北海道東北甲信越北陸関東静岡東海関西中四国九州沖縄

ポケパラノベル
ポケパラ体入>ポケノベ>ノブナガ>第5話 騒乱の宴(前編)
小説タイトル
イラスト:ミカミ

目次

【完】

作者情報

中里 朱里
小説家兼コラム二スト。 主に小説、恋愛コラム、携帯ゲームシナリオなどを手がける。 公式サイトはこちら 「nakasato akari.voice」http://nakasatoakari.jimdo.com/ 現在の仕事状況&実績、お知らせなどはサイトをご覧ください。 

小説タイトルノブナガ【完】 更新日時2013.09.09

第5話 騒乱の宴(前編)

小説挿絵 相撲大会当日。ノブナガは宴の準備に追われていた。元々お祭り好きな性格の為、キャバクラで働いている時もイベントを主催する事はよくあった。しかしまさか織田信長の元で宴を企画する羽目になるとは思いもしなかった。
「天下人の宴を仕切る事になるとはね」
苦笑しながらも手際よく確認していく。宴まであまり時間はない。
「えーと、食事の準備はコレで良しと。後は……」
「奈々丸様! 演奏隊着きましたぞ」
「船の手配は終わったぞ。奈々丸」
「秀吉様、利家様、ありがとうございます!」
準備はほぼ終わりだ。ほっと胸を撫で下ろした。流石にお市とノブナガだけでは全ての準備は出来ない。信長に恥をかかせられないと、利家と秀吉が手伝ってくれる事になったのだ。
相撲大会は堺の商人の屋敷で行われていた。大会用に小屋を立てて行っているらしい。ノブナガ達がいる屋敷の離れにも歓声が聞こえて来る。準備で忙しくロクに見ていないが、どうやら盛り上がっているらしい。
「随分賑やかですね」
「まぁな。優勝者には褒美も出るし。あと家臣の選抜も兼ねておるからな」
「選抜って何ですか、秀吉様?」
秀吉に尋ねると、代わりに利家が答えた。
「信長様は遊びだけが目的で相撲大会を開いているのではない。相撲は単純な力比べだ。強い奴は家臣としても使える。だから優秀な部下を探す試験も兼ねておるのだ」
「はぁ、成程。ほんと信長様は頭がいい方ですね」
思わず感心していると、隣の部屋からノブナガを呼ぶ声がした。
「奈々、わたくしの着物はこれでいいかしら?」
「今行きます! 秀吉様、利家様ありがとうございます。ではのちほど」
そう言って慌てて隣の部屋に行き、障子を開けて思わず息を呑んだ。
「失礼します。お市様! わぁ! とっても素敵です」
「ふふ、ありがとう奈々」
宴の為に着飾ったお市は大変美しかった。菊が描かれた着物がよく似合う。絵柄は華やかだが、色合いは渋めの朱色で上品に染め上げられている。
「着物、お似合いですね。本当に美しいです」
「ありがとう。これお兄様が贈って下さった着物なの」
おそらくお市のために作ったのだろう。清楚なお市にぴったりの着物である。信長も美しい妹には甘いようだ。
「お市様がいるだけで宴は盛り上がりますね」
「あら、奈々は口が上手いわね」
「いえいえ、朝の宴も参加して欲しかったです」
「あぁ、商人達が準備した宴ね。そうね、わたくしは参加できなかったけれども随分豪華な宴だったとお兄様から聞いたわ」
豪華と聞いて複雑な気持ちになる。
「あれは豪華というか……」
ノブナガは朝の宴を思い出して頭が痛くなった。確かに料理は見事な物ばかりであった。花細工が施された野菜の和え物、鯛の天ぷら、蒸したアワビ、がんもどき、そしてワインまで用意されていたのだ。しかし味付けはどちらかというと京都風の薄味で、濃い味が好きな信長は不満そうであった。
他にも珍しい料理が用意されたが、どれもこれも贅沢な物ばかりであった。貿易都市である堺は様々な物が集まる。珍しい料理があってもおかしくはない。ただ戦乱の世の中だというのに、随分と贅沢な物ばかりである。
(信長様がいつも食べている食事より良い物ばかりじゃない?)
ノブナガは内心呆れていた。
それに宴に参加していた商人達の様子も気になった。着ていた着物が金糸や絹糸で織れた派手な着物で、風流というよりただ豊かさを自慢したいだけの装いに見えた。肥えた体には正直不似合いである。
さらに派手に化粧をし、着飾った女達が信長達をもてなしたが、中にはぴったりと信長に寄り添う女もいて、益々不愉快に感じた。
複雑そうな顔をするノブナガの頭をお市は優しく撫でた。
「わたくし達は、わたくし達の宴をしましょう」
「はい」
気持ちを切り替え、ノブナガは着替える準備を始めた。その手には勝負服である赤いドレスが握り締められていた。



