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2014.02.10
作者情報
| 中里 朱里 |
| 小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 |
ノブナガ【完】
2013.12.24
第12話 天下と別れ(後編)
1579年5月 安土城天守閣、完成の日。
「利家」
利家はお披露目の前に、城内を確認の為あちこち回っていた。同じく城内にいた秀吉に呼び止められる。
「なんだ?」
「信長様と、奈々様の祝いの日に不機嫌な面は不味くないか」
「……不機嫌なんかじゃない」
「いや不機嫌だろ。どう見ても」
ぶすっとした利家の顔に、秀吉はやれやれと首を振った。
「まあ好きなおなごが自分の主の妻になるのは複雑だがな」
「なっ! 違う!」
「はは、オレは好きだったよ」
秀吉が明るく言うと、利家は苦虫をかみ殺したような顔をして、秀吉を縁側に連れ出した。
安土城の庭園は見事に手入れされ、とても美しい。以前ノブナガと秀吉の三人で眺めた庭とは規模が全く違う。それでも思い出さずにはいられない。
「こうやって、眺めていると三人で過ごした時を思い出すねぇ」
「そうだな……。なぁ秀吉」
「ん?」
「仮にだ、仮に私が奈々を好きだったとしよう」
「仮にね」
「あぁ、好いた相手には幸せになって欲しい。二人が心から愛し合って結婚するなら反対しない。けど利用価値があるからだと?」
「まぁね……多分信長様自身も自分の気持ち気づいていないんじゃ? お二人ともあんなに普段は頭がいいのに、恋にはどっか鈍感だからなぁ」
秀吉は利家が憤慨するのも仕方ないと思った。傍から見ていても二人の関係はじれったいものであった。
信長いわく、ノブナガには利用価値があるから正室にするらしい。けれども、利用するだけが目的でないことは、誰の目からも明らかだった。
「何故、二人とも互いの想いに気づかんのだ!? もう安土城に移ってから三年だぞ!」
「さぁ、今までろくに恋愛してこなかったんじゃないのか?」
ちらっと聞いたが、ノブナガは孤児らしく、成長してからも教会の子どもを世話するので必死だったらしい。
信長も幼い頃から家督争いに巻き込まれ、天下をひたすら目指してきた。結婚もしたがほとんど政治的な理由のものばかりだ。
二人とも恋などにうつつを抜かす暇も無かったのだろう。
「まぁこれから恋愛していけばいいだろ。夫婦なんだから」
「どうだが。肝心の婚礼の日だというのに、教会で仕事だからとまだ城に来ぬ女だぞ!」
利家の怒りの声が、庭園中に響く。
「はは、まあ今信長様が迎えに行ってるって」
大丈夫だと利家の背中を秀吉は叩いた。
「くしゅんっ!」
「かぁさま大丈夫?」
ノブナガは城下町の外れの教会にいた。信長が建てたものだ。教会は礼拝堂と住居に分かれている。生まれ育ったマリア教会を彷彿とさせる造りだ。
「えぇ、大丈夫よ。誰か噂しているのかしら……」
今晩信長との婚礼の予定だが、ぎりぎりまで子どもの世話をするつもりだ。
ノブナガは住居である館で子ども達の服を整理していた。季節は春から夏に変わりつつある。子ども達も日に日に大きくなり、服の大きさも合わなくなってきていた。
けれどもそれは子どもの成長の証だ。すくすくと育っていく子ども達の姿が嬉しくてたまらない。
「かぁさま、今日およめさんになるんだよね? ここにいていいの?」
「いいーの! 嫁といっても形だけ。上に立つ者の正室は図太い女がいいからだけで私にしたらしいし。貞、いい? あなたは愛してくれる相手と一緒になってね」
勝頼の娘、貞は父に似て日に日に美しくなっている。性格は父に似ずとても素直な子だ。今日もまだ幼いのにも関わらず、仕事を手伝ってくれる。
「あいしてくれる、ひと?」
「えぇ、貞をいっぱい好きになってくれる人よ」
「じゃあ貞は、かぁさまとのぶながさまのおよめさんになる!」
「ふふ、貞。愛しているわ」
信長は多忙でも暇を見つけては、貞や子ども達を可愛がっていた。
貞が勝頼の娘なのは気づいているが、「子どもには罪はないしな。まあでも、しかるべき相手に嫁に出す必要があるが」とすでに親バカの片鱗を見せている。
「貞も!」
あまりの愛らしさに貞を抱きしめた。
この数年、信長は実に見事に天下を統一して行った。北から南へと地方の大名達もなぎ倒し、もう全国統一も時間の問題と言われている。
また戦だけでなく、まつりごと、政治的な面からも素晴らしい手腕を見せていた。
一部の商人達が富を独占しない様に楽市楽座という商売が自由に出来る場を設けたりと、常に民衆の声に耳を傾けていた。
しかし、家臣や敵には容赦なく、不満を漏らす者も増えていると聞く。徹底的な実力主義だ。そのため、昔からの家臣でも能力がないと思えば追放されていた。
