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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>ノブナガ>第6話 初陣(前編)
小説タイトル
イラスト:ミカミ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルノブナガ【完】 更新日時2013.09.24

第6話 初陣(前編)

小説挿絵 「ドレス、どうやって作ろうかな」
ノブナガは自室で頭を抱えていた。お市が去ってから時間を見つけては、頼まれたドレスについて考えていた。
「ううん~型紙を作ろうにも、この時代だとちょっと無理だしなぁ。型紙からドレスを作る技術もないし」
信長から与えられた絹や木綿の布をじっと眺めながら考えるが、いい案が思いつかない。すると廊下から足音が聞こえてきた。
「奈々丸入るぞ」
ふすまが開き、信長が入ってきた。
「今、散らかっていますけど」
着物と生地だらけの部屋を見て、信長は顔をしかめた。
「おなごというやつは、本当に自分を飾る事が好きだな」
ノブナガはむっとして言い返す。
「男の人だって、綺麗な女の人の方が好きじゃないですか」
そう言った後、部屋の片隅にあった鏡に映る自分の姿にがっくりとした。すっかり日焼けした肌。無造作に一つにまとめただけの髪。男物の着物を着た姿はどう見ても少年にしか見えない。
「美しいだけのおなごはつまらん」
信長はそう言ってノブナガをじっと見つめた。元々織田家の一族は美形が多いと歴史上でも有名だ。妹のお市ほどではないが、信長も十分美形だ。見つめられるだけで自然と顔が赤くなった。ノブナガは慌てて目をそらす。
「そ、そうですか。でも皆さんお市様みたいな人がいいのでは?」
「ふむ。確かにわが妹のお市は美しい。が、貴様もなかなかだぞ」
珍しい信長の褒め言葉に益々顔が赤くなり、話を逸らした。
「そ、それよりも何か用事があったのでは? 京巡りのお付きですか? 利家様の愚痴聞きですか? それともまた秀吉様とネネ様の喧嘩の仲裁ですか?」
信長は床に並べられた生地をチラリと見た。
「お市に会いたいか?」
「会いたいです!」
信長の問いに、即答した。
「あ、でもまだドレスは出来ていませんが……」
「まあまだよい。長政の国の近くの小物を討ちに行くついでだ」
まるで近所に散歩に行くような言い方に、ノブナガは呆れた。
「小物って、朝倉様ですよね?」
越前の国の君主、朝倉義景の事だ。越前の国は現在の石川県と福井県の一部の土地に当たる。
副将軍の地位を断った信長と将軍義昭の関係は日に日に悪化していた。そして義昭の為にと建てられた二条城に互いに移り住んでからも益々二人の関係は酷くなる一方であった。カリスマ的な能力で京都でも民衆から信頼を得ていく信長は貴族とも関係を築き、更に権力を得ていた。そんな信長を義昭は恐れているようだ。その為、秘密裏に全国の大名たちに信長を討てと命令を下したそうだ。すると元々の義昭の庇護者であり、対立関係であった朝倉義景がその準備を始めているという事を、耳ざとい秀吉から聞かされていた。
(それにしても秘密にしていた命令が既に漏れている時点で、義昭様って間抜けね)
「あぁ、良く知っているな。前から義景の動きは怪しかったがな。どうやら本格的に俺と戦うつもりらしい。その前に越前を討つ。義景の首を土産にお市の元へ行くか」
「えっ、でも朝倉様と長政様って古くからのお付き合いでしたよね。京に来られたのも、朝倉様とは戦わないでくれって頼みに来たって聞きましたが……」
信長は鼻で笑った。
「本当によく知っているな、奈々丸よ。だが再三、京に挨拶に来いと言っているのに無視する義景が悪い。このままでは示しがつかん。まあ長政は義理堅い男だ。援軍もないだろうが、どちらにも手を出してこないだろう」
「……」
ノブナガは押し黙った。言うべきなのだろうか。未来の歴史を。
躊躇っていると、信長が手を差し出した。
「貴様も来い。お市に会いたいなら連れて行ってやる」
「え?」
ノブナガはぽかんと口を開けた。
「貴様にとっては初陣だな」
にやりと笑う信長の笑顔が、悪魔の微笑みに見えた。