夕方。相撲大会は予定通りの時間に終わり、ついに宴が始まる。
「皆様こちらへどうぞ」
愛想の良い秀吉がニコニコと笑顔を浮かべて宴の会場へ案内した。
ノブナガが宴に選んだ会場は、屋敷の広い庭だった。庭の西側に大きな池があり、池には八艘の小舟が浮かんでいる。あいにくの曇りであまり庭の様子は良く見えない。灯りもない。宴に参加予定の商人と武士達は不安そうに周囲を見回した。 
「信長殿、本当にここで宴を行われるのですか?」
お市の夫、浅井長政が信長に尋ねた。お市に誘われ宴に参加する事にしたのだ。人柄が良く穏やかで見た目も良い長政は、美女で賢いお市とはお似合いの夫婦と有名であった。
「あぁ、もてなしが得意な奴がいてな。しかも今日は満月。外で行いたいそうだ」
「なるほど観月の宴ですか。池の上で宴とは洒落た事をしますね。雲で月が良く見えないのが残念ですが」
商人達は待ちきれず、船を引き寄せ乗ろうとした。
すると、突然一番奥の小舟がぱっと明るく照らされた。船の上には小さな松明がある。よく目を凝らすと誰かが乗っていた。
「お市?」
信長は思わず声を漏らした。お市がにっこりとほほ笑むと、一同が歓声をあげた。
「本日は皆様、宴にご参加頂きありがとうございます。まずは皆様に今日の出会いを祝して、演奏をお届けしたいと思います」
そう言ってお市は横笛を構え、吹き始めた。
「『平家物語』?」
楽曲に気づいた商人達がざわつき始めた。『平家物語』という昔の武人の栄光と挫折の物語を曲にしたものだ。宴にはあまり相応しい音楽とは言えないが、見事なお市の笛の音に全員耳を傾けた。そして一瞬笛の音が止まった。皆何事かとお市の船をつぶさに観察し始めた。
よく見るとお市が乗っている船には、もう一人誰か乗っている。髪を一つにまとめ、男物の着物を緩く着流した人物が、笛の音に合わせてゆっくりと立ち上がり刀を構えた。また笛の音が鳴り始める。
「何者だ!」
商人達は悲鳴を上げた。
雲がぱっと晴れ、月が地上を照らす。剣がきらりと光り、姿が浮かび上がった。
「奈々丸?」
信長は呆気に取られた顔をした。いつもとは雰囲気が違う。今日のノブナガは不思議な色気を発していた。よく見ると薄く化粧も施されている。
ノブナガはふわりと隣の小舟に飛び移った。するとまた灯りが点き、琴の奏者が現れ演奏を始める。笛と琴の音に合わせて、ゆっくりとノブナガは舞い始めた。
「おお、剣舞とは粋ですな」
長政が感心したように頷く。そして次の船に飛び移った。また灯りが点き、琵琶の演者が現れる。ノブナガが小船に飛び移る度に演者が増え、音が増え、楽曲が徐々に深みを増していく。
「そうか……なるほど」
信長はにやりと笑った。今演奏されている曲は『平家物語』でも有名なものだ。鎌倉幕府の将軍の弟、義経が壇ノ浦で次々に船を飛び移る様を謡ったものだ。
その場面をノブナガは音楽と剣舞で表現しているのだ。信長と長政の後ろに控えていた利家と秀吉は嬉しそうに手を叩く。
「これは素晴らしい! 打ち合わせ通りだな。秀吉」
「あぁ、なかなかやりますな。奈々丸様は」
そしてようやく八艘目の最後の小舟に飛び移った。それに合わせ、ノブナガははらりと着物の帯と髪をほどいた。
「なんじゃあの格好は!?」
真っ赤なドレス姿に一同はどよめいた。胸元のロザリオが月の光で反射し、妖しく光る。男から女になったノブナガに全ての者が見惚れた。
「美しい……天女じゃ。戦の天女がいるぞ」
誰かがそう、うめいた。
ノブナガはドレス姿のまま船から地面に飛び移ると剣を高く突き上げ、もう一度舞った。そしてゆったりとした足取りで近づき、信長の前で片膝をついた。いつの間にか音楽も鳴り止んでいる。
「この演奏と舞は、主である信長様に贈ります」
恭しく頭を下げ、刀を両手で捧げると信長は愉快そうに声を立てて笑った。
「ははっ! 貴様もやるな。『義経の八艘飛び』の伝説とはなかなか面白い事をする」
信長は刀を受け取ると秀吉に渡した。
「これは貴様の刀だな。ハゲネズミ。貴様の入れ知恵か?」
