目次
-
2013.07.16
-
2013.07.22
-
2013.07.29
-
2013.08.05
-
2013.08.12
-
2013.08.19
-
2013.08.26
-
2013.09.02
-
2013.09.09
-
2013.09.17
-
2013.09.24
-
2013.09.30
-
2013.10.07
-
2013.10.15
-
2013.10.21
-
2013.10.28
-
2013.11.05
-
2013.11.11
-
2013.11.18
-
2013.11.25
-
2013.12.02
-
2013.12.09
-
2013.12.16
-
2013.12.24
-
2014.01.06
-
2014.01.14
-
2014.01.20
-
2014.01.27
-
2014.02.03
-
New!!
2014.02.10
作者情報
| 中里 朱里 |
| 小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 |
ノブナガ【完】
2013.11.18
第10話 告白とくちづけ(前編)
歴史というのはあっけなく終わるものだなと、ノブナガは思った。
室町幕府将軍、足利義昭はついに投降した。1573年室町幕府滅亡である。
武田信玄が死んでから信長をはじめとした織田軍の状況はがらりと変わった。それだけ、武田信玄という男が、影響力があった事が分かる。
信玄の死後、一番の戦力を失った義昭は挙兵し、織田軍と交戦した。将軍足利家は元々勇ましい武士の家系であった。しかし時代が変わり刀で戦う武士から、謀略で生き延びようとする貴族の様になっていた幕府の兵力はあっけないものであった。細川が義昭から信長に乗り換えたのも無理はない。
「終わったな」
「えぇ」
義昭が投降した後、信長は一人“おにころし”のノブナガの元へ訪れていた。
といっても誰かを指名する事もなく、個室で静かに飲むだけだ。戦が酷くなってから、信長が“おにころし”の元へ来る数がまた増えていた。屋敷にいてもくつろげないらしい。
前回の刺客の件もあるので、なるべく来るのを控えてはと伝えたが、屋敷にいても変わらないと一蹴された。その代わり、“おにころし”の周囲の警備が増員し、堀が巡らされ、二重の塀が新しく建てられた。
「後は、勝頼と、朝倉……そして長政だ」
「はい」
勝頼との縁談は状況が変わり、話は立ち消えになった。正直ほっとしたが、あの悲しみに満ちた勝頼の様子が気になっていた。
「縁談は無くなったが、代わりに新しい命令がある」
「はい、なんでしょうか」
長政という名前が出た時点で薄々と感じていた。
「お市を迎えに行け。長政との戦も近い」
将軍義昭を倒してから、信長の軍はみるみる力をつけていた。信玄の死といい、世間が時代は信長の元に風が吹いていると感じたせいか、志願兵も増えていた。無論信長の兵力増強のため、兵士たちの取り立てや地道な軍事訓練の結果でもある。
ノブナガも暇さえあれば利家や秀吉から剣を教わっていた。いつかその気がなくても生き延びる為に、命を奪う時が必要になるという信長の意向だった。
(なるべくその時は来て欲しくないけど)
二十日後、信長は朝倉・長政軍に挙兵する事が決まった。だがその前に一度和睦の場という建前で長政の元へ訪れ、お市を連れ戻す必要があった。両者と顔見知りであるノブナガは明日、使者として旅立つ事になった。
“おにころし”で明日に備え、旅の準備をしていると思わぬ来客があった。
「奈々様! 女性のお客様です!」
“おにころし”のスタッフが困惑した顔で声をかけて来た。
「女性? 一人で?」
「はい」
ノブナガは首を傾げた。木場蔵“おにころし”は基本男性向けの店だ。たまに男性の付き添いで訪れる女性客もいるが、一人客はめったにいない。
「私の知っている人かしら」
信長の屋敷で働いている女性だろうかと思ったが、スタッフから伝えられたのは予想外の人物であった。
「あの、諏訪と伝えてくれば分かると…・・・」
「!? 私の休憩部屋にお通しして!」
「は、はい」
ノブナガが休憩部屋に向かうと、美しい女の姿があった。いや、正確には美しい女装した男だった。
「……勝頼様。何してるんですか」
ノブナガは小声で噛み付いた。すると勝頼はふっと笑った。長い黒髪はカツラだろう。白い肌に、紫の女物の着物が良く映える。ノブナガも諏訪といわれなければ気づかなかっただろう。
「最初男装姿で騙されたからね。意趣返し」
「意趣返しって……」
あきれて頭を抱えると、ふわりと抱きしめられた。
「というのは冗談で、君をさらいに来たんだ」
男の姿ではここに来れないから、と勝頼は言葉を続ける。
「あ、あのなんで危険を冒してまで、ここに? 私が信長様を呼び出すかもしれないのに」
