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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>ノブナガ>第9話 花嫁と死と(前編)
小説タイトル
イラスト:ミカミ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルノブナガ【完】 更新日時2013.11.05

第9話 花嫁と死と(前編)

小説挿絵 1972年12月。家康と織田軍の一部の軍勢と、甲斐の国武田軍との衝突、三方ヶ原の戦いがあった。
「家康軍が武田軍に負けた!」
信長の部屋で“おにころし”での報告をしている最中、秀吉が突然襖を開けて入って来た。敗北の知らせを聞いたノブナガは、顔面蒼白になった。
「秀吉様、家康様は! ご無事なのですか?!」
ノブナガは秀吉に掴みかかり、がくがくと揺さぶる。秀吉は苦しそうに呻きながらも状況を伝えた。
「あぁ、なんとか命だけは。寸前で武田信玄が退却したらしい」
ほっとして、ようやく秀吉の着物の手を離した。
「はぁ、よかったです……」
「しかし、戦況は厳しいな。こちらは朝倉・浅井軍で手一杯だ。武田信玄まで攻めてきたら厄介だ」
信長は腕組みをし、思案し始めた。
「確か信玄の息子の勝頼だったか。あやつは最近正室を亡くして独身だったはず。そやつと婚姻関係を作って同盟を結ぶか……いつまでもつが分からんが」
「しかし、信長様。誰を嫁に行かすのですか」
「お市はまだ長政の元だしな。お犬は佐治の元だし……」
犬とは信長とお市の妹にある。直接会った事は無いが二人に似てやはり美しい姫らしい。
「弱りましたな……」
秀吉も信長と共に、考え込み始めた。こういうとき力になれない自分が歯がゆく感じた。
「別に適当な娘を見つくろって姪としてもいいのだがな。そこそこ顔が良くて、機転が利き、いざという時、敵方になっても自力で帰って来そうな逞しい女なら誰でも」
「いや、そんな女性いませんよ!」
と思わずつっこんだ。すると、ぽんっと信長に肩を叩かれた。
「此処にいたな」
「あぁ、いますね」
秀吉も同じく肩を叩く。ノブナガは慌てふためいた。
「ちょ、信長様! 秀吉様も! 姫のフリなんて無理です!」
すると、そこに資料を抱えた利家が襖を開けて部屋に入って来た。
「3人とも何を揉めているのですか?」
「いや、何。武田軍との同盟の為に、勝頼に嫁をやろうと思うんだが」
「あぁ、それは良い考えです。しかし変な女を嫁にやる訳には行きません」
利家は頷いた。
「あぁ。だから奈々丸で」
しつこく言い続ける信長に激しく首を横に振る。
「利家様! 私じゃ姫のフリなんて無理です! それに結婚なんて!」
「……いいんじゃないですか」
利家はじっとノブナガを見た後、そう言った。
「利家様!?」
「まぁ、どうせ同盟もいつまで持つか分かりません。でしたら自力でもこちらに帰ってきそうなしぶとい女が適任です」
信長と全く同じ事を言う利家に、頭が痛くなってきた。
「嫁になんて、行きたくないです!!」
屋敷内にノブナガの悲鳴が響き渡る。
その日の“おにころし”でノブナガは殺伐とした雰囲気を漂わしていた。プロ根性で顔だけは笑顔なだけにかえって怖い。
「何かあったのですか?」
常連客である細川藤孝が、心配そうにノブナガの顔を覗き込んで来た。
「いえ、なんでもありませんけど、顔に出ていました?」
「ちょっとお疲れみたいですよ。無理せずに」
お客様に気遣わせるなんていけないと、無理やり笑った。
「ありがとうございます。でも細川様とお話していたら元気出てきました」
「そう言って貰えるなら、今日来た甲斐がありましたね」と細川は優雅に酒をあおった。
  
