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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>ノブナガ>第6話 初陣(後編)
小説タイトル
イラスト:ミカミ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルノブナガ【完】 更新日時2013.09.30

第6話 初陣(後編)

小説挿絵 そして、ついに戦いの時が来た。
越前の国境で多くの朝倉軍が待ち構えていた。目立たぬように、息を潜めていた朝倉軍が奇襲で信長軍を襲ったのだ。突然の事態で今まで直接対決する事がなかったノブナガも、殺戮の場に飲み込まれて行く。軍の隊列が崩れ、敵と味方が入り乱れる。刃を避け、矢から身を反らし、前に向かい走って行く。止まったら駄目だ。それでも避け切れず、一人の武士の刃が脇腹をかする。
「っ!!」
思わずうずくまると、容赦なく切りかかって来る。間一髪転がり、避ける事が出来た。幸運にも怪我は浅くかすり傷であった。それでも刃がまたノブナガを狙う。
(殺られる!)
とっさに反動をつけて立ち上がり、刀を鞘から抜いた。キンッと金属音が響く。なんとか刀を受け止める事が出来たが、執拗に何度も襲ってくる。
(どうする!? でも殺すのは……そうだ!) 
相手が大きく刀を振りかざして来た隙を狙い、しゃがんで避け、相手の足元を狙った。殺せないならば足止めするしかない。ぐしゃりと肉が食い込む感覚が刀から伝わる。相手の右膝から大量の血か吹き出た。そしてバランスを崩し、ついに倒れこんだ。
「はぁはぁ……。やっ、やった」
「奈々丸!」
気がつくと信長が目の前にいた。いつの間にか先陣の軍に紛れ込んでいたらしい。
「信長様!」
駆け寄ろうとすると信長は険しい顔で刀を向け、切りかかってきた。
「え!?」
とっさに避けると、ぴしゃりと頬が血で塗れた。ノブナガの血ではない。振り向くと、刀を構えた男が倒れていた。どうやら後ろから狙われていたところを、信長が倒してくれたようだ。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいい。命令通り生き延びているな」
「はい、なんとか……」
「初陣ならば生きているだけで上々。もうすぐ戦は片が付く」
見回すと敵軍の部隊はいつの間にか数が減っていた。敵軍とは言え、増えていく死体にノブナガは顔をしかめた。信長の軍は朝倉軍の倍とは聞いていた。多勢に無勢。最初から勝負は付いていたのだ。
「信長様! 敵軍全軍撤退しました!」
利家の勇ましい声が戦場に響く。
ノブナガはほっと胸を撫で下ろした。なんとか生き延びる事が出来た。
「ふむ。では皆の者! これで朝倉の城、金ヶ崎城に向かえ! 城の兵も撤退しただろう。入城し、今後の戦いに備えよ」
「「「はっ!!!」」」
信長の命令に従い全軍、城に向かって行った。秀吉と利家が心配そうにこちらを見たが、体が思うように動かない。
「奈々丸」
「はっ! 申し訳ございません。自分も向かいます!」
「いい。今力が入らんのだろう。ようやった」
そう言って信長はノブナガに手を伸ばし、自分の馬に乗せた。
「きゃっ」
馬に乗り慣れていないノブナガは思わず信長にしがみつく。信長は小手を器用に外し、ノブナガの頭をなでた。思いがけない行動に一瞬身を硬くしたが、高ぶっていた気持ちが徐々に落ち着いていく。代わりに胸の音が徐々に激しくなるのを感じた。
(な、ちょっ、ちょっと戦う信長様が格好良かったからって、ドキドキするなんて)
顔が赤くなるのが自分でも分かったが、離れようとはしなかった。まだもう少しだけこのままでいたいと思ったのだ。信長から男臭い汗の匂いと、返り血の匂いがする。
「よう頑張ったな。未来から来た人間に一度は戦場を見せねばと。キツかったか」
いつになく優しい信長に涙がこぼれそうになった。
「こ、怖かったです」
「すまん」
「殺されるかと」
「すまん」
「私の時代は、戦なんてないです」
「すまん」
「元の時代に帰りたい……」
耐えきれずついに弱音を吐くと、今までずっと我慢していた涙が止まらなくなった。タイムスリップしてから約一年。秀吉や利家、お市といった大事な友人も出来た。それでもやっぱり元の時代に帰りたい。家族は元気なのだろうか。店の皆は大丈夫なのだろうか。ノブナガは血まみれの手でロザリオを握り締める。
(神様。私は人を傷つけました。それでも、生きて元の時代に帰りたい)
祈らずにはいられなかった。
「……元の時代に帰せるかどうか分からん。ただ奈々の時代と同じような、戦のない時代を俺は作る」
初めて本名で呼ばれ、思わず涙が止まった。
「家族が争わない、国同士が争わない平和な時代だ。俺はそんな時代を作る」
信長が一族の争いが原因で弟を殺した事を思い出した。いくらこの時代が戦ばかりで、血に塗れた時代であっても本当は誰も殺し合いなど望んでいないはずだ。それはきっと覇王と呼ばれる信長にとっても同じであろう。それは今までどれだけ側にいても、どこか遠い存在であった信長を初めて近くに感じた瞬間であった。
「約束してください、信長様。その時代を作るって」
「あぁ、約束しよう」
そう言うと信長はゆっくりと馬を歩かせた。
そして、ノブナガは抱きしめられながらじっと考え込んだ。一体自分には何が出来るのだろうと。




城に着いた兵たちはつかの間の休息を、思い思いに過ごしていた。信長軍に圧倒されたのか、城には予想通り誰一人残っていなかった。今日は屋外で寝なくていいというだけで、ノブナガは心が弾んだ。ここ数日の行軍は野営、屋外での宿泊ばかりで正直堪えていた。
「皆の者。今日は食事をとり、ゆっくりと休め。明日からの戦いに備えるのだ」
信長に従い、兵士達は夕食の準備を始めた。ノブナガも蒸したお米を乾燥させた干飯(ほしい)と呼ばれる物をお湯で戻し、おかゆにする。そして味噌玉をお湯で溶かし、味噌汁を作った。味噌玉は味噌を酒や生姜で炒めて丸くしたもので、どちらも携帯食として重宝されていた。
すると一人の使者が信長の元に訪れた。
「お市様からの使いです」
使者は浅井家の印と、織田家の印が押された書状を差し出した。
「お市さまからですか!」
ノブナガが手紙を覗き込むと、信長は不思議そうな顔をした。
「『お兄様へ 一刻も早く召し上がって下さい』としか書かれておらん。お市が戦場への差し入れとは珍しいな。使者よ、預かった物も出せ」
信長が命令すると、彼は無言で両端が縛られた袋を差し出した。信長は受け取り、紐をほどくと小豆が中からこぼれた。
「小豆?」
信長はじっと小豆を見つめたまま、はっと何かに気付き、使者に尋ねた。
「小豆は問題ではないな。この両端が縛られているという事、だな」
信長が問うと、使者は黙って頷いた。ノブナガはぎょっとして信長の顔を見た。顔の表情が抜け落ちているのだ。
(この顔、見たことある)
それはキャバクラでも、ごくたまに見かける顔だった。その顔をしたお客にはとある共通点があった。嫌な予感がする。気のせいであって欲しいと願ったが、空しくもその願いは届かなかった。
「長政が裏切った……」
表情がない顔。
それは大事な者に裏切られたショックのあまり、感情を失った人の顔であった。



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