喧嘩には自信があった。
元々剣道部に所属し、部内でも男子でもノブナガに勝てる人はいなかった。だが、喧嘩と戦(いくさ)では全く違うのだと身を以って知る羽目になった。

「奈々丸様~生きていますか?」
「秀吉様……」
いつもは小柄で痩せた頼りなさそうな男が今は逞しく見える。秀吉は既に返り血で血塗れであった。小柄な男だがその分戦場でも機敏に活躍していた。
「もう、吐きそうです」
京都を離れ近江、滋賀と北上し、越前、石川に信長軍は向かっていた。初めての戦であるノブナガは後方の歩兵として参戦していた。慣れない鎧が体力をじわじわと消耗させて行く。まだ敵軍と直接対戦をしていないが、戦の跡は酷いものであった。先陣の軍によって倒された兵達の姿に吐き気が止まりそうにない。
首のない体。体を失った首。足だけ。腕だけ。手だけ。そして大人、子ども、男、女。戦に巻き込まれ、全ての命がただの死体に変わる。まともに周りを見られない。溢れそうになる涙を堪えながら必死について行く事しか出来なかった。
もし戦がなければ溢れる緑の世界を堪能しただろう。自然は美しかった。しかしその美しい世界に紛れて血みどろな死体が大地を赤黒く汚していく。まるで天国と地獄だ。
「まぁ、初陣はそんなもんだ」
大槍を抱えた利家が、馬上からぼそりと呟いた。心配してくれているようだが、その気持ちが今はかえって辛い。
「はぁ、でも」
(でも、人なんて殺せない)
ようやく最近認められたのに、このままでいいのだろうか。剣の腕にはそこそこ自信があったが、実戦に役に立たないならば意味がない。体がガタガタと震えている。何度も落ち着かせようと息を整え、ロザリオを握り締めるが、震えは止まらない。
「奈々丸、いるか?」
先頭にいたはずの信長がいつの間にか近くに居た。馬上から派手な鎧姿でノブナガを見下ろした。信長は大将にも関わらず、先頭を切って戦う。それが他の武将ではありえないらしく、信長様の凄い所だと利家が力説していた。信長は誰よりも血塗れである。ただし、血は全て敵の返り血だ。
「は、はい」
信長は手綱を引き馬の走る速度を落とし、ノブナガの歩く速度に合わせた。
「奈々丸、命令だ」
怪訝そうに顔を上げた。誰かを殺せとでも言うのだろうか。信長と目が合う。
「はい」
「生き延びろ。貴様はまだ、人を殺めた事がないのだろう」
ズバリと言われ、顔を曇らせた。
「……すみません」
「初陣からは多くを求めぬ。生き延びろ」
そう言い捨て、信長は立ち去っていた。赤いマントをひるがえし、真っ赤に全身を染めて駆けて行く姿は、まさに鬼神のようだった。
「生き延びろ……か」
ノブナガは顔を上げた。役に立とうなど今は考える必要はない。そんな実力はないのだ。とりあえずは前へ。生き延びる。まずはそれだけでいい。



コラム画像
第6回目コラム 真の支配層? 『堺の商人』
戦国時代は武士だけでなく、密かに商人も活躍した時代でした。
戦で人や物が大きく動き、貨幣の価値が上がった事や、貿易により利益を得ていたからです。当時堺は日本有数の貿易都市として栄えていました。その為堺は戦国時代には珍しく大名などの武士ではなく、商人達が、自治を行っていました。
これは信長にとって大変目障りな存在でした。
そして彼らを従わせる為、矢銭2万貫という多額の金品を請求したのです。矢銭2万貫は20億円と600億円という説があり明確な金額は不明ですが、当時の堺の経済力の凄さが分かります。信長が危険視したのも頷けます。

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