美味しいですね。どうやって作るのですか?」
焼き味噌と玄米を勢いよくほお張りながら、尋ねた。
「これはな、味噌に酒とショウガを入れて焼くんじゃ。しゃもじにつけて直接焼くのもうまいぞ。あとネギと一緒に焼いてもいい。濃い味が最高だ。京の料理はどれも味が薄くてかなわん」
「わー簡単ですね。それなら……」
元の時代に戻ってからも作れそうと、言いかけて押し黙った。
本当に戻れるのだろうか。小姓の仕事の合間に何か方法はないかと、こっそり書物で調べたり、信長と出会った野原を調べたりしたが今のところ何も情報は得られなかった。
ノブナガは首から下げたロザリオをぐっと握りしめる。
「元の時代に戻りたいか」
黙ってしまったノブナガに、信長は尋ねた。
「勿論です」
「ふむ。正直貴様の未来から来たという話は妄言だと思っていた。しかし、今回の副将軍の話を誰よりも早く知っていた。間者にしてもちと早過ぎる。それに貴様はまだ一度たりとも義昭とは接触しとらん。だから半分ぐらいは信じてみようと思っておる」
ノブナガは笑った。意外にも慎重だ。やはり天下を狙う男は違う。
「半分だけでもあなたに信じて貰えるなら十分ですね」
「ちなみに義昭が何処でいつ、どんな状態で言ったか正確には分かるのか?」
「分かりませんよ! 歴史の教科書で習った範囲くらいしか」
「歴史のきょうかしょ?」
ノブナガは何と伝えるべきか、頭を捻った。
「ええと、簡単に言うと日本の歴史についてつづられた書物です」
「ふむ。ならば俺は歴史に名を残す人物になるのか」
やはり信長は頭の回転がかなり早い。
「はい」
「では、俺は天下を獲るのか?」
その問いに、ノブナガは答えに詰まった。
信長は今の時点では天下に一番近い位置にいる。しかし――。
「それは答えなければ、いけませんか」
命令と言われれば、正直に答えるしかない。
「ふん。即答しないのだな」
「……。答えるべきですか」
「残念ながら、俺はまだ半分しか信じていない」
信長はそう言って、残りのみそ汁を飲みほした。
「まあよい。もし全て本当ならば、貴様がこの時代に来た事で何か変わるかも知れん。いや、変えてみせよう」
と不敵な笑みを浮かべた。
(やっぱ歴史に名前を残す人は違うねぇ)
ノブナガはそんな信長の様子に感心しながら、残りのご飯を一気にかき込んだ。

上洛は通常京都入りする事を指します。が、戦国時代では将軍を保護し京都入りする事で、政権を握る事が出来ました。
何故かというと京都にいる天皇に、将軍を通じて補佐する権力を認められるからです。足利義昭の前将軍の時に実権を握っていた部下の権力争いに巻き込まれ、幕府は壊滅状態でした。
義昭は京都から逃亡し、幕府の再興を目指します。その義昭を保護したのが織田信長でした。そして1568年9月義昭を連れ上洛し、信長の天下統一の道が始まるのです。
■注意■
- ●この小説はすべてフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
- ●この小説の著作権は「ポケパラ」にあり、無断転載(部分引用含む)は禁止です。
- ●無断転載を行った場合、著作権法の違反となります。


6人がイイネ!と言っています