秀吉は刀を恭しく受取ると、小脇の鞘に刀を仕舞った。
「いえいえ、発案は奈々丸様です。私、そして利家は音楽と船を手配しただけです」
涼しい顔の秀吉が答える。利家も平然とした顔をしている。当初『平家物語』の義経の場面を宴で再現したいと言ったノブナガに二人は驚いた。勿論最初は悲劇の物語であるため縁起が悪いと反対されたのだ。だが宴の食事の内容ともてなしの意味を伝えると二人は笑い、積極的に手伝ってくれる事になったのだ。
「ではまず皆様に名月をお贈りします」
ノブナガは沢山の白い小さな杯に準備していた日本酒で次々に注ぎ、宴の参加者達に渡していく。
「おお、たしかにこれは名月じゃ」
商人たちは歓声をあげた。闇夜に浮かぶ月が杯の日本酒に反射して映り、まるで月を手にしたように見える。
「まずは乾杯を。それから船の上に皆様へのお食事ご用意いたします」
ノブナガが合図すると、楽器を演奏していた人々は船から下り、代わりに船に料理が次々と運ばれた。商人たちは興奮した様子で船に飛び乗って行った。しかし、運ばれてきた料理を見て商人たちは顔をしかめた。
「なっ! なんだこれは!」
喜びの声から一気に怒りの声に変わっていく。並べられた料理は湯漬けと焼き味噌、漬物に味噌汁だけであった。これでは普段の食事と変わらない。それどころか商人達からするといつも以上に貧しい食事であった。
「なんだ!? この庶民のような食事は?」
興奮した商人達が叫んだ。ノブナガは平然とした顔で答える。
「『おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし』身分や立場を誤り、思いあがった行動をしてしまえばいつ滅びるか分かりません。ですから私ども武士は宴といえども、いつでも戦に備えた食事をするのです」
それは朝の豪勢な宴に対する強烈な皮肉でもあった。堺の商人達が信長をキチンともてなすようであれば、それに見合った宴も準備していた。しかし、客である信長の食事の好みにも合わせず、ただ自分達の財力を見せびらかすだけのお粗末なものであった。あまりにも失礼で傲慢な宴に、接客のプロであるノブナガは怒り狂っていた。金で肥えた商人達をぎっ、と睨みつける。
「さて、貴方達は滅びゆく平家ですか? それとも源氏ですか?」
商人達はたまらず震え上がった。すると、拍手する者がいた。長政だ。
「素晴らしい心がけだ。が、今日は守るべき民との宴。身分を問わず楽しく盛り上がるのも悪くない。今日は素晴らしい相撲大会を見せて頂いたお礼にお土産を用意して来たのだ。武士の食事も良いが我が国の名産、近江牛の料理も是非」
そう言って長政が手で合図をすると、女達が次々に肉料理を運んで来た。
「ささ、信長殿もどうぞ。今日は長政の顔に免じて、牛肉を召し上がって下さいな」
「……そうだな。せっかくだ、皆の衆。長政の言葉に甘えてご馳走になろう」
商人達もほっと胸をなでおろし、ようやく本格的な宴が始まった。

コラム画像
第5回目コラム  気になる!? 『信長と将軍義昭』の関係
将軍というと一番えらい人! と思いませんか。が、前回のコラムで話したように当時の将軍足利家は力を失っていました。
その為、信長は将軍義昭と共に上洛することが出来たのです。そして将軍義昭はそんな信長を買い、部下として副将軍になるよう勧めました。
しかし、信長は室町幕府の力を見限っていたので断ります。部下ではなく、権力者を目指していた信長の野心が伺えます。
信長は日本統一を、義昭は幕府の再興をと目指していたものが異なっていたのです。そして次第に互いは対立していき大きく歴史が変化していくのです。

■注意■

  • ●この小説はすべてフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
  • ●この小説の著作権は「ポケパラ」にあり、無断転載(部分引用含む)は禁止です。
  • ●無断転載を行った場合、著作権法の違反となります。
ページトップへ