また不穏な動きをした者に対しても素早く処分されているので、信長に恐れをなしていた。
権力を持てば持つほど狙われることも増え、信長も不安にかられ、疑い深くなり家臣達に当たっている面もある。
特に最近は足利義昭との関係を繋ぎ、信長自身が抜擢したはずの家臣、明智光秀に対する冷遇が酷いと聞く。
(そういった人たちの不満をそらすのが、私の役目らしいけど)
信長が天下統一を目指すことに不満は無い。手段は荒っぽいが、民のことを考え仕事は迅速で、筋が通っている。
やたら形式ばかりにこだわる貴族や、目の前の覇権争いにしか興味がない地方の大名達が国を治めれば民も苦しむだろう。
「それにしたって敵、作りすぎよね」
思わずため息をつく。最近身の危険を感じる出来事が増えたのだ。
いつのまにか教会の物が盗まれ、壊されることが増えた。中には子ども達を誘拐しようとする者もいた。
ノブナガも勿論黙ってはいない。時に刀を振るい、相手をなぎ倒している。信長が気分転換に相手しろ、と剣術の稽古相手をしているのでますます腕が上がり、大抵の相手は撃退出来るようになった。女としては複雑だが、子どもを守る為ならいいかと思う様にしている。
「さて。そろそろ城に行かないと、利家様あたりに怒られそうね。貞、後お願いしていい?」
「はい、かぁさま」
貞の頭を撫でて、出かけようとすると大声で呼び止められた。
「奈々様! いらっしゃいますか!」
「どうしたの? お菊?」
木場蔵“おにころし”で共に働いた女性、お菊が真っ青な顔をして、部屋に飛び込んできた。お菊は子どもと共に教会に住み、ノブナガと一緒に子どもの面倒を見ている。
「大変です! 礼拝堂が燃えています!」
「なんですって!?」
慌てて館を出ると、礼拝堂にいた子ども達が次々と飛び出してきた。
「奈々様! 火が! 誰か知らない男の人がつけたんです!」
幸い火の手はまだ弱く、全体に回りきってはいない。
「そんな……。みんな! 無事!?」
大声で叫び、近くの井戸から水持ってくるように指示する。風が強く、徐々に教会が燃え上がっていく。教会は木材で作られているので、あっという間に炎に包まれていった。
逃げ出した子どもを慌てて捕まえる。
「誰か、逃げ遅れてない!?」
「かぁさま! 松とアヤメ、が……」
「あるけないって、つれてこれなかったの!」
戦で怪我し、足が不自由な二人の子どもの名前を告げた。
「仕方ない……お菊! 水を汲んで来て!」
「はっ、はい!」
お菊から渡された桶を受け取り手早く水を被ると、教会の中に飛び込む。
煙で目が痛み、喉も痛む。炎がじりじりと肌や服を焼く。怖い。けれども子ども達はもっと怖い思いをしている。
(今助けるからね!)
すると、ノブナガを迎えに来た信長が教会にやって来た。馬に乗った信長は息が乱れ、青い顔をしていた。火の手を遠方から見かけ、急いで来たのだろう。
空には怪しい雨雲が現れ、ぽつぽつと雨も降り出してきた。ところが燃え上がる炎は消えそうにも無い。
「何事だ!? この火は……子ども達は、奈々は無事か!?」
「のぶながさま! かぁさまが! かぁさまがほのおのなかに!」
貞が泣きじゃくりながら、信長に駆け寄る。
「貞、落ち着け。お前の母はこんな火にやられるようなやわな奴ではない」
そう言いなら、信長は貞の頭を撫でるがその手は小刻みに震えていた。
「奈々! 出て来い!」
信長の一喝と共に、雨雲から一筋の激しい雷が教会に落ちる。
教会全体が、光に包まれた。ノブナガは炎の中、子ども達を抱き締めながら、意識が遠くなるのを感じていた。あぁ、あの時と同じだ。戦国時代にタイムスリップした時と、全く同じ感覚である。
そう思った途端、気を失った。
「奈々!!!!」
ノブナガの姿を探し、悲嘆にくれる信長の怒号が雨の中に響いた。
激しく地上に降り注ぐ雨が、教会の炎を自然と消し止めていく。そして、崩れかけた煤と木炭と化した建物の中から、二人の子どもが這い出てきた。
「松! アヤメ!」
信長は二人の元へ近づいた。顔は真っ黒だが、息をしている。
「のぶながさまぁぁぁあ」
「こわかったよぉ!!」
信長は泣き叫ぶ二人の姿にほっとしながらも、尋ねた。
「奈々は? どこへいった?」
「わ、わかんない。かぁさま、ぴかぴかってひかってきえちゃった……」
「こ、これだけのこってた」
泣きながらも子どもが差し出したのは、ノブナガが常に身に着けていたロザリオだった。
「奈々?」
完全に火が消え、一日経っても二日経っても、そして一ヶ月経っても見つからなかった。
ノブナガは、戦国の世から姿を完全に消していた。
イイネ!
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