勝頼はくすくすと笑った。まだ若く高めのつやのある声。女性の姿のせいか不思議と抱きしめられても、嫌な気持ちはしなかった。
「君はそんな事しない。僕、勘には自信あるんだ。神官の息子だったしね……」
「はぁ、でもなんで」
「君が好きだ、と言ったらどうする?」
甘い告白の言葉。本来ならばときめく言葉のはずだろう。しかし違和感があった。
「それ、嘘ですね」
「ふふ、君も勘がいいね」
「神官ではないですが、私も教会育ちなので」
「ふぅん」
勝頼は抱きしめるのを止めた。
「なるほどね。確かに勘がいい。まあ正直生まれてこの方、誰かを好きになったこと事もない。というか好きという感情が欠落しているんだ」
「では何故」
「なんとなく、って言ったらどうする?」
「なんとなく? ですか」
「あぁ。でも、人も時代もそんな『なんとなく』という感情で出来ていると思わないかい?なんとなく武田信玄は頼りになる武将だ、なんとなく勝頼は頼りにならない男だ。無論そう思われる為の理由はあるけどね。結局後付けしかない」
勝頼は手を伸ばし、無造作に髪に触れた。
「確かに家臣からすれば父は素晴らしい人であっただろう。けど家族から見たら最悪の人だ。兄を殺し、敵将の娘であった母を無理やり妻にし、そして僕を跡継ぎにした。でも父も本当は明確な目的があった訳じゃない。『なんとなく』感じているものを自分の意思だと強く思い込んでいるだけだよ」
「はぁ」
勝頼の言っている意味は正直あまり分からない。
ただ目の前の男が世間で言われているような、頼りない男には見えなかった。
「現に今も『なんとなく』信長が天下を獲りそうだと世間は感じ始めている。そして僕の家臣も離反が出始めている。『なんとなく』負けそうだと感じ始めているせいで。感情って恐ろしいね」
静かに自分の敗北を予測する勝頼に、ノブナガはなんとも言えない気持ちになった。この人は、最初から何もかも諦めて生きてきたのだろう。無気力というわけではない。自分との縁談を受けた時点でも武田軍に尽くそうとしていたのが分かる。
けれどもどれだけ努力しても周囲からの『なんとなく』の悪意の感情に晒されてきたのだろう。教会に捨てられて育ったノブナガは妙に共感できた。この人と私は良く似ている。『なんとなく』の悪意で、孤児だからという理由で、周囲から責められ続けていた。
(でも私には教会とキャバクラという居場所があったけど、この人にはきっと居場所がないのかも)
ノブナガは勝頼の手を握った。化粧をして、カツラを被り、着物を着こなす勝頼はどこから見ても美女にしか見えない。しかし握り締めた手は骨ばっており、マメや怪我の跡があった。戦う為に鍛えた男の手だ。勝頼が周りに愛されたいと、努力してきた何よりも証拠だ。
「あの私、実はこの時代の人間じゃないんです。ずっと先400年以上未来から来た人間です」
「へぇ」
「信じてもらえないのは分かります。私がこの時代に来たのももしかしたら『なんとなく』なのかもしれません。でも生きます。生き延びて、信長様の元で戦の無い時代を作るお手伝いします」
きっぱりと言い切ると、勝頼はころころと笑い始めた。
「ははっ、やっぱり君面白いね。本当はここで殺して連れて帰ろうかなと思ったのだけど」
勝頼は手をぱっとほどいた。信長もいればちょうど良かったんだけどと笑う。ノブナガは眉をひそめた。
「やっぱり止めとく。君を生かしている方が面白そうだ」
恐らく信長共々殺しに来たのだろう。天下を獲る為に。推測でしかないが、この前の刺客も勝頼の手の者だろう。武田軍は忍者を積極的に活用している事で有名だ。
「ここに来たのって『なんとなく』じゃないですね」
「ふふ、君と信長の逢瀬を邪魔して悪かったね。だから命は辞めておくけど、代わりに信長が奪えなかったものを貰うよ」
勝頼は不意を付き、両腕を押さえてノブナガの唇を奪った。
酷く乾き、冷たい唇だった。平手打ちをしようとしたが、ひらりとかわされた。
「ははっ。今日のところは、さよならは言わないでおくよ」
「……今度会う時は、ただではおきません」
ぎりっと唇をかみ締める。
「ではまたね」
そう言って勝頼はふらりと立ち去っていった。

信長を討てと全国に密書を放ち、受け取った信玄は上洛を目指します。信長と同盟関係の家康は上洛の通り道でもあったので狙われたのです。兵力に圧倒的な差があり、あえなく家康は敗走します。が家康はギリギリで機転を利かせ、城を開場したところ疑り深い信玄は罠と疑い撤退しました。もし信玄が引かなければ、後の世はまた大きく変わったでしょう。
イイネ!
3人がイイネ!と言っています。
■注意■
- ●この小説はすべてフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
- ●この小説の著作権は「ポケパラ」にあり、無断転載(部分引用含む)は禁止です。
- ●無断転載を行った場合、著作権法の違反となります。