信長と同い年という細川は将軍足利義昭の直属の家臣で、大変風流な人物である。信長が細川に和歌の教えを請ったのがきっかけで “おにころし”にマメに来るようになった。愛妻家な細川は女性に対してとても紳士的で、キャストからも評判のいいお客様だ。
ただノブナガは細川が気まぐれだけで店に訪れているのではないという事を、うすうす気づいていた。店に慣れてくると、徐々に幕府の内情を口にするようになったのだ。
「それにしても、今日も“おにころし”は美しい女性にお酒、料理と素晴らしいですね。気分が良くなって、つい『お酒の勢いで』余計な話もしてしまいそうだ」
細川の呟きに、ノブナガは目を光らせた。いつも細川が『お酒の勢いで』と言った時、重要な情報を漏らすのを知っていた。
「まぁ細川様、酔ってらっしゃるのですね。お水をお持ちしましょうか? それか……よかったら離れで少し休まれたらいかがですか」
離れと言うと、細川は目を細めて頷く。
「ではお言葉に甘えてお邪魔させて頂きます。他のお客様に醜態を晒すわけにはいけませんしね。あ、後でお水だけ持っていただけませんか」
「えぇ」
急いで細川を個室に案内して、そっと後ろ手で襖をしめる。
メインの大広間がある建物の西にある離れはキャストでも滅多に近寄らない。
信長と打ち合わせをする時や密談に使う為だ。
「さて、お水ご用意した方がいいですか」
「えぇ、長い話になると思いますので」
分かりました、と答え急いで水を用意し部屋に戻った。そして周囲に誰もいないかを確認して、襖を閉める。
「状況はいかがですか」
細川に問われて、素直に答える。腹の探りあいは不要だ。
「あまりこちらも芳しくないですね。この前の三方ヶ原の戦いといい……。何か作為的なものを感じます」
ぐっとノブナガに近づき、細川は声を落とした。
「もうおおよその見当は付いてらっしゃると思いますが、義昭様が裏についています。各地の武将らに信長を討てと密書を送っています」
そして袂から書状を取り出した。義昭という名前に喉がごくりと鳴る。ようやく手に入れた明確な証拠に、ノブナガは震えていた。
「送り先は本願寺などの寺社勢力、朝倉・浅井の連合軍、そして武田信玄」
武田信玄という名前にぴくりと反応する。
「甲斐の国の領主ですよね。家康様を打ち負かした」
「えぇ。強い方です。正直この状況はあまり良くないですね。ただこの書状を盾に和平に持ち込む事は可能かもしれません」
「和平……」
和平と聞いてノブナガは顔を曇らせた。先ほどの同盟による結婚話を思い出したのだ。確かに今の包囲網の事を考えると同盟が無難だろう。しかし、その為に嫁に行かされるとなると話は別だ。
「あの、武田勝頼ってどんな方ですか?」
思わぬ問いに不思議そうな顔をしながらも細川は答える。
「あぁ信玄の息子ですか? 確か四男坊ですが、後継者扱いされていますね。兄達が亡くなったり、盲目だったりで。でも本人はあまり望んでいなさそうですけど」
「何故ですか?」
細川はうーんと唸る。
「諏訪という敵将の娘に信玄が産ませた息子です。信玄は溺愛していますが、家臣達とあまり上手くいってないようです」
「諏訪……、あっ」
諏訪という名前にはっとした。この前の青年の事だ。
もしやと思ったがまだ証拠はない。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、とりあえず書状を信長様にお届けします。それにしても何故細川様は助けて下さるのですか?」
細川は幕府の中で地位のある人物だ。前将軍の庶子ではないかという噂もある。
教養もあり、剣術などの武芸にも長け、まさに文武両道である。世が世なら天下人になれただろう。いや、むしろ未だに天下人を狙っている可能性もある。不安げに見つめていると、細川はぽりぽりと頭を掻いた。
「私はね、自分が天下人になるとかは正直興味ないのです。でも、誰が歴史を動かすのかを見てみたい。そして今は信長様がその可能性を一番握っている、と思うのです」
信長は将軍や朝倉、武田信玄よりも天下人になる可能性がある、と細川は思っているのだ。
「そうですね、私も見てみたいです。信長様が天下を獲るところを」
例え、それが時代を変える事になっても、とノブナガは小声で呟いた。

コラム画像
9回目コラム いざ再戦!『姉川の戦い』
1570年、長政の裏切りにより金ヶ崎城で敗北した信長は、一度岐阜まで撤退します。そして同年、琵琶湖から流れる姉川を挟んで再戦します。これが『姉川の戦い』です。信長は徳川家康と連合軍を組み、浅井・朝倉軍と戦います。最初こそ浅井軍は奮闘していましたが、朝倉軍があまり積極的でなく、徳川軍に撃破されます。朝倉義景の優柔不断さが戦にも出ていますね。そして徳川軍が織田軍に助太刀したつけたお蔭で勝利を治めました。とはいえ、浅井・朝倉の両家はまだまだ余力があり、後々も対立し、信長を追い詰めていくのです。

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