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ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>ノブナガ>第13話 本能寺の変(後編)
小説タイトル
イラスト:ミカミ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルノブナガ【完】 更新日時2014.01.14

第13話 本能寺の変(後編)

小説挿絵 そして、運命の日が訪れる。
天正10年、西暦1582年6月21日深夜。
信長は京、京都にある本能寺にいた。わずかな100人足らずの兵で訪れていた。寝静まる中、信長は本能寺の一番奥の部屋で寝間着姿で、布団の上に横になっていた。
安土城を離れ、本能寺に訪れていたのは秀吉の毛利攻めの援軍に向かう為だ。援軍と言っても多くの兵は光秀と共に向かっているので、士気を上げるのが目的である。
光秀に前回言い過ぎたのも気になったので、その釈明も兼ねてだ。秀吉は思ったより毛利軍攻めに苦労していた。
しかし兵力には差があるので持久戦に持ち込めばこちらの勝利である。
他にも上杉氏、北条氏、長宗我部氏などが織田家と対立しているが、今のところこちらが圧倒している。
天下統一はもう、時間の問題だった。
それなのに全く嬉しくはない。ただ虚しさだけが募る。
「眠れんな……」
以前は眠れない日は木場蔵“おにころし”で呑んでいた。
どんなに辛い時も、“おにころし”でノブナガと他愛のない話をするだけで、気が紛れた。
   
ノブナガが居なくなってから“おにころし”に顔を出していないが、お市が積極的に頑張っているのは聞いている。
時々文で近況を教えてくれるが、ノブナガを思い出すのが辛くて今まで避けていた。
「久々に、明日行ってみるか」
幸い京の“おにころし”二号店は本能寺からも近い。
本来は明日出発予定だったが、一日延期して、店に寄ってみよう。
そう決意し目を閉じた途端、外から馬のいななきや激しい足音が聞こえてきた。
「……誰か喧嘩でもしているのか? 蘭丸いるか?」
「はい!」
寝室の襖一枚向こうに控えている、小姓蘭丸に声をかけた。
「何の騒ぎだ? 誰かの喧嘩かもしれん。見てまいれ」
「はっ!」
京も一時期よりは落ち着いたとはいえ、まだまだ治安も良いとはいえない。
ならず者が騒いでいるのだろう。そう思っていた。
「信長様!」
普段冷静沈着な蘭丸が慌てた様子で寝室に転がり込む。
「何事だ?」 
「本能寺の周辺が多くの兵に囲まれています! 旗印は桔梗、明智光秀様の軍勢! 謀反です!」
「光秀?」
信長は思わぬ事態にすぐに飛び起き、部屋にあった弓を手に取る。
「信長様! お逃げください!」
「是非に及ばず。無駄だ。光秀のことだ。ネズミ一匹も逃がさないつもりだろう」
確かに謀反を起こすなら今だ。信長の軍は皆全国に散らばり、こちらの軍勢はわずか。
素晴らしい判断力だ。
「こんな時に、本来の良さを発揮するとはな、光秀」
信長は苦笑した後、覚悟を決めた。光秀を信用して取り立てたのは自分だ。
ならば裏切られるのも自分の責任である。
とはいえ一方的にやられるのは性に合わない。信長は弓矢を構え、部屋の襖を空けた。
戦いの前線に立つ。桔梗の旗を持つ大軍に向かって信長は叫んだ。兵達は信長の姿を認めると、怒声を上げた。
「俺はここにいるぞ光秀!!」
信長は弓を敵に向け、次々に矢を放っていく。
弧を描きながら、矢は次々に敵の急所に刺さる。しかし敵は一向に減る様子はない。
1万以上の兵がいたはずだ。それに対してこちらはわずか100人足らず。勝ち目のない戦だ。それでも戦わない理由にはならない。
勝利条件は一つ。生き延びること。不可能だと分かっている。
それでも戦うしかないのだ。そして矢が尽きると、信長は敵の槍を奪い取った。
疲労できしむ筋肉を唸らせ、切りつけ、刺し殺していく。
「貴様ら感謝しろ! 神である俺に殺されるのをな!」
神と言う言葉に一瞬兵はひるむが、罵声と共に立て直し応戦してくる。
目の前で飛び散る、血、血、血。
そして、ふっと目の前が真っ赤に染まる。もうここまでか。
神なんて出まかせだ。ただ、もう神にすがるしか無かったのだ。
ノブナガに以前告げた人々の救いの為に、神が必要だというセリフはそのまま信長自身にも当てはまっていた。
「奈々……」
血で薄汚れたロザリオを握り締める。
あぁ、人生はなんて空しく救いが無いのだ。全てを失って、ここまで来たのに。
死んだ弟と母、お市といった信長の家族。利家、秀吉、家康などの部下や同盟した者。浅井長政、武田勝頼などの敵将。
今まで人生で関わってきた全ての人の顔が次から次へ浮かんで消えた。
   
そして、ノブナガの、奈々の笑顔を最後に思い出した。
「信長様!」
力を失った信長を助けようと蘭丸達小姓も奮闘するが、大軍の前に次々と倒れていく。
駄目だ。みっともなく敵将の元で、死に様を晒されるのだけは避けたい。
最後の力を振り絞って、信長は叫んだ。
「蘭丸! 生きておるか!」
「はい、なんとか!」
「本能寺に火を放て。俺は今から自害する。が、俺の首を光秀に渡したくはない」
「……分かりました」
蘭丸は信長の意思を汲み取ると、目を潤ませ火を放った。
蘭丸はまだ二十歳そこそこの青年だ。
本来なら将来のある若者が自分のせいで命が尽きると思うと、申し訳なさとやりきれない気持ちになった。
仕方ない。これが、自分が生きた戦国という時代なのだ。
今まで出来る限りの力は尽くした。ただ、最後の最後に、光秀の謀反に気づかなかった。それだけだ。
傷ついた体を引きずり、本能寺の一番奥の部屋に行く。まだここには敵はいない。炎で部屋の中が明るく照らされる。
信長は胡坐をかき、小刀を構える。長いようで短い生涯。
誰に愛されることもなく、憎まれ続けた人生であった。
自分で望んだ人生なので後悔はない。後悔は、しない。
けれど、もし生まれ変わるのならば今度こそ。
平和な時代でたった1人の女を愛せる男でいたい。
血塗れになったロザリオを見つめて、信長は願った。
覚悟を決めて、小刀を腹に突きつける。
そして―――。
突如上空に雨雲が現れ一筋の雷が落ち、本能寺は一瞬光に包まれた。
益々炎の勢いが増し、炎と共に信長は姿を消した。
多くの血が流れた本能寺は、その後一日中燃え上がり朝を迎えてようやく燃え尽きた。
明智軍は信長の死体を見つける為、煤と木炭の屑で黒こげになった本能寺の跡を必死になって探す。
「光秀様! 信長の死体が見つかりません!」
「探せ! 奴の事だ! 逃げたかも知れぬ!」
だが、結局信長の死体は見つからず仕舞いであった。
真実は歴史の闇の中。

そして、時代は動く。
「信長様が光秀に殺された!?」
「はい、本能寺で討たれたそうです」
備中高松城、今の四国を治めていた毛利軍と戦っていた最中の知らせである。
思いもよらない君主の悲報に、秀吉は本陣で膝から崩れ落ちた。
「信長様……、何故」
ずっと信じていた絶対的な存在を失い、秀吉の体は震え始めた。
だが同時に、どこか冷めた目で今の状況を判断しようとする自分がいる。
信長を討ち取った光秀。天下人であった信長を討った光秀は今、事実上天下人だ。
が、いくら信長があちこちに敵を作っていたとはいえ、君主を裏切った男を信頼する者は少ないはずだ。
もし信長の敵である光秀を討ち取れば、君主の敵を討ったと世間からの支持を受けるだろう。
一世一代の好機だ。
貧しい平民の家の息子として生まれた男、秀吉。
平和な時代ならあり得なかった天下人の座が今、目の前にある。
これもまた戦国という世がもたらした運命なのかもしれない。
「秀吉様! いかがしますか!?」
「毛利軍と、戦っている場合なのでしょうか?」
「わしらは誰につけばいいのだ?」
家臣達が次々と秀吉に問い、指示を仰ぐ。今がその時だ。
秀吉はよろよろと立ちあがり、家臣達に告げた。
まだ体の震えが止まらない。この震えは恐れなのだろうか、それとも……。
「毛利軍と急いで講和を結べ! わが軍は裏切り者、明智光秀を討つ!!」

歴史の主役であったはずの信長が消えた後でも、時は刻まれ進んでいく。
新しい歴史が、時代がまた作られていくのだ。




そして、ノブナガ、奈々が生きた時代。
平成の世に連綿と続いていくのだ。

続く



■注意■

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